チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』他、名作おすすめ5選!

更新:2021.12.16

数々の不朽の名作を生み出したイギリスの文豪チャールズ・ディケンズ。常に一般大衆に愛される作品を描いてきました。ハラハラ・ドキドキの起伏にとんだストーリーは、ページをめくる手を止めさせません。チャールズ・ディケンズの名作を5つ紹介します。

ブックカルテ リンク

稀代のストーリーテラー、チャールズ・ディケンズ

チャールズ・ディケンズは1812年、イギリスのハンプシャー州で生まれました。子どもの頃は病弱で本を読んでいることが多かったそう。中流階級の生まれではありましたが、両親ともに浪費家で金銭面にだらしなく、それが原因で家計は常に火の車でした。

とうとう家庭が破産し、ディケンズ自身は12歳で靴墨工場に働きに出るなど、たいへんな苦労をします。そんな家庭環境のせいで教育も満足に受けられませんでした。靴墨工場で働いていた時、ディケンズは虐待を受けていて、この子どもの頃の体験が多くの作品にそのまま描かれているのです。

ディケンズの生活が変わったのは、彼が15歳になった時。法律事務所の事務員として勤めたことがきっかけです。その後速記術を学び、法廷の速記記者になります。また、ジャーナリストを目指していたのもこの頃です。そのかたわら、ディケンズは『マンスリーマガジン』という雑誌にエッセイを投稿していて、それがまとめられて実質ディケンズが24歳のころにデビュー作『ボズのスケッチ集』を発表しました。ボズとは、当時ディケンズの使っていたペンネームです。

よほど文才があったのか、デビューが早いですね。その後『オリバー・ツイスト』、『ニコラス・ニクルビー』、『クリスマス・キャロル』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『二都物語』、『大いなる遺産』など、立て続けに発表。ディケンズの作品は一般大衆に大喜びで迎え入れられ、一躍有名作家になるのです。

ディケンズの作品は、今では古典のように扱われていますが、実はたいへん読みやすいです。どの作品も、雑誌の連載として人々に読まれてきただけあって、人々の心をぐっと掴みます。稀代のストーリーテラーであるディケンズの世界を堪能してはいかがでしょう。

主人公の心の変化に注目したい『クリスマス・キャロル』

この物語の主人公・スクルージは商売人。強欲でケチ、思いやりや恵みということを知りません。クリスマスを間近にひかえたある晩、そんなスクルージのもとに、7年前亡くなったはずの、かつて事務所を共同経営していた相棒のマーレイがやってきます。そして、スクルージのところに明日から毎晩3人の幽霊が来ることになっている、この幽霊たちがスクルージを救ってくれるであろうと言うのです。マーレイは生きている間、スクルージ同様あまりに非情であったため、死んだあと鎖に縛られ天国に行けないでいたのです。

三人の幽霊とは過去・現在・未来の幽霊。突然あらわれてスクルージに3つの光景を見せます。それは、友もなく寂しい子供時代のスクルージ、あまりに強欲なため町の嫌われ者である現在のスクルージ、また死んだあとに身ぐるみ剥がれて蔑まれ、誰ひとり泣く人もないスクルージの姿でした。彼は今までの所業を悔い、これから自分がどう生きればいいのか幽霊に教えを乞うのですが……。

著者
ディケンズ
出版日
2011-12-02

長い年月にコチコチに凍ったスクルージの心の溶ける瞬間が感動的です。これは、ディケンズがスクルージの改心を描いた物語。冒頭の非情なスクルージが、お話の終盤でどのような変わり方をするのかが見所です。明るい雪の降る朝、往来でクリスマスを祝う人々。はじめて心からクリスマスを祝福するスクルージ。何事も遅すぎるということはないのですね。

またスクルージには、この偏屈なおじさんを慕う甥っ子がいて、断られても毎年パーティーに誘ってくれています。そんな甥や、事務所の使用人、町の人々などとの関わりで生きてきたことに、今まで彼は気づかずにいたのですね。スクルージの目が覚める瞬間にたちあってください。心も景色も、暗闇から雪あかりの中に出る瞬間があざやかに描かれています。

『クリスマス・キャロル』は幅広い読者層を獲得し、ディケンズの人気を不動のものにしました。心がポカポカ温かくなるお話です。クリスマスの精神に、あらためて触れてみてはどうでしょうか。

