『聖の青春』『3月のライオン』と将棋を題材にした作品に傑作がいくつもありますが、ライトノベルの世界でも、傑作将棋物語が誕生しているのです。今回は2018年1月にアニメ化も決定した傑作将棋ラノベ『りゅうおうのおしごと!』をご紹介。少々ネタバレをしているのでご注意ください。 また、本作の漫画版はスマホアプリで無料で読むこともできるので、そちらもどうぞ!
「このライトノベルがすごい!2017」で1位に輝いた『りゅうおうのおしごと!』。ライトノベルファンの間ではよく知られた作品になりますが、ライトノベルを普段読まない方にはリーチできていないのではないでしょうか。それは非常にもったいない!ということで、今回は傑作将棋ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』の紹介をさせていただきたいと思います。
主人公は16歳の天才棋士九頭竜八一、と書くと、『3月のライオン』と似た設定だなと思われるかもしれませんが、本作とその他の将棋物語には、中心となるテーマ設定に明確な違いがあります。『りゅうおうのおしごと!』で中心的に描かれるテーマは「師弟関係」です。
『聖の青春』や『3月のライオン』にも師弟関係は出てきますが、あくまでメインは主人公が戦いや周囲の人とのかかわりを通じて成長する姿を描くことにあります。軸足が主人公の成長に置かれているのです。
対して『りゅうおうのおしごと!』は、16歳の師匠と9歳の弟子の師弟関係をメインに描いていきます。設定だけ見るとロリコンホイホイに感じられますが(実際その側面はありますが)、師弟関係を中心に、才能とは何か、棋士として生きていくというのはどういうことなのかといったテーマを綿密な取材をベースに提示しています。丹念に取材をしたことがわかる情報量の多さもありながら、将棋をしたことがない人でもわかる面白さを持っているのは美点と言えるでしょう。
『3月のライオン』が好きな方はきっとハマるはずです!女子小学生が出てくるような作品は認めないという方以外には全力でおすすめしますので、1巻だけでも読んでみてください。
ちなみに漫画作品はスマホアプリで無料で読むことができます!
- 著者
- ["白鳥 士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2016-01-13
「おかえりなさいませ! お師匠さまっ!!」
主人公の棋士九頭竜八一が家に帰ると、そこには見たこともない女子小学生がいました。
「約束どおり、弟子にしてもらいにきました!!」
どうやら八一は女子小学生雛鶴あいに、約束をしていたようで……。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2015-09-12
八一とあい、師弟の出会いが描かれる『りゅうおうのおしごと!』第1巻。作者白鳥士郎が「熱い物語が書きたかった」と語っているとおり、1巻から非常に熱量の高い作品になっています。
まず、物語として文句なしに面白いのですが、本作の魅力である「熱さ」のベースになっているのは師弟関係でしょう。
八一の師匠清滝鋼介の印象的なセリフがあります。
「本物の恩返しはな、師匠に勝つ事なんかやない。それだけやったら恩返しでも何でもない。師匠が本当に弟子にのぞむのは、タイトルを獲る事と、新しい弟子を育てる事や」
(『りゅうおうのおしごと!』1巻より引用)
八一はこの言葉を聞いた時点では、師匠のセリフの本当の意味がわかりませんでしたが、あいを育てることを経て、本当の意味に気づくことになります。
師匠もまた弟子に育てられる、言葉にしてしまうとベタですが、そのことを丁寧に、熱く描いている1巻です。
「弱くなってるわよ。あれ」
あいを駒落ち(ハンデあり)将棋で完封した後、八一の姉弟子空銀子は言いました。
八一はあいが現状に満足してしまっていることに原因があると分析し、あいのライバルを作るため、夜叉神天衣のレッスンを引き受けることにします。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2016-01-14
2巻は天衣のレッスンを中心に描かれますが、八一が新しい弟子を育てるということが主眼であるとは言えないでしょう。
登場ページ数こそ1巻に比して少ないですが、『りゅうおうのおしごと!』のメインは八一とあいの師弟関係。シリーズを通して、そして2巻においても、あいがどう成長するのか、八一はあいの成長のために何ができるのかという通奏低音が流れています。
もちろん、あいとはタイプの違う天衣のキャラクターも魅力のひとつ。
