星新一、筒井康隆と並び日本SF界の御三家と言われる小松左京。ミリオンセラーとなった『日本沈没』は誰もが知っているのではないでしょうか。今回は『日本沈没』だけじゃない、小松左京の作品をランキング形式でご紹介します。
日本SF界を代表するSF作家、小松左京は1931年大阪で生まれました。14歳の時に終戦を迎え、その後の作品に少なからず影響を与えているともいわれています。
経済誌の記者やラジオのニュース漫才の台本作家などを経て、1962年SFマガジンで作家デビューを果たします。短編・長編、フィクション・ノンフィクション問わず、精力的に執筆活動を続け、日本SF作家クラブには1963年の発足当初から参加しました。後には会長に就任、日本SF界の発展に大きく貢献しています。
また文明評論家としての顔を持ち、1970年に大阪で行われた万国博覧会や1990年の国際花と緑の博覧会のプロデューサーを勤めました。
2011年、80歳でこの世を去った後も、小松左京の作品は多くの作家に影響を与え、愛され続けています。
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
5位にランクインした作品は『霧が晴れた時』。小松左京自身が選んだホラー短編が15作品収録されています。
表題作「霧が晴れた時」は、乗組員が突然姿を消したといわれているメアリー・セレスト号をモチーフに、霧が立ちこめる山で一家が遭遇する出来事が描かれた作品です。次第に深くなる霧が主人公を襲う不安を見事に表現しています。
この他完全なフィクションではあるものの、実際にあった都市伝説をもとにして書かれた、折り紙つきの怖さといわれる「くだんのはは」や、最もSF感の強い、ドッペルゲンガーをテーマにした「影が重なる時」など、さまざまなタイプのホラーが楽しめるのが特徴です。
小松左京と聞くと、長編のハードSFが多いイメージがありますが、エッセイや短編なども多く執筆しています。一作品あたり30ページ前後というボリュームも読みやすく、小松作品の中では比較的手に取りやすいのではないでしょうか。
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
全25編からなる小松左京のSF短編集です。SF界の巨匠が子どもたちに向けて書いた、贅沢なショート・ショート。
表題作になった「宇宙人のしゅくだい」は、ヨシコと宇宙人との約束の物語です。地球人の性質を分析するために宇宙人に誘拐されたヨシコ。そこで宇宙人から、地球攻撃計画を聞かされます。そこでヨシコは「私が大人になったら、きっと戦争のない星にして、地球をもっともっと大切にする」と約束。「地球を大切にする」の言葉が胸に響きます。
「にげていった子」では、負傷した少年と出会い、彼を家に上げて手当をしてあげますが、「零戦」に過敏に反応し、彼は防災頭巾を残していなくなってしまいます。その防災頭巾に書かれていた名前とは。そして少年はどこへ……。
他にもほっこりしたりゾワっとしたり、時に感動したりの、珠玉の短編作品集です。
小松左京が子どもたちに伝えたい未来への希望、自然、宇宙の大切さが描かれています。その一方で、この先子どもたちが生きていく未来に対して危惧し、社会に対しての厳しい視線、警鐘も感じ、大人としては色々と考えさせられます。
ショート・ショートなので子どもでも一編一編集中して読めるでしょう。一人読みも良いですが、読み聞かせをしながら親子で楽しみたい素敵な作品。秘められた意味は深くても、決して説教じみていないので、楽しく読むことができます。
子どもだけではなく、もちろん大人でも楽しめるのは小松左京のなせる業。自分が生きる地球に想いを馳せながら、この贅沢なSF作品集をご堪能ください。
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
4つの短編からなる『ゴルディアスの結び目』が4位にランクイン。ここでも小松左京の哲学がそれぞれの作品で見え隠れしています。
過去を捨てた人々が暮らす島に訪れた若者との交流が描かれた「岬にて」。憑き物に囚われた少女の精神世界に広がる異空間と憑き物の正体に迫る様子が描かれる表題作「ゴルディアスの結び目」。遠い未来で、人類と命と地球環境を交換条件に宇宙の心理を提示された男を描く「すぺるむ・さぴえんすの冒険」。宇宙創造を新たな視点で描いた「あなろぐ・らゔ」の4つの連作です。