革命と恋愛『二都物語』

二都とはフランスのパリとイギリスのロンドンのことです。革命の嵐が吹き荒れるフランスを逃れて、イギリスに渡ってきた貴族の青年チャールズ・ダーネイが主人公。彼の生まれた家柄は、傲慢で冷血、働くこともなく市民を搾取する側です。貴族階級として当たり前とされたその傍若無人な振る舞いを彼は許すことができず、身分を捨てイギリスにやってきたのです。教師として順調に生活が始まってしばらくした頃、ダーネイはスパイの容疑で裁判にかけられることになります。

その裁判でダーネイの無実を示す決め手になったのが、マネット父娘の証言です。それに弁護士の機知も加わり見事ダーネイは無罪放免されました。娘のルーシー・マネットは美しく純真で、ダーネイが恋をするのには時間はかかりませんでした。しかし、ルーシーを好きになったのはダーネイだけではありません。弁護士もやはり、ルーシーの愛を得ようとしていたのです。そしてもう一人も……。

著者
ディケンズ
出版日
1967-01-30

フランス革命時、人民は餓えていました。略奪が横行し、希望のない毎日に人々は疲れ果て、貧困に苦しんでいました。それに比べて、バカバカしいほどに贅沢な貴族の生活。人民は貴族に命を奪われていたも同然だったのです。そしてイギリスでも同様に、一部の特権階級が幅を利かせています。生きるのは、ここでも楽ではありません。しかし一方で、市民がそれぞれの立場で力強く生きている姿が、ディケンズの本作には書き込まれています。脇役として登場する全ての人が、個性的に生き生きと描かれているのが、この小説の魅力です。

ルーシーに求愛する3人の男性。みんな真剣なのですが、時に滑稽で一人よがりだったり、ある者は、自分は求愛する価値もない人間だと落ち込んでみたりで、ちょっと笑えるところもあります。革命時における人間同士の抗争もありながら、恋愛ドラマとしても楽しく読むことができるディケンズの名作です。

莫大な遺産をのこしたのは誰?『大いなる遺産』

孤児のピップは、気が強く荒くれ者の姉と、優しい亭主の家で育てられます。ある時、墓場で脱獄囚エイベルと遭遇したピップ。エイベルから逃亡の手助けを強要され、自宅から食べものやヤスリを運んで渡します。そんな事件も囚人が捕らえられて一旦は終わりとなります。

また、ピップは変わり者の老婦人ミス・ハヴィシャムに見込まれ、その養女であるエステラの話相手として、屋敷に迎え入れられます。エステラは美人ですが高慢で、下層階級である彼を何かにつけて見下し、彼は振り回されるのですが、それにも関わらずどんどんエステラに惹かれてゆきます。

ある日、ロンドンの弁護士がピップのもとを訪れます。そして、ピップに残された多額の遺産の話をするのでした。このお金でピップはロンドンに行き、かねてから憧れていた紳士になるための修業をするのです。自分に遺産をのこした人物がわからぬまま……。

著者
チャールズ ディケンズ
出版日
2011-07-05

遺産を残したのが誰かという趣向で物語は進みますが、ほかにピップの恋も重要な要素です。また、登場人物は多様で、中でもミス・ハヴィシャムは「結婚当日に婚約を破棄され、悲しみのあまりその日のままで時計をとめて、花嫁衣装のまま光の差し込まぬ部屋で暮らす独身婦人」という、とりわけ変わり者の役どころ。その様子が目に浮かびます。彼女は世の中の男に復讐するため、養女・エステラに、男を手玉にとる教育をほどこすのです。ピップはその被害者の一人なのですね。

ロンドンで紳士となったピップが、故郷の貧しさを嫌ったりする様子。莫大な遺産を相続したと知ると、手のひらを返したようにすり寄ってくる人々。これは、人間の嫌な面も余すことなく書いています。そして最後には、脱獄囚の話、恋愛の話、遺産の話が見事に収束されていきます。

ディケンズの最高傑作と称されるこの物語。登場人物も多いですが、それだけに深みがあって面白いです。遺産を残した人物が判明したとき、エステラの出生の秘密が明かされた時など、随所で「えっ」と驚くことになりますよ。

