読書が与えてくれるものの一つに、感動の涙があります。心の底から良いと思えるものに出会え、涙を流すのは大人だけではありません。そこで今回は、小学生も泣ける小説を5作、ご紹介します。
3人の小学生とひとりの老人の物語を描いた、湯本香樹実による『夏の庭―The Friends』。
主人公の小学6年生木山は、親友の同級生山下が祖母の葬式に出た話を聞いてから、人が「死ぬ」ということに興味を持つようになります。そこで同じく親友の同級生河辺から、もうすぐ死ぬ近所の一人暮らしの老人を見に行ってみないか、という話を持ちかけられるのでした。
それから木山たちは、毎日のように老人の様子を「観察」しに行くようになりますが、とうとうある日、老人と鉢合わせに。そこから老人と木山たちの「交流」が始まっていきます。やがて少年たちは、戦争にまつわる老人の過去を知り、「死」の重さや、残酷さを理解していきます。3人は、心を入れ替えたかのように別れた妻を探すなど、老人のために力を尽くすのですが……。
- 著者
- 湯本 香樹実
- 出版日
- 1994-03-01
人が死ねば、誰であろうとも「無」となります。どんなふうに生きても、生きようとしてきたとしても、死んでしまったらそこで終わりとなります。そしてどれだけ願っても、その終わりの運命は変えられないのです。他愛ない好奇心の「観察」から始まった「交流」で、「死ぬ」ということの意味の重さを知り、人の遺した思いを受け継ぐことの大切さを感じる本書。まだ年端もいかない3人の小学生が、人として生きるための力を手に入れた、悲しくも心温まる物語になっています。
ハンス・ウィルヘルム著作『ずーっと ずっと だいすきだよ』。ひとりの男の子とペットの犬の絆を描いた絵本です。
ある所に、エルフという名の一匹の犬がいました。その飼い主の主人公の男の子は、幼い頃から身を寄せ合うようにエルフと一緒に暮らしてきました。しかし、男の子が大きくなっていくにつれて、エルフは老いに勝てなくなり、どんどん体が弱っていき……。
- 著者
- ハンス ウィルヘルム
- 出版日
人だけでなく、動物もいつかは死んで終わりを迎えます。それが深い愛情を注いだペットだとしても、例外はありません。小さい頃から一緒に育ち、遊んできたエルフと死に別れるということは、男の子には何よりも辛いこととなり、心に重く伸し掛かります。大切な人や動物と死に別れるという悲しみと向き合って生きていくことは、簡単なことではないのです。しかし先に紹介した『夏の庭―The Friends』と同じように、「死ぬ」ことがもたらすものは、悲しさや切なさだけではありません。
エルフと死に別れた後、男の子はエルフのことを絶対に忘れず、心の中でいつまでも想い続けることを選びます。たとえこの先、違うペットを飼うことになったとしても、エルフと同じ愛情を持って接し、育てていく。そう誓った男の子のように、「死ぬ」ことは、それを受け止めた人間の中に、大切な想いとしていつまでも残り、前へ進むための力や糧となることがあるのでしょう。
死に別れたとしても、決して変わることのない男の子のペットへの想いを描いた本作。一度読めば、目頭が熱くなることでしょう。
筒井康隆による『時をかける少女』。1967年に刊行された本作は、漫画やアニメ、ドラマや映画など様々なメディアにも展開しており、多くの人々に親しまれている有名な作品となっています。題名通り、時を越えて、過去や未来の中のあらゆる時間や場所に向かい、そこで起きる数々の事件や出来事に直面し、謎を解こうとするシーンが楽しめますよ。
- 著者
- 筒井 康隆
- 出版日
- 2006-05-25
主人公は、一般的な中学3年生の少女芳山和子。同級生である一夫と吾朗と共に理科室で掃除をしていたとき、ふとどこからか漂ってきたラベンダーの香りを嗅いだ瞬間、気を失ってしまいます。そして次に目が覚めたときには、「タイムリープ」と呼ばれる、時間を跳躍する能力を身につけてしまっていたのです。その後、和子はあのとき自分に一体何が起きたのかを確かめるために動き出していきます。
親友と一緒に掃除しているという、どこの学校にでもありそうな光景の中で、突然起きた出来事で身につけてしまった未知なる力。最初は戸惑っていた和子ですが、幾多の時間を跳躍し、様々な経験を重ねていくうちに、この力の真実はどこにあるのか、ということを勇敢にも知っていこうとします。人間として成長していく姿には、涙を誘われることでしょう。
直木賞作家である道尾秀介による『緑色のうさぎの話』。仲間外れにされていた緑色のうさぎが、二度にもわたる孤独を経て今を生きようとする姿を描いた絵本です。
そのうさぎは、自分の体の色が緑色であったことから、仲間のうさぎたちからは馬鹿にされ、嫌われていました。遊ぶときも、食事をするときもいつも一人ぼっち。後にその仲間たちと和解し、皆と一緒になる毎日で元気を取り戻していきますが、それも長くは続かず、ある悲劇に見舞われることで、仲間たち全員を失い、また一人ぼっちに戻ってしまうのです。
- 著者
- 道尾 秀介
- 出版日
- 2014-06-24
二度にもわたる孤独に悲しみながらも、緑色のうさぎは、流れゆく「今」という時間の中をひとりで生き続けることを決意します。詳しくは述べられませんが、ラストの場面からは孤独に耐えてでも生きようとする想いが強く感じられることでしょう。
たとえどんなに辛く苦しいことがあっても、生きている限り、終わりはない。人間にもいえるその筋道を体現したかのように、自らの境遇と悲劇によって重く伸し掛かる二度の孤独を乗り越えて生きようとする緑色のうさぎの姿に、皆さんもきっと涙することでしょう。
第44回小学館文学賞、日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞と3つの賞を受賞した、梨木香歩による『西の魔女が死んだ』。
主人公のまいは、母親に英国人と日本人の血を引く少女。周りの人間に合わせることができず、2年前に通っていた中学校のいじめが原因で、不登校となった過去がありました。そこで大好きなおばあちゃんを頼り、田舎で半月ほど過ごす中、「魔女」であるおばあちゃんに弟子入りを頼み、魔女の修行をさせてもいます。修行の内容はジャムを作ったり、草花を植えたり、星空を眺めたりと人としての生活にありふれたものばかり。しかし大好きで憧れの存在であったおばあちゃんから教えを受けられ、何より一緒にいられるということだけで、まいは笑顔と元気を取り戻していくのです。ところが、ある日突然現れたおばあちゃんの知り合いのゲンジさんがきっかけとなって、おばあちゃんと仲違いをしてしまう、まい。ついにはおばあちゃんと死に別れてしまうのでした。
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2001-08-01
最後まで仲直りできないまま、死んでしまったおばあちゃん。深く哀しみ、後悔するまいですが、おばあちゃんはそんなまいのために、あるひとつのメッセージを遺してくれていたのです。それは、かつて修行していた頃、まいがおばあちゃんに尋ねた「人が死んだらどうなるの?」という問いに対する答え。まいは嬉しさと感謝の涙を流すことになります。気になる方は、ぜひ本書で確認してみてくださいね。
「魔女」と憧れた、大好きな祖母の元での愛情がこもった修行で、人として生まれ変わっていく主人公の少女。そしてその愛情は、祖母の死後も消えることはなかったのです。そんな心温まる物語を、この機会に楽しんでみてくださいね。
いかがでしたでしょうか。今回は、小学生でも泣ける5作品をご紹介しました。皆さんも一度、これらの作品を読んで、感動的な読書体験を味わってみませんか?