ダリという名前を知っていても、それがどんな人物なのか知らない人も多いです。「ぐにゃりとまがった時計」と言えば、ピンとくる人も多いのではないでしょうか。そんな断片的にはすごく有名なダリの全容に歩み寄れるおすすめの本を紹介します。
サルバドール・ダリはスペイン出身の画家で、シュルレアリスムを代表する芸術家です。悪夢にも似たような世界観で描かれる絵は恐ろしくもありますが、その奇怪さでいまでも熱烈なファンがいるほどです。彼が描く絵のように、彼自身も奇抜な生活をしていたことは有名です。特にピンと伸ばした長い髭でおどけている写真は非常に印象的です。
そんなサルバドール・ダリが生まれたのはスペインのカタルーニャ地方。1904年のことでした。幼くして死んだ兄の名も「サルバドール」だったというエピソードもあり、彼に心理的な影響を与えています。絵画に興味を持ったのは幼い頃で、ピカソの友人であった画家の男に才能を認められたこともあって、美術学校に入学しました。そこで、のちに映画監督となるルイス・ブニュエルと運命的な出会いを果たしています。
卒業後は画家として活動しながら、パブロ・ピカソやアンドレ・ブルトンなどのシュルレアリスムの中心人物と出会っています。印象派やキュビスムなどの影響を受けつつ自分の作風を模索していたサルバドール・ダリは、自分の画家としての道はシュルレアリスムにあると結論づけ、1929年に正式にシュルレアリスト・グループに参加しました。
シュルレアリスムとは超現実と訳され、現実を越えた先にある現実を意味します。言い換えれば、意識の外にある無意識の部分で表現する方法です。夢がシュルレアリスムの一部といえるでしょう。彼は自身の創作方法を「偏執狂的批判的方法」と称しており、それは自分の見た夢を表現する方法です。彼はスプーンを持ったまま椅子に座って眠り、深い眠りに落ちた場合にスプーンを落とす音で起きられるような方法を取っていました。夢を記憶に留めているうちに目覚めて、新鮮な状態でその夢を書き記すためです。
「ぐにゃりと曲がった時計」、「群がる蟻」、「虫のように足の長い生物」など、強烈なイメージを象徴とする絵画で有名なサルバドール・ダリですが、映像作品も手掛けています。それがルイス・ブニュエルと共同制作した「アンダルシアの犬」です。映画は彼がシュルレアリスト・グループに参加した1928年に制作されています。彼がブニュエルと共にシュルレアリスムの手法である夢やイメージの連鎖からプロットの存在しない象徴的な映像作品に仕立てあげています。彼自身のシュールレアリズム作品へのアプローチの仕方を高めていった映画と言えるでしょう。
1:常に身を守るために鎧を求めていた
彼は常に死に怯えていました。彼が生まれる前に死んでしまった兄に対する親の悲しみを幼い頃から目の当たりにしていたことが原因といわれています。その恐怖から身を守るために常に鎧を求めていたのです。それは彼が好んだ食べ物によく表現されています。硬い外側に軟らかい中身が詰まったチーズ、パン、甲殻類、卵などは彼の好物で、彼を安心させる物でした。
2:あの口ひげは遺体を掘り起こされた時も10時10分の位置だった
彼のトレードマークといえばピンと上に跳ね上がった口ひげ。その位置はおおよそ時計の10時10分位置です。彼はとあるDNA鑑定のために死後遺体として掘り起こされました。その時のひげの位置はなんと、トレードマークのまま10時10分の位置であったとサルバドール・ダリ財団によって明らかにされました。
3:妻は、略奪愛の末結ばれたガラという女性だった
彼が25歳の時、エリュアールという画家が家族と共に彼を訪れました。そこにいたエリュアールの妻ガラとダリは芸術に関する話で盛り上がります。エリュアールが遊び人で愛人がいたことなどもあり、ガラとお互いに強く惹かれあうようになりました。その後、二人は駆け落ちし、ガラが夫と離婚も正式にした後、結婚しました。
