三崎亜記のおすすめ文庫作品ランキングベスト5!SF?な三崎ワールド!

更新:2021.12.15

三崎亜記は好みを二分する作風を持つものの、直木賞候補に計3度ノミネートされるなど人気、実力を兼ね備えた今後も要注目の作家の一人です。その注目作家の実力が感じられる作品をランキング形式で5作品をご紹介します!

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朧げな小説家三崎亜記

三崎亜記は市役所職員の傍ら執筆活動を始めたという異色の経歴を持っています。彼は熊本大学文学部史学部卒業の男性作家です。『となり町戦争』を代表に、メディアミックスされた作品もあり、その知名度は高まり続け、既に多くのコアなファンを獲得しています。主な受賞歴として『となり町戦争』が小説すばる新人賞、同作品含め計3作品で直木賞にノミネートされた実績もあります。

その作風は非現実的なストーリーを現実的に感じさせ、読者にある種の「シラケ」を感じさせないことで作品に対する没入感を高めています。一見無理のあるような設定を、作りこまれたストーリー展開で読ませる力は随一です。作中には文学的要素を多分に感じますが、根底はリアリズムを大事にしています。

このようにこの作者を語らせていただくとどうしても雲を掴むような表現になってしまいます。しかしそれこそが正に三崎亜記という作家を表現しています。この危ういアンバランスをうまく作品に昇華する感性こそが三崎亜記の真価ではないでしょうか。

三崎亜記が描く七つの真実とは?


表題作となった『バスジャック』では、バスを不当に占拠するという犯罪行為、それそのものが娯楽となった、if(もしも)の世界が描かれています。その題名から過激な描写の作品かと思いきや、その内容は柔らかく、優しい雰囲気の作品となっています。

著者
三崎 亜記
出版日


作中においてはバスジャックの公式サイトが存在し、日々更新されるランキングを参加者も非参加者もまた「娯楽」として閲覧しています。当然バスジャックされた乗客も怯えるなどはがなく、なんと犯人にバスジャック論を説いたりも。ある意味日常系といえる作品で、安心してその世界観に没頭することができます。他にも『動物園』、『送りの夏』『二階扉をつけてください』『しあわせな光』『二人の記憶』『雨降る夜に』の6編を合わせた計7編からなる短編小説です。

これら七つのストーリーは各々独自の世界観が描かれていますが、作品には共通した特徴があります。それは非現実的な出来事を現実的に感じさせる三崎亜記の手法と感性です。三崎亜記は自分の作品をSFと評されたことを気に入っていると語ったことがあります。それは「サイエンスフィクション」ではなく「少し、不思議」の略だからと言うのです。まさに言い得て妙で、この「少し不思議」が一見してバラバラに感じる題名や内容でも、不思議と読了後の一体感を感じさせてくれます。

理不尽を許容する現実と傷つく心を三崎亜記を描く

この作品を刊行後に三崎亜記は作家として生きていく道を歩み始めました。直木賞候補になった作品でもあります。

『失われた町』というこの作品の題名が作中の核心を突いています。30年に一度起こる町の消滅、それを管理し、抑制しようとする組織「消滅管理局」、そして物語の核心を握る女性「茜」、どうしようもなく起こってしまう消滅と抗う人々の葛藤が強く描かれた作品です。

著者
三崎 亜記
出版日
2009-11-20


『失われた町』は作者からのメッセージ性が強い作品のように感じます。消滅してしまう町の人々は現実世界に置き換えれば地震など災害の被災者に当たるでしょうか。捉え方は読者によって当然様々ですが、いずれにせよ作品の核心は「失われてしまった人々」にあります。そこから広がる喪失感と悲哀に作者の「思い」を感じる作品です。

『失われた町』の作中から、この作品の雰囲気を感じることができる一文を引用します。
「濡れた瞳を開けると、窓の外には雪が降っていた。四月の雪。失われた町、月ヶ瀬には、光るものとてなく、漆黒の闇が広がっていた。」(『失われた町』より引用)

この一文が作中全体雰囲気を表すと同時に本編に繋がる導入部分の役割を果たしています。引用文から感じられるどこか物悲しい雰囲気がたまらなく心に沁みるという方は是非一度読んでみていただきたいと思います。

不条理を提起する

『鼓笛隊の襲来』は9編の短編小説です。他にも短編集を執筆している作家ですが、今回の短編集全体に言えることはややシュールなものが多いということです。イメージとして「世にも奇妙な物語」をイメージしていただけるとわかり易いかと思います。標題作『鼓笛隊の襲来』に関しては不気味なリアリティと、それと相反して登場人物義母による作中に満たされる安心感が素晴らしいバランスで作品をまとめています。

