累計で40万部を突破するベストセラーとなった『浜村渚の計算ノート』シリーズで有名な小説家、青柳碧人。数学ミステリから法学、クイズに妖怪モノまで幅広いジャンルを手がける青柳碧人の、絶対に読んでおくべきおすすめの小説を5冊ご紹介します。
1980年、千葉県に生まれた青柳碧人。名前は「あおと」ではなく「あいと」と発音します。早稲田大学教育学部を卒業後は、千葉市の学習塾に勤めていたそう。
2009年に、本業である学習塾での勤務のかたわら執筆した『浜村渚の計算ノート』で、「講談社Birth」の小説部門を受賞し小説家としてデビューしました。『浜村渚の計算ノート』はシリーズ化され、名実ともに青柳碧人の代表作となっています。
ほかにも、『朧月市役所妖怪課』シリーズ、『西川麻子は地理が好き。』シリーズなど、シリーズ化されている著書が多数あり、ライトノベル界を牽引する若手小説家の1人です。
デビュー以後は、ミステリ、青春小説、SF、漫画原作など様々な分野で活躍し、ファンを増やし続けています。
高校のクイズ研究会を舞台に、高校生クイズの全国大会「ビロード6」に出場することを目指す部員たちの日常を描いています。特定の主人公は立てず、クイズ研究会を中心とした青春群像劇といった様相で物語が展開。リーダビリティに優れているので、展開の切り替えに戸惑うことなく読み進めることができます。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
- 2011-01-27
まず、個性豊かな7人のメンバーが魅力的です。中でも物語の柱となるのは、リーダーの鹿川ではないでしょうか。もともとは、彼がクイズが大好きで、クイズ研究会を立ち上げたことが、物語の根底にあるのですから。クイズが大好きなのに記憶力は低め、ちょっとおっちょこちょいというキャラクター設定も素晴らしい。ダメンズ鹿川がいとおしく感じます。
部員は7人いるけれど、「ビロード6」の出場資格は6人のみ。さて、出場メンバーに選ばれるのは?と、大筋では、「ビロード6」を目指して奮闘するという内容なのですが、そこに仲間との絆や対立、家族との関係など、学生時代に「あるある」と納得させるエピソードがスパイスのように振りかけられています。
「ずっと忘れていた昔のことを思い出せる匂いがある」(『双月高校クイズ日和』より引用)というのは幸せなことだと気づかせてくれる今作。作中の人物と同世代の人にも、あの頃を知って大人になってしまった人にもおすすめです。
体内で「レアメタル」を生成できる症状「レアメタル生成症候群」。症状そのままの病名ですが、産出されるのは日本の15歳~25歳までの女性のみ、さらに25歳までには夭折してしまうというもの。発症した少女達は、国の定める機関によって「コミュニティ・マヒトツ」に収容され、残りの人生を生きていきます。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
- 2015-04-15
自分の体から、または家族や友人の体内からレアメタルが産出される病であることが分かったら、運命を受け入れることができるでしょうか。できれば、天寿をまっとうしたい、普通の人と同じように生きていきたいと考えるのが正常なことだと思います。しかし、今作の少女達には、それが難しい。それが、悲しい。
コミュニティ・マヒトツで働く江波と、レアメタルのうちでも特に希少価値の高い「レアアース」を生成する主人公の冴矢との心の交流を描きながら終焉へと向かっていく先に、彼らの幸せな時間が訪れることを願ってしまいます。
仕事人間で家庭不和になっていた江波は「別にいいじゃん、『いい父親』じゃなくたって、『最悪の父親』じゃなければ」(『希土類少女』より引用)という冴矢の言葉と、その存在に救われたのではないでしょうか。また冴矢は、運命を諦めながら生きる中で江波と出会い、ひとときの幸せを得ることができたのでしょうか。ふたりの淡い恋の行方と、避けることのできない運命の歯車にあらがおうとする冴矢と江波の心の葛藤は必見ですよ。
国益と個人の幸せと、優先されるべきはどちらなのか。冒頭のエロティックなシーンと、中盤の盛り上がり、ラストの衝撃、1つも見逃せません。
もし、自分が裁判員に選ばれたら?そして、その裁判が生中継されてテレビに自分が映るとしたら?閉ざされた空間だった「裁判」の場が、テレビによって中継されるようになった日本を舞台に、裁判員に選ばれてしまった主人公、生野悠太の視点からストーリーが展開します。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
