1980年代から活動している女性漫画家。線の細いタッチで描かれた絵が特徴的で、主に少年少女の恋愛を優しい視点で描いており、幅広い層から愛されています。今回はそんな作者の、優しいおすすめ漫画をランキング形式で5冊ご紹介!
1986年に『ちはやぶるおくのほそみち』でデビューした女性漫画家です。このデビュー作は高校在学中に描かれたもので、デビュー当時の年齢は弱冠19歳でした。
デビュー後は主に集英社系の少女漫画誌で活動をしていましたが、2000年代に入ってからは青年誌でも連載を持つなど、活動の場を広げています。
また2009年には、同じく漫画家である夫の青木俊直、その他親交のある志村貴子やイシデ電、岩岡ヒサエらと「腹ペコ戦隊はしレンジャー」という同人サークルを作り活動していました。
上記のように年々活動の幅を広げていく谷川史子の描く漫画は、オムニバスが多いことで有名です。非常に短編作品の多い作家で、短編でわき役を務めた登場人物が別の短編で主人公を務めることなどもよくあります。
作風としては、会話のシーンなどでは極力背景がカットされているのと、ほのぼのとした日常のなかで相手のことを思い返していくという、どこか脱力感を感じられながらも重厚な描写が特徴。
また、あとがきとして描かれる近況報告おまけ漫画「告白物語」がほぼすべての単行本に収録されているのも、谷川史子を語る上では外せない特徴でしょう。
まず5位は『ブルー・サムシング』。表題作の他、「おかえりなさい。」「海は空を映して青い」「途中の棲家(前後編)」「ほしのゆくえ」の4作(+告白物語)が収録されています。
表題作は以下のようなストーリー。
付き合いやすくていい人だけれどデリカシーのない男。そんな元夫の再婚を知らされた主人公の一花は、自分と彼との短かった結婚生活を振り返り、「彼のことが大好きだったんだ」という自分の気持ちに気付くことになって……。
大好きで大切な彼の結婚をきちんと祝福してあげる主人公の、心の強さと優しさをいっぱいに感じられる作品です。
- 著者
- 谷川 史子
- 出版日
- 2015-07-24
表題作の他には、家を出ることになってしまった無職の女の子が、部屋を探していくなかで成長していく姿を描く「途中の棲家」がおすすめ。
「途中の棲家」は、前後編の作品。前編は主人公が親切な不動産屋さんに助けられながら、部屋を見つけてひとり暮らしを始めるまで。
後編は、ひとり暮らしを始めた主人公のおこなうバイトがすべてうまくいかず、前編でお世話になった不動産屋に入り浸っていたところ、ひょんなことから自分の得意なことを見つけ自信を取り戻していくお話です。
自分のやりたいことが見つからない主人公が、周りのフォローもあって成長し、夢を見つけていきます。後述の『清々と』にも通じるところがある「途中の棲家」は、やりたいことが見つからなくて焦っている人、これからひとり暮らしを始めようと思っている人たちにおすすめしたい作品です。
4位は『おひとり様物語』。彼氏がいない、結婚してない、遠恋中で彼氏と会えないなど様々なシチュエーションのおひとり様女性を主人公にした短編集です。2018年6月現在既刊7巻。
基本的には1話完結なのですが、たまに連作があったり、登場人物が再登場したりもするので、1巻から読むことをおすすめしておきます。
- 著者
- 谷川 史子
- 出版日
- 2008-10-10
たとえば1巻の1話は、書店で働く28歳のおひとり様。彼氏なんかいなくても気ままにひとりで外食したり、映画を観に行ったりとおひとり様を満喫しているのですが、それでもたまにこう考えたりもします。
「どこかで自分はさみしい人間だと思っているんじゃないのか」(『おひとり様物語』1話より引用)
どこにでもいそうな、そして誰しも共感できる想いを持った女性のお話です。
ですがそんなときに、後輩からこんなことを言われます。
「今日ずっと山波さんのこと考えてました」(『おひとり様物語』1話より引用)
そして彼女は「わたしはセカイにひとりぼっちじゃないんだ」と救われていくのです。この話の結末のように、どこか儚げな希望こそが『おひとり様物語』全体を通して描かれるテーマであり、本作品集の醸し出す優しさの根源といえるでしょう。
