純文学のおすすめの9選!近代~現代まで初心者にも読みやすい作品

更新:2021.12.17

純文学は読んでみたいけれど、なんとなく読みにくいイメージはありませんか?今回は初心者にも読みやすく、グイグイ引き込まれる面白い作品を集めてみました。この機会にぜひハマると止まらない、奥深い純文学の世界を味わってみてください。

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純文学とは

純文学の定義はさまざまですが、基本的には、ストーリー性よりも芸術性、文学性を重視した小説のことを指します。

芸術性についてのクリアな定義は難しいですが、すでにある形式を壊して生み出した作品、はっとするような新しい視点、斬新で骨太な作品は、芸術性が高いとされるようです。

ちなみに、純文学を対象とした芥川賞を創設した菊池寛曰く「作家が書きたくて書いているもの」が純文学とのこと。

純文学の最高峰

世間を離れ、妻と慎ましく、どこか隠れるように暮らす先生。先生は無職で、これといって何もしていませんが、どこか人を引き付ける魅力ある人物です。その先生に取り付かれたかのように、「私」は先生のところへ通います。しかし先生は、何か秘密を持っているようでした。

時おり自殺した親友Kの墓参りに行く先生。先生の秘密は、亡くなった親友Kと関係があるのではないかと「私」は予感します。学校卒業後、故郷にいる私のもとへ先生から手紙が届きます。なんと手紙は先生の遺書でした。手紙には、先生の大学時代と、親友Kのこと、奥さんのことが書かれてあり……。

著者
夏目 漱石
出版日

時代を超えて読み継がれてきた本作は、1914年に出た作品で、現代とはかなり異なる時代背景です。それにも関わらず不思議と古くさい感じがなく、斬新で新鮮な感じさえあるのです。容赦ない人間描写や豊かな文章は、時代を超えて愛される理由を物語るようです。何度読んでも新しい発見がある純文学の最高峰を、ぜひお楽しみください。

太宰の生涯を色濃く反映した一冊

太宰治の代表作と言えば、名前くらいは誰でも聞いたことのあるのが、『人間失格』です。この作品があまりに有名で、なおかつ太宰自身の人生と主人公の送る人生が重なる部分があることから、太宰の自伝的小説であるという見方もされています。

私小説形式で、以前は太宰が心の赴くままに書き記したものだと言われてきましたが、後に膨大な量の草稿が発見され、練りに練った構想の上に仕上げられた作品だとわかりました。この作品の連載最終回の掲載直前に太宰治は自殺しています。そのため、この作品は太宰の人生を振り返った遺書と言えるのかもしれません。

著者
太宰 治
出版日
1988-05-16

この作品は、主人公葉蔵の写った三枚の写真を見比べるところから始まります。本編は「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」からなり、「第一の手記」の書き出しは、太宰治ファンの中では有名です。

「恥の多い生涯を送って来ました。」(『人間失格』から引用)

葉蔵は他人が理解できず、その苦悩から他人の前では「道化」を演じる決意をします。そうしてごまかし続けた人生を「恥」といっているのかどうか、解釈の仕方は様々です。しかし人間だれもが、他人を理解することなく、時には他人を理解したつもりになって生きているのではないでしょうか。

この作品が太宰ファンの心に突き刺さるのは、葉蔵の苦心と似たようなものが自分の中にありながらも、それを見て見ぬふりをしてきたという気持ちが、ファンそれぞれ自身、潜在的にあるからなのかもしれません。

空飛ぶ円盤に、宇宙人?

ある日、自分が宇宙人だと気づいた人々の物語『美しい星』。大まかに分けて、2つのグループの宇宙人がいます。人類を救いたいと願う大杉一家の父親重一郎は火星人、母親伊余子は木星人、息子の一雄は水星人、娘の暁子は金星人です。一方、人類を滅亡させるために地球にやってきたというグループは、助教授の羽黒、床屋の曽根、羽黒の教え子の銀行員の栗田。

大杉一家は、人間からの迫害を恐れて、自分たちが宇宙人であることがバレないように日々慎重に暮らしていました。しかし重一郎は高校の同窓会で、滅びゆく人類を力を合わせて救済しようといきなり熱弁。それから重一郎は人類を救済すべく宇宙友朋会を結成し、講演会を行うなどして注目を浴びます。その結果、羽黒、曽根、栗田に目をつけられて……。

著者
三島 由紀夫
出版日

人類を救いたいグループと滅亡させたいグループの、それぞれの心の動きが興味深い本作。物語が進むにつれて、ストーリーは複雑になり、謎を解いていくような面白さがあります。

本作のクライマックスにある、両者によるディベート。これでもかこれでもかと烈しいやり取りが続きます。火花を散らし、徹底的に人間をえぐり出す言葉の力は、SFでありながら現実感があるのです。同時に三島のきめ細やかな表現力は、うっとりする美しさがあります。

