図鑑は勉強や研究のために読むもので、余程好きな分野でないと面白くないと思っていませんか。限定されたテーマで編集された図鑑には、マニアックながらマニアでなくとも楽しめる情報が満載です。大人を魅了する図鑑を6冊、ご紹介します。
海駅、その軽快な言葉の響きから、どのような情景が浮かびますか?『海駅図鑑』では、著者の清水浩史が自ら日本全国を旅し、9000もの駅から厳選した30の「海が見える無人駅」が紹介されています。
「何もない(ように思える)場所が、多くのことを語りかけてくる。いうなれば、海駅は『終着駅』であり、新たな旅の『始発駅』にもなる。そんな『はじまりの海駅』へと、旅立とう。」(『海駅図鑑』まえがきより引用)
最果ての海駅を目指し、旅に出る。すると、地元の人々との思わぬ出会いや海での出来事が待っています。さらに、海駅の景色からは、忘れかけていた昔読んだ本の一文や詩が連鎖的に思い出されることもあるでしょう。まえがきにもあるように、海駅の旅には何かが始まるきっかけがあるのかもしれません。
- 著者
- 清水浩史
- 出版日
- 2017-02-18
駅の図鑑、と身構えることなかれ。巻頭には絶景を望める海駅の写真がずらりと並び、見ているだけで無人駅の知られざる魅力を感じることができます。全体的には紀行文になっているため、この一冊をカバンにひそませて、海駅を目指し旅に出たくなるでしょう。
清水浩史の他作品に『秘島図鑑』もあります。編集者でありながら、ダイビングインストラクターの資格も保持しており、海の魅力を存分に引き出した作品を執筆しています。新たな海の魅力に迫りたい大人に、ぜひ手にとってもらいたい図鑑です。
良く晴れた日の夜空を見上げると、いつもよりもたくさん星が見える。きらきら輝く星をただ眺めるだけでもうっとりしますが、星の名前や星座、神話の知識があったらなあと思ったことはありませんか。
星空をもっと楽しみたい、星の見えない日でも星座の世界に浸りたいという方にはプラネタリウムがおすすめですが、そんなに度々行く時間は取れませんよね。そんなときにおすすめなのが『星座の見つけ方と神話がわかる 星空図鑑』です。
- 著者
- 永田 美絵
- 出版日
- 2013-07-16
幼いころからプラネタリウムが好きだったという著者は、現在渋谷のコスモプラネタリウム解説員。ですから解説文も、プラネタリウムの中で聞くような心地よく優しい表現になっています。柔らかで親しみやすく、著者の星空への愛着が感じられる文章。解説に合わせイラストを眺めていると、まるでプラネタリウムにいるような錯覚を覚えます。
パステル調にまとめられた各ページのレイアウトは可愛くおしゃれ。そして星の見つけ方の解説が分かりやすいのです。すぐにでも夜空を見上げて探したくなります。
現実に疲れたと感じたとき、美しい世界に浸りたいとき、是非この図鑑のページを開いてみてください。ロマンティックな神話の世界へと誘ってくれます。その美しさが心を鎮めて癒してくれる。そんな気分になれる図鑑です。
様々な興味深い図鑑が「美しい○○図鑑」といった名前で出版されていますが、その中でもとりわけ面白いであろう『世界で一番美しい元素図鑑』。全世界で100万部売れたというベストセラー本です。
約25㎝の正方形をしていて、ページを開くと一つの元素につき2ページを見開きで使うという大胆なレイアウトに圧倒されます。1ページまるまる使った写真は細部まで明瞭に写し出されていて美しく、思わず見とれてしまうことでしょう。
- 著者
- セオドア・グレイ
- 出版日
- 2010-10-22
見開きの反対側には、解説とその元素が含まれている身近な製品の写真と、基本データ、解説が載っています。データの羅列や難しい講釈ではなく、身近な事例を取り上げたユーモアにあふれる解説。写真とあわせて読むことでイメージしやすく、すんなりと頭に入ってくるでしょう。
有名な神経医学者であるオリヴァー・サックスも推薦文で述べていますが、この図鑑は読む人の物質に対する見方を一変させる力があります。物質への見方が変わるということは、世界の見方が変わるということ。いま存在するこの世界を構成しているのが、元素の集合体だと言われてもピンときませんが、この図鑑を見るとちょっと実感が湧いています。
なんだか退屈、いつもと違った世界が見たいと感じたら、この図鑑のページをめくってみてください。いつもと同じ世界が、いつもと違ってみえるかもしれません。理系の学生へのプレゼントにもいいですね。化学に興味を持ち始めた方に最適な1冊です。
「本」といっても、その形態はさまざまです。文学書や図鑑、絵本、詩集、辞典、辞書、写真集、点字本、漫画、そしてデジタル本など。本は人類の歴史の中で、その思想や技術を多くの人に伝達するという、大変重要な役割を担ってきました。