中でも、小松左京がテーマに掲げているひとつである「宇宙にとって人間の存在する意味」がたっぷり描かれているのが、『ゴルディアスの結び目』なのだと思います。もともと「ゴルディアスの結び目」は古代の神話とアレクサンドロス大王の伝説が元になった言葉で、「難題」や「難問」という意味合いで使われています。
人間の知性や科学技術が宇宙の秩序を変えるかどうか。または宇宙の法則に従って人類は進化しているのか。作中で語られる人間と宇宙の関係は、小松左京にとって「ゴルディアスの結び目」=「答えの出ない問い」だったのかもしれません。
いずれの作品も評価が高く、小松左京を語る上で欠かせない1冊となっています。
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
3位にランクインした作品は、日本で初めてバイオテクノロジーによる終末を描いたとされる『復活の日』。
ある研究所で作られた新型のウイルスが事故によって世界中で拡散し、世界中で謎の突然死が相次ぎます。多くの犠牲者が出る病原体やワクチンを見つけることができず、人類は滅亡の危機に……。奇跡的に感染を免れた人々は、ウイルスが活動できない南極の地で再建に向けて動き出しました。ところが、次に人々を襲ったのは核ミサイルの脅威。人類の存続をかけ、2人の男が立ち上がります。
ウイルスによって壊されていく日常の様子がリアルに描写されていることで、トラウマになる可能性すらある衝撃的な1冊をぜひお楽しみください。
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
- 2005-12-06
複数の映画化により、多くの人が知ることになった『日本沈没』。ベストセラーにもなった作品が2位となりました。
地震の観測データと海底調査から、日本列島の異変を確信した地球物理学者田所は、2年以内に日本列島が海面下に沈没する可能性を指摘。これを受け、政府が打ち出したのが日本人を海外に避難させる「D計画」でした。次々と日本人が外国へ避難していくなか、沈みゆく日本列島に残る決意をする人も……。
小松左京が日本列島を沈没させたのは、実はこれが初めてではありません。過去に『日本売ります』や『極冠作戦』でも日本を海中に沈没させています。クライマックスで田所が語る日本列島を愛する気持ちと、そんな日本を沈没させることは矛盾しているように思えます。しかし小松は、失って初めて気づく大事なことがあるというメッセージを伝えたかったのかもしれません。
関連本として、2006年に谷甲州との共著で発表された『日本沈没 第二部』や筒井康隆によるパロディ作品『日本以外全部沈没』も一緒に読んでみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
見事1位に輝いたのは『果てしなき流れの果てに』。生命論なのか、宇宙論なのか……。一言では言い表せない壮大なストーリーは、日本SFの原点と言えるほど多くの要素が盛り込まれた作品です。
大阪にある古代の地層で発掘された不思議な砂時計。砂時計の正体を突き止めるため、学者野々村は調査を始めますが、関係者が相次いで死亡・失踪し、野々村自身も恋人の前から姿を消してしまいます。彼女は一人、戻らない野々村と彼が追いかけたものへと思いを馳せるのでした。
本作の特徴は、のちの小松作品で扱われるテーマが凝縮している点です。「人類の進化」や「なぜ歴史を変えてはいけないか」といった、彼の哲学を書いた集大成といえるでしょう。
異なる時空間にまたがって展開され、全体像を捉えるのは簡単ではないですが、恋人の帰りを待つ女性など、人間らしいドラマを忘れていないところも魅力の一つです。
今回ご紹介した作品以外にも作家デビューのきっかけとなった『地には平和を』や、映画化もされた『さよならジュピター』など見逃せない作品は、まだまだたくさんありますよ。一筋縄ではいかない作品が多い小松左京ですがじっくり読み進めていけば、達成感が味わえることは間違いありません。