日本の青春小説とは違った、数々の痛みの描かれた海外の青春小説。今回は、過去の悲しみや喜びに満ちたおすすめの青春小説についてご紹介します。
ジャック・ケルアックはアメリカの小説家でもあり詩人でもあります。アメリカの文学界で異彩を放ったグループである、ビートジェネレーションを代表する作家の1人です。彼の描く作品は、コロンビア大学を中退後、アメリカ放浪の生活を下敷きにしたものでありました。
- 著者
- ジャック・ケルアック
- 出版日
- 2010-06-04
オン・ザ・ロードは自由を求めて終わらない旅に出る青年たちを描いた青春小説です。彼らは安住というものに否をつきつけ、旅に出ます。本書はその後の様々な文化に決定的な影響を与えた名作です。
本書を読むと、アメリカの広大さ、そしてその懐の深さがよく分かると思います。いきあたりばったりに旅をしても、どうにかなってしまう。その自由さが十二分に描かれています。主人公のサル・パラダイスは体いっぱいにアメリカの空気を吸い込みながら、広大なアメリカを疾走していくのです。
本作で注目すべきは、旅の途中で流れる様々な音楽でしょう。恐らく普通の日本人では知らないようなミュージシャンが多数登場するのですが、実際に彼らの音楽を聴いてみると、サルたちの味わった旅の情景や、匂いが浮かび上がってくきます。そのため、ここに登場する音楽を聴きながら、読書を楽しむのもおもしろいかもしれませんよ。
青春時代にしか味わえない、瑞々しい感性で切り取られた旅の情景たち。この本を読んだ後に残るのは、少しの疲れと高揚感でしょう。それほどこの作品世界に浸ると、自分も一緒に旅をしているかのような気持ちを味わえます。これから旅に出ようとしている方、かつて旅に出た方には必読の書です。
ジェローム・デイビット・サリンジャーはアメリカ合衆国の小説家です。彼はニューヨーク市のマンハッタンに生まれました。彼の著作で有名なのはやはり『ライ麦畑でつかまえて』でしょう。しかし彼は晩年は作品を発表せず、公にも姿を見せず、ひっそりと生活を送ったと言われています。
- 著者
- サリンジャー
- 出版日
- 1976-05-04
本書は、グラース家のゾーイーとフラニーのふたりの心の交流を描いた作品になっています。
フラニーもゾーイーも、とあるラジオのクイズ番組で名を馳せた天才兄弟であるのですが、ある日を境にフラニーは神経過敏気味になってしまいます。心配したゾーイーは彼女を慰めにかかるのですが、うまくいきません。
それでも神様を信じていれば、周りの人々を信じていけば前を向いていけるという希望について教えられる本作。徐々にフラニーは立ち直っていきます。立ち直れなくなってしまっても、自分の周りには自分を見てくれている人がきっといる。フラニーの周りにいる、暖かい人々との交流を描きます。
フラニーは意識が高いのにどこか精神的に自立していない人物として描かれます。しかし、そんなフラニーに対してゾーイーは、周りのことばかり意識しないで、自分が納得できる行動をしてはどうか、と問いかけるのです。ただ単純に甘やかすだけでない、ゾーイーの妹への思いが伝わってきますね。
そして、そこから展開される物語は感動の一言。フラニーはつまずいてしまったけれど、周囲の人々はちゃんと彼女に手を差し伸べてくれる。そんな優しい気持ちにさせてくれます。心が疲れた時にはお勧めできる1冊ですよ。
スティーブン・チョボスキーは作家でもあり映画監督でもあります。彼を有名にした著作である『ウォールフラワー』は彼自身によって映画化もされました。青春の喜びと痛みを表現するのが得意な作家です。
- 著者
- スティーブン チョボスキー
- 出版日
- 2013-11-20
『ウォール・フラワー』は15歳の少年、チャーリーが友情や恋愛、そして家族との確執を体験しながら、徐々に成長を遂げていく青春小説です。
本書の主人公、チャーリーは非常に純粋な少年です。ある日チャーリーの心は友人の自殺をきっかけに不安定になってしまいます。暗澹たる気持ちで学校に通う彼。
しかし、彼を支える登場人物たちが全員素晴らしい人物なのです。青春時代、様々な事に思い悩む中で、自分は世界でひとりぼっちだと感じでしまうことはだれしも多少はあるでしょう。しかし、それでも自分を見ていてくれる人はちゃんといるのだ、ということを再認識させてくれる1冊に仕上がっています。
