近代文学おすすめ作品4選!入門編!

更新:2021.12.17

文豪たちによって書かれた近代文学。時代を超えて今なお愛され続ける名作の中でも、今回は初心者にとっておきのおすすめ作品を4作ご紹介していきます。

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悲恋の物語『舞姫』

森鴎外が自身の留学経験をもとにして書いたとされる作品『舞姫』。鴎外の代表的な短編作品です。

主人公の太田豊太郎は将来を有望視されているエリート官吏。豊太郎はドイツ留学中、地元の貧しい舞姫エリスと出逢い、その不幸な身を手助けするうち、2人は恋に落ちます。ささやかながら愛情を深めて過ごす幸せな日々は続いていくかに見えました。

しかし、立場の違いすぎる2人を周囲が快く思うことはなく、中傷から豊太郎は職を失うことになります。幸い親友の手助けで新しい職を手にしたものの、豊太郎は自分の将来を守るか、愛する女性を選ぶかの狭間でもがくことになります。立身出世のために来たドイツ、目の前には我が子をお腹に宿した愛する女性。いずれかしか選べない立場の豊太郎。そしてそのとき恩人と思っていた親友は……。

著者
森 鴎外
出版日

現代まで語り継がれる名作である理由のひとつとして、切なすぎるからこそ永遠に美しく、人々の心を離さなかった悲恋の物語であることが挙げられるのではないでしょうか。強く惹かれ合いながらも、なす術もない境遇の違いによって起こる悲劇は胸の張り裂けそうな痛みを伴います。この痛みは、舞台となるドイツの優雅な街並みとコントラストで絶妙に描かれるのです。

さて、悲恋の豊太郎は親友の相沢を恩人と呼びながら、恨む心も持ち合わせます。豊太郎が恨んでいるのは相沢なのか、それとも自分自身なのか。読み進めながら想像力を書きたてられる作品といえるでしょう。

少年は、過ちを犯す『一房の葡萄』

作者である有島武郎の幼少期がモデルとなっている『一房の葡萄』。作者初の創作童話作品です。

横浜の街に暮らす少年は内向的な性格で、周囲によく溶け込むよりは、いつもひとりで画を描くことを好んでいました。しかし手持ちの絵の具では、ある美しい海岸を思ったように描けません。そんなとき、外国人の同級生が高級な外国製の絵の具を持っていることを知ってしまうのです。悪いこととは知っているものの、少年は画を描き上げたい一心から絵の具を盗んでしまい……。

著者
有島武郎
出版日
2011-04-15

少年は間違いを犯し、そしてそれが周囲に知れることになります。しかし先生の指導によって、立ち直れただけでなく新しい友達まで出来ることとなるのです。人を許し、許されるとは一瞬の出来事のようでいて人生の影響となりうるということが爽やかに描かれます。自分が少年の立場だったなら、あるいは周りでそうしたことが起こった場合、どうしたらいいだろうと思ってしまうことでしょう。

また先生の白い手に置かれた瑞々しい葡萄が少年の切迫した思いや安堵、そして甘酸っぱく多感な少年時代の比喩として効果的に現れている点も魅力的です。

太宰治が送る、希望が感じられる作品『正義と微笑』

無頼派と呼ばれることもある昭和を代表する小説家太宰治による『正義と微笑』。彼の弟子の弟の日記を元に書かれた16歳から17歳の少年が主人公の青春物語です。時代が変わろうとも、少年の感じやすい心は変わらないもの。悩みとは、ほかの誰も知ることはない自分だけの特別なもの——。誰しもが通過したどこまでも青く純粋な心情が描かれます。

少年は夢や未来、また進学すべきかの悩みで頭はいっぱい。学校に対して、友人に対して、自分に対して、目まぐるしく変化する日々を送る様子が、感情的でユーモラスな10代ならではの切り口で進められていきます。身近な家族の支えも頼ってもがきながら徐々に成長していく少年の姿は、どこか自分と重なるかもしれません。生きる力がパワフルで爽やかに心に響いてくる、明るい希望の物語です。

著者
太宰 治
出版日
2016-07-20

人によっては『人間失格』に代表されるような、暗いイメージが強い作家かもしれません。しかし本作では、16歳の主人公が希望に溢れるものの象徴として登場するのです。目標に進む主人公の未来の明るいこと!快活な文体で、時代を超えても読む人をワクワクさせるものがあります。思春期ならではといえる浮き沈みの中で、少年が繰り広げるドタバタの日常。家族の支えは作品全体にほんのりと温かみを添えていきます。

青春を描いた物語は、大人になってから読むと懐かしい心情だけでなく、当時の想いはこういうことだったのかなどとまた違った気付きが得られるものです。近代文学、純文学のジャンルの入門にも読みやすいおすすめの作品です。

ひとつの時代と、その終焉『細雪』

舞台は、第二次世界大戦頃、大阪でかつて栄華を誇った旧家。それぞれの結婚観を巡った個性豊かな4姉妹の日常が、豪華絢爛に描かれていきます。壮大な世界観は、これまでにも映画やTVドラマなどで何度も扱われているものです。

大阪船場のかつての名家の美しい4姉妹が織りなす、それぞれの生き方。絶妙に交わる妖しい魅力と交わりきらない孤独感が、読み物でありながら絵画を見ているかのようなに表現されています。そしてやがて、時代背景や地域の風習を含めた古き良き日本が優雅の優雅さに、時の移ろいによって落とされる影。4姉妹とその時代が絶妙に絡められていきます。

著者
谷崎 潤一郎
出版日
1983-01-10

谷崎潤一郎は、そこにあるはずのない「色」を鮮やかに想像させる作品が多くあります。文字の世界は白黒であっても、作者の文体に引き込まれ、ため息の出るような豪華な景色が心をわし掴みにしてきます。

おっとりした者から自由奔放な者まで、4姉妹の個性がはっきりと分かれているのも、この作品の魅力の一つといえるでしょう。次第に宿命にも明暗が出てくる点も、なんともドラマチックです。

戦時下、言論統制によって軍から発表禁止とされながらも、著者が書き綴った大作である本作。いまの時代だからこそ一度は手にしておきたい名作です。

どんなに時間を経て環境が変わっても、人間の本質は変わらないものと知らされる名作。1度は人生で出逢っておきたい近代日本文学の収穫から、おすすめ作品をご紹介しました。ぜひあなたの人生をより豊かにする本と、友人のように心で語りあってみてくださいね。

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