美味しい料理が出てくるおすすめの小説8選!

更新:2021.12.16

料理とは味、匂い、美しい盛り付けと合わせて五感で感じる物。小説は料理を感じるその五感を想像させ、頭の中にその料理を作り出します。小説家という名のシェフはどんなフルコースを出してくれるのか、そんな「美味しいおすすめ小説」となっております。

ブックカルテ リンク

シンプルだけど奥深く、しかも美味しい!そんなサンドイッチのようなお話です。

著者
群 ようこ
出版日
2013-07-13

読み口の軽やかな文体が特徴の群ようこによる作品です。一文で作品の紹介をさせていただきますと、パンに始まりスープで読ませ、ネコが可愛い物語。題名が『パンとスープとネコ日和』ですから正にお題通り、奇をてらわない内容になっています。本の題名から内容を連想して手に取った方はきっと想像通り、満足いく作品ではないでしょうか

母を亡くしたアキコが、母の食堂を改装して再オープンさせることから物語は始まっていきます。群ようこの作品は総じて温かみのある読みやすいものが多い印象ですが、この作品もそれに漏れずよい意味で想像通り。しかしあっさりしすぎている風ではなく、母を亡くしたアキコの寂しさや生立ちからくる苦悩がリアルに描写され、読みやすいだけではなく感情移入をして内容に没頭できる作品です。

お店のメニューは日替わりのサンドイッチとスープ、サラダ、フルーツのみですが、その分手間暇を惜しまないことを売りにしています。現実のお店でも、メニュー数が少ないお店は味がいいと言ったりしますよね。

猫のたろの描写は細かくて、心が温かくなる描写がいっぱいです。気張った物語はちょっと読みたくないなという方に、特に手に取っていただきたい小説です。

一味変わった青春料理活劇!

著者
椹野 道流
出版日
2014-10-25


ブレイクの兆しを見せていた若手俳優、五十嵐カイリが主人公の物語です。カイリはいわれのないスキャンダルで俳優活動を諦めざるを得ず、東京から故郷の芦屋に戻ってきますが、家族に追い出され、自棄になっているところを夏神留二が声をかけます。夏神の店、夜から開店する不思議な「ばんめし屋」で面倒をみてもらうことになったカイリは、そこのお客さまとの関りを通して成長していきます。

本作は料理に対する描写も細かく、手を抜いている感じがありません。読んでいてお腹が空いてくること請け合いです。ネタバレになるのであえて詳しい説明はしませんが、この作品は後半に意外な設定が隠れています。賛否あるかもしれませんが、この「料理青春物語」に良いエッセンスになっていると感じました。是非読んでみることをおすすめいたします。

食卓をめぐる7つの物語。心に残る味がある。

著者
小川 糸
出版日
2014-04-28


7編からなる料理を軸としたハートフル短編集です。全体を通したテーマとしては「最後の食事」になるのではないでしょうか、作者の小川糸は代表作に『食堂かたつむり』があります。料理を題材とした物語を得意としており、本作においてもその実力が十分に発揮されています。

例えば「こーちゃんのおみそ汁」に出てくるお味噌汁はしっかりと出汁をとったうえで本格的な味をつくる描写がとても素晴らしく、自分でお味噌汁を作る際の参考にしたいほど。

全体を通して語れば切ない物語が多いなという印象で、先ほどの「こーちゃんのおみそ汁」にしても若くして死病に侵されたお母さんが娘に自分のレシピを残すというお話です。

時間がないと知った中で料理や家事を通じて娘に残す想い、残していく夫に託す想い、残していってしまう側の辛さと、残される側の悲しみが読んでいて非常に胸を突きます。託される「おみそ汁」に込められた本当の意味とは……。

悲しくて切ないお話しが多い反面、その話の全てに救いがあり意味があります。そしてその救いをもって登場人物達が悲しさに折り合いをつけていくことに、この物語の特徴があります。胸の温まる想いを是非感じていただきたいです。

