伝説の聖女として知られ、その生涯には謎も多いジャンヌ・ダルク。そんな彼女の謎を、伝説や歴史的資料から解き明かす書籍が多く出版されています。今回は、ジャンヌが良くわかるおすすめ書籍5冊を紹介していきましょう。
ジャンヌ・ダルクは神から啓示を受け、フランスのためにイギリスと戦った聖女です。敵を傷つけることを嫌い、旗持ちとして率先して最前線で兵士たちを鼓舞することを選びました。その勇敢な姿から多くの兵士たちが励まされ、軍を勝利に導いています。
1412年頃のフランスのドンレミでジャンヌは生まれました。そんな彼女が神の声を聞いたのは12歳の時です。大天使ミカエルが従者を従えてやって来て、イギリス軍を打ち倒して王太子をフランス王の座に着かせるよう言いました。そこで彼女は王太子のシャルルと会い、信頼を勝ち得ます。
ジャンヌの初陣はオルレアンを包囲していたイギリス軍との戦いでした。そこでイギリス軍の包囲からオルレアンを解放しています。その後は王太子シャルルにランスへの進軍と戴冠式を進言し、見事フランス復権を果たします。数々の功績を残した彼女でしたが、権力者たちに悪魔と交信した魔女という裏の顔をでっちあげられ、火刑にされてしまいました。こうして19歳という若い生涯の幕を閉じたのです。
1:ジャンヌは5人兄妹だった
彼女にはジャック、ピエール、ジャンという3人の兄と、カトリーヌという妹をもつ5人兄弟の長女でした。 彼女は未婚のまま処刑されたために直接の子孫がいませんが、 兄妹たちの血は受け継がれています。
2:ジャンヌは読み書きができなかった?
農夫の娘として生まれた彼女は文盲、つまり読み書きができなかったといいます。 それによって「無罪判決の証書」と偽り、罪を認める書状に署名をさせられてしまったと伝えられています。
3:スタイル抜群だった
フランスの王族・オルレアン公シャルル・ドルレアンは、 オルレアンの町の解放の謝礼としてジャンヌに衣服を送ったそうですが、 その覚書の中には彼女の体格に対しての記述があります。 それによると、彼女は手脚のバランスがよく、強健で美形、身長は158cmほど だったとのことです。
4:監獄の中では男装していた
ジャンヌは看守から貞操を守るために兵士の装い(男装)をしていましたが、 裁判で、男装を止めるという約束文書に署名しない限り、火刑にすると告げられた ため、 嫌々ながらそれに同意しました。
5:現在は正式に無実と証明されている
ジャンヌの死後25年経ち、ローマ教皇カリストゥス3世によって復権裁判が行われ ました。 その結果、彼女が無実であったこと、その死が殉教であったと宣言されます。 さらに1909年に列福、1920年に列聖されたため、現在はフランスの守護聖人の1人と されています。
6:実はてんかんだったという説がある
神からの啓示を受けたことから神聖化されているジャンヌですが、 その啓示が側頭葉癲癇(てんかん)に由来する幻覚症状だったのではないかと捉える 説があります。
7:ジャンヌ・ダルクを有名にしたのはナポレオンだった
ジャンヌを有名にした人物の1人が、かの有名なナポレオンです。 彼は「ジャンヌ・ダルクはフランスの英雄」と宣言し、ジャンヌの銅像を作らせ、 偉業を讃える祭典を開かせました。 その背景には、自身の皇帝としての地位の正当化があったとも言われています。
8:ノートルダム大聖堂にジャンヌのサインが残されている
シャルル7世に戴冠させるため、ジャンヌはこの場所(当時はランス大聖堂)を訪れ ました。 コピーではありますが、文盲であった彼女の署名は非常に珍しい遺物です。
フランスのガリマール社が歴史上の人物たちを資料とともにわかりやすく紹介した「知の再発見双書」というシリーズを刊行しています。『奇跡の少女ジャンヌ・ダルク』はそんな人気シリーズからジャンヌに焦点を当てた書籍です。
- 著者
- レジーヌ ペルヌー
- 出版日
あまり資料は残っておらず、謎に包まれていたジャンヌですが、魔女裁判の記録だけは詳細に残っていました。そんな彼女の受け答えからいかに頭脳明晰かがわかります。資料分析だけでも面白いです。