4:画家人生は妻の死と共に終わりを迎えた
彼の画家人生は、彼が無名時代から精力的に支えてくれいた、愛する妻の存在あってのものでした。妻ガラが死去した翌年、「燕の尾」という作品を最後に、彼は筆を折ることにきめたのです。
5:パリで有名な老舗ホテル、ル・ムーリスの常連だった
19世紀、世界最高峰の宿と称され、世界中の王族に愛されたホテルがパリにありました。それがル・ムーリスです。ここで彼は少なくとも1年に1ヶ月は滞在していたといわれています。彼の奇行列伝はこのホテルでもいくつかあり、このホテルの顧客リストの中でも特にインパクトのある常連だったそうです。
6:チュッパチャップスのロゴを作った
世界中のどこでも売られている飴、チュッパチャップス。黄色地の花のデイジー型に赤の印字がされた目に留まるロゴは彼がデザインしたものなのです。1969年にデザインの制作依頼がありました。そこからロゴはマイナーチェンジをして現在に至っています。
7:アカデミーから追放された
1922〜1926年の間、サン・フェルナンド王立美術アカデミーにて美術を学びました。彼がここに入学できたのも、そもそも既定のルールに則ったものではなく、彼独自の表現をしたという経緯があります。ですが、あまりにも奇行が行き過ぎていたようで、とうとうアカデミーを追放されてしまいました。ただ、その後も、そのアカデミーの師から個人的に教えを請いで、自身で芸術のレベルを上げていきました。
8:オノ・ヨーコを騙したことがある
彼は、オノ・ヨーコにシンボルである髭の1本を欲しいと頼まれました。彼は1万ドルと引き換えに1本渡すことを承諾します。その後、ヨーコが1万ドルの支払いをしたものの、送られてきたのは草1本でした。彼の言い訳として、彼女に髭を渡したら自分が呪われてしまうとのことでした。
9:お勘定を払わずレストランを出てきたことがある
彼は大盤振る舞いレスランで食事をした後、小切手を店の者に渡してでていきました。小切手の裏に書かれたのは金額ではなく、彼の落書きでした。本来なら立派な詐欺ですが、「ダリの落書き」というところがミソとなります。有名なダリの落書きとなると、現金に換えず自分の手元に取っておきたいとおもうか、誰かに売りつけて現金に換えたとしても、レストランの食事以上の金額になる可能性があります。新たな手法の物々交換とも言えますし、ペテン師ともいえる行為です。面白いところをついた発想のダリのアイディア勝ちといえる1シーンでした。
本書は画家であるサルバドール・ダリが自ら書き記したものです。自身の画家活動の方法や様子が克明に描かれています。タイトルにも称されている通り、画家を目指す者なら一読しておきたい内容になっています。
秘伝書という名の通り、絵の具やオイル、絵筆、パレットなどの画材をすべて本書で公開しています。人の顔は明るい部分から、顎から頬骨にかけて描いていき、最後に目を描くなど、彼流の描法を細部まで知ることができる一冊です。サルバドール・ダリを敬愛し、彼に近づきたい画家の卵にとっては、バイブル的存在ではないでしょうか。
- 著者
- サルヴァドール ダリ
- 出版日
また描法だけでなく実生活での実践方法も書かれています。アルコールやセックスなどを禁欲し、手のケアを怠らない。さらに自分の作品の悪態をつくな、目覚めながら寝ろなど、奇行の目立つサルバドール・ダリの私生活まで克明につづられています。彼についてもっと深く知りたい人も読みたくなる内容になっています。
サルバドール・ダリの作品を知る上で重要な資料として、本書は内容も面白いです。それは彼の作品に現れている複雑な心理を、図解を用いて説明している点にあります。彼の絵には情報量が多いです。例えば、だだっぴろい荒廃した世界にぐにゃりと曲がった時計、その時計に群がる蟻たち、横たわる謎の生物など象徴的なオブジェクトが多数描かれています。そういった細かい描写がなされるダリの作品において、小さくて見えにくいオブジェクトを拡大した図が使用されているのが本書の特徴です。
