石ノ森章太郎の名作漫画おすすめランキングベスト5!

更新:2021.12.16

石ノ森章太郎は日本の漫画家。特撮作品の原作者としても有名です。手塚治虫などの有名漫画家たちが生活を共にしていたトキワ荘の住人でもありました。今回はそんな巨匠の名作をおすすめします!

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石ノ森章太郎の遺伝子は、今なお受け継がれ続けている

少々大げさかもしれませんが、今あるすべての漫画に影響を与えている人物、と考える人もいるほど影響力の強かった漫画家、石ノ森章太郎。事実そのマンガ制作における技法は様々な漫画家にリスペクトされ、今日の漫画に息づいています。

かの手塚治虫と並び称され、彼を漫画の神様とするならば、石ノ森章太郎は漫画の王様と称されることもあります。60歳で没するまでに描いた作品は500巻770作品という、ギネス認定されるほどのとんでもない数。彼の尽きることのない漫画への熱い情熱が伺えます。

特撮作品においてもその影響力は強く、子供向けの番組であったとしても、その作品には深いテーマが盛り込まれることが多く、その作品に対する姿勢は様々な作品の指標となっています。

石ノ森が描き出した作品に触れ、正義のあり方や人の生き方などを感じ取り、今でもそれが当時の読者や視聴者の心に生きているのは想像に難くありません。そしてそんな人たちが、今では制作する側の人間として、彼の精神を受け継ぐ作品を生み出していっているに違いありません。

5位:ホテルには人生がある。石ノ森章太郎が描く青年誌の傑作『HOTEL』

90年代にドラマ化され、そのタイトルと作中のナレーション「姉さん、事件です。」といえばピンとくる方もいらっしゃるでしょう。ドラマ版では、東京プラトンホテルを舞台として、主人公である赤川一平がホテルの客が持ち込む様々なトラブルと関わっていくというストーリーが描かれます。

しかし漫画版は、少々趣が違います。赤川が初登場するのは16話。ドラマ版では彼を中心として、それに関わる様々な事柄が物語として進行していきますが、漫画版における構図は、ホテルを中心として、それに関わる様々な事柄が描かれるのです。

それが従業員であったとするなら、客へのサービス対応やホテル全体の経営。描かれるのが客であったなら、客個人としての事情、わがままなど。実に様々な人間模様が展開されていきます。

著者
石ノ森 章太郎
出版日


たとえばサブネージャー山崎忠邦の場合、最年長の従業員である彼は、第20話で客が襲われるという密室事件を解決に導きます。38話にはプラトンのOBである市川、二本松、三島が登場し、インフルエンザによって欠勤が増加してしまったプラトンを救うのです。

他にも、永遠にチェックアウトされない908号室の謎を知る水野に、どんなクレームもすべて丸く収めるほどの苦情処理係小林、プラトンで自殺を図ろうとする女優倉沢ユリなど、物語に関わる登場人物をあげるとキリがありません。しかもその一人ひとりに、個人としての事情やストーリーがしっかりと語られるのです。

ホテルという場所は生活空間です。そこには人の人生、生き方が映し出されます。客や従業員を問わず、様々な人物がホテルという場所ならではの様相を呈し、人情味あふれるドラマを展開していく本作。ホテルという舞台を媒介として、人や人生そのものを描いています。

ホテルに関わる人々を描く群像劇としての本作品の魅力は、まさに人そのもの、登場するキャラクターたちなのではないでしょうか。世の中には本当にいろんな人が、そしていろんな人生があるものなんだなぁと思わせてくれる作品です。

4位:善と悪とは?石ノ森章太郎の懐かしの変身ヒーロー作品『人造人間キカイダー』

その異様な見た目が印象に残る特撮ヒーロー作品です。体の半分が赤、もう一方が青で構成されるキャラクターのカラーは、悪と正義両方の意識を内包することを象徴しています。当時、赤側の内部構造が透けて見える部分を気持ち悪いと思う子どもたちも多かったでしょう。

特撮版では、それまでのヒーロー番組の標準である、一話完結による勧善懲悪というスタイルを貫いているのですが、漫画版では、主人公ジローが不完全な良心回路を持ったことで、その善悪の狭間で苦しんでいく様を掘り下げた内容。彼の深い心情の変化を、単なるハッピーエンドでは終わらせないように描かれています。

著者
石ノ森 章太郎
出版日


本作品で描かれるキカイダーのデザインは、当初周囲からの評判が悪かったそうです。しかし原作、デザインを担当した石ノ森は、自身の傑作であると語っています。それは、主人公の内面に宿る善と悪両方の心や、ヒーローとしての力強さなど、それらを今までにない斬新なデザインで表現できたという、作家としての自負なのではないでしょうか。

石ノ森の描き出した『キカイダー』のデザインは、確かにヒーローと呼ぶには少々気持ちが悪いかもしれません。しかし作品を読み進めるとわかっていきますが、そんな見た目よりも彼の悲哀に満ちた人生に心を奪われます。

善悪を判断するはずであった良心回路は不完全となり、生みの親である光明寺博士は最終的には敵となってしまうのです。そんな彼の内面を、善悪を示す赤と青のカラーと、悲しみをたたえるような仮面にデザインしたことで、作品全体に込められたメッセージ性を強く印象づけます。

漫画だけではなく、特撮作品においてもキャラクターの内面を表すデザイン表現は大切です。その意味が理解できた時、活字では言い表せない深い表現が可能となります。石ノ森が大人物とされる大きな要因の一つは、このキャラクターの内面を描き出す奇抜なデザイン力だったのかもしれません。