著者
三崎 亜記
出版日
2011-02-18


「あっはっは。鼓笛隊よりあたしの襲来の方が大変だなんて思ってるんじゃないのかい?義母は相変わらずの調子で、豪快に笑った。」『鼓笛隊の襲来』より抜粋

作中の義母の登場シーンですがこの一文からも頼れる登場人物像がはっきり伝わります。

例えばこの作品はグリム童話にあるハーメルンの笛吹き男に強く影響されているのではないでしょうか。この笛吹男と鼓笛隊の類似性として、どちらも楽器を使用して聴いた相手を連れ去ってしまうことにあります。この部分だけを聞くと非常に恐ろしい物語に聞こえます。事実作中全体において恐ろしい雰囲気は常にありますし、類似性のある笛吹男に至っては100人以上の子供を連れ去ってしまうなどそこに「救い」がありません。

それに対して『鼓笛隊の襲来』はカウンター役としてこの義母をうまく活かしたことで、作中の恐怖感を薄め、読みやすくマイルドなものになっています。同時に鼓笛隊を打倒するために人類側が準備する「オーケストラ」の存在や、「鼓笛隊」を台風などの天災のように感じている作中の様子など、非常にオリジナリティのある読み応え抜群の作品です。

短編小説の為9編纏めた全体を見た時に、1遍の短さに対する評価はやや分かれるものの、そのテイストはショートショートの大家「星新一」をも訪仏とさせるニュアンスを持ち、読者にとって非常に印象深い一冊、オンリーワンに成り得る作品なのではないでしょうか。

創作物のリアルを表現した三崎亜記作品

著者
三崎 亜記
出版日
2006-12-20


「【となり町との戦争のお知らせ】

開戦日 九月一日

終戦日 三月三十一日(予定)

開催地 町内各所

内容  拠点防衛夜間攻撃

敵地偵察白兵戦」(『となり町戦争』より引用)

上記は『となり町戦争』の設定を作中から引用したものです。改めて引用文を読んでみると、その練りこまれた設定が読者の興味を非常に引き寄せていることに気付きます。となり町との戦争という非現実を、不自然な説明を省きつつリアルに展開させた三崎亜記の意欲作になっています。

となり町との戦争という表現で進められる公共事業、偵察業務を任命される主人公北原修路の葛藤と苦悩、香西瑞希への想い。

この作品の最も重要な要素として「戦争」があります。作品名からはどことなくユーモアも感じることができますが、そのテーマ性ははっきりしていて重厚です。戦争という人類永遠のテーマを「町」という身近な規模に縮小することで読者に親近感を与えます。そして作者の戦争に対する思いを登場人物達に代弁させ、大きな疑問を読者に投げかけてくるのです。

読了後に考えさせられる作品ではありますが、決して文学に偏重している作品ではありません。事実エンターテイメント性は十分で、映画化を始め、数多くのメディアミックスを果たしています。作品の総論をするならば「余り構え」に読めて、しかも「心に響く作品」に仕上がっています。

掃除にかけた青春!三崎亜記のSF世界

『コロヨシ!!』シリーズはスポーツのテイストで読ませる学園物の作品です。学園物と聞くとありきたりなイメージを持ちがちですが、そこはやはり「SF」。「少し変わった」と評される三崎亜記です。作中でそのスポーツとはずばり「掃除」。その掃除を高校生が部活動で行うという一風変わった世界観の作品です。

著者
三崎 亜記
出版日
2011-12-22


三崎亜記の作品の中では最もキャラクターに比重を置いている作品です。類まれな掃除の才能を誇る主人公の藤代樹を始め、樹と身近な小塚姉妹、謎に包まれた美少女の偲など個性的な登場人物が数多く登場します。キャラクターを軸に読み込んでいくライトな読者層も意識していて、青春ストーリーの一面が強く押し出されたもの。その青春の甘酸っぱさに思わずニヤッとしてしまう読者は多いのではないでしょうか。

細密な世界観の設定は三崎亜記の十八番です。その掃除には当然のようにルールが存在し、例としてその掃除の形式には散華の舞、還立の舞、など様々な設定が存在します。今でいう剣道や弓道等の武道に通じる部活動のテイストを感じるものです。

「頃よしっ!」の掛け声とともにその競技、掃除は開始され……。才能を持ちながら自ら目的を定めることができない藤代樹が、偲との出会いを経て転機が訪れるのか……。

三崎亜記は他作品においてもその作中に何かしらの違和感を植えこんでいます。例えばその違和感は「襲来する鼓笛隊」であったり、「周期的に消滅してしまう町」であったりと、その意図も訴えかけてくる内容もバラバラです。しかしそのどれもが読者を作品に引き込む為に用意された魅力的な設定ばかりです。

本作に関してその違和感は掃除という要素を代表としてどこか柔らかい印象です。作中において登場人物たちは真剣に競技に励んでいますし、そこ自体が不真面目ということはありません。しかしその柔らかい印象こそが『コロヨシ!!』にライトな印象を与えていて、今までになかった若い読者層の獲得に繋がっているのではないでしょうか。三崎亜記の不思議世界に青春ストーリーを加えた新たなエンターテイメント作品、新規読者には最もお勧めできる作品です。

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