萌えキャライラストによる表紙から「オタクっぽい」「子どもっぽい」という印象も持たれることも多いライトノベル。今回ご紹介する作品は、思い込みだけで避けているのならもったいないと思えるような作品ばかりですよ。
宇野朴人が描く戦略ファンタジーラノベです。
主人公のイクタ・ソロークは、カトヴァーナ帝国で軍人となるための試験、高等仕官試験を受験することになっていました。しかしイクタ自身は軍人になりたくて受験をするわけではなく、名門イグセム家出身の少女、ヤトリシノ・イグセムとの約束があって受験をしたのでした。その約束とは、試験においてヤトリシノが首席合格するようにサポートすること、その見返りとして国立図書館司書のポストをもらうことでした。
しかし、二次試験を受けるために乗った船が嵐に合い沈没するというハプニングに見舞われます。イクタ達は偶然助けることになった帝国の第三皇女、シャミーユと共に海を漂流した挙句、隣国のキオカ共和国に流れつくのです。キオカ共和国とカトヴァーナ帝国とは戦争の真っ只中であり、そんな中を皇女であるシャミーユを伴い自国へ帰ることは困難な道に思われました。
- 著者
- 宇野朴人
- 出版日
- 2012-06-08
主人公のイクタ・ソロークは、女好きで怠け者。いつもいかに楽をするかを考えて過ごしている少年で「こんなロクデナシ、相手にしない方がいいですよ。バカが伝染りますから」と言われるような性格。
しかし実は帝国一の科学者であるアナライに師事しており、そのずば抜けた頭脳と科学の知識で、後に「常怠常勝の智将」と呼ばれるまでになる人物だったのです。また、ヤトリシノの他に、遠距離の狙撃に優れた才能を持つトルウェイや、天然キャラの衛生兵ハローマ、いつもイクタにからかわれる上昇志向の強いマシューなど、それぞれキャラクターの個性が光った作品となっています。
また、物語の世界では、人のパートナーとして精霊がいます。
「大きな頭と短い手足、丸っこいフォルム、胴体に備わった『光洞』。その姿は人類の善きパートナーたる四大精霊の一柱、光精霊のものに間違いない」(『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』より引用)
この他に、水、火、風の精霊がおり、戦いの中で人と共に活躍します。とはいえ、精霊がいるからファンタジーな戦いが繰り広げられるというわけではありません。戦争を行うのはあくまでも人であり、知略を巡らした戦闘や自らの手で人を殺すなど、戦闘の描写やそこにいる人物の心理などが細かく描かれています。タイトル通り、戦記ものとして読み応えのあるラノベです。
松山剛による、ロボットの心をテーマにした感動作。不幸に見舞われながらも懸命に生きるロボットの女の子の物語が描かれます。
家政婦ロボット「アイリス・レイン・アンヴレラ」は、生みの親であり、姉でもある博士「ウェンディ・フォウ・アンヴレラ」とともに幸せな日々を送っていました。しかしある日を堺に、彼女は悲劇の主人公となってしまいます。
突然訪れた悲劇によって解体されスクラップとなってしまった彼女は、ツギハギだらけの姿となりながらも、様々なロボットたちと出会い、別れ、最後には生みの親であるウェンディの手紙を見つけることで、自分が生まれた本当の理由や、彼女がどれだけアイリスを想っていたかを知ることになるのでした。
- 著者
- 松山 剛
- 出版日
- 2011-05-10
作中に盛り込まれた多くのロボットのスクラップ描写は、人間に虐げられるロボットたちの悲哀に満ちた人生を強く象徴しています。悲しく可哀想な話ですが、ロボットたちを心から愛する人間も確かにいるのです。そんな彼女たちに救いが訪れるラストシーンへ向かう物語の流れは、まさに感動ものです。
アイリスのような心を持ったロボットは、人によっては反乱を起こす存在であったり、絶対に相容れない悪の存在であったりすることでしょう。しかし本作を読めばきっと、ロボットが心を持つということが素晴らしいことだと思えるに違いありません。そしてそんな彼女に、しっかりと感情移入して読み進めることができると思いますよ。
ロボットに心が宿るということを美しいと感じられる本作は、涙なくしては読めない感動作です。
表題作を始めとする短編7作品を収めた短編集である本作は、その短編すべてが「時間」と「ボーイミーツガール」という同一のテーマによって描かれています。収録作品は「ある日、爆弾がおちてきて」、「おおきくなあれ」、「恋する死者の夜」、「トトガミじゃ」、「出席番号0番」、「三時間目のまどか」、「むかし、爆弾がおちてきて」となります。
