文芸

堺屋太一のおすすめ文庫作品5選!元閣僚の作家!

更新:2020.12.2 作成:2017.3.15

堺屋太一は1975年、通産省在職中にデビューした、閣僚経験もある作家です。彼の作品の持ち味は官僚、閣僚経験を経て研究してきた社会的問題点を、歴史と絡めて表現できるところです。過去も未来もない、常にある問題点として提起させてくれる作家です。

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様々な活躍をしている堺屋太一

堺屋太一は通産省の官僚から作家に転身。マスメディアでのナビゲーターや、イベントプロデューサー、閣僚、政治運動家、学者などとして幅広く活動しています。

本名は池口小太郎。高校時代にはボクシング部に所属し、モスキート級の大阪チャンピオンになったことがあるそうです。

ペンネームの由来は、商人として働いていた先祖が安土桃山時代に堺から谷町に移住した際の名前である「堺屋太一」からとったということです。また、官僚時代には「大阪万博」を企画するなど、人が集まるイベント企画にも長けています。そして自身が官僚出身とあって、従来の官僚主導体質を否定し、行政改革を主張するなど政治主張にも一家言があり、影響を与えています。

意外な一面としては、女子プロレスの熱心なファンとしても知られています。プロレス会場になるイベントホールの開設に尽力するなど、「熱い人」というイメージがある人物です。

作家としては、歴史小説から未来を予測したものまで、取り扱う時間軸が幅広いのが特長です。更に過去の出来事に現代の要素をミックスするなど、時間軸を縦横無尽に駆使した小説や、それ以上に数多く出版している社会評論も人気です。今回はそのような多彩な彼の思考や考察を、鋭く反映したおすすめの代表作をご紹介します。

時代を超えた「堺屋流組織論」の集大成!

本書は、組織の問題点を3つのケーススタディから検証し、新しい組織のあり方を提唱するものになっています。

堺屋太一は次の3つの要因を組織崩壊に導く「死に至る病」として挙げています。

1.成功体験への埋没、2.機能体の共同体化、3.環境への過剰適応。

それぞれ、豊臣家、帝国陸軍、石炭産業を例にとり、分析をしてますが、いずれも大変興味深いものとなっています。

著者
堺屋 太一
出版日

本書が書かれた1993年当時は、折しもバブル経済が弾けた後の混沌とした社会。その中で企業はどうすればよいのか?といった問に対して、一つの指針を示しています。特に小回りの効かない大企業には有効な処方箋になるものだったのではないでしょうか。

一方で、組織と言っても、そもそもは個人の集合体なわけです。個人が意識しないと組織は変わりません。その意味においても本書は警鐘を鳴しています。

「世の中では、組織に属する個人が優秀なら、その組織は優秀だと錯覚し易い。しかし、優秀な個人を集めた共同体化した機能組織ほど危険なものはない。」
(『組織の盛衰』から引用)

組織の陥りやすい盲点として書かれていますが、そういった点も鋭く分析されているのは、自身の官僚時代の経験も踏まえてのことでしょう。「組織とは何なのか?」ある意味永遠のテーマとも言えることに対して果敢に取り組んだ、堺屋の渾身の作品だと言えます。これらの評論は時代に関係なく日本社会の根底にあるテーマとして、現在でも有効な1冊です。

「凄腕のナンバー2」の存在を示した傑作!

『豊臣秀長―ある補佐役の生涯』ではこれまで、あまり取り上げられることの無かった豊臣秀吉の異父弟の豊臣秀長にスポットを当てて、彼の生涯について詳しく掘り下げています。秀吉が天下統一を成し遂げた後も、秀長の後ろ支えがあってこその秀吉だったのだと思います。

秀長はけっして表に出ることはなく、常に秀吉を後ろから献身的に支えることが何故できたのか?彼の温厚で、真面目、寛容な性格がそうさせたのだと思いますが、何より秀吉を支えるには、そうならざるを得ないと感じたのではないでしょうか?

