ライトノベルなどの台頭によっていくらか緩和されたものの、SFは特殊性があって変わった人が読むようなジャンルだと思われがち。でもそんなことは一切なく、偏見を取っ払って読んでみると本当に面白い作品が多いものです。その中でいくつか紹介します。 また、このなかには「flier」で無料で概要を読むこともできる作品もあります。さまざまなビジネス書、教養書を10分で読めるスマホアプリなので、時間がない方、ご自身で概要を知りたい方はまずはそちらで読んでみてはいかがでしょうか?
火星から逃亡した8体のアンドロイドと、それを追う主人公の姿を描いた、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。人間とは何かという壮大なテーマを、奥深い視点から描き出す本作は、1982年に公開された映画『ブレードランナー』の原作として知られるSF小説です。
舞台となるのは、すっかり過疎化した未来の地球。激しい核戦争が行われた影響により、地球には放射能に汚染された死の灰が降り積もります。このため野生動物は絶滅。僅かに生き残った動物をペットとして所有することが、裕福な人々の関心事となっているのです。生活に余裕の無い人々は、本物そっくりな動物型のロボットをペットにするしかなく、主人公のリック・デッカードもまた、精巧に作られた電気羊を所有していました。
人類は続々と火星への移住を進め、労働のほとんどを最新型のアンドロイドに任せています。ところが、知能の高いアンドロイドが、自由を求めて火星から逃亡する事件が相次ぎ、デッカードは、そんな逃亡したアンドロイドを狩り、懸賞金を得ることで生活しているのでした。ある日デッカードは警察からの依頼を受け、主人を殺害して地球へ逃亡した、8体のアンドロイドたちの追跡に乗り出すのですが……。
- 著者
- フィリップ・K・ディック
- 出版日
- 1977-03-01
物語には圧倒的なリアリティーがあり、あっという間にその世界観へと引き込まれてしまいます。壮大なSF作品ですが、設定がわかりやすくてとても読みやすいので、SFに苦手意識のある方でも楽しく読めるのではないでしょうか。
人間かアンドロイドかを見分ける術が、感情が有るか無いかを検査するしかない、ということがたいへん興味深く、感情らしきものを持ったアンドロイドの登場が、一層物語を盛り上げていきます。「本物と偽物」の境界線がどんどん曖昧になり、誰が人間で誰がアンドロイドなのか、主人公とともに混乱していくことになるでしょう。
感情とは?記憶とは?人間らしさとは何か?偽物に存在意義はないのか?自分は本当に本物なのか?そんな様々なことを考えさせられる作品です。細部に至るまで奥深く鮮明に描き出された、独創的な世界観をぜひ堪能してみてください。
ハードSF作家の代表であるジェームズ・P・ホーガンのデビュー作『星を継ぐもの』は、「巨人たちの星」シリーズの1作目です。物語はおよそ500万年前に死んだとされる、チャーリーと名付けられた月で発見された人間の死骸の解明を中心に進んでいきます。
原子物理学者、生物学者、言語学者と様々な分野の科学者が集まって次々と新しい事実が解明していくも、そのたびに新たな謎が生まれていき……。
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン
- 出版日
- 1980-05-23
チャーリーの存在が明らかになるのとはうらはらに、物語はどんどん深い謎へと、科学者たちを導いていきます。そんな中で、天才物理学者ハンスが謎を細かく分解し、次々と解決していく場面は爽快です。
専門用語や難しい言葉が使われてはいますが、最初はゆっくりでもいいので読み進めていくと、不思議と意味は理解できていきます。1980年に書かれたとは思えないほど、色あせない科学的な研究はジェームズ・P・ホーガンならではの特徴です。
海外作品を読んだことのない中学生は多いと思いますが、この機会に読んでほしい1冊です。読了後はぜひ続編の『ガニメデの優しい巨人』も手に取ってください。物理学者ハンスを中心とする科学者たちと一緒に謎が解けるごとに喜びましょう。
