今や場所を選ばず、スマホで電子書籍を読むというのは当たり前の光景となってきました。そんな超お手軽に読める電撃文庫の電子書籍の中でも、絶版となったレアな作品ご紹介しようと思います。
高校に入って初の夏休み、主人公翔はさっそくチーマーに囲まれてしまったのです。その時颯爽と彼を助けてくれたのはとんでもない美少年でした。すっかり意気投合したこともあり、翔はレオと名乗るその美少年を家に泊めるまでになります。
しかしこの少年、実は女の子で、それも現在行方不明中の国民的アイドルの瑞星リサだったのです。彼女を追うマネージャー集団が迫ってくる中、二人のはどうなってしまうのでしょう。アイドルとの爽やかな青春の物語です。
- 著者
- おかゆ まさき
- 出版日
- 2012-04-10
この物語の肝は翔とリサ、双方の葛藤にあるといえるでしょう。リサは自分のことを正直に話したい、けれど話してしまえば同性の友人として育んだ翔との友情を壊してしまうかもしれないと葛藤します。そして翔のほうも、彼女に友達としてそばにいてほしいという欲と、芸能界の舞台で華々しく姿を見たいという欲の間で葛藤するのです。
二人の感情の動きが設定に負けないほどにしっかりと描かれており、青春を謳歌する彼らの姿を楽しめる作品です。
主人公の丹羽真はいたって普通の高校生。両親の仕事の関係で、真は親元を離れ、それまで暮らしていた田舎町から、叔母が暮らす都会の町へと引っ越します。しかし世話になる予定の叔母の家にいたのは、体も頭も布団でぐるぐる巻きにした従姉妹藤和エリオでした。エリオは自分のことを「宇宙人にさらわれた」と言う電波な少女だったのです。
高校生の間にたくさんの青春を謳歌したい……。「青春ポイント」と称しそれを集めたいと思っている真でしたが、エリオの存在でポイントは増えるどころか、ますます減っていく一方なのですが……。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2009-01-07
丹羽真は、高校生の間に「青春ポイント」を集めたいと思っている健全な男子高校生です。「青春ポイント」とは真が独自に設定したもので、青春らしいことをすればプラス、青春らしくないことをすればマイナス。ただし明確な基準はないようで、どこかざっくりしたシステムです。しかしその感じがまた、男子高校生の青春らしさを強調させています。
真は新しくクラスメイトになった、自転車乗車時に黄色いヘルメットを被る天然系の少女御船流子や、身長179.9cm(本人主張)でアスリート風の体格なのに虚弱体質で運動音痴な前川さんとともに「青春ポイント」を貯めたいと思いますが、それも「電波女」のエリオの存在でなかなかうまくいきません。しかし基本的に人の良い主人公は、結局エリオの面倒を見てしまいます。このエリオの容貌はかなり型破りです。
「そいつは、二の腕付近から頭頂部まで、上半身のほとんどを羽毛布団で簀巻きにしている物体だった。床に無造作に転がっている。洗濯紐みたいなので布団を外から縛り、ちくわにはまったゴボウみたいに残りの身体を外へさらけ出している」(『電波女と青春男』より引用)
ヒロインの登場が布団の簀巻きという驚きの展開で、冒頭から物語へと引き込まれる本作。その後の軽妙な展開やヒロインのエリオが電波になった理由など魅力的な要素が多くあります。その中でも天文部の所属しているエリオと一緒に夏の夜空を見上げるシーンに代表される、青春と夏という相性のいい要素が絡みあったストーリーが最も引き込まれる理由。夏の夜に星空を見上げたくなること間違いなしです。
電撃ゲーム小説大賞で大賞を受賞した作家、田村登正が描くボーイミーツガール作品です。物語は、ウェブサイトに書き込まれた一通の自殺予告をほのめかすメッセージから始まります。
主人公、黒崎雄一が所属するIT研究部が運営するサイトにある日、自殺の予告をほのめかす内容のメッセージが書き込まれます。その送り主とネット上での交流が深かった雄一は、天空のアイというその人物を心配し、わずかな手がかりを頼りに捜し始めるのでした。途中、同じようにアイを探す少女、ハンドルネーム薔薇の棘と出会いいます。ふたりは協力しながら捜索を続け、や天空のアイの正体に近づいていき……。