元々前に出る性格ではなかったのでしょうが、秀吉の性格がより一層秀長の取るべき道を決めさせたようです。そういう意味で、ふたりでひとりのような結束した関係性が感じさせられます。実際、秀長の死後、秀吉は千利休の切腹や朝鮮出兵など、政権崩壊への歯止めが効かなくなっていきます。

著者
堺屋 太一
出版日

本書の特徴はあえて「ナンバー2」に焦点を当てたことです。「ナンバー2」の意味や役割が本書によって明確にされたと言えます。会社に置き換えれば、有能な補佐役がいれば、社長や社員の間に立って有益な対策が立てられて、会社もスムーズに回るという構図が見えてきます。

本書は戦国武将を題材にした時代小説でありながら、じつは現代に通じる内容となっているのです。更に言えば、補佐役はその立場に徹し、変に目立とうとか、欲を起こさないことで、結果的に組織が上手く回っていくという例ではないでしょうか。

また秀吉の立場から見れば、優秀な補佐役がいれば、自分も安心ということで、人を見る目が大事になってきます。つまりは、「人を見る目があるトップと、優秀な補佐役がいれば組織は回る」。これは組織論にこだわる堺屋の主張となって本書に現れています。「適材適所」と言いますが、自分の役割とはなんなのか?本書を読むことによって再認識できるのではないでしょうか。

堺屋太一が警鐘を鳴らす予測社会の姿!

『平成三十年』は予測小説なのですが、登場人物に歴史上の人物の名前を被せるなどの堺屋流のエッセンスが盛り込まれた作品となっています。1997年6月から1998年7月(平成9年~10年)まで朝日新聞に連載されていました。

連載当時から約20年後の日本社会を予測した内容で、まず平成30年に実際そうなっているか、いないかに関わらず、官僚時代から培った堺屋の分析力は舌を巻くもの。

予測された社会は、高消費税率、貿易赤字、円安、物価上昇、少子高齢化、中山間地域の衰退など、およそ好ましくない世の中です。堺屋はその分析力から、すでに色々な問題が見えていたのではないでしょうか。

著者
堺屋 太一
出版日
2004-01-30

本書では官僚主導体制の限界が見えながら、既得権益にしがみつく官僚達によって行政改革は遅々として進まない構図が展開されます。その中でいくつか堺屋が提唱する概念をご紹介しましょう。

まず「知価社会」という言葉が出てきます。これは従来の工業生産品にだけではなく、知恵にも価値があると考え、製品に知恵の付加価値を付けたものが、物の値段になるという考え方です。ブランドバックなどが例で、製品の原価以外に優れたデザインにも付加価値が生まれるとしています。

加えて堺屋はコンピュータ・ネットワークが発達した社会では、情報にも価値が生み出されると考えており、本当の意味での「知価社会」とはそこあると思います。しかし、その実現には、規制緩和、官僚主義の排除などが必要と考えており、その意味も盛り込まれていると感じました。

これは著作『組織の盛衰』にもあったように「機能体の共同体化」が原因と考えられます。本来の目的とは別に組織の維持が目的となる……。組織改革を訴える堺屋の主張が全面にでた作品と言えるでしょう。

何と言っても本作の予測が当たっているかどうかを検証しながら読むのが最も面白い本作。堺屋の予測と現実を比較して、読者自らが現代に近い未来の予測をしてみるのはいかがですか?

高齢社会を取り上げた、決定的予測小説!

今や当たり前に使用されており、本作のタイトルにもなっている『団塊の世代』という言葉を最初に使ったのは堺屋太一です。本作品は関連性のない4つの物語から構成されていますが、共通点としては各々の物語の主人公が1947年から1949年に生まれた団塊の世代の大卒ホワイトカラーということです。

本作は、ある意味戦後の象徴と考えることができるでしょう。1976年に発表された作品ですが、「第四話 民族の秋」では1999年を描いています。作品発表から23年後の日本の世界ですが、高齢者増加による医療費増大や、年金問題などを鋭く予測しています。

「団塊」という言葉は、堺屋によって広く知らしめられたわけですが、そもそもは鉱山用語「ノジュール」の訳語に由来します。堺屋自身が鉱山石炭局で知った言葉で、堆積岩中に周囲と成分の異なる物質が固まっている部分を指してるそうです。