本書で特にチャーリー少年の心の支えになってくれるのは、チャーリーの担任教師でもあるビルの存在です。ビルは学校で人気の先生というわけでも、特別に優秀な先生というわけでもありません。どこにでもいるような凡庸な教員です。しかし、彼には生徒のことを1人1人ちゃんと見極め、影でしっかりと支えるという才能がありました。チャーリーもまた、そんな彼の才能に救われる1人なのです。
さて、本書は第2の『ライ麦畑で捕まえて』と言われている作品ですが、大きく違う点は、青春の暗さも描かれているということでしょう。アメリカの高校生活を的確に描いており、ドラッグや同性愛、自殺やセックスなどアメリカの高校生活の薄暗い部分も描かれているのです。しかし、そんな生活の中でもチャーリーはその痛みも輝きもしっかりと受け止めているので、暗い中にも光が射しているような雰囲気となっています。
繰り返しになりますが、チャーリーはとても純粋な少年です。先述のアメリカの高校生活の薄暗い部分を見ても、読者はチャーリーというフィルターを通してみるので、全てが純粋に見えるのです。忙しい生活の中で純粋な心を見失ってしまった人にこそ読んでほしい名作となっています。
モーリーン・デイリはアイルランド出身の作家。デビュー作『17歳の夏』で有名ですね。心の機微を的確に描いた青春時代の恋愛を描くことを得意としています。
- 著者
- モーリーン・デイリ
- 出版日
主人公のアンジイは高校を卒業したての17歳です。ある日、マクナイトの店でハンサムで人気者のジャックと出会います。ジャックにヨットに乗るデートに誘われるアンジイですが、アンジイはデートというものが初めて。どの服を着ていこうか、どんな風に振る舞おうか、彼女は楽しい悩みの日々を送ることになるのです。
アンジイの体験する初めてのデートがとても初々しく描かれていて、こっちまで赤面してしまいそうな程。彼女の心の機微が的確に描かれており、自身の若き頃を思い出す人も多いのでは。初めて仲間たちと夜通し騒いだり、ビールを飲んだり、タバコを吸ったり、アンジイの初めてづくしの夏は、様々な思い出と共に過ぎていきます。
さて、本書は若者の瑞々しい恋愛を描いた青春小説ですが、単純に幸せな恋愛をして、キスをして終わり、という風にはいきません。アンジイとジャックには、とある試練が訪れます。終盤に向かって苦しんでいくふたりですが、最後には爽やかに物語は終結するのです。このラストの爽快感こそ、この物語の価値の神髄なのかもしれません。
ところで本書は作者であるモーリーン・デイリ自身の体験談。試練を乗り越えて、さわやかなラストを迎えて、ふたりはその後どうなるのか。それはモーリーン・デイリの事を調べていけば分かるかもしれません。爽やかな気持ちになりたい時、本書はきっとあなたを手助けしてくれるでしょう。
作者紹介:マキャモンはアラバマ州バーミングハム生まれの作家です。アラバマ大学でジャーナリズムを専攻した後、様々な職を経験し、1978年に作家として『奴らは渇いている』でデビュー、一躍人気を博します。その後、ベストセラー『スワン・ソング』を出版し、プラム・ストーカー賞を最優秀長編賞を2度受賞することになります。
- 著者
- ロバート・R. マキャモン
- 出版日
『少年時代』は、主人公が魔法の王国で過ごした少年時代を回想していく物語。大人になると忘れてしまう、少年時代の素晴らしい日々を、ノスタルジー満載で描く長編になっています。
物語の冒頭、主人公であるコーリー・マッケンソンはとある殺人事件を目撃。殺されたのは誰で、誰が犯人なのか、その謎を主軸に物語は展開していきます。少年時代の殺人事件の目撃は、大人になってから事件を目撃するのとは違い、どこか冒険の様な様相を呈しています。大人になれば、仕事に忙殺されてすぐに忘れてしまうような事件でも、子供時代には、全精神を注力して解決しようと考える、おどろおどろしい体験になるのです。
マッケンソンもまた、好奇心の強い少年だったので、この殺人事件に強く心を惹かれました。少年探偵のように事件に勇敢に挑む姿は、誰もが少年時代には持っていた瑞々しい感性を彷彿とさせます。
大人にはみえないものがみえていた少年時代。少年たちは殺人現場の川には怪獣が住んでいるのではないかと考えたり、犯人は霊的なものであると空想したりします。しかし、現実的には悪意ある人物の意図が見え隠れしていたりするのです。そんな人物との対決は、少年時代には冒険的な思い出になり、その追体験をするだけでノスタルジーを感じられます。
本書では親子の絆、殺人事件の謎と様々なエピソードが交錯して1本の話が構築されています。忙しい毎日に、少年時代の心を思い出したい人にはお勧めできる1冊です。