タイムスリップは人類生誕して以来の夢。現実ではまだ空想の域を抜けていませんが、フィクションではそれが叶います。そんな夢が膨らむ時間の旅を楽しむことができるラノベをランキング形式で紹介します。
「時かけ」という略称と聞いたら『時をかける少女』を思い出す人が多いと思います。しかしここで紹介する「時かけ」は『時をかける少女』ではなく『時をかける眼鏡 医学生と、王の死の謎』です。
主人公は医学生の西條遊馬。彼は母の故郷マーキス島の法医学博物館に見学に来ていたところ、突如として中世ヨーロッパ世界に飛ばされてしまいます。そしてなんとそこに居合わせていた少女と共に殺人現場に遭遇してしまい、少女を逃がすことはできたものの遊馬は投獄されてしまうのです。
そのあと少女の使いの者の計らいで解放されますが、今度は国王殺しの罪を着せられた皇太子ロデリックの無実を証明ために奔走することになるのです。
- 著者
- 椹野 道流
- 出版日
- 2015-01-20
王族兄弟たちの関係性がこじれており、それ自体が物語の重要な部分ともなっています。そんな中でも皇太子の刑が執行されるまでの制限時間が短いため、物語はスピーディーに進んでいくのです。
同じくタイムスリップする医者という題材を扱った漫画『JIN-仁-』のように、現代のような医学知識のない時代背景で展開する本作。主人公は遺体解剖のための医療道具もない中で国王の体を切り開きます。しかし『JIN-仁-』のように医学知識を豊富に盛り込んでいるわけではないので軽くスラスラと読み進められるでしょう。
この作品では法医学博物館のテーブルに置かれた革表紙の本に触れることがタイムスリップ現象の始まりとなっています。タイムスリップと言えばSFの領域だと思われがちですが、この物語のタイムスリップは魔術師の力によるもので、ファンタジーの要素が多めです。
萌え要素と言えるものも特にはないのでラノベとしてではなく普通の小説として楽しめるでしょう。シリーズものでもあるので、楽しめたのなら続編もどうぞ。
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』でお馴染み、入間人間の時間をテーマにした短編集。筆者の記念すべき初短編集であり、表題作「時間のおとしもの」「携帯電波」「未来を待った男」「ベストオーダー」の4編の短編が収録されています。
「ベストオーダー」は4人の自分が同じ時、場所に現れたことから、全員で共謀し完全犯罪を企てるという話です。この話は藤子・F・不二雄のドラえもんにある話『ドラえもんだらけ』を彷彿とさせる物語ですね。
『ドラえもんだらけ』では様々な時間の未来のドラえもんを無理やり連れてきて共謀し、のび太の宿題をみんなでやるというものですが、「ベストオーダー」ではそれよりもかなりダークで、4人の自分と犯罪を行うというもの。平行世界ものとタイムリープものが合わさったような作品になっており、複雑な展開で読者を引き込みます。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2012-01-25
表題作「時間のおとしもの」はタイムスリップのようなSF要素はないものの、学生時代を大人になってから振り返るストーリーで、「時間」について深く考えさせられる話になっています。表紙のイラストはこの作品の主人公たちの中学時代のものです。
そのほか「携帯電波」は台所で少女が見つけた携帯電話を手にしたばっかりに、様々なパラレルワールドに行ってしまうという話。「未来を待った男」はやり直したいことがあるため未来からタイムトラベラーを待つ男と、語り手である左門が一緒に待つという話です。
このSF短編集はどこか星新一のショートショートを彷彿とさせる作品が詰まっており、どの作品も時間というものについて考えさせられるような内容になっています。変わった作風でお馴染みの入間人間ですが、短編でもその入間節とも言っていいような作品群は一読に値しますよ。
本作は、「もっと学園生活を豊かにする善男善女の会」(通称「も女会」)で巻き起こるドタバタを描くSFラブコメディです。
主人公は、花輪廻(めぐる)という美少年で、男子だけれど長髪をポニーテールにし、女子しかいない「も女会」に所属している一風変わった人物です。
その他、「も女会」の面々も個性豊かな人物ばかりで、彼らの日常を軸に物語は展開していきます。
- 著者
- 海冬 レイジ
- 出版日
- 2012-03-30
序盤では、「も女会」をメインとした日常生活が描かれますが、中盤に差し掛かる頃に、主人公のはずの廻が、「も女会」のメンバーである化学実験大好き少女の手によって死んでしまう! という急展開を迎えます。
しかも、廻がたどり着いたのは死後の世界ではなく、「アッパーグラス」と呼ばれる四次元空間なのでした。
四次元空間のため、時間後逆行することも可能なことを知った廻は、過去にさかのぼって試行錯誤しながら過去を変えるために奔走し始めます。