執筆当時は一般には馴染みの無い言葉だったため、編集者の方から抵抗されたそうですが、この世代の特徴をうまく伝えるためには、インパクトのある言葉が必要だと堺屋太一は考えたのです。現在の普及した様子を見ればまさにその目論見が成功を納めたことがわかるでしょう。

著者
堺屋 太一
出版日

本書は戦後の第一次ベビーブーム世代にスポットを当て、異常に膨らんだ人口の塊と捉えています。そこに着目した堺屋の慧眼はやはり感服させられるもの。高度経済成長の原動力となり、団塊ジュニアを生み出し、大量生産、大量消費を支え、高齢化社会を招く……堺屋以外に誰が予測し得たでしょうか。

特に「団塊の世代」が高齢者になった時、日本社会はどうなるのかという「高齢者問題」に注目しているところが大きなポイントです。堺屋は早くからこの高齢者問題に着目し、本書を通して、社会に対して警鐘を鳴らしていました。実際日本では65歳以上が人口に占める割合が、2007年には21%を超え「超高齢社会」となっています。

また、ここでも堺屋は官僚制度に問題を見出しています。堺屋によると、当時の担当官庁の官僚は、団塊の世代が出産期に入ると、また人口が増えると予測していて、人口増加が長期的問題をもたらすと考えていたそう。官僚は短期的に役職が変わるため、長期的ビジョンが持てず、一時的な権限拡大や予算拡張に走りやすいというのです。

官僚時代から長期的視野を磨いてきた堺屋の予測とは裏腹に、高齢者対策は十分とは言えない状況が続いてます。平均寿命は伸び、ますます年金受給や医療費の問題は大きくなると予測されます。明るい社会を築くにはどうすればよいか、堺屋のような視点からヒントが得られる作品です。

デビュー作にして、堺屋太一ワールド全開の快作!

『油断!』は堺屋の1975年発表のデビュー作。実は1973年に書き上げられていたのですが、現実世界で実際に「石油危機」が起こっていたため、世情を鑑みて、石油危機が落ち着いた1975年に出版をしたという作品です。

また、当時堺屋は素性を明かしていなかったので、覆面作家としての出版でした。中東からの石油輸入がストップしたら、日本はどうなるのか?堺屋太一の豊富なデータを元にシミュレーションされた状況を描いています。

堺屋は当時官僚として、不安定な中東情勢を見て、石油危機を想定していました。本書は実際に政府機関で調査、研究されていたデータを元に小説化しているだけに、単なる虚構ではない、リアリティが感じられます。

著者
堺屋 太一
出版日
2005-12-01

本書出版当時、予測小説は皆無で、その意味では画期的な1冊でした。予測小説とは実際のデータや研究を元に、未来を予測するもので、事実でもないが、全くの虚構でもないという新しいジャンルを切り開いたと言えます。ほぼ同時期に同様の流れを汲む小松左京原作の『日本沈没』(1973年)が発表されましたが、こちらはSF作品でした。

実際に第四次中東戦争が勃発し、現実でも石油危機が訪れました。本書で書かれている世界は、石油輸入がほぼ完全にストップした最悪の場合のシナリオをシミュレーションしていると言えます。実際には小説に書かれているほど、甚大な事態にはなりませんでしたが、本書で述べられている数字には意味があり、それだけでも読む価値があるのではないでしょうか。

阪神・淡路大震災、東日本大震災など、起きてしまった事故を悔やんでも時間は戻せません。しかし、被害を最小限に食い止める為の対策は、過去を糧にして常に取っておく必要があることを本書は喚起しています。よく「危機管理能力」などと言いますが、いつの時代においても常に考えなければならないことで、その基本対策は変わりません。本書はそんな、危機管理意識を忘れない為においても、時代を超えて読み継がれるべき作品です。

堺屋太一の作品には、現実に起こりそうな危機を想定して、意識喚起を促すような作品が多くあります。失ったものは、無かったことにはできないのです。堺屋の紡ぎ出す文章からは、常に「危機管理意識」を忘れてならないというメッセージが込められているのではないでしょうか。