- 著者
- 田村 登正
- 出版日
ちょっぴりのファンタジーとSF要素はありますが、テイストはあくまで現代です。文章は全体的に軽快に仕上がっており、物語にも重々しさがなくサラッと読めます。まさにライトノベルといった感じ。しかし、その現実的な世界観と終始落ち着いたストーリーから、純文学作品に近い様相もうかがうことができ、ライトノベルと純文学がミックスした作風であるともいえるでしょう。
ヒロインの「薔薇の棘」こと荒川唯は、ボーイッシュで豪快な性格の女の子。彼女の言動には勢いがあり、ひとたび語り始めると文章が走ると表現すればいいのでしょうか、どんどんと読み進めてしまうことでしょう。そんな彼女と雄一の会話シーンだけでも十分な読み応えがありますよ。
突然異世界に召喚された主人公が美少女から魔王討伐を依頼され冒険が幕を開ける、というベタな展開のはずが……。ライトノベルでは飽きるほど描かれているであろうベタベタな展開に、一捻りを加えたことで斬新な味に仕上がった物語が始まります。
将来の夢はニートであると言い切る男、格里終夜。彼は特殊な能力を持っていました。それは「自由に異世界へ行き来できる能力」。子どもの頃からこの能力を使い、様々な異世界に足を踏み入れていました。
そんな終夜はある日、異世界に召喚され、勇者の少女から共に戦い救世主となってくれと頼まれます。彼にとっては、勝手知ったる異世界旅行、何のあせりも怖れも感じません。しかもニートになるのが夢というやる気のなさですから、当然救世主になるはずもなく……。
- 著者
- 七飯 宏隆
- 出版日
- 2009-05-10
異世界召喚から救世主になるというベタな展開かと思いきや、主人公のやる気の無さと自由に異世界から帰れる能力という一捻りを入れることで面白さを生み出している本作品。物語序盤は、まじめで努力家の勇者レウルーシカと、彼女に振り回されるやる気の無い男終夜の姿が中心に描かれます。彼女は異世界に散らばる勇者の居場所を見通せる特殊な能力を持っており、その力で終夜を含め4人の勇者を探し出すという使命があります。終夜が持つ異世界を自由に行き来する力を使い、異世界に散らばる残りの勇者を探そうというわけです。
最初はやる気のなかった終夜も、徐々にデレ始めます。仕方なくレウルーシカに協力し始めるわけです。ベタな展開を一捻りさせる本作品であっても、やはり締めるとこは締めるといった感じで、レウルーシカも徐々に協力してくれるようになる終夜に好意を抱き始め、途中からはニヤニヤが止まらない関係になっていくのです。こういう展開はしっかりベタのままで好感が持てます。
ここまで解説してきた部分がつまり、本作品の魅力そのもの。ベタな展開にほんの少し捻りを加えただけで、物語の様相がガラッと変わってしまう部分が実に面白いのです。ベタな展開になるかと思いきや、そこに捻りが加わると、思わず、そこそうなるのかよ!などとツッコミたくなります。しかもそういった部分以外はお決まりのパターンですから、召喚後の主人公とヒロインの間柄などは展開も読みやすく共感もしやすいわけです。
メインヒロインの勇者レウルーシカのお色気シーンも人気が高いそうですが、けっしてそれを前面に押し出しているわけではありません。キャラの内面なども細かく描写されていますし、後半は予想外に熱い展開が待っています。まず設定に少しでも興味を持たれた方は手に取ってみてください。期待を裏切らない内容に仕上がっていると思いますよ。
人間と吸血鬼が昼と夜の時間にそれぞれ同じ場所で生活している世界が舞台の作品です。主人公、山森頼政は放課後、親の経営するコンビニの手伝いをしていました。そこで彼は同じ高校に通い、いつも紅茶を買っていく吸血鬼の少女が気になり始めます。
そして季節は夏になり、吸血鬼の時間、夜時間がサマータイムを導入しました。夜時間が早まることで、2人は出会い、月森は彼女の名前が冴原綾萌だと知ります。