アッコ違い?!元気のでるエナジードリンク小説

著者
柚木 麻子
出版日
2015-02-12


「澤田さん、もしまだだったら、これからお昼一緒にどう?」(『ランチのアッコちゃん』より引用)

この一言から澤田三智子の奇妙な一週間の生活が始まります。失恋中で元気の無い三智子に声を掛けてきたのは職場の上司「アッコちゃん」こと黒川敦子。「アッコちゃん」、もう少し敬意を払って「アッコ女史」は非常に優秀な上司で、社長の信頼も厚いやり手のキャリアです。

某大物歌手を彷彿とさせる外見も相まって、非常に社内で恐れられている存在のその「アッコ女史」から、唐突に一週間のランチ交換を求められた三智子は渋々「アッコ女史」の指定した店に日替わりで向かいます。多くを語らない「アッコ女史」ですが三智子はその一週間を通じて人間として非常に成長し輝きを取り戻します。

ランチなど料理の描写にかなり偏重した印象の本作ですが、仕事などで元気がない人に特に読んでいただきたい作品です。「アッコ女史」のパワハラ!?に戸惑いつつも次第に畏怖から尊敬に変わっていく三智子の心理描写も読んでいて微笑ましく、どの世代が読んでも各々の視点で感じることができる作品です。是非部下の視点で、上司の視点で、または過去の失恋を思い起こして読んでいただくのはいかがでしょうか

優しい日常を誰しもが必要としています。

著者
吉田 篤弘
出版日


盛り上がりも少ない代わりにその分日常を丁寧に書いている温かみのある物語です。料理を題材とした小説は日常をメインに持ってくる作品が多くありますが、本作はその最たる物ではないでしょうか

サンドイッチ店「トロワ」を軸に進む物語で、料理の描写が詳しく、しかも作中においてその味は絶品。読む側にその料理の味を伝えるのに十分な訴えかけをしてきています。

「映画に夢中になるあまり、何を食べたのか覚えていないことは何度かあったが、サンドイッチに夢中になってスクリーンが霞むなんて信じられない」(『それからはスープのことばかり考えて暮らした』より引用)

サンドイッチを映画館で食べている描写ですがこれほど美味しそうなサンドイッチの表現を私は今まで読んだことがありません。この描写一つとってもそうですが、全体的に優しい雰囲気の物語で、読んでいる最中に自分の周りにも違う時間軸ができているのではないかと疑いたくなります。それほど優しく、ゆったりとした作品です。

小説とはある種の現実逃避の手段です。どれほどその物語に入り込んでいけるのか、入り込ませてくれるのかを読者は求めています。そういう意味でこの物語はうってつけで、優しくてストレスフリーな空間をどの場所でも提供してくれます。

カレーを求める旅

著者
竹内 真
出版日

主人公であるケンスケの祖父は、洋食屋を経営していました。そして祖父は、孫であるケンスケたちがカレーライスを食べている時に亡くなったのです。その時ケンスケがいとこと誓った夢は「僕らでカレーライス屋をやろう」というものでした。

時が流れてケンスケも成長し、その夢を忘れかけていたころ、彼の父親が亡くなります。父親の死に後押しされる形で、ケンスケは祖父のカレーの味を求める旅に出るのです。

祖父が亡くなったときに、夢を話し合ったいとこたちは全部で5人。5人は祖父のカレーを覚えてはいるものの、それぞれ自分の人生を歩んでいました。そのためまずケンスケは、いとこを探しに行くのです。

本作には様々な種類のカレーが出てきます。それは、ケンスケが旅をする中で訪れた、その地特有のものが出てくるからです。沖縄、アメリカ、そしてインドまで、ケンスケはカレーの味を求めていきます。

この作品の魅力は、なんと言ってもいとこ同士の絆。小さいころ交わした約束は忘れてしまいがちですが、5人は違いました。いとこたちと協力しながら祖父の味を再現しようと旅をする姿が、とても輝いています。読者も一緒に旅をしているように錯覚できるでしょう。

そして彼らがそこまでして夢を叶えたいと思う、祖父のカレーの味とは、いったいどういうものだったのでしょうか。

作品に出てくるカレーは全部が美味しそうで、読んでいてお腹がすくこと間違いなしです。

味覚を人為的に操作?

