ライトノベルの草分けである、ソノラマ文庫からデビューした菊池秀行。その作風を語る上で欠かせない要素が、エロスとバイオレンスです。また、クトゥルー神話をモチーフとした作品も多く、ホラーでありながら幻想的な雰囲気も楽しむことができますよ。
菊地秀行は、1949年生まれ、千葉県銚子市出身の作家です。デビューは、1982年出版の『魔界都市〈新宿〉』。ライトノベルの先駆けともいえる作品を多く出版しています。
エロとバイオレンスは、菊地作品を語る上で欠かすことのできない要素として挙げられます。また、架空の神話形態であるクトゥルー神話にも造詣が深く、「魔界都市」シリーズや「妖魔」シリーズなど多くのシリーズに取り入れられている要素の一つです。ホラーやアクションも多く取り入れられており、様々なジャンルが融合された作風は、後続の作品に大きな影響を与えています。
様々な要素の絡み合う菊地作品ですが、どの作品においても世界観がしっかりと確立されていることも特徴です。初期に発表されたシリーズにはまり、10代の頃から今に至るまで追いかけ続けている読者も少なくありません。シリーズによっては数十冊にも上る作品でありながら、飽きさせずに読者を魅了し続ける作品を書き続ける菊地秀行は、日本における伝奇小説の確立に貢献している作家のひとりなのです。
『魔界都市〈新宿〉』は、1982年にソラノマ文庫から刊行された作品です。その後の菊地作品の舞台にもつながっていく入門書ともいえます。
舞台は、謎の大地震である魔震(デビル・クエイク)によって壊滅した新宿。魔震(デビル・クエイク)によって発生した亀裂により、新宿は妖気につつまれる土地となり、怪奇と暴力の支配する犯罪都市となっていました。ついた名前は、魔界都市。
- 著者
- 菊地 秀行
- 出版日
『魔界都市〈新宿〉』は、地球連邦首席の暗殺の企てに対抗すべく活躍する十六夜京也を描く物語です。主人公以外にも数々の美形キャラが脇役として登場します。その人気の高さから、主人公として個別のストーリーを持ち合わせるほどです。もちろん、本作の主人公である十六夜京也が活躍する直接の続編もあります。お気に入りのキャラクターを見つけ、そのキャラクターの物語に浸ることができる点も本作の魅力といえるでしょう。
ガイドブックが作成されるほどの完成度を誇る「魔界都市」シリーズ。菊地自身は、本書『魔界都市〈新宿〉』とほかの「魔界都市」シリーズは別物と考えてほしいと述べてはいるものの、全シリーズに共通の起点となる作品であることは間違いありません。
ジャンルは、官能&バイオレンス。バランスよく散りばめられた菊地のエロスとバイオレンスが物語のスパイスになっています。
主人公は、水月豹馬。「魔界都市〈新宿〉」を舞台とする「魔界都市」シリーズにも登場する人物です。ただし、「魔界都市」シリーズとはまた違った雰囲気を醸し出す物語であり、新宿一の用心棒ともいわれる水月豹馬の活躍からは目が離せなくなるでしょう。
- 著者
- 菊地 秀行
- 出版日
舞台は北海道。凄腕の用心棒である水月豹馬が、ヤクザの抗争に巻き込まれながら、とある美少女を守るため死闘を繰り広げます。ヤクザの抗争の背景に渦巻くのは、日本に古代から存在する伝説の種族が持つ技術を狙う陰謀。美少女はその秘密の鍵を握っているため、狙われることとなったのです。
豹のようにしなやかな動きをはじめ、驚異的な身体能力を誇る水月豹馬。しかし、魔人たちとの闘いにより何度も危機に陥ります。物語全体を通して水月豹馬の活躍は圧巻です。
また、「魔界都市」シリーズにも登場する膨大なエネルギーを発する念法という技が今作でも登場します。水月豹馬自身も魔界都市の住民としての一面も持ち合わせているため、『魔豹人』をはじめとする「妖魔」シリーズと「魔界都市」シリーズのちょっとしたつながりを垣間見ることもできます。つまり、魔界都市の外側から魔界都市の住民を見つける楽しみ方もできる作品なのです。