- 著者
- 石川博品
- 出版日
- 2013-07-29
人間と吸血鬼、昼と夜。本来、12時間ずつ隔てられ接することのない2人が出会う物語です。異なる世界に生きる2人は、種族の差や、生きている時間の違いなど、それぞれの疑問を少しずつ解いていきました。
そうして知っていくうちに、2人は互いに気になる存在になっていきます。しかし知れば知るほど壁となるのは、種族の差であり、生きている時間の違いでした。同じ場所にいるはずなのに、ズレた時間から想いを強めていくのです。届きそうなのに、近づけば近づくほど遠くなる2人の関係はあまりにも切なく、胸が締め付けられます。
思えば思うほど届かなくなるような、切なすぎる恋物語をぜひ本作でお楽しみください。
おかゆまさきのデビュー作である本作は、難しいことは全く描かれない、とにかくおバカな物語。未来から来たという美少女天使と主人公が、彼らを取り巻く奇想天外な登場人物たちとドタバタ劇を繰り広げるコメディ作品です。
近い未来に、少女の成長をロリ体型でとどめる薬を開発してしまう主人公、草壁桜。彼は自分の意志とは無関係に偶然それを作ってしまうことになるのですが、そんなことはおかまいなしに、彼の凶行を阻止すべく未来の世界から天使が訪れます。桜の机の中から現れたその美少女の名はドクロちゃん。彼を抹殺するためにやってきたはずの彼女は、実は彼に思いを寄せており……。
- 著者
- おかゆ まさき
- 出版日
こうして王道パターンで始まった物語ですが、冒頭からすでにドクロちゃんの設定はぶっ飛んでいました。彼女は彼を想うと感情が高ぶり撲殺してしまうという撲殺天使だったのです。愛用の撲殺バット、エスカリボルグの一振りで桜の五体はみじんに砕けます。なお、こちらは比喩ではなく本当に砕けます。しかし謎の呪文「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪」によって、桜は蘇生。こうやって幾度も主人公が撲殺されながらも物語が進んでいく、破天荒な作品なのです。
まず最初に一言添えておきますが、小説をこよなく愛好するみなさんは心してください。この作品は非常に型破りな作品です。世界設定やキャラクター設定もそうですが、物語や文章表現に至るまですべてが型破り。これを許容できるかどうかで、本作の価値が決まると言っても過言ではないでしょう。以下に、作中の型破りと思われる一文をご紹介します。擬音を多用した一見稚拙な文章に見えますが、本作品のテイストには合っています。
「はいはいはいはいはい!はい、松本!ドクロちゃんの今日の下着の色は何ですか!」
ドカボコバキグボ!!(松本が女子生徒に殴られる音)
「(ぽつりと恥ずかしげに)黒……(ドクロちゃん)」
「うおおおおお!!(男子生徒一同)」
ドカボコバキグボ!!(僕が男子生徒に殴られる音)
「痛い痛い痛い痛い!(僕)」
(『撲殺天使ドクロちゃん』第1巻より引用)
小説の繊細な文章表現や巧みな言葉使いなどに価値を見出す人にとっては、拒絶反応が出やすい作品といえます。さらに、登場するヒロインはロリ系の美少女ばかりで、お約束の微エロな展開&下ネタギャグが目白押しです。
以上のことから、とにもかくにも読み手を選ぶ作品であるということは間違いありません。しかし個性的な文章や、とにかく何もかもがぶっ飛んだ作風である本作品をこよなく愛する読者も多く、名作としても名高い作品なのです。
正直女性向けとは言い難い作品ですが、何か面白い、新しい作品に出会いたいと思っている方は、男女を問わずどうか広い心で本作品を受け入れてみてください。難しい話ではありません、文章表現や堅苦しいルールにこだわりさえしなければ、かわいいヒロインたちと一緒に今までにない、ぶっ飛んだドタバタ劇を体感できるのです。
電撃ゲーム小説大賞(現・電撃小説大賞)受賞作です。手代木史織によって『キーリ 死者たちは荒野に眠る』というタイトルで漫画化もされている作品です。本作では霊感の強い少女と不死人、ラジオに憑依した霊の3人が冒険をし成長していく心暖まる物語が語られていきます。