- 著者
- ジャン=ルイ ガイユマン
- 出版日
彼の個性的な作品をここまで分析した書籍はあまりありません。代表作ともいえる「ウィリアム・テル」から、絵画だけでなく彼の手がけた建築やオブジェまであらゆる観点でダリを分析した至極の研究本です。その分析には称賛や批判など偏った意見は一切排除されているので、学術的観点だけで着目できるのも本書の魅力になっています。
本書は彼の贋作を売っていた男が独白するというとんでもないアプローチの形を取っています。彼を近くで見続けた贋作師ならでわの私生活が赤裸々に書かれています。読み物としても楽しい内容になっています。
タイトルがスキャンダラスと称している通り、ダリ夫妻は性に対してあけっぴろげで、かなり浪費していたことが書かれています。そのために彼は金策として他の人の作品に自分のサインを売ることで稼いでいました。時には白紙にサインをすることもあったそうです。華やかに思われる彼の生活からは信じられないような事実で面白いです。
- 著者
- スタン ラウリセンス
- 出版日
また贋作で儲けていた当時の贋作師たちの事実なども載せられています。ダリを真似てそれっぽく描いたり、既存するまったくの別物を彼の作品と偽って売っていたりと、あらゆる手で彼の名を利用していました。当時彼がどれだけ人気で流行していたかを知ることができるのも本書の魅力です。
タッシェン・ニュー・ベーシックアート・シリーズのひとつとして刊行されている本書は、手ごろな価格で彼の作品を堪能できる入門書となっています。ペーパーバックサイズと少し小さめのデザインですが、カラーなので彼の作品を存分に楽しむことができます。
作品を通してサルバトール・ダリの生涯を辿れることを謳っている通り、彼の画家としての軌跡を辿ることができます。また適度な解説も入っているので、絵を楽しみながら作品に込められた意図を知ることができるのも魅力のひとつです。
- 著者
- ジル・ネレー
- 出版日
- 2000-07-01
96ページにわたりサルバドール・ダリの作品が掲載されています。本物の絵は高価でこれほどの数を揃えるのは金銭面でも大変ですが、この一冊で作家の人生の縮図ともいえる作品群に触れられるのは貴重な体験です。そんな体験が手軽にできる魅力的なアート作品集になっています。
彼が愛し妻とした女性はザラですが、『サルバドール・ダリが愛した二人の女』では正妻の他に彼が愛した女性の独白が書かれています。彼女の名前はアマンダ・リア。華やかな世界をフルスピードで駆け抜けた彼女が書き連ねるダリの真実は世には知られていないものでした。またデヴィッド・ボウイの恋人だったことでも知られているリアの目を通して書かれているので、常人には体験できない面白い内容になっています。
エルヴィス・プレスリーを気に入っていたり、ミック・ジャガーやジョン・レノンなど音楽界との交流があったことも明らかにしています。またデヴィ夫人の名前も載っているから驚きです。こうした彼の知られざる交友関係を知ることができる驚きに満ちた一冊となっています。
- 著者
- アマンダ リア
- 出版日
こうした彼の交友関係だけでなく、私生活まで奇抜だった彼とアマンダ・リアの普通だったら体験できないような刺激的な生活が読めるのも魅力のひとつです。彼の新たな側面を知ることのできる一冊となっています。また1960年代という自由を追い求めた激しい時代の様子が克明に描かれており、いまでは考えられないような華々しい生活が書かれているのも本書の魅力となっています。
彼はシュルレアリスムという難解な絵だけでなく、奇抜な行動でメディアを賑わせました。絵画としての観点からだけでなく、ダリというおかしな人間について書かれた本はどれも驚きに満ちています。