疲れたあなたに、そして大切な誰かに、とっておきの時間を与えてくれる絵本。今回は、張りつめた心を解き放ったり、温かい気持ちになったりできる、大人の方にぜひ読んでもらいたい絵本をご紹介します。
画集ともいえる美しい絵本『終わらない夜』。
夜は神秘的なものですよね。瞬く星空や輝く灯りなど綺麗な景色もありますが、静けさや、時に暗闇に恐怖を感じませんか? 不思議なことに夜に見る世界は、昼間見る風景と全く違って見えるのです。
「夜、汽笛がひびく。だれもいない廊下から声が聞こえる。『さぁ、のって!』きっぷはいらない。旅にでよう。だれも知らない遠いところへ」(『終わらない夜』より引用)
セーラ・L・トムソンの詩とトリックアートの画家ロブ・ゴンサルヴェスの絵が、現実なのか、夢なのか? 幻想的な夜の世界に誘ってくれることでしょう。
- 著者
- セーラ・L. トムソン
- 出版日
キルティングのベットカバーが綺麗な田園風景と繋がっていきます。女性が寝室から空を飛び立っていくページなど、日常では決してありえないファンタジーを感じる異空間には、目が釘付けになりますよ。
この絵本の世界は、眠っている間に見ている夢を描いているのでしょうか。それとも眠りに落ちる前の現実と幻想の狭間を思わせる世界なのでしょうか。とにかく美しく、私たちが普段感じたことのない夜の世界が絵本の中に散りばめられています。読んでいるうちに、いつのまにかトリックアートの世界に吸い込まれていくことでしょう。綺麗なものが好きな大人におすすめしたい絵本です。
ブラジルのリオデジャネイロで2012年に国際会議が開かれました。地球の環境問題、そして持続可能な開発について各国で話し合いをするためです。出席者の1人に、当時ウルグアイ40代大統領のホセ・ムヒカがいました。彼の演説が参加者の、そして世界中の人の心をとらえます。本書『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』は、その演説の内容を絵本にしたものなのです。
「社会が発展することが、幸福をそこなうものであってはなりません。発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならないのです。人と人とが幸せな関係を結ぶこと、子どもを育てること、友人を持つこと、地球上に愛があること」(『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』より引用)
ホセ・ムヒカは、環境問題の背景を説きます。そして世界中の人が向かうべき方向を指示してくれました。収入の大半を寄付し、覚悟を持って国のために生きている彼が発した言葉だからこそ、感動を呼び、多くの人に受け入れられたのでしょう。その演説は人の心の奥深いところに語りかけ、本当の幸せとは何なのかを私たち大人に考えさせます。
- 著者
- 出版日
毎日をこなしていくことが必死で、周りを見る余裕のないときに、この絵本を開けば、周りの景色が違って見え、ぱっと目の前が明るくなるはず。まず、人間の本質に立ち返ることができます。目の前のことももちろん大切ですが、地球単位で大きく物事を見ることで、目の前のことがいつもと違う視点から考えることができるのです。読後は、自分の視野が大きく広がっていることに気づくでしょう。
人類がより良い未来を手に入れるため、私たち一人ひとりに何ができるのか、ということを考えさせる本書は、忙しい日々を送っている大人にこそ手に取ってもらいたい絵本です。
大人にもおすすめの絵本『世界がもし100人の村だったら』はまず、こんな言葉で問いかけてきます。
「今朝、目が覚めたとき
あなたは今日という日にわくわくしましたか?
今夜、眠るとき
あなたは今日という日にとっくりと
満足できそうですか?
