5位:リアルな描写に引き込まれる『完全黙秘―警視庁公安部・青山望』
作者の濱嘉之(はまよしき)は公安出身者ということで、作中でも公安についての説明が細かくなされています。警察の中でも公安というのはあまり外には見えてこない部署です。『完全黙秘』は、警察内部にも詳しくなることができ、公安ってよく分からないと思っている人にとっては教科書のようなと本にもなり得るでしょう。
福岡で財務大臣が殺され、犯人が現行犯逮捕されるところから物語は始まります。しかし逮捕したものの、犯人は完全黙秘。福岡の警察もお手上げでした。そこで登場するのが、公安の青山とその同期である捜査一課の藤中、捜査二課の龍、組織犯罪対策部の大和田、そして主人公の4人。別の部署にいながらも友情で結ばれていて、協力しながらこの難解な事件を追っていくのです。
- 著者
- 濱 嘉之
- 出版日
- 2011-09-02
背後にあるのはヤクザ、政治家、芸能界という大きな闇の繋がりです。違法捜査も含めあらゆる捜査方法を使いながら、真相へと進み行く4人。そのたどり着いた先にあるものとは。
主人公青山も同期4人組も格好よく、その連携ぶりや警察の捜査の凄さにどんどんページを進めてしまいます。ピッキングで潜入したり、盗聴器を仕掛けたりなどの違法捜査も多く書かれておりリアリティに溢れているのです。情報を操る公安と物証を探す刑事が共に犯人を追い、追いつめて行く様子には惚れ惚れします。
青山望のシリーズの第一作ということで、人物についても説明的な要素が多いのですが、公安出身者しか書けないような捜査状況は、読者をあっという間に本の世界へと引き込んでくれます。これからどんな事件を解決していくのかが楽しみです。
4位:公安の秘密組織が暴かれる『ZERO』
公安警察の中でもトップシークレットであり、頂点に位置するZERO。スパイ活動を中心に行っているこの組織のことは、その名を口にすることも許されていません。あるとき主人公である公安部外事二課の峰岸は、中国諜報部の陰謀について情報を手に入れ調査を始めました。それがZEROの目に止まることとなるのです。妨害に合い、一人で捜査を進める峰岸。中国側とZERO、そして峰岸の戦いが始まります。果たして峰岸は真相へたどり着けるのでしょうか。
- 著者
- 麻生 幾
- 出版日
この『ZERO』は文庫本で上中下巻あり、登場人物も多くて読みごたえたっぷりの物語です。内容も複雑で難しそうなのですが、一度引き込まれたが最後、どっぷりとはまって読み続けてしまいます。いかにも本当にありそうな組織、ZERO。そして中国諜報部という普通の人には縁の無い組織について、さまざまな知識を得ることができとても興味深いことでしょう。
峰岸が孤高奮闘する姿に応援し、危機のときにはハラハラし、警察とは公安とはこんなにも身を犠牲にしなければならないのかと驚いてしまうことでしょう。そして海上自衛艦が登場してからは、結末が気になってページをめくる手を止められません。誰が味方で誰が敵なのか。最後まで存分に楽しめる小説です。
3位:浮かび上がる日本の闇とは『背乗り ハイノリ ソトニ 警視庁公安部外事二課』
「背乗り(ハイノリ)とは、諜報員や犯罪組織の構成員が、行方不明者などの戸籍を乗っ取って、その人になりすますこと」(『背乗り ハイノリソトニ』より引用)
普通の人の日常生活には関わりのないスパイの話ですが、実は背乗りはあなたの周りでも行われているかもしれません。それほど日本はスパイ対策に甘い国なのです。
公安の元エース、筒見は、中国の潜入員モグラによる罠に嵌められて公安を追われた過去があります。職も家族も失い失意のなかにいる筒見は、現在は在ニューヨーク日本国総領事館の警備対策官として働いていました。そして起こった事件が、渡米していた外務大臣の毒殺未遂事件。その周辺で筒見を嵌めた中国諜報員の姿が見え隠れします。
- 著者
- 竹内 明
- 出版日
- 2014-09-18
日本ではちょうどその頃、筒見が慕っていた元上司が変死します。2つの事件に関わりはあるのか、事件の裏に潜むものは何なのか。筒見は再び息を吹き返し、走りはじめます。公安、警察、政治家、官僚が複雑に絡み合う事件はどのような幕引きを見せるのでしょうか。
諜報捜査に関するちょっとしたテクニックなど細かい捜査状況が描かれ、実際の公安の姿を垣間見ることができます。ノンフィクション部分も多く散りばめられているのでしょうか。迫力のある文章で、スパイという国の裏側でなされる戦いの闇が身に迫ってきます。
筒見は捜査至上主義で、部下にも厳しく慕われていたわけでもありません。しかし彼の捜査能力は抜群。尾行したり罠にかけたりと的確な情報を掴んでいく様子にドキドキさせられます。昔の事件にとらわれたまま感情を表さない筒見が時折見せる苦悶する姿は、読者の胸も締め付けることでしょう。
記者、キャスターである著者が、小説という形で私たちに真実の闇を教えてくれている物語。恐ろしさもありますが、面白く一気に読み終えることができます。