「はー……師匠と一緒に神戸でお茶できるなんて、あいは幸せ者ですー」というあいに対して、「私はあなたを師匠だなんて呼ばないから」という典型的なツンデレの天衣。ツンデレの例にもれず、しっかりとデレてくれるので期待して読みましょう。
八一は同じ相手に3連敗を喫し、壁にぶち当たっていました。
あいは、自分が勝ったせいで相手を傷つけてしまったことに傷ついていました。
そして、八一と同門の25歳の清滝桂香は、年齢制限に焦っていました。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2016-05-13
『りゅうおうのおしごと!』のキーワードである「熱い」という言葉が最も濃く表れている第3巻。この巻で描かれるのは「努力」と「才能」です。
多くの勝負事がそうであるように、将棋の世界でも「才能」というものが重要な要素になります。
八一や弟子のあいは才能あふれる天才型。それに対して同門の桂香は自身に才能がないことを自覚しています。桂香がどれだけ努力したところで、八一には一生適わないでしょうし、あいにもすぐに差をつけられてしまうでしょう。研修会に所属できるのは27歳になるまで。桂香にはあと1年半しか残されていません。
では、戦い続ける意味はないのか?というと、そんなことはないのです。少なくとも『りゅうおうのおしごと!』はそんなことはないと、熱く伝えてくれています。
壁にぶち当たっている人に特に読んでもらいたいです。壁の破り方は教えてくれないでしょうが、きっと、もう一度立ち上がる熱さをもらえるでしょう。
雛鶴あい、夜叉神天衣、清滝桂香の3人は日本最大の女流棋戦「マイナビ女子オープン」に出場することになりました。
あいと天衣は初出場ながら、才能を武器に勝ち上がっていき……。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2016-09-14
シリーズで最もハッピーと書きましたが、4巻は、シリーズで最も鬱展開が少ない巻です。1~3巻はそれぞれしんどい展開があり、それらを乗り越える熱さが描かれてきましたが、4巻ではほとんどありません。
では、熱くないのか、というともちろんそんなことはなく、4巻もまた大変熱い巻になっています。
舞台は「マイナビ女子オープン」。そのため、八一はほとんど将棋を指しません。ふたりの弟子、そして桂香を見守るのみです。一言で言うと、彼女たちが大活躍する巻です。
ツンデレな姉弟子空銀子のデレや6歳のフランス人幼女シャルロット・イゾアールちゃんの萌えシーンも見どころ。ふたりのファンは必読でしょう。
彼女たちの成長と合間合間に挟まれるコメディシーンで一気に読まされてしまう非常にハッピーな巻です。3巻まで読んで気に入った方はマストバイ。
竜王防衛戦で最強の名人と戦うことになった八一。初戦はハワイ開催でしたが、同門の仲間も現地に応援に来てくれ、いいコンディションで戦いにのぞむことができました。
初戦で名人が選んだ戦法は、八一が最も得意とする「一手損角換わり」。名人の手を読み切り、問題なく対応していた八一でしたが、名人は八一の将棋観を否定するような最善手を打ち……。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2017-02-14
竜王戦は最長7局で、先に4勝した方が竜王になります。少しネタバレになってしまいますが、八一は初戦で負けてしまいます。それもただの負けではなく、自身の将棋観を根底から否定されるような負け方をしてしまいます。
5巻はどん底に落ちた八一が復活を遂げるまでを描くストーリー。「あとがき」に「5巻で終わりにしようと思います」(無事次巻も発売されるようですが)と1巻発売時に作者が話していたというエピソードが披露されていますが、確かに5巻は伏線を回収した完璧なエンディングで幕を閉じています。『りゅうおうのおしごと!』第1部完結、と言ってもいいかもしれません。
上記の完璧なエンディングからも、本作は「師弟関係」を中心に展開していることがわかります。師匠から渡されたバトンを弟子に引き継ぐこと。師匠によって弟子が成長するだけでなく、弟子によって師匠も成長するということ。将棋ライトノベルとしてだけでなく、師弟関係を描いたライトノベルとしてもオールタイムベストの作品でしょう。
笑えて泣けて熱くなれて、そのうえ深いテーマも描いています。ライトノベルなんて、とバカにできない作品です。これまでライトノベルを読んだことがないという方にもおすすめできる作品になっています。1巻を読んで気に入った方は、5巻まで大人買いすることをおすすめします!