今いるところが、こよなく大切だと思いますか?」
(『世界がもし100人の村だったら』より引用)
地球に住んでいる63億人を100人の村に見立てて、村人のことを考えていきます。63億という漠然とした数字の中で、他人事のように捉えられがちな災害や貧困。しかしそれを100人の村で捉えると、誰もが顔見知りのコミュニティーが思い浮かんでくることでしょう。
- 著者
- 池田 香代子
- 出版日
たとえば100人のうち「52人が女性です 48人が男性です」(同書より引用)と、具体的な数字が示されていきます。また、100人のうち、20人が栄養を取れず、1人が死にそうで、太りすぎが15人いることを知れば、飢餓の問題や食品ロスの問題を我が事のように感じられるはず。私たち大人にできることが何なのかと、自ずと思いを巡らせてしまいますね。
人の痛みを自分の痛みとして感じられるよう、互いに助け合う大切さを、改めて胸に刻みたくなる絵本。社会のあり方に疑問を持つ大人に、ぜひ手に取ってもらいたい作品です。
絵本作家である荒井良二による絵本『ぼくのキュートナ』。荒井は、2012年放送されたNHK連続テレビ小説『純と愛』で、オープニングのイラストを担当しました。彼のメルヘンチックなイラストが可愛くて、イラストを観ているだけでもわくわくしてくることでしょう。表紙はピンク色。まるで15通のラブレターを可愛い封筒で大切に守っているかのような絵本となっています。
- 著者
- 荒井 良二
- 出版日
- 2001-02-27
「ぼく」がキュートナをどれだけ大切に思っているか、愛しているか、ページをめくる度に伝わってきます。呼吸をするのと同じように、キュートナのことをいつも考え、どんなときにでも思い出す「ぼく」。小学生の男の子がラブレターを書いたような、キュートナを思う素直な気持ちがたまりません。
大人の自分に買っても嬉しいこの絵本は、普段伝えきれない気持ちを伝えるプレゼントとしてもおすすめです。
見るからに愛し合っている幸せそうな2人が、互いに質問をし合い、愛を確かめ合う絵本『幸福な質問』を大人なあなたに紹介します。
たとえば、彼女が「じゃあ 目がさめた時 ちいさい ゾウムシになって 鼻の上のところに とまっていたら?」(『幸福な質問』より引用)と質問します。
すると彼は、「『とんでみて』って言う 費用が半分ですむから 旅行に 行こう きみ用の かわいいベッドも つくってあげる おしつぶさないように そっと、キスする練習も しないとねえ」(同書より引用)と答えるのです。
このような相手の気持ちを確かめる甘い問いかけが、続いていきます。幸せいっぱいの2人。甘酸っぱくて幸せな時間が流れていきます。
- 著者
- おーなり 由子
- 出版日
「じゃあね 明日一日で世界がなくなってしまうんだとしたら?」(同書より引用)
彼女が彼に究極の質問をぶつけました。彼は果たしてどう答えたのでしょうか?
絵本を読みながら、彼の返事にときめいたり、希望の返事を想像したり……。ときめく時間が続いていきます。
付き合い始めにはあった、甘い会話、愛を確かめるための幸福な質問。それが時を経るごとにいつしかなくなり、今では要件だけなんていうご夫婦や、恋人同士はいませんか? いまさらと言わず、大切なお相手にプレゼントしてみてください。大人になった今、口にするには恥ずかしい言葉も、絵本が代わりに届けてくれますよ。きっとはにかみながらも喜び、一緒に甘い時間を過ごせることでしょう。
大人にもおすすめしたい絵本『いのちのかぞえかた』は、2008年に上映された映画『おくりびと』の脚本家であり、放送作家でもある小山薫堂が、物語を手がけました。イラストを担当したのは、フランスのイラストレーターであるセルジュ・ブロック。私たちの人生で起こる様々な出来事を、数値で表していきます。
「人生最初の大好物はママのおっぱい。生きるために必要な栄養素が全て入ったお乳を彼女は3ヶ月で92リットル飲みます。そして体重は6キロになりました」(『いのちのかぞえかた』より引用)
母親の愛情を改めて感じられるような文章ですね。他にも、この世に生を受けて死ぬまで笑っているのは18週で、泣いているのは16ケ月といった、はっとするようなことを知れることでしょう。絵本を読み進めると、生まれてきた尊さ、周りの人の大切さ、貴重な今という時、を実感できます。
- 著者
- 小山薫堂
- 出版日
- 2010-10-16
この絵本を読めば、互いを思いやる気持ちが自然に溢れ出て、小さな衝突はなくなり、優しくなれるかもしれません。親しい方におすすめしてみませんか? 子どもから大人まで読んでもらいたい絵本です。
大人気絵本『14ひきのあさごはん』の作者である、いわむらかずおの作品『かんがえるカエルくん』。とても可愛いカエルくんが、一生懸命考えています。真っ青な、広い広い空を見上げて考えるのです。
「ここは、ネズミくんとぼくのそら そこはトンボさんのそら」(『かんがえるカエルくん』より引用)と、それぞれのそらの場所を決めていくカエルくん。場所を決め終えたら、今度は、空を飛びたい衝動にかられます。そうかと思えば、どんぐりや栗の気持ちを考えてみたり……。
- 著者
- いわむら かずお
- 出版日
- 1996-04-25
