堀江敏幸の文章力が感じられるおすすめ小説ベスト5!一文にある物語を読む

更新:2017.2.24

岐阜県出身の小説家でフランス文学者堀江敏幸。数々の文学賞を受賞した彼の作品は、文章力が高いことで有名です。今回は堀江作品の中から、おすすめ5作品をランキング形式でご紹介します。

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堀江敏幸とは?

堀江敏幸は1964年生まれ、岐阜県多治見市出身の小説家です。早稲田大学第一文学部フランス文学専修を卒業し、1989年にフランスに留学。その時の経験を随筆風に綴った『郊外へ』を白水社の雑誌『ふらんす』に連載し、1995年に単行本化され、小説家デビューを果たしました。

1999年に『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年には『熊の敷石』で芥川龍之介賞と数々の文学賞を受賞。2007年に早稲田大学文学学術院教授、2009年には早稲田大学短歌会長に就任しています。

5位: 「私」の世界を変えたひとりの赤ん坊

一人暮らしの男性が、ひょんなことから授かった赤ん坊と一緒に暮らすことになった育児小説『なずな』。題名の「なずな」は、男性が預かったその赤ん坊の名前です。

主人公の「私」は、地方都市に住む40代半ばの独身男性の新聞記者。平凡な仕事と日々をひたすらに送っていたところ、とある事情で弟夫婦から生後2ヶ月の娘のなずなを預かり、彼女を育てながら共に暮らしていくことになるのでした。

著者
堀江 敏幸
出版日
2014-11-20

ミルクやオムツ替え、寝かしつけという慣れない赤ん坊の世話に、子育て経験のない「私」は当然悪戦苦闘させられます。そんな文字通りの「イクメン」であるこのストーリーには、事件も悪人の類も一切登場せず、一見、その育児の日々を淡々と描いただけの単調かつ平凡な作品だと思うでしょう。

しかしなずなの登場で、「私」の世界が少しずつ変わっていきます。酔っ払いの小児科医ジンゴロ先生や、スナックのママ瑞穂など、「私」の近所に住む人々が温かい目で見守るようになってきたこと。職場の同僚たちが「私」となずなを見て家族だと思って接してきたこと。そして碁会所で小学生たちがなずなを一目見て、触れようと近づいてきたこと……。今までの「私」は、仕事しか知らない独り身の新聞記者で、他人と関わりを持ったことがあまりありませんでした。しかしなずなと一緒に暮らすようになり、周囲の人々からの温かさを受けたことで、人と接することの大切さに気づいていくのです。そして他人と積極的に関わりを持つようになるなど、なずなと共に日々成長していきます。

ひとりの赤ん坊によって、平凡な仕事と日々しか持たなかった男の世界が変わっていくイクメン小説『なずな』。本作を読めば、穏やかで幸せな気持ちになれることは間違いないでしょう。

4位: パリ「郊外」で出会った13の物語

堀江敏幸のデビュー作『郊外へ』。本作は、先述の堀江敏幸の紹介にもあった通り、彼がフランスに留学していた時の体験が存分に活かされた13の作品を収録した短編集です。

「花の都」の美称を持つフランスの首都パリ。中世の時代以来、西ヨーロッパの交通、文化、芸術の中心地となった場所で、凱旋門やエッフェル塔など歴史的な建築物が多いことで有名です。しかし題名にもある通り、本短編集の主題はパリの「郊外」にあります。本短編集の中の主人公である「私」がふと花の都の外、すなわちその周辺の地域に出てみると、そこには数々の新しい発見があり、見たことのない世界が広がっていました。

著者
堀江 敏幸
出版日

ある時は、カフェにてビールを片手に古書店で購入した小説がきっかけで動物園に行った際、乙女のようにキリンに見つめられて恥ずかしがったこと。ある時は、小さな石造りの家の写真の隅に映っていた給水塔に実際に辿り着き、世界の果てを見た気がしたこと。これらパリの郊外を舞台にした13の物語は、ひとたび感情移入しながら読めば、自分がパリに来たかのような気持ちになるでしょう。そして何より、パリの郊外という世界へ自分の足で歩き、自分の目で見たその世界の出来事を、自分の文章だけで描き出した堀江の才能に驚かされますよ。

堀江が小説家の初歩を踏み出すきっかけとなった本短編集。フランスの留学時代、彼が体験し、彼の文章によって13の物語にまとめられたパリの郊外での出来事は、一見の価値ありです。

3位: 河岸の船にひとり暮らす男

フランスのとある河岸の船で、一人暮らしをする男の日々を描いた長編小説『河岸忘日抄』。

河岸に繋留された一隻の船の中にその男——主人公である「彼」——は、古い家具とレコードが整然と並ぶ船内のリビングで、いつもコーヒーを片手に本を読んでいるという、浮世離れした日々を送っていました。そこへ訪ねてくるのは、コーヒーを飲みに来るついでに世間話に花を咲かせに来る郵便配達夫と、「彼」が時折作るバナナのクレープを食べに来たりする見知らぬ少女くらいしかいません。彼らと会う以外の時間は、基本的にコーヒーを片手にひとりで読書、あとは食事と就寝といった基本的な生活のみ。

