ジュブナイルとは「少年少女向け」といった意味を持ちます。いわゆる若者向けの小説なのですが、もちろん大人でも楽しめます。今回はそんなジュブナイル作品の中から、ぜひ読んでいただきたい5作品をご紹介します。
- 著者
- 折原 みと
- 出版日
なんとも素敵な表紙の『緑の森の神話』。自然、生命、そして友情を描いた心温まる作品です。
物語の主人公は、小学5年生の樹。夏休みに入っていたので一人で留守番をしていました。すると、テレビ画面に突然不思議なメッセージが浮かんできます。そのメッセージに応えると、樹は緑の国という異世界に吸い込まれてしまいます。森の民の話を聞くと、ここにいる彼らはある敵によって、命を脅かされているとのことでした。そこで樹は彼らを守るべく勇者になり共に戦うことにします。果たして敵とは何者なのか、そしてなんのために彼らを狙うのか……。敵の正体に気付いた樹に待っている選択とは……。
初めは異世界冒険ということでファンタジーかなと読み進めていましたが、読み進めていくうちに明かされる敵の正体や、命を狙う理由がわかってくると、一つのテーマが思い浮かんできます。この物語は、ただのファンタジーではなく、森林破壊をテーマに著された作品だったのです。壊されていく森、奪われる生命。わたしたちがもっと深く考え、守っていかなくてはいけないものがあると気づかせてくれます。大人になってから読んでも楽しめる1冊です。
- 著者
- 梨屋 アリエ
- 出版日
- 2007-01-12
主人公の松葉にとって、時子さんの家の音は不安や寂しさを和らげてくれる存在でした。しかし学校の帰り道、時子さんの家から大きなグランドピアノが運び出されるのを目撃します。気になった松葉は、優しい音色を奏でるピアノの行方を追うことにしました。そこで出会った新しい持ち主紗英は、同い年の女の子。ピアノの才能あり自信家でもある彼女に憧れを抱いた松葉。しかしすべてを手に入れていたかに思えた紗英にも苦しみがありました。彼女たちはどのようにして友情を築きあげていくのでしょうか。
孤独な少女である松葉と、周りの期待や束縛から逃げ出したい紗英の心境が丁寧に描かれています。お互いに悩みや寂しさがあるからこそ、心の拠り所を探していたのでしょう。まったくタイプの違う二人が少しずつ友情を深めていく優しくて温かな物語ですよ。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2005-06-25
中学生たちの3篇からなる短編青春物語です。どの作品にも、大人になっていく彼らの成長が描かれており、読んでいると読者の思い出がよみがえってくるような懐かしさを覚えます。「子どもは眠る、「彼女のアリア」、そして主題にもなっている「アーモンド入りチョコレートのワルツ」が収録されています。この3作品の中で1つ、あらすじをご紹介します。
「子どもは眠る」では「ぼく」が語り手で、5人のいとこたちだけで別荘で過ごす夏休みが描かれています。リーダー格である章は、別荘を持っている父のおかげで、ここでは王様的存在。いとこたちは章が決めたことは絶対で、ひそかに憧れも抱いていました。
「章くんにさからったり、章くんよりデキるところを見せたりしたら、もうここには呼ばれなくなる」(『アーモンド入りチョコレートのワルツ』から引用)
だからこそ、いとこたちは章に競泳でわざと負けたり、英語の発音をへたくそにしてみたりと気を遣います。しかし本当の自分を押し殺してまで過ごすのは間違いだと気づくのです。彼らにとって共に過ごす最後の夏。この夏、どう成長し大人になっていくのでしょうか。
子どもでもなく、大人でもない。成長過程にあるそれぞれの感情が、読者の若いころの思い出と重なるような気がしました。我慢も大事だけれど、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言える素直な心も大事ですね。10代はもちろん、社会に出て忘れてしまった純粋なあの頃の心を、この作品で思い出してはみませんか?
- 著者
- 茂市 久美子
- 出版日
異国に憧れるきっかけにもなるであろうこの作品は、ファンタジーでありながらも実体験のように語られていきます。不思議な世界観に魅せられる方も多いのではないでしょうか。
2月も終わりかけのある日、旅行会社を辞めた「わたし」に絡みついてきたのは、1枚のチラシでした。チラシは絨毯専門店のシャーリマールのもの。インドに絨毯を買い付けに行ってくれる人を募集しているという内容が書かれています。ふと、以前ショーウィンドウに飾られていた絨毯に魅せられたことがあるのを思い出します。そこで早速「わたし」は店を訪ね、絨毯の買い付け依頼を受けることにします。店主の老人に頼まれて探しにいったものは、「若草の中にひなげしを織り込んだ絨毯」、「ジャイプールの壷」、「アグラの宝石箱」。頼まれた品物にはそれぞれ物語があるそうで、品物を見つけるたびにその話を聞くことになります。果たしてどういった物語なのでしょうか……。
この作品の魅力は、ゆったりと異国の空気感を味わえるところです。こみねゆら氏の挿絵はとても優しいタッチで描かれており、読者に情景を思い浮かばせる上で、物語の引き立て役として欠かせない存在感があります。そして、物語のラストに全てが繋がる謎解きのような要素もあり、読んだ後は「なるほど」と思わずうなってしまうことでしょう。この本を読んでいる間は、とてもゆっくりとした温かな時間が流れていたように思います。
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2001-08-01
2008年に実写映画が公開されており、日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を受賞しています。一度は名前を聞いたことがある作品ではないでしょうか。
中学に入ったころ、まいはいじめを受けていました。学校に行きたくないと不登校になり、おばあちゃんの元へ預けられます。そこで西の魔女と言われるおばあちゃんから、魔女になるための修行を受けることに。修行の一環である規則正しい生活を続け、自然の中で遊ぶことの楽しさなどを教わり幸せに過ごしていたある日、ある事件をきっかけに怒ったおばあちゃんは、まいの頬を打ってしまいます。確執だけが残ったまま、両親の元へと帰ることになったまい。2年後、まいの元に届いた知らせは、おばあちゃんの危篤でした。
作中に出てくる、こんな一文があります。
「どうやら魔女になるための必須条件とは、『自分で決める』ことに尽きるらしかった。
『気をつけなさい。いちばん大事なことは自分で見ようともしないのに何かが見えたり、聞こえたりするのはとても危険ですし、不快なことですし、一流の魔女にあるまじきことです』」(『西の魔女が死んだ』から引用)
確かにその通りですよね。自分が決めたことであれば、責任は自分だけのもの。そして見てもいないのに勝手な想像だけで判断することも怖いことです。このように作中には名言がたくさんあります。心に深く刺さる素敵な言葉ばかりですので、ぜひ探してみてください。
どの作品もやすらぎを与えてくれるような本だったと思います。あなたもジュブナイル作品を読んで、人の温かさに触れてみませんか?