著者
仙川 環
出版日
2012-04-20

 

主人公の深山あきらは、姉のみゆきから父の店でホールスタッフとして働くように言われます。

そこに花井という男がシェフとして働くことになりました。そして彼の作ったペスカトーレが大好評となり、店は大繁盛。しかし花井は、突然ペスカトーレをメニューから外してしまいます。

店は客足が減り窮地に……しかも以前からいる料理人の香津子に、花井が必要以上に厳しく当たることで、厨房の中はギクシャクしていました。それでも香津子は料理人として、花井に認めてもらいたい一心で努力しつづけます。

そんなある日、香津子が原因で店にトラブルが起こりました。香津子は店を辞めさせられそうになりますが、もう一度料理の腕前を見てほしいと頼み、翌日にペスカトーレを作ることになります。しかし翌日、香津子は自室で昏睡状態で発見されました。香津子に何が起こったのか……そしてこの件がきっかけで、あきらの料理人としての修業がはじまります。

あきらは、小さい頃から父に料理を習い、元々の味覚の鋭さと料理に関する勘の良さや器用さを持っていました。高校を卒業したら店で修業をするつもりでいましたが、恋愛に敗れて店からは距離を取っています。

あきらは派遣で働いては、お金が貯まると放浪の旅に出るような生活を送っていました。しかし姉のみゆきはあきらの才能と、亡くなった父の思いを知っていたからこそ苦しい経営ながらもレストランを続けていたのです。

あきらは一見クールで、人との関りを避けるように生きていました。しかし実は人を見る目も確かで、周囲に気を配ることができる優しい女性です。ただ自分の本心から避けて生きてきたところがありますが、店で働くうちにほのんの少しずつ心に変化が出てきます。

下がり眉で上昇運を掴む料理の天才

著者
高田 郁
出版日
2009-05-15

水害で両親をなくした澪は、大阪一といわれる天満一兆庵の女将、芳に助けられ、そこで働くようになります。主である嘉兵衛に才能を見出され料理の修業を積む澪ですが、天満一兆庵が火事で消失してしまうのです。嘉平衛夫婦は江戸で店を出している息子の佐兵衛を頼ることになり、澪も同行しますが、佐平衛が失踪していることがわかり、嘉平衛は心労で亡くなってしまいます。店の再興と佐平衛探しを決めた澪はつる屋という蕎麦店で働き始めるのでした。

主人公の澪が、関西と関東の水や材料、味付けの好みなどの違いに戸惑いながらも料理人として大成していく姿を描いています。「みをつくし」とは「澪標」、つまり海にある標識と「身を尽くし」をかけた言葉です。澪が文字通り身を尽くして作る料理はどれも独創的で美味しそうで、人生という大海に投げ出された人たちの道しるべになるような、小さな勇気を与えます。

下がり眉に小さな丸い鼻。決して美人とはいえない澪ですが、料理にかける情熱と、料理を通して人を元気にしたいという思いが人を惹きつけるのでしょう。嘉平衛と芳夫婦をはじめ、つる屋の種市、浪人の小松原、町医者の源済などの心を掴んでいきます。特にシリーズ前半の、いつも澪を「下がり眉」と呼んでからかう小松原とのやりとりは微笑ましく、小さな恋の行方が気になるところです。

安い材料でも値段に負けないおいしいものを。できれば出来立てだけでなく、家に持ち帰っても楽しめるものを。相反する条件の中で新しい味を模索する澪は、制約の中で工夫するのが楽しいとさえ思います。校則や制服がある中で自分らしさを追求する今の学生さんたちと通じるものがあるかもしれません。

人に美味しいものを食べてほしいと願い、日夜工夫を凝らす澪に、次はどんな料理が登場するのか楽しみになります。レシピも書かれているので、読後にキッチンに立って、澪の世界を実際に味わってみるのもいいかもしれません。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る