『このライトノベルがすごい!2017』で14位にランクインした「青春ブタ野郎」シリーズ。高順位ではありますがクォリティに比してまだまだ過小評価されていると言えるでしょう。 2018年10月にはテレビアニメが放送された本作は、2019年6月に初の劇場映画が公開されることが決定しました! 今回は順番がわかりにくいことに定評のある本作を順番に紹介していきます。
鴨志田一の傑作ライトノベル「青春ブタ野郎」シリーズの紹介をするうえで、まず把握しておきたいキーワードがあります。それは「思春期症候群」です。
思春期症候群というのは、作中で発生する都市伝説のようなもの。発症すると、まわりから姿が見えなくなってしまったり、ドッペルゲンガーが発生してしまったりします。
「青春ブタ野郎」シリーズは、主人公の元に思春期症候群に関する相談が寄せられ、主人公が解決に奔走するという風に展開していきます。
はじめに順番がわかりにくいことに定評がある本シリーズの刊行順は以下。
第1巻『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』
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第2巻『青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない』
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第3巻『青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない』
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第4巻『青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない』
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第5巻『青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない』
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第6巻『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』
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第7巻『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』
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第8巻『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』
2018年にテレビアニメ化した本作は、2019年6月に初の劇場映画『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』が公開されることが決定しました!
この記事では、アニメ化も絶好調な「青春ブタ野郎」シリーズを、作品刊行順に紹介していきます。
梓川咲太はゴールデンウィークの最終日に図書館で、野生のバニーガールと出会います。バニーガールの正体は、咲太の1年先輩で国民的女優の桜島麻衣でした。
図書館にいる人たちが麻衣に気づいていない様子であることを不審に思っていた咲太に、麻衣は言います。
「君にはまだ私が見えてるんだ」
- 著者
- 鴨志田 一
- 出版日
- 2014-04-10
「青春ブタ野郎」シリーズのメインヒロインとなる麻衣は、思春期症候群を発症し、まわりから見えなくなってしまいます。
主人公の咲太は、麻衣の思春期症候群を解決すべく奔走していくわけですが、咲太の活躍が本作の一番の魅力というわけではありません。もちろんそれも大きな魅力のひとつではありますが、本作の魅力はむしろ会話劇にあると言えるでしょう。たとえば以下のようなやりとり。
「国見はバニーガール好きか?」
窓の外に視線は向けたままで咲太は尋ねた。
「いや、そうでもない」
「なら、大好きか?」
「ああ、大好きだ」
(『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』より引用)
こういった何気ない会話のセンスが抜群なのです。
1巻で麻衣の思春期症候群を解決した咲太は、2巻以降でも、各巻ひとりずつ、思春期症候群を解決していきます。そして、各巻のヒロインたちが主人公に好意を抱いていくというハーレム展開に進んでいきます。
主人公が都市伝説を解決。会話劇が秀逸。ハーレムもの。と言うと、ライトノベルファンであればピンとくる作品があると思います。そう『化物語』です。本作は、「物語」シリーズが好きな方であればきっと楽しめるであろう作品になっています。
特に1巻は、ラストの解決が「青春ブタ野郎」と呼ぶにふさわしい熱い方法によってなされます。笑えて、一気読みして、熱くなれる。そんな本作を全力でおすすめさせていただきます。
目が覚めると、咲太は昨日に戻っていました。周囲の人間はいつもと変わらない様子で、どうやら咲太だけが同じ日を繰り返しているようです。
同じ日を三度繰り返した咲太は、同じくループ現象を経験している、1年後輩の古賀朋絵を見つけ……。