悪に染まらぬ少年『オリバー・ツイスト』

オリバーは救貧院で暮らしています。ここでの生活はきびしいもので、虐待を受ける毎日です。ある日を境にオリバーは葬儀屋に働きに出され、そこでもつらい生活を強いられます。我慢ができず、葬儀屋を逃げ出しロンドンに行き着いたオリバーですが、思いがけずユダヤ人窃盗団に入ることになってしまいます。その時、彼はまだ9歳でした。

オリバーは、仕方なく盗みに加わっていきます。そんなある日、彼はブラウンローという紳士に拾われます。窃盗団の仲間がブラウンローのハンカチを盗んだ時、オリバーだけがつかまったのですが、彼の無実がわかって家に連れ帰ってくれたのです。そこで、温かい家庭を知ったオリバー。生まれてはじめて幸せを感じます。しかし、窃盗団が彼をもとに引き戻そうとして……。

著者
チャールズ ディケンズ
出版日

ディケンズによるこの物語に描かれるのは、孤児たちのあまりに過酷な生活環境です。生きて行くための手段としてスリや盗みをする子どもたち、悲しくなりますね。次第に環境に順応してしまうのです。

それでも、オリバーにそなわった善良な資質は、誰にも奪えなかったのです。悪人がたくさん登場し、オリバーを散々な目に合わせますが、頑固なまでに純粋な彼は、回りに影響を受けないのです。窃盗団の親分でさえ呆れ返るくらいです。かといって、オリバーは悪人と戦おうとするのでもないのですが……。根っから善良な人間なのですね。また、孤児オリバーの出生の秘密が明かされるところも必見です。ディケンズの作品史上、最も幸せになってもらいたい主人公です。

オリバーの人生は、まるでジェットコースターのようです。庇護する者もなく、生きていくのに必死な幼年時代。悪人から逃げおおせたと思ったらまた引き戻され自由を奪われたり、絶体絶命のピンチかと思いきや、突然味方が登場して助けられたり……。展開が早いので読者を飽きさせないディケンズのお話ですよ。

仕事、そして理想の女性を求めて『デイヴィッド・コパフィールド』

デイヴィッド・コパフィールドが生まれた時、父はもう亡くなっていましたが、母と女中ペゴティーに可愛がられ幸せな生活を送っていました。それが一転したのは、母が良くない男と再婚してからでした。新しい父と姉が家に入り込むと、デイヴィッドは居場所を失い、彼らから虐待を受けるようになります。そうして寄宿学校に入れられるのですが、その間に母が亡くなってしまいます。

その後、ロンドンにいる父方の大伯母を頼ってゆくと、大伯母は彼を歓迎してくれます。友人の弁護士ウィックフィールドの家に住まわせ、デイヴィッドは下宿しながら学校に通うことになります。そこで知り合ったのが同年代のアグニス。美しく聡明な理想的女性アグニスとも親しくなり、学校も無事卒業し彼の生活は順調でした。次に法律事務所に勤めることになるデイヴィッドですが、今度は事務所長の娘であるドーラに恋するようになるのです。彼女との恋愛が順調に行きだしたころ、今度は大伯母が破産し……。

著者
チャールズ ディケンズ
出版日
2002-07-16

暗く厳しいはずの主人公の生い立ちも、明るいユーモアや皮肉を持って書かれています。
この作品はチャールズ・ディケンズ自身、一番のお気に入りとされています。それはディケンズの生い立ち、境遇、職業など、実際の経験を書いた自伝的要素があるからです。ディケンズの人生自体が物語のようであるとも言えますね。デイヴィッドも物書きをしていますし。

また、この作品は主人公の波乱万丈さにおいて、ディケンズの他の作品に引けをとりません。個性豊かな登場人物も抜群です。法律事務所の乗っ取りを企む悪人ユライアや、デイヴィッドの結婚した家事能力のない赤ん坊のような奥さん・ドーラなど、ユーモラスに書き分けられています。悪人善人の区別もはっきりしてわかりやすいですし、主人公がすぐに恋に落ちるのもディケンズ流ですね。仕事に恋愛にと事欠かないドラマ的な仕上がりになっているので楽しめます。

ディケンズが文豪であることや作品が長編小説であることに尻ごみをして、今まで読んでこなかった方にも是非読んでほしいです。起伏の多い物語に一喜一憂、いつの間にか彼の作り出したドラマの中に入りこむに違いありません。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る