- 2014-09-25
法廷から人気アイドルが誕生したり、裁判が生中継されて、しかも裁判中に歌をうたったり。裁判がお茶の間の娯楽になってしまう、という荒唐無稽なストーリーながら非常に読みやすく書かれています。
随所に法律の知識をちりばめてあるため、生野と同じようにゼロベースからでもすんなりと司法制度や法律に対する造詣が深まっていく展開はお見事です。
一見、おふざけにも見えますが、裁判員制度への風刺が盛り込まれていたり、選ばれた裁判員が該当の事件の謎解きをしてしまうというミステリ要素だったりと、裁判という独特の雰囲気を持った世界を、分かりやすく、さらにエンタテイメント性を持って描き出しているところに、青柳碧人のらしさがうかがえます。
読了後には「ちょっぴり法律に詳しくなったような?」そんな気分になりますよ。
ヘンな建物研究会、通称「ヘンたて」と呼ばれる大学のサークルを舞台に繰り広げられる青春ミステリ小説です。正確には、殺人や事件のない、「建物のミステリ」に迫るお話しで、ヘンたてに入会した新入生の中川亜可美が、ストーリーテラーとなって物語を案内してくれます。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
- 2012-06-22
まず、「ヘンな建物研究会」というサークル名が秀逸です。サークルの活動内容といえばヘンな建物や謎のスペースを見に行っては、その建物にまつわる謎を解き明かすという斬新なもの。
そうしたヘンな建物をめぐって交わる人々の心の動きや、自分以外の他人の心の機微を学ぶことの重要さを感じさせてくれる、人間味あるストーリー展開は青柳碧人の作品に共通する特長です。
一見ハチャメチャで独創的な世界ながらも、「そうか、そういうことね」とするんと集結するのです。今作は、明るくさわやかな雰囲気なので、新感覚のミステリとも言えるのではないでしょうか。
ヘンたての元祖、綾辻行人をして「『ヘンたて』のこの、心優しくも知的・個性的な学生諸君をいつか、わが"中村青司の館"にご招待したいものである。ただし、そのときはこんなに『ほのぼの』では済みませんぞ。」(『ヘンたて 幹館大学ヘンな建物研究会』文庫版帯より引用)と紹介するように、ほのぼのとしていてちょっぴりセンチメンタルな青春ミステリ。一読の価値ありですよ。
少年犯罪の元凶であるとして学校教育から数学が排斥された日本を舞台に、数学テロリストと対策本部の頭脳戦を描く、青柳碧人の代表作。対策本部の救世主として、数学が大好きな、天才数学少女の浜村渚がやってきたところから物語はスタートします。
- 著者
- 青柳 碧人
- 出版日
- 2011-06-15
数学を駆使して殺人を防ぐ、という何とも画期的なモチーフです。定理や公式についての説明やうんちくが挟み込まれており、青柳自身が「本当の意味での初心者向けであり、かつ数学への愛に満ち溢れており、出来れば読んでるうちに数学の知識が身につく(あるいは、そんな気になる)作品が読みたくて」(『浜村渚の計算ノート』あとがきより引用)と述べているように、数学に苦手意識のある人にもチャレンジしやすいのではないでしょうか。
残虐な事件が起きる中、中学生の渚が数学的知識を使って事件を解決する様子には、「数学大好き!」という思いがあふれていて好感が持てます。数学のこと以外は、むしろ理解できていないという、まさに数学オタクな渚のかわいらしさも、物語のポイントです。
「推理ノート」ではなく、「計算ノート」というタイトルもキャッチーでいいですね。四色問題、悪魔のゼロ、フィボナッチ数列、円周率など、一度は聞いたことがある数学用語がたくさん出てきますので、数学好きはにやにやしながら、数学が苦手という人も理解を深めながら、いつの間にか読み終えていることでしょう。
事件解決までの推理を楽しめるのはもちろん、読み進めるうちに数学の本質的なおもしろさが自然に分かってしまう1冊。今まで知らなかった世界をのぞいてみては?
徹底してリーダビリティにこだわる青柳碧人の作品は、題材こそ奇抜ですが非常に分かりやすく読みやすく書かれています。長編はなかなか、という人でも試しに手に取ってみて損はないはず。自分だけの時間をちょっぴり贅沢に過ごしたいときに読んでみてください。