本の伝統文化を重んじ、堅実で華やかなイメージがある三島ですが、超常現象に興味があり「日本空飛ぶ円盤研究会」に入会し、空飛ぶ円盤に熱中していたとか。本作では三島のSFへの情熱がいかんなく盛り込まれ、普遍的な人間の心理が巧みに描き出されます。

村上春樹のデビュー作

日本だけでなく、今やその知名度は世界的な村上春樹。ノーベル文学賞の候補に見なされているほど、高く評価されています。群像新人賞を受賞したデビュー作『風の歌を聴け』は、そんな村上の旨みがギュッと詰まった瑞々しい作品です。

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」(『風の歌を聴け』より引用)

印象深い出だしから、スタートする物語。大学生だった頃の「僕」が心に残る人々との交流について語ります。鼠というニックネームの友達とビールを飲み、小指のない女の子を介抱し、後にふたりは親しくなり、そして彼女は姿を消しました。

著者
村上 春樹
出版日
2004-09-15

「僕」は過去に付き合った女の子たちのことを回想し、文章を書くことについて語り始めるのです。

「僕は文章についての多くをデレク・ハートフィールドに学んだ。殆んど全部、というべきかもしれない。不幸なことにハートフィールドは全ての意味で不毛な作家であった」(同書より引用)

流れるように進む都会的な会話は非日常感がたっぷりで、まさに村上ワールドといえるでしょう。

「本なんてものはスパゲティをゆでる間の時間つぶしにでも片手で読むもんさ。わかったかい?」(同書より引用)

奇妙だけれども、お洒落でどこか説得力のある会話。エキセントリックな登場人物によって、読者は物語の世界にグイグイ引き込まれてしまうことでしょう。また若い彼らの人生経験はぶっ飛んでおり、なんとも不思議な魅力を醸し出しています。どこかで深い傷を負いながらも、飄々と生きているかのような透明感。男女ともに堪能できる、おすすめの1冊です。

やわらかく透明な物語

聖母と同じ名前のまりあは、母娘のふたり暮らしでした。東京に住む父親は、母娘のところに通っていましたが、戸籍上の妻と離婚し、まりあの母と結婚。親子三人ほのぼの仲良く暮らしています。そんなまりあには、つぐみという名のいとこがいます。

色白で華奢な美少女つぐみは、病弱のため学校は欠席しがちですが、読書家且つ勉強家で成績はいつも上位。心を許している人といる時には口が悪いですが、それさえも可愛くて個性的に感じられるでしょう。そんなつぐみに恭一という恋人ができます。どこか日常離れした日常の中で、まりあ、つぐみ、恭一は夏を共に過ごしていきます。

著者
吉本 ばなな
出版日

タイトルにもなっているつぐみの魅力ゆえに面白いとさえいえる本作。彼女は強烈な魅力を放っています。そして控え目ながらも、まりあの存在や暖かい周囲の人物たちによって、物語全体が陽だまりのようなやわらかな光に包まれているのです。

多感期の透明な感性が、物語全体を通してきらきら輝いています。読後は世界が少し明るくなり、愛が増したように感じるかもしれません。

どうしようもない日常と苦悩

西村賢太は本作『苦役列車』で芥川賞を受賞しました。

主人公の貫多は、中学生だったある日、父親の犯した犯罪について知ることにより、それまでいた普通の世界から切り離され、人生が大きく変わってしまいました。15歳だった貫多は母親から奪い取った10万円をもとに、ひとり暮らしを始めます。

日雇い労働に就いてからは、その日暮らしの生活が始まりました。犯罪者の息子だからという屈辱から、貫多は投げやりです。楽しみといえば、せっせとお金を貯めて風俗に行くこと。悶々とした日々が過ぎていきます。そんなある日、友達ができますが、暴言を吐き、その友達を失ってしまいます。しかし本を読むことだけはずっと続けていて……。

著者
西村 賢太
出版日
2012-04-19

社会の底辺で孤独にうごめく貫多からは、何の希望もないようでいて何かを求めているような生命力を感じられるでしょう。

本作は、作者の経験が元にして描かれる私小説とみなされています。作中では、著者である西村に多大な影響を与え、彼を救ったという藤澤清造の存在が力強く光っていることを感じられるでしょう。苦しみの中にも希望の兆しを感じる、出会えて良かったと思えること間違いなしの作品です。

芥川賞を受賞し、本屋大賞にノミネートされた現代文学作品

36歳未婚の古倉恵子はコンビニ店員です。大学を卒業後も就職をせずに、18年間コンビニ店員として働いてきました。彼女にとってコンビニは必要とされていると感じられる 場所となっています。そんな彼女は、36歳未婚コンビニ店員という状況を周りから不思議がられ詮索されることを回避するために、新しくバイトとして入ったもののすぐにクビになった白羽に、一緒に住むことを提案します。