「エイリアン」シリーズである『エイリアン秘宝街』と『エイリアン黙示録』の合本である『トレジャー・ハンター八頭大 ファイル1』。メインは、冒険アクションでありながら、ホラー色が強めの味わい深い作品です。
主人公は、世界を股にかける世界屈指のトレジャーハンターの高校生八頭大。先祖代々トレジャーハンターをしてきた家系の出である彼は、代々集められた異能の科学技術を駆使して冒険します。一緒に冒険する相棒は、八頭大と同じくトレジャーハンターの血を引くヒロイン・太宰ゆき。二人そろってワルな一面がありますが、ともに優しさを持ち合わせているから憎めません。
- 著者
- 菊地 秀行
- 出版日
まず最初に収録されている『エイリアン秘宝街』は、八頭大を訪ねて来た太宰ゆきの祖父太宰先蔵が、八頭大に託し不思議な水晶片とこの世の生物ではない触手を巡る物語です。次に収録されている『エイリアン黙示録』は、秘伝の書を巡る物語になっています。
荒唐無稽な設定でありながら、しっかりとした骨組みで展開される物語が魅力。ティーンエイジャー向けの作品であるにもかかわらず、大人でも十分楽しむことのできる骨太な物語なのです。
「エイリアン」シリーズもとい「トレジャー・ハンター」シリーズでは、他シリーズと大きく異なる点があります。それは、主人公八頭大自身が特殊な能力を持ち合わせていないということ。その出自など特徴的ではありますが、ごく普通の高校生でもあります。そんな八頭大が曰くつきの秘宝を巡って戦う様には、手に汗を握りことでしょう。
著者の人気シリーズの一つ「吸血鬼ハンター」シリーズ。吸血鬼好きにはたまらない内容ではないでしょうか。天野喜孝の表紙に惹かれて手を取ってはまったという人もいるほどです。
様々な要素を内包した世界観は、菊地秀行ならではといえます。吸血鬼をテーマとしたゴシックホラー的要素にSF的世界観もプラスした作品は、1983年においては画期的であり、現在も数多くあるSFファンタジーの先駆けといっても過言ではありません。
- 著者
- 菊地 秀行
- 出版日
貴族である吸血鬼と人間が存在する未来が舞台です。主人公のDは、吸血鬼と人間との混血である「ダンピール」。法外な報酬により、ずば抜けた能力で貴族を殺す仕事を請け負う吸血鬼ハンターをしています。魔術も存在する世界の中で、Dが一振りの刀のみで戦う点も魅力的です。
2017年3月現在、シリーズの作品にはすべてDが付きます。永劫ともいえるDの旅に同行する気分を味わえるほどの作品数が揃っています。
『妖魔戦線』は、菊地の初期の人気シリーズの一つである「妖魔」シリーズの第一作。ユーモアやアクションなどほかの要素とのバランスが取れていながら、官能的なシーンも豊富で、アダルト色の強い作品です。
菊地作品には珍しい、美形ではない主人公が活躍します。平凡なサラリーマン風でありながら、膨大なエネルギーを発する念法を駆使し、数々の妖魔と対峙する強さを誇ります。他シリーズに顔は負けても、その強さは負けず劣らず。そこが主人公工藤明彦の魅力でしょう。
- 著者
- 菊地 秀行
- 出版日
- 2015-01-08
工藤明彦は、婚約者を妖魔に惨殺され、復讐に燃える男です。念法と愛刀「阿修羅」を駆使し、妖魔と対峙します。シリーズを通して工藤明彦と行動をするのは、女性ルポライター南風ひとみ。彼女は、工藤明彦に妖魔から救出された女性であり、自身の意思とは関係なく妖物化現象を起こしてしまいます。それを止めることができるのが工藤明彦なのです。
婚約者のような人を出さないために行動する工藤明彦の男気あふれる言動は、多くの読者を魅了するには十分。美形キャラではないからという部分を補って余りある強さは、目が離せません。
数百作品に上る膨大な作品を発表する菊地秀行。デビュー同時から現在まで続くシリーズも多く、絶版から合本による復刊本も多くあります。それだけの人気を誇るともいえ、今もその魅力にはまり続けている人々がいるということの表れではないでしょうか。