- 著者
- 鴨志田 一
- 出版日
- 2014-08-09
本作のヒロインはプチデビル後輩こと古賀朋絵。主人公が浮気する展開なのか、と不安になられた方、ご安心ください。メインヒロインの麻衣のポジションは不動です。
近年流行っているハーレムライトノベルのトレンドとして、『化物語』の戦場ヶ原ひたぎや『ソードアート・オンライン』のアスナなど、盤石なメインヒロインがいるものがありますが、「青春ブタ野郎」シリーズもその例にもれず、メインヒロインは麻衣一択です。タイプとしては、サディスティックな戦場ヶ原と完璧なアスナを足して2で割った感じでしょうか。なんにせよ、非常に魅力的なヒロインです。
話を戻しましょう。2巻のヒロイン古賀朋絵の魅力はなんといっても方言にあるでしょう。
「一応聞くけど、古賀に心当たりはないのか?」
「いっちょんわからん」
「なんだって?」
「ぜ、全然わかんない」
(『青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない』より引用)
シリーズの流行語として一世を風靡する「いっちょんわからん」が披露された瞬間でした。
方言女子のプチデビル後輩の魅力が満載で、メインヒロイン麻衣との関係も進展する2巻。1巻が気に入った方は即買いしてまず間違いはないでしょう。
麻衣とふたりで歩いていた咲太は、コンビニ袋を手にネットカフェに入っていく友人双葉理央の姿を見かけます。不審に思った咲太はネットカフェに入っていき、双葉に電話をかけました。
普段通りの様子の双葉と電話をしていた咲太でしたが、目の前で双葉が個室から手ぶらで出てきます。問い詰めると双葉は「私がふたりいるんだ」と話し……。
- 著者
- 鴨志田一
- 出版日
- 2015-01-10
本作のヒロインは双葉。と言っても、咲太との間に恋愛感情はなく、純粋に友人という関係です。ハーレムものの中で、主人公と女性キャラの間に友情が成立するというのは珍しいのではないでしょうか。
3巻の見どころは、咲太と麻衣の同棲生活でしょう。双葉の話じゃないの?と思われるかもしれませんが、これがなんとも自然な流れで麻衣との同棲生活に展開していくのです。
思春期症候群を発症してしまった双葉は、片方は実家にいますが、もうひとりの双葉はネットカフェで寝泊まりをしています。見かねた咲太は、自分の家に来るように提案。
咲太は妹とふたりで暮らしているので、双葉ひとりを泊めることに抵抗はないわけです。それを聞いていた麻衣は、恋愛感情がないとはいえ、同い年の女の子が彼氏の家に泊まるのは嫌だということで、自分も泊まると言い出します。こうして、期間限定の同棲がスタートするのです。
もちろん本作でもテンポのいい会話劇は健在。咲太、麻衣、双葉、そして妹のかえでが一緒に生活するという展開で、面白くないはずがないのです。
「あんた、誰?」
夏休み明けの9月1日。マンションの前で顔を合わせた咲太に麻衣は言いました。
混乱する咲太に、後ろから現れた金髪の少女が言います。
「その子は、豊浜のどか」
「私とこの子で体が入れ替わってるのよ」
- 著者
- 鴨志田一
- 出版日
- 2015-05-09
本作のヒロインは麻衣の姿をした豊浜のどか。のどかの中には麻衣が入っています。ようするに『君の名は。』です。「入れ替わってる~!?」です。本作の発売は『君の名は。』公開の1年以上前になりますが。
入れ替わりものというのは定番ジャンルのひとつですが、主人公ではないキャラクター同士が入れ替わるというのは珍しいかもしれません。入れ替わるふたりがメインヒロインとその妹というのもポイントでしょう。しかもそのふたりが姉妹喧嘩をしてしまい、例によって、のどかの姿をした麻衣は咲太の家に泊まりに来ることになります。
入れ替わりが発生した原因は、のどかが麻衣に対して抱く憧れとコンプレックス。麻衣のようになりたいという思いが高じて、麻衣と入れ替わってしまったのです。
今回の解決ポイントはのどかの成長になるわけですが、成長は自分でするしかなく、姉である麻衣も、特に自分が原因であるがゆえに手を出せないという状況にあります。見どころとしては、のどかの成長と姉としての麻衣ということになるでしょう。
ベタかつシンプルなストーリーになりますが、多くの人が抱いたことがあるであろうコンプレックスを気持ちよく解決していく過程に好感の持てる4巻となっています。
「今日は、かえでから重大発表があります」
2年間家に引きこもっていた咲太の妹かえでは、緊張した面持ちで「今年の目標」を発表しました。ノートにぎっしりと書き込まれた目標。最後の行には小さな文字で「学校に行く」とありました。
- 著者
- 鴨志田一
- 出版日
- 2015-09-10
本作のメインは妹のかえで。シリーズを読んできたファンにとっては満を持しての5巻と言えるでしょう。5巻というところが絶妙ですね。ここまでの4巻は、かえで=引きこもり、というイメージを読者に刷り込み、かつ、かえでが徐々に咲太以外にも心を開いていく過程を丁寧に描くというものでした。丁寧に描いていたがゆえに、引きこもりの女の子が学校に行く困難さに、リアリティと説得力が出ているのです。
もちろんメインはかえでが家の外に出ていくというお話なのですが、本作のもうひとつの見どころは咲太の初恋の相手翔子とのエピソードでしょう。