- 著者
- 古橋 秀之
- 出版日
表題作「ある日、爆弾がおちてきて」に登場する女の子は、自分のことを爆弾だと名乗り、胸についている時計の針が12時を指すと爆発するというのです。時計の針が12時を指したときにどうなるのかという期待と不安が、作品のなんともいえない魅力に繋がっています。なお本作は、人気テレビ番組『世にも奇妙な物語』で実写映像化もされています。しかしながら映像では表現できない、活字ならではの文章間の「間」のとり方や登場人物の掛け合いなどを味わうためには、やはり書籍をおすすめしたいところです。
「3時間目のまどか」では、3時間目の11時頃にだけ、お互いの姿を遠い窓越しに見ることができるようになる男女の話が語られています。なぜその時間にだけ見えるのか、それがわかったときの驚きや、そこに至るまでの2人のジェスチャーによる会話を楽しめる1作です。
このように平凡な少年と不思議な少女の出会い、そして時間に関するストーリーが展開する本短編集は、同一のテーマでありながら、その様相は様々で、笑いあり、感動ありと、読者の五感をすべて刺激してくれるような作品集となっています。また、短編毎にしっかりと話作りがされているのも特徴で、7作品すべてを読めば、濃密な読書ライフを体感できること請け合いです。是非ご一読を。
VRMMORPG(VR型のオンラインRPGゲーム)が、何者かにハッキングを受けたことにより、そのゲーム世界に取り込まれ、現実世界に帰れなくなってしまったユーザーたちが作品の登場人物となります。
この作品の最大の特徴は、ゲーム中に死亡したユーザーが、現実世界でも命を落としてしまう「デスゲーム」が展開されていることです。このため、主人公である桐ヶ谷和人(ユーザー名、キリト)も、ゲーム中に知り合った仲間を失う経験をすることとなります。
- 著者
- ["川原 礫", "abec"]
- 出版日
このことはキリトにとって忘れられない事件となり、以降のキリトは「自分などいつ死んでもいい」と自暴自棄な戦いを繰り返すこととなります。そんなキリトが、メインヒロインであるアスナと出会い、傷ついた心を癒やしていき、この作品の大きな救いとなっていくのです。
魅力的なヒロインが多く登場する作品ですが、キリトはアスナに一直線なため、彼に好意を寄せる他のヒロインに対しては気を惹かれることもなく、そういった意味では純粋なハーレム作品ではないかもしれませんが、そこもまたこの作品の良さとなっています。
また、キリトが困難に立ち向かい解決して行くという王道熱血展開が多いため、人によっては「燃え系の作品」にカテゴライズされる作品かもしれません。ただ、作中、孤独で陰鬱だったキリトを救うのはアスナの包容力であり、そういった意味では、ラノベの王道と言えるでしょう。文章もしっかりしているので、普段、一般小説を読んでいる大人が読んでも違和感がないだろうと思います。
小野不由美が描き出す、壮大な世界観を誇るファンタジーラノベシリーズ。普通の女子高生だった少女が異世界へ……。このように始まる本作では、12の国が存在する異世界を舞台にしたファンタジーロマンを楽しめますよ。
中国風の異世界であるこの世界には、12の国が存在しています。それぞれの国は王政国家の形をとっており、王は天の意志を受けた神獣「麒麟」が選びます。麒麟とは、天から2つの使命を授かった神獣のこと。その使命は王を選ぶこと、そして選んだ王の補佐をすることだとされます。その麒麟が死ぬと、世界の中心にある山に麒麟の実がなり、その実から麒麟が生まれてくるのです。そして人もまた、女性が出産するのではなく木から生まれてくるという幻想的な世界です。
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 2012-06-27
このような、古代中国の歴史や伝説を彷彿とさせる世界観で構成される「十二国記」シリーズ。同一の世界観を共有する各シリーズの特筆すべき点は、まさにこの壮大な世界観でしょう。緻密な設定や時代背景などをベースとして語られる物語は、とてつもなく広大な世界における歴史のある一点を描き出すスタイルを取っており、それぞれの作品に異なる主人公が登場します。
「全編に貫かれているのは、生きることの難しさと如何に対峙していくかであると思います」(『新潮文庫メールアーカイブス 担当編集者が語る「十二国記」の魅力』から引用)
担当編集者からの言葉でもわかる通り、本作で描かれるのは、主人公を始めとする登場人物の生き様です。常識の全く通じない異世界で生きる人の強さや、そんな場所であっても助け合うことのできる人の優しさが描き出されるのです。