さらに図版ということで、ジャンヌの肖像や戦場での活躍などを描いた絵画なども載せられています。直接彼女がモデルになった絵が存在していないのは残念ですが、その雄姿を見ることによって、物語が創造しやすい内容です。
疲弊しきっていたフランスを救い、裏切られて魔女として処刑されたジャンヌ・ダルク。そんな彼女の生涯を歴史的事実から綴ったのが、中公文庫から出版されている『ジャンヌ・ダルク』です。神格化した彼女ではなく、歴史上の人物としての彼女を知ることができます。
- 著者
- ジュール ミシュレ
- 出版日
- 1987-03-10
本書の文体は隠喩が多く、ジャンヌに相応しいような仰々しい文体となっています。まるで詩のような文章なので、文学としても楽しめる内容です。詩的な文体により彼女の一生を叙事詩的に楽しめます。
後半で魔女裁判にかけられて火刑に処される工程が書かれている点も読みどころです。権力者たちは保身のために彼女を殺せというプレッシャーをかけてきますが、宗教家たちは彼女がフランスに与えた功績から儀を通そうとします。ジャンヌの苛立ちなど、渦中の騒々しさが楽しめますよ。
『ジャンヌ・ダルク失われた真実―天使の“声”に導かれた少女』は伝説となった奇跡の少女の神格化された部分が描かれています。神の声を聞き、フランスに名誉を取り戻させたジャンヌの壮大な伝説が楽しめる作品です。
- 著者
- ["レオン ドゥニ", "Leon Denis", "浅岡 夢二"]
- 出版日
- 2003-12-25
本書はジャンヌの偉業を歴史的に見るのではなく、伝説的偉業を伝えられるままに書き記しています。彼女の聞いた神の声を肯定しており、ジャンヌを英雄にした神の力が随所に見られる作品です。スピリチュアルで魅力的な要素がいっぱい詰まっています。
そんな神の力を得た彼女がフランスの人びとを奮い立たせていく様子が見どころです。長い戦争で疲弊していたフランス軍に活気を取り戻させ、次々に作戦を成功させていく英雄譚としても楽しめます。
講談社現代新書から出ている『ジャンヌ・ダルク』は日本人竹下節子によって書かれています。ジャンヌ本人の歴史というよりは、神格化されたジャンヌ像の歴史が書かれたものです。どのようにして一人の少女が聖女となり、今日までその伝説が伝えられてきたかが綴られています。
- 著者
- 竹下 節子
- 出版日
- 1997-01-20
神の声を聞き、シャルルをフランス王にしたジャンヌ。そんな彼女が敵に捕らえられ、魔女として処刑されるまで様子がドラマチックに書かれています。神の声を聞いたという神格化された体験や、フランス軍を勝利に導いた歴史スペクタクルまで網羅された一冊です。
魔女として裁判にかけられ処刑されてしまったジャンヌ。数十年後に魔女としての考えが改められ、聖女として認められます。処刑の最中までも信仰を叫び続けた彼女の気高さを読むことができます。
『マーク・トウェインのジャンヌ・ダルク』は聖女ジャンヌの活躍を描いた叙事詩的な小説です。『トム・ソーヤーの冒険』などで知られるマーク・トウェインが執筆しています。詩情を持った文章で楽しく読むことのできる作品です。
- 著者
- マーク・トウェイン
- 出版日
本作は、ジャンヌの幼馴染で小姓として仕えたルイス・コントの回想録によってジャンヌの姿が映し出されています。神の声を聞いてから、シャルルと謁見し、イギリス軍の包囲網を打ち破り、シャルル王太子のランスへの上洛を助けるまでの偉業が語られる物語です。
またジャンヌの衝動を内面からアプローチしようという試みも、実に小説的で興味深い内容となっています。彼女が自らを危険な目に合わせてまでフランス軍を勝利に導いたのは、神からの啓示をまっとうしようとした信仰心なのか、祖国フランスのための愛国心なのか、読者が思い思いに解釈できる内容が魅力です。
多くの伝承によって神格化されたジャンヌ・ダルクですが、そんな彼女の人生には権力による策略と陰謀が渦巻いていました。その波乱に満ちた人生が読める書籍をぜひお手に取ってみてくださいね。