かえでのエピソードも1巻から伏線が張られていたわけですが、同様に翔子のエピソードも1巻から伏線が張られていました。少し複雑なのですがまとめると、咲太が今の高校に入ったきっかけは2年前に翔子に救われたことでしたが、高校に入ってみると翔子の姿はありませんでした。翔子に会うことをなかば諦めていた咲太の元に、高校生の翔子と同じ顔をした中学生の翔子が現れて……というのがここまでの流れ。
2年前に翔子に救われたと書きましたが、その時のエピソードがめちゃくちゃ素晴らしいので引用します。
「わたしの人生にも、決して大きな夢や希望はありませんでした」
どういう意味か気になった。でも、質問は言葉にならない。こちらを向いた翔子と目が合い、首を横に振られてしまったのだ。
「それでも、わたしは自分の人生に意味を見つけられました」
「……」
「わたしはね、咲太君。人生って、やさしくなるためにあるんだと思っています」
「……やさしく、なるため」
「やさしさにたどり着くために、わたしは今日を生きています」
「……」
「昨日のわたしよりも、今日のわたしがちょっとだけやさしい人間であればいいなと思いながら生きています」
(『青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない』より引用)
「人生の意味」というものに対する最も完璧な答えのひとつではないでしょうか。「青春ブタ野郎」シリーズは、しょせんライトノベルとバカにできない深みを持った作品と言えるでしょう。
時間をかけて張られた伏線を回収した本作で一気に傑作への階段を駆け上がっていきます。
大学生の翔子が咲太の家に居候をすることになります。そこにタイミング悪く麻衣がやって来て、咲太の家は修羅場に。
目の前の翔子は、中学生の翔子と同一人物なのか?それとも似ているだけの他人なのか?そんな疑問に翔子は答えます。
「わたし、時々、大きくなるんです」
- 著者
- 鴨志田一
- 出版日
- 2016-06-10
これまでの伏線を根こそぎ回収していく、シリーズファンにはたまらない6巻。伏線回収の気持ちよさも大きな魅力ではありますが、恋愛パートの秀逸さが最大の見どころでしょう。
三角関係の緊迫感、キャラクターの心の動きが非常に良く書けているのです。先に『化物語』と『ソードアート・オンライン』と同じタイプのハーレムものということを書きましたが、恋愛パートに関しては、同じくライトノベル史に残る傑作と言っていい両作と比較しても頭一つ抜けていると言えるでしょう。
この巻がこれまでの5巻と明確に異なる点として、思春期症候群が解決しないということが挙げられます。これまでの5巻は、次巻への引きや伏線はありましたが、基本的には1巻完結でした。それが6巻では7巻とセットで前後編とでも言うべき構成が取られているのです。
6巻のラストにはシリーズ最大の衝撃が待っています。6巻を読んで7巻を読まない人はまずいないのではないかというラストです。ですので、紙の本で読まれている方は、6巻と一緒に7巻を購入することをおすすめいたします。近所の本屋が閉まった後に6巻を読み終えてしまいますと、寝れない夜を過ごすことになってしまいますので。
【ネタバレ注意】
これより後は6巻の重大なネタバレを含みますのでご注意ください。
車に轢かれそうになった咲太をかばった麻衣は亡くなってしまいます。
絶望する咲太の元にやってきた翔子は語りかけます。
「行きましょう。麻衣さんを助けに」
- 著者
- 鴨志田 一
- 出版日
- 2016-10-08
メインヒロインが死ぬという衝撃のラストを引き継ぐ形で始まった7巻は「青春ブタ野郎」シリーズ第1シーズン完結とでもいうべき作品。
めちゃくちゃ重い展開で始まり、最後はちゃんとハッピーエンドまで持っていく手腕はさすがと言うほかないでしょう。ハッピーエンドになるだろうなと思いながら、それでもどうなるかわからず、早く解決して欲しいと願いながら、一気に読み進めてしまえるだろうと思います。
作者の鴨志田一はもちろん素晴らしい仕事をしていますが、イラストの溝口ケージもめちゃくちゃいい仕事をしてくれています。現在のライトノベル界で最高級の物語と最高級のイラストが相乗効果をもたらしているのです。
「かえで」から「花楓」へと戻って日常の生活に戻っていくことになった咲太の妹。第2シリーズスタートということで、8巻では7巻のおさらいと花楓が一歩踏み出す様子が描かれます。
今まで引きこもって自分の世界で完結していた彼女が、咲太と同じ学校に行きたいと言い、新たな道を歩み始めます……。
- 著者
- 鴨志田 一
- 出版日
- 2018-04-10
第2シリーズは、花楓のエピソードから始まります。しかし本格的な新シリーズスタートというよりは、そのための序章という立ち位置くらいでしょうか。
8巻でメインとなる花楓は、解離性障害という心の病気を患い、引きもりだった少女。それゆえに、自分が自分であるという感覚が希薄な状態でした。
本作の見所は、そんな障害を抱えた花楓が、それを乗り越えていく様子が丁寧に描かれています。彼女が咲太と同じ学校に行きたいと言った理由も、泣けるものがあります。
そんな花楓のエピソードも見所ですが、今後の展開に関わってきそうな伏線にも注目すbできではないでしょうか。それが麻衣の面影がある小学生と、霧島透子という人物。
ランドセルを背負ったJS麻衣については、萌え要素でストーリーに盛られたという可能性もありますが、症候群関連ではないかと思われる描写もあり、今後の展開が気になります。
また世界軸によって設定に変化がある霧島透子。意味ありげに要所要所で登場してきます。
花楓の成長と、今後の展開に期待が膨らむ内容です!