鎌倉幕府を開いた源頼朝の弟で、平家を討ち滅ぼした天才軍略家の源義経。その悲劇の死から後年様々な伝説が全国に残ります。後に日本へ攻め込んだ元の皇帝チンギスハンは義経だったというのもその一つ。今なお伝説として残る義経を探る5冊をご紹介します。
1:「鵯越の逆落とし」は作り話だった?
源平合戦でも有名な「一ノ谷の戦い」には、義経勢が急な崖を降って平氏の背後をついで大勝利をあげたとされている「鵯越の逆落とし」という逸話があります。 しかし「鵯越」という場所は、実際には一ノ谷から8kmも離れているのです。そのため、物理的な整合性が取れていない点があります。
ちなみに一ノ谷の背後にあったのは「鉄拐山」という山で、ここから駆け下りれば「逆落とし」は成立することになります。
2:頼朝との関係悪化の理由
源平合戦の後、頼朝との関係が悪化することが、義経の悲劇に結びついていきました。 そもそも、何故関係が悪化したのか様々な議論がありますが、要因の一つとして「3種の神器」の奪還に失敗したから、と言われています。 「勾玉」「鏡」「剣」のうち、「剣」だけが結局発見できず、これが頼朝の怒りを買っていました。
3:源義経=チンギスハン説が浮上した訳
同じ時代を生きたモンゴルの偉人、チンギスハンと同一人物では、という言い伝えがあります。 これは、18世紀にドイツ人学者・シーボルトが日本駐在中に発言したことがきっかけでした。
まだ、「伝承」の域を出ませんが、当時でもモンゴルにわたることが物理的に不可能では無かったこと。チンギスハンが当時のモンゴル人としては珍しく、大弓を使っていたこと。藤原泰衡に討たれた後の首が、真夏にも拘わらず鎌倉の頼朝に届くまで1ヶ月以上も要し、腐敗が進んでいたこと等が、こうしたロマンを引き立てました。
4:五条大橋の決闘の史実
義経の家来として有名な武蔵坊弁慶は、平氏の侍を襲っては太刀を奪い取り999本までそろえたところで、1000本目を狙った相手が牛若丸、後の義経とされています。 しかし、史料「義経記」によれば、義経と弁慶の出会いは五條天神社で、決闘場所も五条大橋ではなく「清水寺」である旨の記述があり、矛盾が生じています。
5:壇ノ浦の戦いでの戦時法違反行為か?
当時の水上戦では、戦船の漕ぎ手は「非戦闘員」の扱いで、武士たるものは非戦闘員を手にかけることは戦の作法に反するというのが、社会通念としてありました。 しかし壇ノ浦の戦いでは、緒戦の源氏の劣勢をみて義経は平氏側の船の漕ぎ手に向けて矢を射るように命じており、武勇を轟かせてきた義経としては珍しい武人の価値観に反する逸話があります。
6 :正室にも妾にも愛された義経
正室である郷御前は、義経が泰衡に襲撃された際に義経とともに死にました。 妾である静御前は、頼朝に捕縛されましたが、命を賭けた抗命(義経の所在の秘匿、舞の奉納の拒否 等)により、頼朝の側近や頼朝の妻の北条政子の心も動かしました。 義経が愛する家族からも同じように愛されていたことが伺えます。
7:義経と頼朝の関係が悪化した原因とは
頼朝と殺しあうまでに関係が悪化したことの遠因として、平氏を倒した後の世作りの方向性に大きな違いがありました。 征夷大将軍として幕府を開き「朝廷とは別の政体」を作ろうとした頼朝と、後白河法皇から官職をもらい検非違使などの職についたことからわかるように「朝廷を後ろ盾とした政体」を目指した義経の、根本的な政治思想の違いがあったことが伺えます。
義経と頼朝の歴史と共に変わっていく心情が伝ってきて、義経の悲劇へ進んで行く構図が見えてきます。
- 著者
- 安部 龍太郎
- 出版日
- 2012-10-19
物語にある内容は史実と照らし合わせると疑問が残るところも多く、歴史的史料としての価値は低いかもしれませんが、義経の死後、彼を英雄に仕立てた創作物語として室町時代から語り継がれてきた話の内容は、当時から如何に義経が大衆に人気があったかがわかります。時の権力に立ち向かう義経を、常に英雄として描く日本人の心の原点がここにある気がする作品です。
- 著者
- 出版日
- 2000-11-05
一条長成は後に義経が平泉の藤原氏を頼るきっかけになる人物で藤原一族の姻戚にあたり、この人物をはじめ登場人物のほとんどが人間味ある優しい人物として書かれています。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 2004-02-10
探偵の神津恭介が、入院中に探偵作家の松下研三をワトソン役にして、歴史ミステリーを解いていく作品。恭介の大胆な推理にはフィクションとわかっていても引き込まれる魅力があります。
- 著者
- 高木 彬光
- 出版日
- 2005-04-12
小説の義経は傲慢で頼りない人物として描かれ、戦などでは主に影武者沙棗が活躍します。平家を滅ぼした一の谷、壇ノ浦での奇襲作戦では、史実でも奇跡と言わしめた巧妙な軍略を、沙棗の活躍でなぞっていくところは、本作の魅力の一つです。
- 著者
- 平谷美樹
- 出版日
- 2011-06-06
これほど長い間、英雄として語られた人物は義経をおいていないのではないでしょうか。突如として歴史に現れ、非業の死を遂げた義経は、残された歴史的史料も少なく、その実像は謎に包まれています。だからこそ、全国の地に残る義経伝説でもわかるように様々な伝承が言い伝えられてきました。義経伝説を追うのは、永遠の歴史ロマンではないでしょうか。