幼児期、あるいは小学校の低学年の時期に、カエルくんのように自分の周りにある物に対し、考えを巡らせたことはありませんか? 子どもは大人が思いもよらないことを考えついたりします。
ほのぼのした雰囲気の中で、くすっと笑えて癒されるこの作品は、考えることが大切だと気づかせてくれる絵本。お子さんと一緒に考えながら読むと、思いもよらない発見があるかもしれません。
絵本『木を植えた男』の主人公は、フランスの山奥の荒野に住む羊飼いの男性。そこは、木も生えず、荒れ果ててしまった土地。苛立ちの募る村人は、争いを繰り返してしまう日々を過ごしていました。
そのような状況でも、羊飼いの男性は、黙々とカシワの木を植えていきます。どんぐりをたくさん植えても、全て芽がでるわけではありません。10万個植えても、育つのは1万本。荒野を緑いっぱいにするという途方もない目標にむかって、羊飼いの男はただ黙々と、どんぐりを植え続けるのでした。
「人びとのことを広く深く思いやる、すぐれた人格者の行いは、長い年月をかけて見定めて、はじめてそれと知られるもの。 名誉も報酬ももとめない、まことにおくゆかしいその行いは、いつか必ず、見るもたしかなあかしを、地上にしるし、のちの世の人びとにあまねく恵みをほどこすもの」(『木を植えた男』より引用)
文章と絵が、まるで生き物かと勘違いしてしまうほどに語りかけてくる絵本。いつの間にか日々の自らの行いと、羊飼いの男性の行動を比べ、「自分は、今のままでいいのか」と何度も自問自答してしまうことでしょう。心の深い部分にまで入り込んでくるため、大人に読んでほしい物語です。
- 著者
- ジャン ジオノ
- 出版日
羊飼いの男性も、ずっと強かったわけではなかったのではないのでしょうか? 同じ人間ですから、不安になったり、寂しくなったり、辞めたくなったときもきっとあったはず。しかし彼は最後まで投げ出しませんでした。何度も自分に言い聞かせて、奮い立ったのでしょう。
良かれと思ってしたことが周りに理解されず、反対されたり、馬鹿にされたり、どれだけやっても結果が見えず焦ってしまったり……。自分の進むべき方向を見失ってしまったときにこそ、この絵本を読んで彼を思い出していただきたい、大人におすすめの作品です。
「おおかみは もう いないと みんな おもっていますが ほんとうは いっぴきだけいきのこって いたのです。こどもの おおかみでした。ひとりぼっちの おおかみは なかまを さがして まいにち うろついています」(『やっぱりおおかみ』より引用)
『やっぱりおおかみ』は、一人ぼっちの子どもおおかみのお話です。おおかみは寂しくて、同じおおかみの仲間を捜し、歩き続けるのでした。様々な動物たちが集まっている場所に出かけますが、おおかみの姿を見ると、みんな逃げてしまい……。
- 著者
- 佐々木 マキ
- 出版日
- 1977-04-01
おおかみのように一人ぼっちになってしまったとき、大人になった私たちはどうしたらよいのでしょうか? 助けを求めても誰も答えてくれない。それは、ときに人に対してだけでなく、自分にしかわからない苦しみだったりする場合もあるでしょう。そんなときにどうしたらいいか、おおかみの子どもが教えてくれますよ。
不安なとき、寂しいとき、手に取ってみてください。きっとおおかみに勇気をもらえることでしょう。
『たいせつなきみ』の舞台は、体が木でできている小人が暮らす小さな村。お互いの体に、シールを貼りあいっこするのが、今の流行り。綺麗だったり可愛かったり、才能のある小人には、星のシールを貼って、不器用な小人には、だめ印シールを貼っていました。
そんな中、パンチネロという小人は、だめ印シールばかり貼られていて、とても悲しい思いをしていたのです。そしてある日、自分を作ってくれた彫刻家のエリに会いにいきます。
外見や才能で人を判断するのは、大人の私たちが生きる人間社会と同じといえるでしょう。人に優劣をつけるのが当たり前のようになっている世の中。それがどれほど人を傷つけるものなのか、気が付かないこともあるかもしれません。
- 著者
- マックス・ルケード
- 出版日
- 1998-10-05
彫刻家のエリは、パンチネロを大切に思い、愛してくれていました。愛のまなざしだけをパンチネロに向けるのです。誰かに愛されている安心感が、自信と強さを与えてくれますよね。それは時に家族だったり、恋人だったりするかもしれません。信仰を持っている方には、神であり仏でもあるでしょう。そんな人々に愛を向ける象徴として、エリは描かれています。
あなたは決して1人ではなく、気がついていないだけであなたを大切に思っている人が必ずいるのですよ。そんなメッセージが絵本から聞こえてくるようです。愛を感じたいとき、安らぎが欲しいとき、傍に置いて、いつでも読みたい大人におすすめの絵本です。
以上、10冊をご紹介しました。勇気をくれるもの、癒してくれるもの、心をあたためてくれるもの、優しい気持ちを蘇らせてくれるものと様々です。今回ご紹介した作品は、大人になったからこそ、その絵本が伝えてくる深いメッセージを胸の奥深いところで受け取れるのかもしれません。子どもの頃には、読み取れなかったものがみえてくる絵本なのでしょう。また同じ内容でも、何回か繰り返し読む毎に、感じる部分は変わってくるはず。どの作品も絵本の奥深さを、改めて認識できますよ。