3位:緑の体に赤いマフラー。日本のヒーローの代名詞『仮面ライダー』

もはや1つのジャンルと言ってもいいほど数々の派生作品を生み出し、長く、そして広く親しまれる作品です。バッタの顔にヒーロースーツをまとうその姿は、よくよく考えるとちょっと不気味。しかしもはやあれこそが仮面ライダーなのだと納得してしまう説得力を持ったキャラクターとなりました。

よく漫画版のことを原作版などと言う場合がありますが、両作品はほぼ同時に制作されており、メディアミックス作品だといえます。

著者
石ノ森 章太郎
出版日


ショッカーと呼ばれる悪の組織に捕らえられ、バッタ人間として改造されてしまった本郷猛。彼はなんとか改造手術の途中に逃げ出すことに成功し、仮面ライダーとなってショッカーと戦っていくことになります。この作品で印象深い点をあげるとすれば、それは正義のヒーローである主役の死でしょう。当時の読者、主に子どもたちは相当なショックを受けたはずです。

しかしこの展開には重要な意味があります。仮面ライダーである本郷猛が死亡した後、彼に助けられた一文字隼人が仮面ライダー2号となって彼の志を受け継ぎます。まさにこの展開が、綿々と受け継がれる本シリーズ作品の始まりなのではないでしょうか。

そしてライダーV3、ストロンガー、アマゾンなど総数100以上にのぼる個性的なライダーが生み出され、『仮面ライダー』シリーズという1つの世界を作り上げていくことになるのです。

今なお多くのファンに愛される『仮面ライダー』。彼は人であって人ではない存在です。人と、そうでない者の狭間で生きながらも、人のために戦う孤高のヒーロー。そんな彼を生み出した石ノ森は、きっと大きなテーマをこの作品に盛り込んでいたはずです。作品に触れ、そんな作者の声に耳を傾けるのも面白いかもしれませんね。

2位:これぞ石ノ森章太郎の漫画の技法『ジュン』

かの手塚治虫が、石ノ森章太郎の才覚に嫉妬したという逸話を生み出したことで知られる名作です。作品はセリフをほとんど使わず、情緒深い田舎の風景や、人物の表情、コマ割りのみで物語が進行していきます。

漫画家になる夢を持つ少年ジュンは、父親には夢を理解してもらえず、ついには漫画を破かれてしまいます。雪が舞う季節、悲しみに暮れるジュンは大人びた少女と出会います。哲学的な言葉で少女らしからぬ様相をかもし出すその子とジュン。この幻想的な物語はこのふたりの登場人物を軸として流れていきます。

著者
石ノ森 章太郎
出版日


当時においては実験的な試みであった本作品は、その個性的で魅力のある表現により多くの読者の心を惹きつけました。活字をほとんど使っていないにもかかわらず、巧みなコマ割りや人物の表情、そして繊細なタッチで描かれた美しい絵によって、見事に作品の世界観を表現しています。

あなたは音を消した状態で映画や番組を見たことはあるでしょうか。言葉がなくとも伝わることは驚くほどたくさんあるものです。そしてそれは、自分自身の想像力によって補われます。

私達が漫画や小説を読む時にも自分自身の想像力というものは作品に大きく関わっています。ある意味、最終的に作品を作品たらしめるのは、それに触れる私たちの想像力だといえるのかもしれません。

本作で描かれる、主人公ジュンと彼が出会う幻想的な少女がつづるこの物語は、きっと読者の想像力によって感じ方、見え方が大きく変わるのです。そういった意味では、見る人によって作品の表情が変わるこの作品は、まさしく漫画でしか表現の出来ない傑作といえるのではないでしょうか。

1位:完結された代表作でもあり、未完の作品でもある『サイボーグ009』

2012年時点の累計発行部数は1000万部を突破するという、石ノ森章太郎の代表作です。作者の死去により未完に終わってしまった作品であるということでも知られています。後に遺族、プロダクションなどが中心となり完結編が制作されますが、作者の手による作品の完結はなされていません。

作者は作品で、生みの親への反逆というテーマ、更には反戦色をもうかがわせます。少年漫画でありながら、現実的かつ哲学的な要素を多く含む作品となっているのも特徴の作品です。

タイトルでもわかるとおり、主人公ら9人の仲間はサイボーグです。ベトナム戦争などを背景とする世界観に加え、人であり機械でもある自分たちの存在に苦悩するなど、正義のヒーロー像に戦争と人造人間という哲学的なエッセンスを加えることで、物語に深みを与えています。

著者
石ノ森 章太郎
出版日


本作は作者の思い入れが強いようで、前述したベトナム戦争や1960年台の米ソ東西冷戦など、当時の社会情勢をふまえた複雑な時代背景が描かれています。そしてそれを彩る形で様々な人物が登場するのです。

そのため連載漫画としては話がわかりにくいとも言われ、一度は打ち切りに。しかし別の雑誌を担当する編集者から、真の結末を描いて欲しいと打診され、一度は完結を迎えたというエピソードもあります。そしてその後、続編となる物語が展開され、本当の意味では完結せずに未完となっているのです。

生涯でのべ12万ページ以上を描き出したと言われる石ノ森章太郎は、今日の漫画に多大な影響を与えた人物です。本作においても、後世に受け継がれる様々なアイデアが詰め込まれています。

作者らしいテーマと、その情熱によって生み出された多くのキャラクター、緻密な設定などこの作品の魅力を語り尽くすには、それこそ12万ページを超える記事を書き出すくらいの情熱が必要なのかもしれません。

作家がその情熱から作品を生み出す時、作品自体に何か大きなパワーが生まれます。トキワ荘においては、そのパワーは他の作家によって増幅され、洗練され、数々の名作を生み出したのでしょう。後世に影響を与えた石ノ森章太郎も他の様々な作家に影響され、その情熱を磨いていったに違いありません。そんなパワーに溢れた作品を読んでみませんか?

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