ラブコメディだけじゃなく、ダークな要素もプラスした、いい意味で「裏切り」の物語です。終盤へ向けてのどんでん返しに目を見張る展開が待っていますよ。
何も良いことがない17年の人生を死によって終えた少年、鋼一の話。鋼一はマキエルという存在にもう一度10歳からやり直せる権利を貰い、人生を7年前からやり直します。そしてマキエル曰く、奇跡の欠片というものを集めれば次は死なずにすむというのです。
生前の鋼一は交友関係も少なくネガティブな性格でしたが、蘇りをしてからは悔いを残さないために、ひたすら生きている時間を大切にしていきます。そんな鋼一はあるときからクラスメイトを助けたことで人生が変わり始めるのです。
- 著者
- 小木 君人
- 出版日
- 2009-06-18
同じ原因による死が予定されてますが、奇跡のかけらを集めきれば助かるという、希望が見え隠れするような設定で物語は紡がれていきます。7年という時間の中で、運命を変えるため鋼一は動き、その悲しい人生を再び辿っていくのです。
大人になって青春時代を振り返ることはありますが、この話はそんな誰にでもある心情を温かい物語として見せてくれます。未来の自分が、ああしていればよかったとか考えてしまわないように後悔を残さない生き方を教えてくれるのです。
7年も前に戻って人生をやり直せるなんてとても羨ましい限りですが、奇跡のかけらを集められなければ死からは逃れられないという運命は辛く逃げ出したくなるようなもの。そんな運命にも敢然と立ち向かっていく鋼一には勇気すら与えられます。
全体的かなりシリアスな物語ですが、1巻完結で読みやすい傑作です。
篠原智とヒロインの森山燐は、「Animato animato」というバンドを通して出会います。6月の土手で、「Animato animato」の曲を智はギターで、燐は歌として口ずさんでいたことから出会ったふたり。以降、お互いに想い合うようになりますが、燐にはある重大な秘密がありました。彼女は生まれつき、不治の病を患っていたのです。
- 著者
- 赤城 大空
- 出版日
- 2015-01-20
しかし智は、そんな燐をどうしようもなく好きになってしまいます。最後の文化祭で最高の時間を過ごしたふたりでしたが、とうとう燐は最後の時を迎えるのです。この時、智は決して伝えてはいけないと思っていたのに、燐に「好きだ」と伝えてしまいます。結果、動揺した燐は智にたった一言「ごめんなさい」と書いた紙を残し、智の前からいなくなってしまうのです。
後悔に苛まされる智でしたが、ある日突然、タイムリープができるようになります。そして時間を遡った智が出会ったのは、もう一度会いたいと願い続けた燐でした。
タイムリープというSF的要素はありますが、物語のメインは智と燐の切なさに満ちた青春ストーリーです。この物語の新しいところは、タイムリープという知名度の高い要素を用いながらも、主人公がそのチートな力を利用しないところ。
主人公の智がタイムリープをして願ったことがあります。
「彼女の短い一生が、ずっと笑顔でありますように」(『二度めの夏、二度と会えない君』より引用)
そのためにも、決して自分の気持ちは決めないと決めます。燐もまた、自分の命が短いことを知っているために、智に気持ちを伝えないでいるのです。
ふたりがお互いを思う、あまりにすれ違い切ない思いを抱え込む様子と、エネルギッシュなのにどこか儚い夏の雰囲気をバッグに繰り広げられていくストーリー。まさに夏の良さが際立った陽炎のような物語です。短い時間の中で少年と少女が精いっぱいに生きる姿に感動を覚えること間違いなしでしょう。
本作の舞台は能力者が集う街である咲良田。そこにはどんな記憶でも保持できる能力を持つ高校一年生の浅井ケイと、「リセット」という3日分時間を巻き戻す能力を持つ春埼美空が住んでいます。彼らを中心に奉仕クラブという部活動の部員たちは様々な事件を解決していくのですが……。
ケイの指示でのみ発動される美空の「リセット」。たった一言で世界の時間は3日分巻き戻るという最強能力なのですが、リセット後の世界でケイ以外の誰もリセット前の世界を覚えていないのです。ケイの能力と組み合わせなければ意味がない能力でもあるんですよね。
- 著者
- 河野 裕
- 出版日
- 2009-05-30
さらに巻き戻した時間は「セーブ」をした時点までという制限もあります。万能に見える能力にも欠点があるという設定は物語をよりリアルに、そして展開の想像を膨らませられる、面白い要素です。
その能力の欠点や組み合わせが物語を複雑にしていきます。登場するキャラクターの能力も多種多様。特定の人物に声を届ける能力」や「咲良田中の猫の動向を把握することができる能力」なんていう一見あまり役に立たなそうな能力も、使い方次第で大いに役立ったりするのです。
住民の半数以上が超能力者という咲良田においての依頼内容は「死んだ猫を生き返らせてほしい」のような不思議なものなのですが、派手なバトルがあるわけでもなく一見地味な物語が進んでいきます。しかし巻が進むにつれその重厚なストーリーが展開されていき、人間としての禁忌である「人を生き返らせる」ということに迫っていく展開がなされていくのです。