『世界を変えた100の本の歴史図鑑: 古代エジプトのパピルスから電子書籍まで』は、そんな本の歴史を徹底的に研究して1冊にまとめた図鑑です。古代の洞窟壁画からはじまり『イソップ寓話集』、マンスールの『人体解剖書』、アフリカ初の印刷物『アブダラムの書』など、本のターニングポイントになった書物を一つ一つ、全部で100冊紹介しています。
- 著者
- ["ロデリック ケイヴ", "サラ アヤド", "樺山 紘一"]
- 出版日
- 2015-04-25
著者は印刷の司書であり歴史研究者であるケイヴ・ロデリック。もう一人の著者アヤド・サラは絵画研究者であり、図書館助手や書籍販売員などの仕事を通して本に長年かかわってきた人物で。どちらも本のスペシャリストです。
ページ数288ページ、見開き2ページに対し1冊の本を紹介するという構成で、用いられた図版は300点以上。その本が人類の歴史の中でどのような意味を持っているかがわかります。地域やジャンルを問わずに選ばれているので、西洋だけでなく東洋の本も多数紹介されています。『源氏物語』もその一つ。情報量としてはかなりのボリュームです。
時代とともに変わりゆく本の姿。その背景には様々な文化、思想、史実がある。思想や知識、技術、芸術の伝達方法として追及されてきた「本」が、どのような変遷をしてきたか、どんな功績を残してきたかがよくわかります。そして最終章は本のデジタル化と未来についても書かれています。「本」とはいったい何なのか。博物館好きの方にはたまらない1冊です。
人間も含め地球上に住む生物たちには、まだまだ謎がいっぱい。日頃よく見る生物たちについて研究するのもいいけれど、時には想像を超えるような生物の存在を知るのも面白いものです。
著者早川いくを氏による『へんないきもの』は、ベストセラーとして文庫本にもなりました。著者はこれに関連した本をいくつも執筆していますが、『へんな生きもの へんな生きざま』はその中でも新しい、オールカラーの大型図鑑です。『へんないきもの』は通常の単行本サイズでイラストも白黒でしたから、こちらの方がより図鑑らしいといえますね。
- 著者
- 早川 いくを
- 出版日
- 2015-08-03
カラー図鑑掲載に選ばれた栄えある生物たちは、期待を裏切らない姿をしています。まず見た目のインパクト大きいのです。さらに著者独特の、ツッコミ口調ともギャグともとれる軽妙な語り口の解説には、吹き出してしまうこと必須です。
これまで生き物図鑑を読もうと思ったことすらない方でも、ここに紹介されている彼らのあまりに奇妙な姿、奇妙な生きざまには「なにこれ!なんでこんな風になっちゃったの!」と思わずにいられません。読んでいくうちに、なんとなく彼らが健気で愛おしく思えてきます。
学術研究には向かないかもしれませんが、とにかく楽しんで読める図鑑としては最高の出来といえるでしょう。可愛い犬猫の写真集もいいですが、面白い図鑑を見て大笑いするのも、ストレス解消になりそうですね。
「醤油鯛」と聞いてなんのことだかわかりますか?みなさん、1度ならず必ず目にしたことがありますよ。駅でお弁当を買うと入っている、赤や青のキャップで魚の形をして中に醤油が入った、そう、あれです。え、それで図鑑になるの?と一瞬思うのですが、侮ってはいけません。想像以上に立派な図鑑になります。
『醤油鯛』はマニアック度でいえば間違いなくナンバーワン。著者は実は海洋学者ではなく昆虫学者です。それだけあって、あの小さな容器について、細部まで観察が鋭いことといったら、感心しすぎて笑えてきます。
- 著者
- 沢田 佳久
- 出版日
- 2012-09-10
まず表紙からして、こんなに色々な形があったんだと初めて知ります。しかしこんなものではありません。はるかに多いバリエーションがあり、それぞれの尾ひれの形から6科21属76種に分類し図鑑にしたという、何とも地道な作業の結晶が本書なのです。
コレクションに約25年、企画から出版までには3年を費やしたという著者。コレクションするだけならやっている人もいるかもしれませんが、ここまで系統的に分類し考察も加え、図鑑としてまとめることができるのは、やはり研究者のなせる業ですね。
読み進めていくと醤油鯛が可愛らしく、愛着を持って見えてきます。序論と考察を読むだけでも面白いです。よくもまあここまで、とその真面目さに脱帽します。究極にマニアックな世界が好きな方には、かなりテンションの上がる1冊ではないでしょうか。
どの図鑑も、基礎知識が無くてもビジュアルで理解しやすく、しかし内容はしっかり充実していてマニアでも満足できる内容となっています。それまで気にも留めなかったもの、知ろうともしなかったことを知ることで、今まで見てきた日常が変わって見えるかもしれません。マニアックな世界に、足を踏み入れてみませんか。