史上初の女性奨励会三段誕生まであと一勝に迫った空銀子。運命の一戦の相手は、元奨励会員で現在はアマチュアの辛香将司。
アマチュアの強豪辛香に銀子は負けてしまい、それから自信を失うことに……。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2017-07-14
6巻はこれまで同様、あいやその他の小学生のかわいさなども描きながら、あくまでストーリーの中心は銀子。
女性の中では最強クラスの銀子ですが、現状、男性棋士と女性棋士の間に大きな実力差があるため、男性棋士で構成されるプロの世界に入っても勝ち続けるのは難しいと銀子自身が思っています。
それでもプロの世界を目指すのは、公式戦で八一と本気で将棋を指すため。5巻で人類最強クラスの棋士に成長した八一と本気で指せるのは、公式戦しかないのです。
これまでの巻でも繰り返し語られてきた銀子の決意が、再び6巻でも語られます。
「将棋星人が棲む星はすごく遠くて、その星の空気は地球人にとって毒。行けばきっと、死んでしまう。
けれど……私はそこに行きたい。」
(『りゅうおうのおしごと!』6巻より引用)
7巻のテーマが何になるかはわかりませんが、7巻以降でも、銀子の苦闘の過程が描かれることでしょう。そして、何巻になるかはわかりませんが、銀子と八一の公式戦も描かれることでしょう。
決意を持って目標に向かう銀子の人生を読み続けたいと思う6巻でした。
「清滝一門祝賀会」が開催。八一も銀子も絶好調の一門の祝賀会に集まった後援者たちは、八一を持ち上げます。後援者に調子を合わせて、来年くらいには師匠と公式戦で戦いたいと話す八一の言葉を聞いて、師匠清滝鋼介はブチ切れます。
「思い上がるのも大概にせぇッ!!」
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2018-01-13
前巻から約半年を経て出版された7巻は、冒頭から面白いです!
『りゅうおうのおしごと!』の魅力のひとつ「笑い」は本作でも健在。冒頭数十ページでもう面白いです。そのまま「笑い」に徹するだけでも面白いはずですが、開始50ページで師匠がブチ切れ、一気にシリアスな展開に。
不安な気持ちにさせられますが、ここまでシリーズを読んできた方であれば、どれほどシリアスな展開になっても最後にまとめてくれるという作品への信頼があるでしょう。今巻でもその信頼は裏切られません。
7巻の主役は師匠清滝鋼介。棋力が衰え、最新の将棋ソフトにもついていけず、引退も考え始めています。
この巻では、そんな清滝師匠の「老い」が描かれるのです。
棋士に限らず、すべての人に関係のある「老い」。人は必ず老います。そして、本作は「人はどう老いるべきか」という難問に対するひとつの回答を示してくれます。
映画で言えば、クリント・イーストウッド監督の名作『グラン・トリノ』や2017年に大ヒットした『LOGAN』など「老い」をテーマにした傑作はいくつかありますが、ライトノベルにおいて「老い」をテーマに成功した作品はそうないのではないでしょうか。
『りゅうおうのおしごと!』は7巻で、ライトノベルの新境地を切り開きました。
順位戦が終了し、プロ棋界はいったん休みとなります。八一はあいと一緒に京都に行くのですが、それは単なる旅行ではなく、女流六代タイトルである『山城桜花戦』の試合を見に行くという目的でした。
「殺してでも奪い取る」
挑戦者の月夜見坂燎、タイトル保持者の供御飯万智、親友であるふたりが妙技を魅せます!
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2018-03-14
将棋にまつわる物語はある程度の数が見受けられますが、なかなか女流棋士についてここまで丁寧に描いた作品はないのではないでしょうか。
女流棋士といえば、現実では男性棋士との圧倒的な実力差や、年収の少なさなど、その境遇の不遇さが取りざたされることが多いですが、本作もそんな過酷な境遇をリアルに描いています。
燎も万智も女流棋士界では圧倒的な実力を伴う人物ですが、それは女性だけの世界でのこと。ふたりともこの境遇や自分の才能に劣等感を持っていました。
そしてそんな思いが、ふたりの戦いの熱を上げていきます。
燎は自分に才能がないという思いを抱きながらも、必死にあがき続け、自分の得意な戦法として穴熊を極めました。しかし徐々にそれが武器ではなく重荷になってきてしまいます。
そんな時、彼女は親友であり、尊敬する万智の得意とする戦法を新たな強みとすることにしたのでした。
そして自分と同じ戦法で戦ってくる燎に対し、万智は逆に穴熊で応戦するのです。
言葉ではなく盤上で語るふたりの様子は、激アツ。そして白熱の勝負は、不意のアクシデントによって目隠し対決となり、そこからさらにスピードアップしていきます。
女流棋士というものをリアルに、それでいて熱く描き切った8巻。将棋というものを描くにあたり、様々な人物、境遇から多角的に迫っていこうという気概が感じられます。
- 著者
- ["白鳥 士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2016-01-13