星新一のショートショート集『ボッコちゃん』に並ぶとされる星新一初期作品とされる『ようこそ地球さん』。
名作といわれる収録作の「処刑」は、人を殺した人間は銀色の玉を持たされ、流刑地としてある星に連れて行かれるという未来の話です。その玉にはスイッチがあり、一回押すとコップ一杯分の水が出てくる仕組み。しかし何回か押すと、爆発するという仕掛けがほどこされているのです。生きていく上で必要不可欠な水を手に入れるため、罪人はスイッチを押しますが、そのたびに爆発。罪人は次第に運命を受け入れていき、スイッチを押すことへの抵抗が薄れていき……。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 1972-06-19
収録作「殉教」では、ある博士が死後世界と対話できる機械を発明します。博士は聴衆を集め、亡き妻を呼び出して対話してみせたあと、聴衆の門前で自殺。しかし機械の中からは、「死後世界は美しく素晴らしい楽園だった」という博士の声がします。聴衆は驚き疑いますが、また別の男が試してみたところ、やはり死後の世界は存在しているようで…
『ようこそ地球』には、そのタイトルに似合わないような「死についての問いかけ」や「生きることの意味」のような物語が多数収録されています。淡々と語られながらも、深く問題提起をする作品が多く見受けられ、星新一特有のブラックユーモアがあふれる作品集になっています。
『ハローサマー、グッドバイ』の舞台は、地球によく似たとある惑星。人類は寒さを恐怖に感じており、戦争をしていました。機械文明としてはまだまだ未熟なこの世界では、機械は貴重なため、猿に似たロリンという動物が重宝されています。夏季休暇、主人公のアリカ・ドローヴは両親と共に、港町パラークシへ訪れ、彼が一目惚れしたブラウンアイズとの再会を果たします。彼女との友好を深めていく一方、戦況は悪化。季節は夏の終わり、粘流の季節が訪れようとしていました。そんな世界の秘密は、ロリンが握っていると明かされていき……
- 著者
- マイクル・コーニイ
- 出版日
- 2008-07-04
軽く清々しい少年少女のラブストーリーと思いきや、ラストにかけて続く展開は重く切ない物語です。この物語でキーとなるロリンという謎の動物からは、目を離さないことをおすすめします。
「これは恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くでもある」と作者自身が発言している通り、様々な要素を含んだ秀作小説である本作。世界の終わりと青春ラブロマンスが程よく混在しており、普段SF小説を読まない人にも、軽いだけの恋愛小説に飽きた人にもおすすめできる一作です。
ディストピア小説の先駆け的作品である『すばらしい新世界 』。ディストピアとは、トマス・モアの『ユートピア』の理想郷のような楽園思想の逆のことを言い、反ユートピアの要素を持つ社会のことを意味します。
西暦2049年、「九年戦争」という最終戦争が勃発・終結後、世界は「世界統制官評議会」という組織によって支配されていました。なんと宗教が改変され、イエス・キリストの代わりに自動車王フォードが崇められているなんてことも。その世界の人間は管理しやすいように、あらかじめ決められた階級に見合う選別・培養・教育をされています。教育により、その環境に疑問を持たせない「すばらしい新世界」で、人類は長らく「平和」を享受していたのでした。そんな社会体制になり何百年も経過し、ついに疑問を持つ人間が現れて……
- 著者
- オルダス ハクスリー
- 出版日
- 2013-06-12
ユートピアの「ような」世界の欺瞞に、皮肉を交えて進むストーリー。徹底的に管理されていた世界を読んでいくことで、読者自身が自分の生き方について考えていくことができるでしょう。「すばらしい新世界」は果たしてあるのでしょうか。
様々な面において、管理社会の恐ろしさ物悲しさを訴えてくれる作品です。
ロボット心理学者が引退するにあたり、これまでの人生で出会ったロボットのエピソードを記者に語ります。子守りロボットロビィと子供の絆を描いたストーリーから始まります。
- 著者
- アイザック・アシモフ
- 出版日