著者
村田 沙耶香
出版日
2016-07-27

彼女にとってコンビニと社会は同じ原理です。不足されたものはすぐに補充されていき、すぐにそれは歯車となって動き出す。誰かができなくなっても代わりの誰かがやってくれる。代わりに誰かがその穴を埋める。そのようになっているからこそ社会は回っていけるのかもしれません。そしてだからこそコンビニも毎日つつがなく営業できているのだといえます。彼女はコンビニという社会の中で店員として務めることで その一部であるという安心感を得ているのです。

また、彼女にとってコンビニは体です。大量の商品が入れ替わり、新商品も投入されていきます。それがしばらく繰り返されると、そこには過去と同じものはありません。品物は同じでもそれは全く違うものです。けれどそこには変わらずコンビニがあります。全く違うのにそこには変わらぬように見えるコンビニがあるのです。体も同じように日々新しい細胞が出来上がり、最終的には体すべての細胞が入れ替わります。そこには以前と同じものはありません。入れ替わりの最中、そこには確実に 、見た目には何も変わらない人間が存在しているのです。

コンビニという場所は恵子にとって、自らの仕事を果たし務める限り排除される心配のない安らかな場所となっています。その場所を離れれば一般には異物のように見られる存在であっても、コンビニでは歯車や細胞のサイクルに乗るようにコンビニ店員を演じさえすれば、そこには正しいとされる姿でいることができるのです。 異常とはどんな存在をいうのか、正常とは普通とはどんな状態をいうのか、そしてそれらの 境界線とはどのようなものなのかの答えを導く糸口をコンビニ店員という存在を通して示してくれます。

ちなみにこの作品はコンビニの仕事の描写がとても細かく描かれているので、コンビニの仕事を知るものとしても楽しめます。コンビニのバイトに興味がある人も読んでみると面白いかもしれません。

中沢けいの代表作

当時18歳だった中沢けいは「海を感じる時」で群像新人文学賞を受賞しデビューしました。2014年には市川由衣主演で映画化されています。 
 

「海を感じる時」では、部室で授業をさぼっていた女子高生の恵美子が、3年生の先輩である洋と出くわし、いきなりキスを迫られる、という衝撃の出会いを果たすのです。

物語がすすむにつれ、しだいに洋に魅かれていく恵美子。やがて彼女は精一杯りんとした声で言い切ります。

「来週から部はやめます。だから今日、抱いて下さい」(「海を感じる時」より引用)

著者
中沢 けい
出版日
1995-03-06

この作品で悲しいのは、洋が恵美子に対し、ただ女性の体に興味があっただけで相手は誰でもよかったと言い放つところです。それでも、数年前に父親をなくし、厳格な母親に育てられた恵美子は、母親からの拒絶により愛に飢え、かりそめの愛を得るために洋に身を委ね、何度も体を重ねていきます。

学校へも人生へも、何もかもすべてにけだるさを感じ、その唯一の突破口とばかりに洋にしがみつく恵美子。しかし二人の関係が母親にばれた途端、恵美子の母親がヒステリックに狂乱してしまいます。壮絶ないがみ合いの中でも恵美子は母親に甘えたい、愛されたい、と血を吐くようにして愛情を求めるのでした。

タイトルの「海」は母性と女性性の比喩であり作中で、寒く呪いに満ちたおそろしいものとして描かれます。そして同時に、半狂乱状態の母親と恵美子の共通点が「海」であることに気づくのです。

進学のため上京した洋を追って東京の花屋に就職した恵美子が、洋に幾度となく拒絶されそのたびに傷ついていく中、唐突に訪れるラストに衝撃が走ります。

父の死について綴った短編作品

本作は、久米正雄の父である由太郎の死について綴った作品です。父が死に至る数日を主人公の視点で回想しながら、ストーリーが進んでいきます。書き出しは「私の父は私が八歳の春に死んだ。しかも自殺して死んだ。」となっており、死を契機として、父との思い出を綴る一冊です。

故郷の何気ない春の風景や、父との何気ない日々のやり取りなどが、美しくも淡々とした文章で書かれています。壮絶な死の光景を、子どもの視点で綴ったシーンでは、駆けつけた友人が「さすがは武士の出だ。ちやんと作法を心得てる!」と叫ぶなど、まだ明治の色が濃い時代ならではの雰囲気を味わうことが出来るでしょう。

著者
久米正雄
出版日
2015-06-30

久米正雄の父は、町立上田尋常高等小学校の校長を務めた人物でした。正雄が七歳のときに、火災の責任を負って自殺してしまい、その方法が割腹という選択であったため、幼少期の正雄にとってその出来事が非常にショッキングなものであったことは想像に難くありません。

葬式の日、わずか七歳の主人公は、父の知人から、父のように偉くなれと言われます。まだ幼い子どもを取り巻く、死という事件と、それを囲む人々の感情が流れ込んでくる一作だと言えるでしょう。

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