言わずと知れた白衣の天使、ナイチンゲール。実は彼女は日本でのその一般的なイメージや功績にギャップがあることを知っていましたか?今回はそんな彼女の実像に近づくことができるおすすめの本5冊をご紹介します。
フローレンス・ナイチンゲールは1820年、イギリスの裕福な地主の家の子として誕生。彼女は幼い頃から両親の財力をもって数々の教育を施されてきました。ヨーロッパ各国の言語に哲学、心理学、数学、天文学、経済学、歴史、地理、美術、音楽、絵画、文学などその範囲は多岐に渡るものでした。しかし慈善訪問で目の当たりにした貧しい農民の暮らしに衝撃を受け、看護師の職に就くことになります。
しかし最初の働き口は無給。家族の中で唯一の理解者である父が生活費を賄ってくれることでどうにか夢を叶えながらの生活が始まります。その当時から看護師の専門教育の必要性を訴えていました。そんな彼女の転機は1854年に勃発したクリミア戦争。彼女はこの戦争で看護師として従軍します。
ナイチンゲールの働きぶりはヴィクトリア女王も注目し、彼女は病院の総責任者にまでなるのです。さらにその病院での献身的な働きぶりから、かの有名な呼び名、「クリミアの天使」、「ランプの貴婦人」と呼ばれるようになりました。
しかし彼女はそんな国民的英雄として讃えられることを厭い、1856年に偽名を使用してひっそりと帰国します。そして帰国後は統計資料を作成し、病院の状況分析の仕事を勤めていました。その後1857年に、37歳の時からナイチンゲールは慢性疲労症候群に悩まされ、1910年に死去するまでほとんどベッドの上で過ごしていました。
最終的にナイチンゲールが看護師として働いたのは先のクリミア戦争の時の2年間のみで、戦火での献身的なイメージや、統計に基づいた病床の衛生環境向上が実際の彼女の実像です。しかしそのイメージは今でも我々現代人に慈悲の心の素晴らしさを伝えてきます。
1:数か国語に通じていた
ナイチンゲールは英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語を流ちょうに話し、またギリシャ語とラテン語の古典も理解していました。幼いころにケンブリッジ卒の父親に教育を受けたことが大きかったようです。
2:両親は看護の道に進んでほしくなかった
ナイチンゲールが看護に興味があることを両親に初めて伝えたとき、両親は喜びませんでした。1800年代初期は、看護は今日ほど認められた職業ではなく、社会的地位の低い女性の低賃金の職業でした。
3:作家であり、教育家だった
1859年、ナイチンゲールの看護記録が出版されました。その本には患者のケアの重要な指針について幅広く書かれており、多くの看護師学生が今日まで読んでいます。また、1860年、ロンドンにナイチンゲールトレーニング学校を設立し、看護師たちの教育を行いました。
4:アメリカの最初の看護師を訓練した
リンダ・リチャーズはアメリカで最初に訓練を受けた看護師として幅広く知られていますが、彼女は1877年にナイチンゲールの学校に在籍していました。リンダはアメリカに帰国し、国をまたがった看護学校の設立において大きな役割を果たし、その後、アジア東部を旅行。日本で最初の看護師訓練学校の設立に関わり、また指揮を行っています。
5:イギリスの公衆衛生を向上させた
クリミア半島戦争時にナイチンゲールが人命を救助した方法のひとつが、患者のために衛生状況を改善したことであることは、多くの看護師の間で知られています。しかし、あまり知られていないのが、病院内だけでなく、外部の衛生面を改善するために同様の働きを行ったことです。1874年に公衆衛生法の一部として既存の建物を主な下水溝とつなげる法案が施行され、ナイチンゲールの努力は報われました。
6.円グラフを広めた
円グラフを発明したわけではありませんが、一般に広めたのはナイチンゲールだと言われています。彼女は1858年の報告で円グラフを用いました。それぞれ月の死亡者を「赤」「青」「黒」で色分けし、「負傷」、「予防可能な病気」、「その他の原因」と項目ごとに示したようです。
本書は「ランプをもった天使」と言われているナイチンゲールの物語的な1冊です。美しく賢いイギリスの少女フローレンスは、ある時、足に怪我をしている犬に出会います。彼女は、その犬を可哀想に思って、手当てをするのです。
- 著者
- 武鹿 悦子
- 出版日
その時に、フローレンスは怪我の治療をすれば、命は助かるのだと初めて知ります。そうして、彼女は怪我や病気をした人たちのために、自分の人生を使おうと決めました。
この本は、絵本作家として有名な武鹿悦子の作品です。「白衣の天使」「ランプの貴婦人」といわれたナイチンゲールの、子どもの頃からの様子を絵本で描いています。小さな子どもにも読みやすく、看護に命を捧げたフローレンスの素晴らしさを伝えてくれる内容です。
どんなに辛いことがあっても、挫けないで頑張りぬく強い気持ちと行動力は、本当の優しさがあるがゆえ。伝記としては珍しく、幼い年齢の子どもにも分かりやすい、基本を抑えた簡潔な本となっています。
この本は、二部に分かれており、第一部では、フローレンス・ナイチンゲールの人間性を各国の伝記や研究書から読み取ったものを詳しく解説。「白衣の天使」という側面以外の「病床での戦士」としてのナイチンゲールを描いています。
- 著者