- 2004-08-06
ロボットの三原則の矛盾に動けなくなるロボットや、自分より劣る人間に作り出されたことが納得できないロボット、人間の心を読み取るロボットのストーリーなど多様なストーリーが語られていきます。それぞれの物語は、時代と共にロボットも進化し、ロボットがより人間に近づいていき、人間を超えていくというひとつの長編とも言える流れを作っています。
指示に従い、人を守り、自己を守る、というロボットの三原則。これに基づき、ロボットの不可解な行動の原因を究明し、謎を解き明かしていくストーリーです。しかしロボットの進化は勢いを増し、生みの親である人よりも優れていると考え出してしまうロボット。人とはどうあるべきかを考えさせられる作品です。
機械社会となり、日々の隅々までロボットや機会が入り込んでいる今を考えると、人間の無限の創造力を感じるとともに、恐怖を感じます。人は、人より優れているロボットを作り出し、何を求めているのでしょうか。そう未来に思いを馳せずにはいられないほど物語に引き込まれてしまいます。
機械文明を操る人類。そんな人間が持つ複雑で不思議な心理を繊細に表現し、問いてくる作品に今一度人が進む未来を考えさせられる1冊です。
突如地球にやってきた宇宙人オーバーロードは、人類を遥かに凌ぐ科学技術力を有していました。彼らは侵略や戦うためではなく、人類を発展進化させるためにやってきたといいます。しかしそんな宇宙人オーバーロードの上には、オーバーマインドという知的生命体がさらに存在していて……
- 著者
- アーサー・C・クラーク
- 出版日
SFの巨匠アーサー・C・クラークの名作の一つに数えられる本作『幼年期の終り』。「第1部・地球とオーバーロードたちと」「第2部・黄金時代」「第3部・最後の世代」の3部構成です。第1部は地球外知的生命体オーバーロードによる宇宙船との接触を描いています。第2部では、第1部より50年後に初めてその生身の姿を人類に見せた時期、第3部は人類の幼年期の終わりの様が描き出されます。
高度に成長したかに見えた人類は未だ「幼年期」であり、そこから上の次元に上昇していくという設定は、哲学的ですらあります。また衝撃的なのは、宇宙人オーバーロードの代表カレルレンの、人間とは似ても似つかない怪物のような姿でしょう。しかしその聡明さは人間よりも高く、慈善的なのです。ぜひ本作で、いろいろな思いを巡らせてみてくださいね。
『すばらしい新世界』と共に、ディストピアという言葉を世界に知らしめた作品『一九八四年』。ジョージ・オーウェルという、イギリス人作家による本作は、ビッグ・ブラザーという独裁者が統治する近未来が舞台です。
この小説での世界は、「オセアニア」「ユーラシア」「イースタシア」という3つの超大国によって分割統治されています。ビッグ・ブラザーへの反抗思想を持つことは犯罪であり、それを取り締まる思考警察なるものが存在します。「オセアニア」の真理省記録局職員ウィンストン・スミスは思考警察に怯えつつも、独裁者ビッグ・ブラザーに反感を抱いていました。そんなとき、革命思想を持つ秘密結社「兄弟同盟」のスパイで真理省党内局高級官僚のオブライエンに、そそのかされて……
- 著者
- ジョージ・オーウェル
- 出版日
- 2009-07-18
無理にビッグ・ブラザーを崇拝させたり、恋愛や結婚というものはいけないものだと教えられたり……。徹底的に管理された監視社会がいかに恐ろしいか教えてくれているようです。本作は冷戦下の米英では大ヒットしたようで、ディストピア小説のバイブル的位置づけの作品となったのです。
ちなみに、作品テーマの一つでもある洗脳。オブライエンとはその洗脳のスペシャリストです。たとえば彼は、2+2は5と考えさせるのです。5にはずがないのに、それを可能にしてしまうのが洗脳という恐ろしさです。
様々な作品のオマージュとして使われることが多く、知っておいて損はない作品といえる本作。ご紹介した『一九八四年』は新訳版であり、読みやすくなっていますので、買うなら新訳版がおすすめです。
いかがだったでしょうか。SFが初めてという方は、未来への警鐘を鳴らす作品として、ご紹介したSFを楽しんでみるのもいいかもしれませんね。