シリーズ全作品を読破するのは大仕事になると思います。しかし、登場人物たちが懸命に生きるこの世界の歴史をまるごと体感できるということは、時間を割くだけの価値があるのではないでしょうか。必読ですよ。
身分の低い主人公が、次期皇妃である美しい少女と共に戦い、心を通わせていく、ちょっと切ないラブロマンスです。
中央の海「中央海」を堺にし、2つの国家が争いを続ける世界で、あるとき、傭兵飛空士である主人公「狩乃シャルル」は、上層部より荒唐無稽な作戦を言い渡されます。その内容は、次期皇妃である「ファナ・デル・モラル」を、彼の乗る水上偵察機の座席に乗せ、敵がひしくめく中央海を単機で突破するという無茶なもの。かくして、「光芒五里に及ぶ」と言われるほどの美しさを持つ美少女ファナと、対立国両方の血を受け継いだ、差別対象の人種であるシャルルとの、空を舞台とするラブロマンスが始まっていくのでした。
- 著者
- 犬村 小六
- 出版日
- 2008-02-20
対立する2つの国や身分の違う男女による恋愛など、物語の本筋はいたってシンプルといえる本作。見どころは、人の心を惹きつけてやまない「空」という舞台でしょう。『天空の城ラピュタ』をイメージして描かれたという本作では、読んでいるうちに、青い空や水平線に浮かぶ雲などの情景が目の前に浮かび、作品全体から爽やかな雰囲気を感じ取ることができますよ。
狭い機内に2人きりでの飛行や、敵との交戦、無人島での触れ合いなどを経て、2人は打ちとけ合い、惹かれていくのですが、この任務の最終目的は「対立国の皇子へ彼女を嫁がせる」こと。絶対に結ばれることのない2人の切ない感情が、これでもかと読み手の心を揺さぶってくることでしょう。
彼らの切ない恋を描く本作は、後に大幅な加筆と修正を加えた一般書籍版も発刊されました。一般書籍版には、ラノベ版のエンディングの先に当たる部分も収録されています。切ないラストのその先のお話なんて、気になってきませんか?
高畑京一郎が描くタイムリープものラノベです。本作では、昨日の記憶を失っていることに気付いた少女が、同級生の秀才と共に時間の秘密を解き明かしていくという物語を楽しめますよ。
ある日、「鹿島翔香」は目を覚ますと、唇に柔らかい感触を感じていました。目の前には男の顔があり自分の唇は彼の唇に触れていたのです。彼女は驚いて男を平手打ちにしますが、彼は翔香の混乱した顔を見て笑い転げるのでした。なにがなんだかわからない状態で始まったこの物語は、翔香が自分がつけていた日記を見ることで、徐々にその様相を明らかにしていきます。
「あなたは今、混乱している。あなたの身になにが起こったのか、これからなにが起こるのか、それはまだ教えられない。あなたが相談していいのは、若松くんだけよ。最初は冷たい人だと思うかもしれないけど、彼は頼りになる人だから」(『タイム・リープ あしたはきのう』より引用)
すでに昨日の記憶を失っていることに気づき始めていた翔香は、自分の日記に書かれたこの文章を見て、そこに書かれていた彼「若松和彦」に相談することにします。そして学校では秀才として名を馳せる彼と共に、この奇妙な記憶消失事件を解き明かしていくことになるのです。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
「時間のパズル」と表現される本作の妙は、複雑に張り巡らされた伏線を、徐々に回収していくその緻密な文章構成といえます。まるで隙間だらけのパズルに少しずつピースがはまっていくような爽快な感覚を覚えることでしょう。
1週間の間を幾度となく、翔香の意識だけが行き来してしまうというタイムリープ現象の謎を解明していくミステリー要素と、それによって距離を縮める二人の青春模様、そして物語後半の脅威の伏線回収によって味わえる爽快感。まさに読みどころがてんこもりの傑作に仕上がっている作品です。
ライトノベル+SFというと、中2病っぽい内容を想像しがちですが、本作における世界観は、異星人が襲来したり、ロボットに乗って戦ったりという内容ではなく、時間移動以外はあくまで現実に則した日常のもの。このような意味では、ラノベというよりは一般小説に近い作品といえるでしょう。ラノベ初心者には、まさにぴったりの作品ですよ。
いかがでしたでしょうか。初心者向けとはいえ、ラノベの世界の入り口にはしっかりと足を踏み入れられたのではないかと思います。これを足がかりとして、どっぷりとラノベ作品の魅力にひたってみてくださいね。