『このマンガがすごい!2017』オンナ編第1位に選ばれた『金の国 水の国』の作者。2004年デビューした彼女の、水面にこぼした1滴の波紋のような静かに心に残る世界観が感じられる、おすすめ4作品をランキング形式でご紹介します。
2004年にデビュー後、2007年『町でうわさの天狗の子』を連載、同作で2009年小学館漫画賞少女向け部門を受賞し、2016年に『金の国 水の国』では、「このマンガがすごい!2017」オンナ編1位を受賞しています。
「自分が育った土地を舞台にした作品しか描けない」と語る彼女は、なんでもない日常の見過ごしがちな感情をそっと教えてくれます。物語に大きな起伏は出てきませんが、水面に1滴落ちた水がずっと波紋を作るように、しんしんと広がり、読み手に訴えかけます。
やさしい読後感をくれる、そんな岩本ナオのおすすめ漫画ランキングベスト4をご紹介していきましょう。
公認会計士を目指す貫一のもとに、従妹で中学生の野花が訪ねてきます。そこに漫画家の弟・公二も混ざり、おのおの知られざる事情を抱えながら日々を過ごしていきます。1話ごとに各キャラにスポットライトを当てて、3人の交流を描いたハートフルな物語。岩本ナオの初連載作品です。
- 著者
- 岩本 ナオ
- 出版日
- 2005-10-26
作中にも出てきますが「スケルトン イン ザ クローゼット」とは「他人に見られたくない身内の恥」という意味だそうです。
両親が役所勤めで漫画家なんて自由業を認めないとされ、実家にも顔を出せない公二。母親が駆け落ちしておきながらの出戻りの野花。そして去年体調が悪くて公認会計士になるための受験に失敗している貫一も、「スケルトン イン ザ クローゼット」の予備軍である、と本人が言っています。
何か大きな事件が起こるでもなく、ただただ色んな事がこれからの余韻を残したところで終わってしまう作品で、それが逆に印象に残ります。
何も起こらないから単調な内容かというとそうではなく、作中キャラが自分の足りないところや、気づかず起こしていた行動の意味を悟る時、読み手もハッとさせられるのです。日常の意味のない出来事の意味を知る。なんとも岩本ナオらしい魅力が感じられます。
気づかない、見ないふりしていた気持ちをザッと切り込むみたいに見せつけたと思ったら、サラリと癒してくれて、読み手側を優しい気持ちにしてくれる作品です。作者の入門書といったところでしょうか。
東京の大学卒業後、生まれ育った村の役場に就職した銀一郎。彼が昔馴染みのメグと、村のアイドル的存在のスミオの3人で親交を深めていきながら、寂れていく村の状況をどうにかしようと奮闘していく物語です。
銀一郎はメグに思いを寄せるも、メグはスミオに片思い。そしてスミオは……。ままならない恋模様も描かれます。
- 著者
- 岩本 ナオ
- 出版日
- 2008-08-08
4作品のなかで1番なごむお話です。寂れゆく田舎の村の雰囲気と、そこに住むのんびりした人々が岩本ナオの絵柄とマッチしています。
少女漫画ならイケメンか美女、もしくは両方が出てきて恋物語を綴るなんてのが定番なのですが、岩本ナオはその辺を外すのがお得意のよう。主人公の銀一郎はキョロっとした目つきが印象的ですし、そんな彼が恋する相手メグはぽっちゃり系で少々口が悪いという、なかなかの外しっぷりです。そこにイケメンのスミオとの恋模様が村おこしと相まっていきますが、どろどろとした恋愛劇はなく、田舎ののんきな事件と心の交流が優しく描かれています。
他の3作品に比べると鋭い切り口や問いかけはあまりありませんが、地方特有の危機感と、そこに立ち向かっていく、へこたれても次の力にする強さを持ったキャラクターたちの魅力的な様子に、作者の力量を感じる作品です。
天狗と人間のハーフである刑部秋姫は、地元の高校に通いながら友達との友情や甘酸っぱい初恋に忙しい毎日。しかし天狗になる修行をするよう幼馴染の榎本瞬にせっつかれています。
天狗にならなきゃいけないの?この日々を捨てなきゃいけないの?天狗になるということと、日常を壊したくないという思いが彼女を悩ませます。
- 著者
- 岩本 ナオ
- 出版日
- 2007-12-21
本作は小学館漫画賞少女向け部門を受賞した作品です。岩本ナオといえば、この作品を1番に思い出す人が多いのでは?