さらに「彼」が暮らす河岸の船も航海に出ることはおろか、そこから動くことすらなく、静かに河の流れに揺れ続けるだけです。先に紹介した『なずな』と同じように、事件を含めた大きな出来事は起きず、悪人の類も登場しないのです。そんなあらましからは、船でひとり寂しくも気ままに暮らす男の日々を淡々と描いただけの味気ない物語としか思えないでしょう。

著者
堀江 敏幸
出版日
2008-04-25

しかし本作を読むにあたって「彼」に感情移入してみると、勉学や仕事、その他一切のしがらみから解放され、ひとりで気ままに生きられるという心地の良さが感じられます。確かに河岸に止めた船から外に出ることなく暮らし続けるのは寂しく息苦しいものですが、気ままな一人暮らしは誰にとっても魅力を感じるものです。

寂しくも気ままな生活を送る中、実は「彼」は胸の中ではある思いを抱いており、小説を読み進めていくにつれてそれが明らかになっていきます。果たして船の中で一人暮らしを続ける「彼」は、一体何を望んでいるのでしょうか。そして「彼」は一体何者なのでしょうか。

緩やかに流れる時間の中で、淡々と来る日を過ごし続けるひとりの男を描いた本作。「彼」が何を考え、何を思っているのかが気になった方は、是非とも本書を手にとって、男の生活の軌跡を確かめてみませんか。

2位: 山間の田舎町に見る人々の日々

第40回谷崎潤一郎賞受賞作『雪沼とその周辺』。山間の寂れた町を舞台にした7編を収録した短編集です。

閉鎖間際のボウリング場に現れた行きずりのカップルに、最後の記念としての1ゲームをプレイさせようとする老店主を描いた「スタンス・ドット」。料理店兼料理教室を営み、そして亡くなった独り身の老女の心境に迫っていく「イラクサの庭」。東京での生活の後、閉店間際となったレコード店を受け継いだ男のそれまでの人生を振り返った「レンガを積む」。

著者
堀江 敏幸
出版日
2007-07-30

これら7編の物語は、どれも「雪沼」という名の架空の田舎町を舞台にしているのが特徴で、ページを開くとその田舎の日常の中で見られる人々のさりげない生活や出来事が、目の前に広がっていきます。さらに田舎町の情景や人物の会話などの動きもどこか自然で、感情移入しながら読んでいくと、まるで自分が今、雪沼を旅しているのではないかという気分にさえなるでしょう。

堀江が手掛ける、山間の田舎町を舞台にした7つの作品を収録した本短編集。皆さんも田舎町に住む人々の日常を、見に行ってみてください。

1位: 絵葉書から始まる「詩人」への旅

古い絵葉書から始まる主人公の「私」と、「詩人」としての顔を持つ20年前の会計検査官の繋がりを描いた長編作『その姿の消し方』。

フランスの蚤の市で「私」は、1938年の消印のある1枚の古い絵はがきを見つけます。その古い絵葉書には、表には古い廃屋と馬車の絵があり、裏には謎めいた十行の詩が書かれていました。

「引き揚げられた木箱の夢
想は千尋の底海の底蒼と
闇の交わる蔀。二五〇年
前のきみがきみの瞳に似
せて吹いた色硝子の錘を
一杯に詰めて。箱は箱で
なく臓器として群青色の
血をめぐらせながら、波
打つ格子の裏で影を生ま
ない緑の光を捕らえる口」(『その姿の消し方』より引用)

やがて「私」は、絵葉書の差出人が生前はひとりの会計検査官であったということ、さらに彼が無名の「詩人」としてのもうひとつの顔を持っていることを掴みます。それから彼を追う「私」の元には、詩人の数枚の絵葉書が手元に舞い込んできて、彼を知る多くの人物たちとも関わっていくようになっていきます。

著者
堀江 敏幸
出版日
2016-01-29

本作のテーマには「詩」が挙げられており、上記に挙げたものの他にも数々の詩が登場します。偶然手に入れた1枚の絵葉書の謎めいた詩から興味を持った「私」が、その謎めいた詩を書いた「詩人」の人生を辿る。長い時間をかけて、今はもう会うことのできない「詩人」にまつわる断片を集めていく「私」の旅は、一種の情熱を感じさせてくれます。

皆さんも本作で、「詩人」への旅に込められた「私」の情熱を感じてみませんか。

以上、堀江敏幸おすすめ5選、いかがだったでしょうか。興味が湧きましたら、是非ともこの5選から堀江敏幸の世界へと足を踏み入れてみてくださいね。

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