リベラリスト星野智幸が幻想的な作品に込める、社会への問いかけ。今回はそんな星野のおすすめ作品を5作、ご紹介します。
ロサンゼルスで生まれ、その後東京で育った星野智幸。早稲田大学を卒業後、産経新聞に入社します。同社を退社後、メキシコへ私費留学。
1997年、「最後の吐息」が文藝賞を受賞。その後、「目覚めよと人魚は歌う」で三島由紀夫賞、2003年に『ファンタジスタ』が野間文芸新人賞を受賞しました。2011年には、『俺俺』が大江健三郎賞を受賞します。
その内側に込められた社会へのメッセージは、深く心に突き刺さるものばかり。一度だけでなく何度も読み返したくなりますよ。
主人公である日系ペルー人の青年ヒヨヒトが、日本の暴走族の抗争に巻き込まれて逃げ込んだ伊豆高原の家。そこには失った恋人「蜜夫」との思い出だけの世界に生きる女性「糖子」、その息子「蜜生」、その家の持ち主、という「疑似家族」が暮らしていました。それぞれが「自分の未来」を描けずに、まるで流れを失った澱みのような生活。ヒヨヒトが加わることで生まれた少しの流れ。それぞれの心は、少しずつ溶かされていくのでした。
- 著者
- 星野 智幸
- 出版日
- 2004-10-28
人が誰しも抱く「消したい過去」と「消せない過去」。過去にとらわれず、明るく前を向いて生きていくことは、難しいことなのかを考えさせられます。ヒヨヒトのように過去を忘れようとする人もいれば、常に過去と向き合うことによって自我を保とうとする糖子のような人もいるでしょう。平等に過ぎていく時間を過ごす中で、新たな一歩の踏み出し方は、ヒヨヒト、糖子、蜜生、それぞれ違っていました。
「自分の過去」を考えるとき、それに対する様々な解決方法があるということを教えてくれる1冊です。
物語は、黄砂舞う島国の象徴として君臨していた「若オカミ」と呼ばれる人が亡くなったことから始まります。「若オカミ」が亡くなってから「カミ隠し」と呼ばれる現象が発生し、人々は喪失感からから引きこもり、ついには「殉死者」まで発生。
物語の2部では「若オカミ」に傾倒しない人々も登場します。愛国心に燃える男たちを現実的な目で見つめる女性たち、「若オカミ」に殉死するのに道連れにされようとする移民……。主人公とその親友は、世界の真実を見つけるためにある行動に出るのです。
- 著者
- 星野 智幸
- 出版日
「黄砂舞う島国」。つまりこの作品の世界は幻想世界・近未来世界を装った日本。そして象徴として君臨する「若オカミ」とは、天皇制度のことを示しているのでしょう。
度々議論される天皇制度に対する感情は、個人や世代によって異なるものかもしれません。現在、政治的権力を持たない「天皇」は1人ひとりにとってどのような存在なのか、立ち止まって考えてみるのもいいのかもしれませんね。
家電量販店で働く青年「俺」。些細なことがきっかけで、他人の携帯電話をポケットに入れてオレオレ詐欺を働きます。そこから「俺」の周りに増え始めていく「俺」。
「俺」を探し始めると、いたるところに「俺」がいて、「俺」ばかりが集まる奇妙なコミュニティが形成されます。自分ばかりの世界は楽園のはずでしたが、徐々に歯車が狂っていきます。ついには「俺」同士が殺し合いを始め……。
- 著者
- 星野 智幸
- 出版日
- 2013-03-28
「自殺」問題に斬り込む本作。「俺」が「俺」を追い詰めて自殺を選ぶ物語は、現代社会への鋭い眼差しを感じられることでしょう。
自分の隣の席の人間も「俺」であるということに気づいたとき、現実と非現実の境界線がわからなくなる感覚。「俺」が増殖するという非現実的な話ではありますが、それをぞっとするほど身近に感じさせる、星野らしい世界観を楽しめる1冊です。
毒を持った植物たちの官能的な楽園から、とある「罪」のために人間界へ追放されたひとつの「種」。植物たちの楽園は、恋と交尾と殺し合いだけが存在する官能的な世界ですが、人間界は生きる喜びや精気に欠けるモノクロの世界。
人間界に追放された「種」は、人間の女として生きることとなり、つまらない男と結婚することを強いられます。そしてその男もまた、種から生まれた植物なのでした。痛風だった夫は、妻から少量ずつ盛られるアルカロイドを受け入れて衰弱…。そんな夫婦を見つめるのは、夫婦の部屋に置かれた猛毒の木。「観葉植物のある夫婦の部屋」は、「植物たちの三角関係」だったのです。
- 著者
- 星野 智幸
- 出版日
- 2005-01-26
種から生まれ、恋をし、交わり、殺され、また生まれる植物世界。植物世界の本能的な世界の描写は、人間世界の精気のなさによって、より毒々しい美しさが協調されています。
観葉植物も道端の花も、この本を読み終わった後では強烈な個性を放つように見えてくることでしょう。
デビューから17年間書き溜めた、年代とは「逆順」に綴られていく珠玉のエッセイ集。読み進めていくにつれ、「ああ、このテーマがこの作品に反映されているのか」と、数々の星野作品を思い出すことができることでしょう。2011年の東日本大震災へ対する怒りと悲しみのこもった文章や、2000年代の世界情勢の不安に対する問いかけは、著者が「社会に対して本当に訴えたいこと」が書かれているように思います。
- 著者
- 星野 智幸
- 出版日
- 2014-11-08
社会情勢のみならず、文学のことやサッカーの話題まで詰め込まれた本作。辛辣な言葉で綴るものもあれば、ユーモアあふれる温かい文章もあり、星野智幸の面白さがぎゅっと凝縮されています。星野作品をまだ読んだことがないという方にもおすすめの1冊です。
幻想的な世界を描きながら、根本には現代社会の問題をテーマにしている星野智幸の作品。まだお手に取ったことのない方は、これを機会にぜひ読んでみてくださいね。