ジョン・アーヴィングのおすすめ小説5選!村上春樹が翻訳した本も

更新:2021.12.15

伝統的な物語の攻勢を重んじるジョン・アーヴィングは同時に現代社会のアメリカを赤裸々に映します。自分のルールを作り信念を曲げない作家としての姿勢には、あの村上春樹も惚れこみ、彼のデビュー作の翻訳を買って出たほどです。

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伝統を重んじつつ社会のタブーに触れる作家ジョン・アーヴィング

ジョン・アーヴィングは20世紀を代表するアメリカの作家です。いわゆるポストモダン文学の時代に活躍していた小説家ですが、他のポストモダン作家が小説の新たな可能性を模索するなか、アーヴィングは伝統的な構成を重んじてきました。

1942年にニューハンプシャー州で生まれたジョン・アーヴィングは文学好きの祖母の影響で自身も読書家としての幼少期を過ごしていました。大学時代にはレスリング部に所属し、レスリングの腕を上げながらも小説の執筆を学んでいます。そして大学を中退して挑んだヨーロッパ旅行で、アーヴィングの作家としての基礎を作り上げる経験をしました。

初期のアーヴィング作品は自身の経験を基にした自叙的作品になっているといわれています。彼の経験したアメリカそのものを小説に反映しているのです。彼の書く作品は時として下劣であると批判され問題になることもありました。それは、暴力やセックスなど現代社会が抱える問題を、包み隠さず表現しているからです。しかし、アーヴィングはそんな世間一般が“下品”と認識する要素を自身の小説に書くことを、潔しとしていると、インタビューでは語っています。
 

社会のはみ出し者家族の絆を描きだす

『ホテル・ニューハンプシャー』はアメリカ社会の中で傷ついた家族を描く物語です。社会に適応する力のない人間が夢の中に生き、過酷な現実に何度も直面します。小説は1981年に発表され、1984年にはジョディー・フォスター主演で映画化もされました。

本書は、ホテル経営を夢見る父親が廃校になった女子高を買い取って回想し、「ホテル・ニューハンプシャー」と命名して家族で経営していく物語です。しかし、家族には苦難が待ち受けています。ゲイである長男のフランクは学校でいじめられ、長女のフラニーはフットボールチームのメンバーからレイプを受け、祖父のアイオワ・ボブは急死。家族が心に傷を負うなかで、ホテル経営は傾く一方と災難続きです。そこへ父親の友人であったフロイトからウィーンで一緒にホテルを経営しないかという誘いがやってきます。家族は新天地で心機一転することを決意しますが、移住先のウィーンでも苦難の連続が待ち構えていたのでした。

著者
ジョン・アーヴィング
出版日
1989-10-30

クセのある人物たちが織りなす物語が本書の魅力となっています。父親は夢見がちで話を誇張する癖があり、長女はレイプ被害にあって苦しみに耐える毎日。長男は同性愛者で、天才作家ともてはやされる次女は天才であるがゆえの苦悩を抱えています。いわゆる社会からはみ出した存在である家族が、ホテル経営を通してたくましく生きていく様は、読んでいて生きる勇気を与えられる、至極の文学作品です。

自身の旅行体験を参考に書かれたデビュー作

デビュー作『熊を放つ』は村上春樹によって翻訳され、有名になりました。

物語はふたりの青年がお金を出し合ってバイクで旅行するというものです。その旅は青春を謳歌する楽しいものではなく、旅行先でトラブル続きにあい、ジギーは転倒事故で死んでしまいます。残されたグラフはジギーの残した日記を発見。そこにはウィーンの動物園で目撃した虐待の事実が書いてありました。グラフは親友ジギーの意思を継ぐために動物たちを解放しようとウィーンへ向かいます。
 

著者
ジョン アーヴィング
出版日
2008-05-25

本書はジョン・アーヴィングの痛烈なデビュー作で、粗削りながらもエネルギー溢れる展開と軽妙な語り口で書かれています。第2次世界大戦の影響が色濃く表れるヨーロッパで懸命に生きる人々の姿は、読者に生きる活力を与えてくれるでしょう。

セックスと暴力にまみれた社会を笑い飛ばす

1978年に発表された『ガープの世界』はジョン・アーヴィングによる自伝的小説です。現代の暴力とセックスを表現した型破りなストーリーとコミカルな文章で、ブラック・ユーモアたっぷりの内容となっています。

看護婦だったガープの母親は、戦争で受けた頭の怪我により植物人間状態になりながらも男性器が勃起したままの患者とセックスをし、子供を授かります。その子供が本作の主人公ガープです。ガープは作家として成功し、結婚生活を満喫しながらも、波乱万丈の人生を送るのでした。
 

著者
ジョン アーヴィング
出版日
1988-10-28

本書は暴力とセックスという現代社会の暗い部分を映しだしています。多くの登場人物は心に傷を負っていて、辛い人生を送ってきた人たちばかりです。その反面、文章はコミカルに書かれています。そうした相反するふたつの素材を用いることで、「人生は辛いことばかりの連続だけど、それでも笑って過ごせる素晴らしいものだ」というメッセージが伝わってくる作品です。

孤児院しか知らない青年が見た外の世界

1985年に発表された『サイダーハウス・ルール』は孤児院で育ち、狭い世界しか知らない男の人生を綴った小説です。1999年にはトビー・マグワイア主演で実写映画化もされています。

ホーマーは、メイン州の孤児院で親の顔もしらないままに育ちました。孤児院を経営するラーチ医師は、そんなホーマーに医術を教えます。ホーマーは中絶手術で困った女性を助けながら、育った孤児院での生活を送る日々を過ごすことに。しかし、退役軍人とその恋人が孤児院にやってきたことをきっかけに、退役軍人の男が住むリンゴ農園(サイダー・ハウス)で暮らすことになったのです。
 

著者
ジョン アーヴィング
出版日

ジョン・アーヴィングはこの『サイダーハウス・ルール』で中絶手術というアメリカ社会でのタブーに挑戦しています。ホーマーの目を通して、孤児院と農場生活というアメリカの一面を垣間見ることができる本書。主人公ホーマーに訪れる苦難や喜びが詰まった人生の縮図ともいえる物語です。

障害を持って生まれた少年は神の遣いか

『オウエンのために祈りを』は、小人症という特異な遺伝的病気と独特な声を持った少年を中心とした、不思議なお話です。1998年には『サイモン・バーチ』というタイトルで映画化もされています。

物語は幼児のような体系のサイモンと私生児として生まれ父親の知らないジョーとの友情の物語です。ふたりは自分たちの境遇からいじめにあったり、お互いに仲たがいしながらも、それを乗りこえて友情を深めていきます。やがてふたりにとって重大な事件が待ち受けていたのでした。
 

著者
ジョン アーヴィング
出版日

本書は、小人症という幼児体系以上には成長できない体の持ち主で、それを神の計画だと信じて疑わないサイモンを始め、不思議な境遇と体験をする人々がたくさん登場します。物語の中で起こる様々な不思議なできごとが伏線となって、クライマックスに集約される手法がジョン・アーヴィングらしい作品。その高い技術が伺い知れるストーリー展開は読む者を圧倒させます。

登場人物の人生を描くことが物語を書くことだと信じて書き続けたジョン・アーヴィング。彼の作品を読めば、登場人物たちがどのような人生を歩みながらアメリカ社会と向き合っているかがわかります。どの作品にも芯があり、その芯がぶれることのない作家です。

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