芥川龍之介の世界観を代表する小説おすすめ5選

更新:2021.12.17

明治時代の文豪、芥川龍之介。35年という短い生涯でしたが、珠玉の名作たちを生み出し続けました。今回はその中から5冊を紹介します。

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日本文学史に名を遺す作家芥川龍之介

芥川龍之介は明治時代を代表する日本の作家です。現在の東京都中央区に生まれた龍之介ですが、父親は病死し母親は精神に異常をきたした為、母親の実家に預けられ芥川の性を名乗ることになります。

幼いころから成績優秀だった龍之介は当時名門であった第一高等学校に入学し、その後東京帝国大学(現在の東京大学)へ進学します。

大学在学中には、早くも友人たちと「新思潮」という文芸誌を刊行し、この雑誌に発表した「老人」が彼の処女作となります。

大学を卒業後は英文学科を主席で卒業した実力と、その優秀な成績を聞きつけた周りからの推薦で海軍機関学校の教官の職につきました。その傍らで創作に励み、「羅生門」の刊行を皮切りに短編作品を次々と生み出します。

龍之介の名前が使われている「芥川賞」は現在の文藝春秋社創設者でもある友人、菊池寛の手よって龍之介の死から8年後につくられました。

芥川龍之介の作品は彼の人生において大きく3つの時期に分けられます。

初期の活動では人間のエゴイズムを書き出した作品が多く、「羅生門」や「鼻」にその特徴が伺えます。

中期には芸術の為の芸術とも言われる芸術至上主義の作品がテーマとして多く残されています。

しかし晩年になると生死に関する作品が多く見受けられ、このころから自殺を考えていたとされています。その後それは現実となり1927年7月、35歳の若さでこの世を去りました。

人間のエゴイズムとは

著者
芥川 龍之介
出版日
2007-06-23

『羅生門』
時は平安時代、物語の主人公は主人に暇を言い渡された一人の下人です。仕事がなくなってしまい途方にくれた下人でしたが、盗人になる勇気もでず、羅生門の前でこの先どのようにして暮らして行こうかと悩んでいるのでした。

そこで下人が出会った老婆は女の死体から髪を抜き、カツラを作り、売りに出すと言うのです。

下人はそこである考えが浮かんだのです。老婆の行為が生きていくためには仕方がないことだと言うなら、自分が盗人になることもまた、生きて行くためには仕方がないことなのかもしれない。

生きるための悪は、悪ではないのか。たとえそれが自分のエゴイズムであっても、そうしなければ明日を生き延びるのも難しい。そんな状況に立たされた下人が出した答えとは?

短編なのでさらりと読めながらも、人間の根底を探る作品を是非、読んでみてください。
 

コンプレックスに向き合う主人公とその周りの人々

著者
芥川 龍之介
出版日

『鼻』
見た目、性格、癖。人間は自分の人と違う部分を個性だと胸を張ることもできますが、羞恥、または不満に思い、悩みの種にしてしまうこともあります。
本作はある僧の悩み、横文字でいうところの「コンプレックス」を題材とした作品です。

彼のコンプレックス、それは、タイトルの通り「鼻」です。人より鼻が長い彼は、その見た目を気にしています。さらにそんな彼に追い打ちをかけるように、周囲もあの鼻だから出家したのだろう、あれでは妻もできないと噂します。

彼は自分のコンプレックスを克服しようと鼻を短くする方法をいくつも試します。それを不憫に思いながらも、どこか面白がっている弟子たち。

本人にしか分からない劣等感。自分の身におこらなければ、本当の意味で理解しえない悩み。そんな人間の心理や心情をシンプルに伝えるこの作品。最後に主人公が導きだしたコンプレックスとのつきあい方とは?

最後にはきっと晴れ晴れとした気持ちになれるそんな作品です。
 

本当に大切なものとは何か

著者
芥川 龍之介
出版日
2000-06-16

『杜子春』
お金があれば幸せか。裕福な暮らしが出来れば、心も満たされるか。

この作品は、杜子春という青年が貧乏とお金持ちの両方を経験しながら、人間らしい暮らしとは何なのかを考えるストーリーです。

財産を使い果たして途方にくれていた杜子春がある老人に出会うことから物語は始まります。夕日の中に入って、自分の影の頭にあたるところを掘れ、そうすれば車いっぱいの金が手に入ると老人に言われた杜子春。

言われた通りにし、お金持ちになり、またお金がなくなり。その度に変わる周りの人間の自分への態度にうんざりしてしまいました。

人間にとって本当に大切なものとはなんなのでしょうか。貧富に左右されない、人間らしい生き方とはなんなのでしょうか。当たり前のことだけれど、お金で買えない幸せを再確認させてくれる作品です。
 

8歳の少年が触れる大人になるということ

著者
芥川 龍之介
出版日

『トロッコ』
物語の主人公は8歳の少年です。8歳といえばまだ、仕事はおろか社会で生活したことすらない年齢です。子供のころ夢見た職業が理想とは違ったり、現実は思ったほど楽しくなかったり、そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。

少年が憧れたもの。それはトロッコで土を運ぶ、土工でした。いや、正確にはトロッコそのものに興味があったのです。

ひょんなことから少年は憧れのトロッコを押させてもらえることになったのです。けれど、周りの大人たちにとってはもちろん大事な仕事。長い時間、雑木林や崖の向こう、竹やぶへと、少年が普段通ることのないような道を延々と進むのです。

少年が触れる初めての大人の世界。たった一日のなかで移り変わる彼の心情。短いながらも大人になるということを経験した彼にとって、その日は後にどんな思い出として残るのでしょう。

子供のころに思う、大人への憧れと現実とのギャップを描いたストーリーです。自分は子供のころにどんな職業に憧れていただろう。そのころの自分を今、どんな風に感じるか。そんなどこか懐かしい気持ちにさせてくれる作品です。
 

自分の生きている現実とは別の価値観で出来ている世界

著者
芥川 龍之介
出版日
1968-12-15

『河童』
河童、幽霊、宇宙人。この世には人間でもない、動物でもない存在がいるということは、少なからず現代でもたびたびテレビなどで耳にすることがありますよね。

それを信じているかいないかは別として、龍之介はそんな存在も作品に描いています

主人公、僕は山へ登る途中で河童に遭遇します。河童の世界でしばらく河童たちと生活をともにする僕は、人間と河童の世界では価値観が全く違うことを知るのです。

同じ生き物、同じ状況でも、人が違えば考え方や捉え方も変わり、その結果争いや小競り合いが起こることもある。なおさら河童と人間なのだから価値観も違うのが当たり前です。自分の思っている当たり前が、誰かにとっても当たり前であるとは限りません。

主人公の僕は人間の世界では精神病患者として扱われています。しかし、何を正常とし何を異常とするのでしょう。その一線はどこで引かれるのでしょうか。

晩年、芥川自身がそんなぼんやりとしたグレーゾーンに立たされたとき、この作品は生まれました。

河童と僕という一見ファンタジーな組み合わせから作者の苦しみが垣間見える作品です。

興味がありましたら、是非とも読んでみてください。
 

以上、芥川龍之介の作品を紹介させていただきました。彼の決して長くない人生のなかで生み出されたこれらの作品は子供が読んでも大人が読んでも、人間の根底に問いかけるような作品が数多くあります。一つ一つの作品は短編ですので、一度手に取って読んで頂くことをおすすめします。

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