- 茨木 保
- 出版日
- 2014-02-10
第二部では、「看護覚え書」を図解し、漫画とイラストで、分かりやすく解説した内容となっています。原書は19世紀に書かれたものですが、本当に重要なものは、時代が移っても変わることがありません。現代版として、分かりやすく看護の真髄を学ぶことができます。
ナイチンゲールといえば、「白衣の天使」としてクリミア戦争に従軍し、看護の礎を築いた人として知られています。また、イメージでは、物静かで粛々と人々に使える人物であるかのように捉えられていますが、それだけではありません。
実際は看護について根本的に追求し、徹底的に自分の意見を貫いた人物であると本書では説かれているのです。彼女は時に辛辣に軍部を批判し、権力に臆することなく、必要であればあらゆる人脈を駆使して、ヴィクトリア女王からの命令書を導き出すほどの気概の持ち主。
そんな彼女の「天使とは、美しい花をまき散らすのではなく、苦悩する者のために戦うものだ」という名言が、全てを言い表しており、博愛と献身だけで、人の命を救うことはできないと訴えてきます。
必要なものは、衛生的な環境であり、責任者は徹底してその責務を全うすることであると綴る彼女。ナイチンゲールの書いた「看護覚書き書」は、今も看護師にとってのテキストであり、病院施設に関する根源的なガイドブックでもあります。
この本は、19世紀にナイチンゲールによって「看護覚書き書」をもとに書かれた、看護理論をまとめたものです。それを、分かりやすく日本語で現代的に書いています。ナイチンゲールの時代、看護に必要なものは、新鮮な空気や日光、湿度の調節や暖かさと静けさ。そして、それらを整えた上で、適切に食事を与えることでした。
- 著者
- 金井 一薫
- 出版日
つまり、薬や医術ではなく、生命力を維持するために、環境を整えることが重要であるということになります。これらは、現代でもどの国民にでも通じる考えだといえるでしょう。
現在でも看護師を志す人々にとって、この本は必読の書。それは、看護の創始者ナイチンゲールが大成させた、看護理論をまとめたものだからです。彼女の看護の原点は、人間の生きようとする力、自然治癒力を優先させることにあります。看護は人であれ物であれ、環境を整え、回復する力を養うことが重要だといっているのです。
私たちは、病気やけがをすると、つい、薬や治療に頼ってしまいがちです。ナイチンゲールはそれに疑問を投げかけます。彼女の提唱する看護とは何なのか、治癒に本当に必要なものは何なのかを考えさせられる1冊です。
この作品の前半は、ナイチンゲールがどのようにしてヴィクトリア女王へ戦時下でのデータをまとめ上げて報告したのかを書いています。それは、当時にはなかった統計学を用いたものでありました。そして、彼女がそのデータをどのようにわかりやすく分析し、図解を通して説明をすることができたのかを知ることができる内容です。
- 著者
- 丸山 健夫
- 出版日
- 2008-06-13
本書は看護理論者とは違ったナイチンゲールの側面をひも解いたものです。それに関連して、後半部分はそもそもの統計学の歴史について書かれた内容となっています。当時の統計学についての言及から始まり、西洋での統計学の広がり方や、日本での統計学の歴史についても触れられていくのです。
この本の興味深い点はナイチンゲールの報告書が、漠然とした感想ではなくはっきりとしたデータとして記されているものだと指摘していること。当時ではまだ、殆ど使われていなかったグラフを使用して、分かりやすくしたことが彼女の画期的な点のひとつです。それにより、数字を使った明確なデータを、一目で世間に伝えることに成功しました。
彼女は統計学者のファーやケトレーと共に、この作業に取り組み、クリミア戦争におけるイギリス陸軍の死亡者数の円グラフを発表します。これは政治面でも革新的な出来事となります。ナイチンゲールが、病床の中でこの研究に力を注いだことが、後世の看護医学を大きく変化させたことがよくわかる本作。詳しくは、ぜひ本書をお読みください。
この本は、ナイチンゲールの「看護覚書き書」を中心に3冊の中から選びぬいた、彼女の哲学ともいえる明言を集約したものです。内容は、看護に関するものばかりではありません。
まず、成功と挫折を分けるものから始まり、人の上に立つ人に必要なもの、他人よりまず自分自身を管理することなどについての、教訓的な内容が書きすすめられていきます。どの部分を開いて読んでみても、「なるほど」と頷く言葉ばかり。現代においても、十分、多様な場面でその言葉が生かされることでしょう。
- 著者
- フローレンス・ナイチンゲール
- 出版日
- 2010-03-19
本書によるナイチンゲールの言葉は看護に関する提案だけではなく、指導者としての意見であったり、人間という存在についての考察であったりします。しかし、それらの言葉は他者へ向けられたものばかりではなく、彼女自身へも向けられたものなのです。それを読み取ると、ナイチンゲールの看護や生きることに対する真摯な姿が見えてきます。
その厳しい言葉の奥底には、人に対する平等な愛が感じられます。もっとも彼女らしい一言は「最も上手に人をおさめる女性とは、最も上手に人を愛する女性です」という一文。彼女の言葉は、生き方のバイブルとして手元にあると安心する心の良薬のような働きをしてくれます。