自分を見ていてくれている人は意中の男性ではないかもしれないけれど、友人や家族、大切な人はきっとあなたを見守ってくれていると感じられるでしょう。そういった意味では「おひとり様」になるのは実は難しいことなのかもしれないなと思わされる優しい短編集です。
3位は『くらしのいずみ』。作者初の青年誌に掲載された作品です。さまざまな形の結婚、夫婦生活を描いた7作を収録した短編集となっています。
本作では特に4作目「矢野家」がおすすめ。3作目「高橋家」に登場する予備校講師が、結婚後すぐに亡くなってしまった妻との過去を回想するお話です。
- 著者
- 谷川 史子
- 出版日
- 2008-01-28
もともと体が小さく弱かった妻は、若くして結婚したにもかかわらず、わずか3年で亡くなってしまいました。そんな奥さんとの結婚生活の回想と、現在の主人公を交互に描きながら話は進んでいきます。自分の幸せよりも、妻の幸せをひたすらに願う主人公の想いには、どんなに覚悟をしても泣かされてしまいます。
上記のように様々な夫婦の話なのですが、どの話にも、根底には他者を愛する気持ちが流れています。相手の本心は口に出してもらわないと読み取れないけれど、それでもお互いを想いあって生きていたふたりに、結婚と家族のあり方を感じます。それと同時に家族の形はいろいろあるんだなとも考えさせられる短編集です。
女性だけでなく、男性にも読んでいただきたい一冊。相手のことを思いやりながら互いに生きていく素晴らしさを本作で感じてみてはいかがでしょうか。
2位は『忘れられない』。表題作他、友人の結婚式をきっかけにその友人への恋心に気付く「春の前日」など3編を収録しています。
表題作のあらすじは、以下のようなもの。
毎年1日だけ母が帰ってこない日があるのですが、今年に限っては何日も帰ってきません。毎年母がいなくなる日の理由を知った主人公は、今は友達として付き合っている元カレを呼び出すのでした。
少しネタバレをしますと、母親が家に帰ってこない理由には、忘れられない過去が関係してきます。そして主人公が元カレに対して抱く、忘れたくない過去の思い。このように両者とも忘れられない過去を胸に秘めたまま生きているのです。
- 著者
- 谷川 史子
- 出版日
- 2012-05-25
人間誰しも忘れることのできない過去、忘れられない恋愛感情があるでしょう。
「その人との時間をひっくるめてあなたです」
「だって忘れたことなんてなかった。きっと一生忘れられない。それでいい」「忘れられないままで生きていく」(『忘れられない』より引用)
1つめの父のセリフ、そして2つめの主人公のセリフは、「忘れないままで良いんだ」というエールになるのではないでしょうか。
忘れられないあのときの記憶が今の自分を形作り、応援してくれていると気付かせてくれる表題作は、作者の短編のなかでも屈指のおすすめ作品です。
1位は『清々と』。「さやさや」と読みます。谷川史子作品では珍しく、短編ではなく長編で描かれた漫画です。
本作は憧れの名門女子高に入学したものの、周りはお嬢様だらけでちょっと気後れしてしまっている主人公・清(さや)が、友人との交流や恋愛をとおして成長していくさまを描いた正統派な学園漫画。茶道や社交ダンスが得意なお嬢様だらけの環境のなかで、「わたしにはそういった特技はなにもない」とへこみながらも、自分のやりたいこと、好きなことを自分のペースで探していきます。
- 著者
- 谷川 史子
- 出版日
- 2009-12-28
谷川史子の他の漫画の例に漏れず、この作品も出てくる登場人物たちは皆さやを温かく見守ってくれ、悩んでいるときには助言をしてくれるような優しい人物ばかりです。そんな登場人物たちが、不器用ながらも全力で頑張っていく様子は、読んでいるこちらも「頑張ろう!」と思わせてくれることでしょう。
清は作中で、とある人物に恋をするのですが、はたして清の取った行動とその結末はどうなるのでしょうか。最後まで清がひたすらに頑張って、報われていく。生きていくうえで必要な温かさを感じさせてくれる、1位にふさわしい傑作です。
いかがだったでしょうか。谷川史子の作品は、出来る限り作中から悪意を排除して、優しさに満ち溢れたものです。優しい作品が好きな方や、生きていくうえでのちょっとした幸せを探している方は、その答えの一端を見つけることができるかもしれません。