最初におそらく誰しも感じるであろう設定のインパクト。日常系少女漫画に天狗というファンタジー要素が入っています。なのに周りはあまりにもそれを自然と受け入れていて、脱輪した先生の車を女子高生が持ち上げたって驚かない。むしろみんなが当然のように彼女を呼び出して、力仕事を手伝ってもらっちゃう訳ですから、なんとも牧歌的な優しい世界です。
天狗の父親のところにおすそ分け持っていくヒロインに「あら、今からお父さんのとこ~?」なんて近所の人が気さくに声をかけちゃう。それが当たり前なのです。
当初は高校生の女の子が毎日を大切に生き、友と交流を重ね、恋をしている様子を描いた青春漫画という趣。天狗という設定は物語におけるスパイスで、それよりも日常が丁寧に描かれた、上質な青春グラフィティーとなっています。
秋姫も瞬もみんな、好きな人とともに時間を過ごせるよう、日常を大切に送っていきます。そのさまが本当に愛しい。友達のために一生懸命自転車を漕いだり、震える掌を握り、友人のために奮い立ったり、青春のきらめきがここにはあります。
そんな穏やかな雰囲気に終始するのですが、ストーリーの終盤は読者をよい意味で裏切り、少しシリアスになっていきます。天狗というものが小さな悩みではなく、周囲を巻き込んだ大きなものになっていくのです。
岩本ナオの不思議でかわいい青春に、天狗という設定がピリリと効いた本作。ぜひその感覚を味わってみてください。
昔々隣り合う仲の悪いA国とB国は、毎日繰り返し他愛ないことでいがみ合っていました。ついにしょうもないことが発端となり、あわや戦争か?なんて時に仲裁に入った神様はそれぞれの国の族長に言いました。A国はB国に1番美しい娘を嫁に、B国はA国に1番賢い若者を婿に差し出せというのです。
さてはて、いがみ合う2つの国はどのような選択をしたのでしょう……。
- 著者
- 岩本 ナオ
- 出版日
- 2016-07-08
本作は『このマンガがすごい!2017』オンナ編第1位の作品です。
隣り合った国同士のいがみ合いから始まるこのお話。架空の国の物語ですが、全体的にエキゾチックでその独特な雰囲気が魅力的。
ヒロインはぽっちゃり系ののんびりお姫様・サーラ、ヒーローは歯に衣着せぬ物言いだけど、ただの一介の技術者・ナランバヤルという、おとぎ話風少女漫画なのに……いえ、岩本ナオ節炸裂です。イケメンでも美女でもない2人が互いの窮状を見ておられず、助力していくことで心惹かれていくラブロマンスとなっております。
もちろん、それだけではありません。物語は2国間の争いと、そこに絡みつくさまざまな思惑が入ってきます。2つの国の文化の違い、それぞれの狙いや苦悩を、多彩で魅力的なキャラクターたちと、その軽妙なやりとり、優しさを根底とした果敢な行動によって多方面から描いています。
決してどろどろとした重い展開にならず、まるで淡い色合いの細かなジグソーパズルを組み合わせていくように、物語が織り重なっていくのです。
そんな柔らかな雰囲気を、作者が圧巻のシーンや風景描写などで描きます。その書き込みのなかに、相変わらずドキリとさせられる、モノローグや台詞があるのです。ぜひともこの力作をご堪能ください。
『金の国 水の国』については<漫画『金の国 水の国』の魅力をネタバレ紹介!1巻完結なのに広がる世界観!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
読んでみて!としか説明できないものが岩本ナオ作品にはあります。少し誰かに優しくしたい時、あったかいお茶とともに読みたいものを探している時、思い出していただけると幸いです。