文体は三人称であるものの、その視点ははケイや美空などの登場人物が切り替えられ、語られていきます。静かな世界観の中で紡がれるタイムスリップストーリーをお楽しみください。
この作品の舞台は近未来の、異世界から侵略を受けている地球になります。主人公、キリヤ・ケイジは異世界人が地球に送り込んで来た惑星環境改造用の生物「ギタイ」と戦うために統合防疫軍に初年兵として入隊した青年です。
彼は初出撃で絶望的な戦場に送り込まれてしまい、リタ・ヴラタスキという圧倒的な戦力を持つ少女の援護を受けても、瀕死の重傷を負い「サーバ・アルファ」と呼ばれるギタイと相打ちとなって死亡してしまいます。
- 著者
- 桜坂 洋
- 出版日
- 2004-12-18
しかし、彼はなぜか意識を取り戻し、確認すると出撃前日の朝に時間がまき戻ってしまっていました。記憶だけが蓄積されるという状況を利用し、能力を伸ばしていくキリヤ、そしてなぜか彼を狙っていくかのように行動を変化させるギタイたち。そんな日々の最中、キリヤは再びリタと出会い、彼女にループをしていることを見抜かれ、このループから脱出する方法を提案されます。
何度もギタイにやられる一日を経験し、しかしそれを経験として生かしていく凡人兵士の戦いを描いた作品です。この何度もやられるというのは言葉にするのは簡単ですが、実際には100回、200回とひたすらに痛みを伴いながら繰り返すのです。
自分が死ぬ衝撃を感じながら同じ1日を繰り返していく、誰にも伝えられないそんな主人公の苦悩が描かれており、だからこそ同じ苦しみを得ているリタという存在がかけがえのないものとなっていくのがよくわかります。その二人が一体どうなってしまうのか、ループもので生じる痛みと苦しみをしっかりと書ききった作品です。
二編とエピローグの三編からなる「少し不思議な」日常系ストーリーを謳う作品です。
自分以外の人間が「ロボット」に見えてしまうという眼を持った少女毬井ゆかりを軸に、彼女の親友である波濤学の視点で語られます。前半部分はそんな彼ら二人の奇妙な日常を、後半部分は
物語を大きく動かし、天才育成組織ジョウントにゆかりが引き取られ、彼女が死んでしまうのを防ぐために行動する物語です。
- 著者
- うえお 久光
- 出版日
- 2009-07-10
死んでしまう未来にある少女を、彼女によって左腕に携帯電話を埋め込まれた少年がループ、正確には平行世界の情報を集め救おうとする物語というとループものにはありがちの流れですが、この作品は根底にあるテーマ性が非常に美しくできています。
平行世界へと確信をし続ける主人公であり視点人物である学ですが、彼の行動はどうにもうまくいかないのです。なぜならば、そこには救われる側の意志が介在していないから、この物語はループもので置き去りにされがちな、救われる側の視点が盛り込まれています。
様々なループ作品が生まれてきたからこそ、そうではない形としてこの作品は出来上がっているとも言えるでしょう。ループものをジャンルとして捉えるためにも、一度目を通したい作品です。
高畑京一郎によるパズルのようなタイムスリップ小説です。
物語の語り手は高校2年の平凡な少女、鹿島翔香。彼女はある日、昨日の記憶がないことに気が付きます。そして彼女の日記には見覚えのない、しかし確かに自分の筆跡で文章が書かれてありました。
そこには「あなたは今、混乱している。若松くんに相談しなさい」とあり、翔香は校内トップクラスの秀才である若松和彦を頼りにすることになっていきます。そんなふうにして彼女は、自分の身に起こったその奇妙な現象に立ち向かうことになっていくのです。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
無意識的にタイムリープをしてしまう翔香は、若松の助けを借りその奇妙な現象を理解、解決しようとします。そしてとある重大な事件を回避するため、翔香は過去を変える決心をしますが……。
一般的に言われる体ごとタイムスリップするとは違う、精神のみが巻き戻るタイムリープを描いた作品です。タイムパラドックスというSFの基本原則は踏まえながら、論理的に、そしてパズルのように補い合った展開で時は刻まれており、全てはなるようになっていたと最後に思い知らされる構成となっています。
表紙のイラストがやや古い印象を与えるので遠慮されがちだと思いますが、それはもったいない。内容はタイムスリップ小説として本当によくできていて展開の妙に驚かされる良作です。
タイムリープするごとに翔香に対する若松の態度が変化しており、そのたびに何がどうなっているのかということを考えさせられます。上下巻あり、読み終わったら必ず、伏線を辿るためにまた読み直したくなるでしょう。1997年には映画化もされた傑作タイムリープラノベをお楽しみください。