冬休みに入った1日目、幼いころから霊感が強く霊が見える少女キーリが、ひょんなことから不死人ハーヴェイと出会います。彼と同行していた、小型ラジオの憑依霊である兵長を含めた3人の、戦場墓場への旅が始まっていき……。
- 著者
- 壁井 ユカコ
- 出版日
80年前の戦争で生き残った不死人と、戦死者の霊である兵長、そして霊が見えるという得意な体質を持った少女。それぞれの理由で頑なになり、心が冷めてしまっていた3人は、旅をする中で様々な霊に出会います。死者の想いと接するうちに、3人が徐々に心を通わせていくお話は、時に残酷な描写や血が飛び交うようなシーンがあるにも関わらず、読み手の心が暖まる、不思議な魅力に包まれています。
まず特筆すべきは、文章の安定感でしょう。独特の世界観を淡々と語り進めていく文章は、著者の高い表現力を物語っています。次に目に留まるのは、女性著者ならではの細やかな心理描写。主要登場人物である3人のそれぞれの関係、特に、キーリとハーヴェイがお互いを想い合う気持ちを表現している部分は秀逸です。単純な甘い愛情表現などだけではなく、苦味や酸味といった、いろいろな要素を含んだ味のある文章だと例えることができます。
「戦争」「死者」「霊」など、ホラー作品とも取れるテーマを扱った本作品は、その悲哀に満ちたテーマとは裏腹に、登場人物3人の心の内側を丁寧に描いた感動作です。派手な演出などもなく淡々と進んでいく物語は、ライトノベルでありながら、純文学作品に近い万人向けの様相を呈しているのです。ライトノベルはちょっと物足りないという方も、この作品なら満足できるかもしれませんね。
タイムトラベルを扱うSF小説です。人の意識だけが時間移動を繰り返すという着眼点が高い評価を受け、1997年には同タイトルの映画も公開されました。ひとりの少女が昨日の記憶を失っていることに気付いたことで、物語は動き始めます。
ある朝、主人公の少女鹿島翔香が目を覚ますと、目の前には男の顔があり、彼女は彼とキスをしていました。そのことに驚いた彼女はあわてて男を平手打ちにしますが、彼はなぜか笑い転げるのでした。
そうやって始まったお話は、翔香が自分の置かれている立場を理解することで徐々にミステリーの様相を見せ始めます。なぜ昨日の記憶を失うのか、なぜ過去の自分は若松和彦を頼れと言うのか……。記憶を失ってしまう少女翔香と、秀才で名の通った男和彦が、時間のパズルを解き明かしていく本格ミステリーが幕を開けていきます。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
作中で経過する時間は、たったの1週間。その短い間に、幾度となく翔香の意識は時間移動を繰り返します。1週間の間の様々な時点に移動することそれ自体が一つひとつのピースとなり、読者を最終的な回答へと導いていきます。張り巡らされた伏線が回収され、パズルが完成していく感覚にも似た爽快感を得られる点が本作最大の魅力といえるでしょう。
秀才和彦の論理的な考え方で進行していくストーリーは、ほとんどスキがなく、知的で魅力的です。しかも、SF要素を踏まえながらも、いわゆるライトノベル作品にありがちな派手な演出や大掛かりな設定などはありません。実にシンプルに仕上がっています。シンプルにまとまっているがゆえに、クールで知的な和彦のキャラクターが際立つのでしょう。そういった落ち着いた作品ですから、ライトノベル初心者にもおすすめできます。
若い男女が主役のお話ですから、当然ボーイミーツガール作品としても機能しています。いきなりキスシーンから始まるお話ですので、のっけから期待をさせてくれる感は十分です。協力して時間の謎を解き明かして行く間に、ふたりがどう接近していくのか、読み応え抜群の内容となっていますので楽しみにしていてください。
もしこれらの作品をご存じないとしたらもったいない!と思い、ご紹介させていただこうと思った次第です。電子書籍なら気軽に読めますし、どうでしょうか、1冊だけでもお試しになってみませんか?