文芸

石川啄木の関連本おすすめ5選!天才歌人は、ダメ男?

更新:2020.12.1 作成:2017.3.18

今回は歌人石川啄木の人生や短歌を知るために、啄木関連本を5冊集めてみました。啄木の短歌のちょっと面白い現代語訳から友人が語る啄木まで、この記事を読めば今までよりもっと啄木を楽しめますよ。

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貧しさと戦った夭折の天才歌人、石川啄木とは?

石川啄木は1886年(明治19年)、岩手県盛岡に生まれました。12歳、尋常中学に上がったころから与謝野晶子らの短歌に夢中になります。生涯の親友で、のちに言語学者となる金田一京助と知り合ったのもこの頃でした。

1905年、処女詩集『あこがれ』を自費出版。またこの年に結婚もします。啄木はわずか19歳でした。そしてこの頃から、一家の家計を啄木が支えなくてはいけなくなり、翌年には小学校の代用教員となります。

盛岡から北海道へ移り、職を転々としたあと1908年に上京。金田一京助に金の工面をしてもらいながら文学活動に励みます。そしてこの頃に、

「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる」
「たはむれに母を背負いて そのあまり軽きに泣きて 三歩あゆまず」(共に『一握の砂』より引用)

といった有名な歌が作られるのです。1909年にはようやく校正係の仕事にありつき妻子も呼び寄せましたが、生活は苦しいままでした。またこの頃、ローマ字で日記を書き始めます。

そして1910年に天皇暗殺を企んだとされる大逆事件が起きると、評論『所謂今度の事』、『時代閉塞の現状』を執筆します。同年には、歌集『一握の砂』を出版しました。

しかしそれから2年後の1912年に啄木は肺結核のため、わずか26歳でこの世を去りました。貧困に苦しみながら必死に働き、その哀歓を率直に歌い上げた歌人啄木の生涯は、涙なしには語れません。ところが啄木の実像はどうもそういう感じでもないようで……。それでは啄木に迫る本を5冊、ご紹介していきましょう。

学校では教えられなさそうな、石川啄木

歌人の枡野浩一が、啄木の歌を現代語に訳して短い文章を添えた『石川くん』。ウェブサイトで連載され、本になりました。最初の1、2回は啄木を讃え、真面目に訳の説明をしています。しかし3回目ぐらいからは、だんだん呆れが入ってくるのです。というのも、啄木の残した日記を読んでしまったからで……。
著者
枡野 浩一
出版日
2007-04-20
「なんだか毎日のように
会社をサボってる石川くんだ!
貸本屋から借りたえっちな小説を
ノートに書き写すために夜ふかしして、
次の日は会社を休んだりとか!」(『石川くん』より引用)

くだらない理由で仕事をサボり、給料は前借りばかり。それでも足りなくて親友の金田一京助から借金を重ね、そのお金をプロの女の人に使ってしまい、家族には仕送りなどしません。「『鬼畜』って言われたことない!?」と思わず漏らす枡野。「気持ちいい疲れなんだな この疲れ 息もつかずに働いたあと(こころよき疲れなるかな 息もつかず 仕事したる後のこの疲れ)」と訳してみせたあと、サボった後たまに働くとそんな感じだよね!と皮肉を言います。

しかし読み進めていくと枡野がだんだんと、ダメ男石川くんに感情移入していくことがわかります。恐らくダメ男の可愛さにやられちゃってるんでしょう。金田一京助も奥さんもこうだったんだろうなあ……と思わず遠い目になります。とても読みやすくて面白いのに、石川啄木の実像とその歌の魅力が味わえる1冊。これは絶対におすすめです!

井上ひさしが描き出す石川啄木

昭和の戯作者といわれた作家・脚本家の井上ひさし。彼は「評伝劇」といわれる、文学者の人生を劇にした脚本を得意としていました。『泣き虫なまいき石川啄木』もその内の一つです。啄木の日記を徹底的に読み込んだ井上が、啄木の生涯と死を感動的に描く作品を楽しめますよ。
著者
井上 ひさし
出版日
劇は、啄木が死んだあと、残された奥さんが啄木の日記を読むところから始まります。でも啄木の日記って、サボりと借金と女遊びが赤裸々に書いてあるんです。しかも奥さんには読めないだろうとローマ字で書いたという小細工つき。そんな日記を読んで感動的なお話になるのだろうか、と思わずツッコミたくなります。

しかし奥さんはそんな夫のダメっぷりは、百も承知なのです。舞台は啄木が生きていた頃の過去へ。甲斐性なしで甘ったれの夫と、口だけの義父、貧乏でも仲良くあったかく、ではなく、小さなことでギャーギャー喧嘩しながら暮らす石川家の日々が描かれます。しかしやがてそんな一家を、結核という病が襲うのでした。

井上ひさしは、枡野よりも啄木のロクでもなさを肯定します。あの日記を読み込んで、なおそうなのです。人間そんなもんだからと笑顔で言っているような印象を受けることでしょう。

最大の被害者(?)金田一京助が語る石川啄木

金田一京助は、アイヌ語研究や辞書編纂で有名な言語学者。横溝正史の名探偵金田一耕助という名前の元ネタでもある人物です。そして何よりも、石川啄木をひたすら援助し続けた親友としても知られています。そんな金田一が語る啄木とはどんな人物なのかと思って本書を開くと、最初から強烈な印象を受けることでしょう。
著者
金田一 京助
出版日
「君と別れて二十有三年、図らずも今、身辺の繋累を伊豆の山に隔て、相模灘の初日影に心の雲を払い、遥かに都門の客を謝してひたぶるに君を偲ぶ(中略)幾度か声を放って空林に泣きまろび、幾度か声をのんで暁の枕をうるおし、啼泣嗚咽、三日三夜、ただただ君を思いつづける」(『新編 石川啄木』より引用)

金田一よ、啄木のことがそんなに好きだったのか……という印象を思わず受けてしまいました。単身上京して下宿に転がり込んだものの家賃が払えない啄木のため、蔵書を売り払ってまで金を作ったという金田一。それでも啄木は金を無心し続けるのです。そして言われるがままお金を貸した挙句には「めめしい男だ」と日記で悪口を書かれます。それでも金田一は啄木の才能を信じていたのでしょう。

金田一と啄木はお互いの仕事にどのような影響を与えあっていたのかといったことも読み取れる、啄木の実像に迫れる1冊となっていますよ。

「ローマ字日記」は啄木の傑作?

日本文学研究者であるドナルド・キーンが90歳を越えてなお執念を燃やし続け、とうとう完成させた石川啄木の本格的評伝『石川啄木』。本書の特長は、評伝の中心にローマ字日記を置いている点にあります。この日記の文学的価値は高く、これこそが啄木の傑作だとキーンは言うのです。果たしてそれは、本当なのでしょうか。
著者
ドナルド キーン
出版日
2016-02-26
キーンは、日本独自の文学形式である日記文学に深い関心を寄せてきた人物です。そんな彼から見ると、啄木は日記文学の中で重要な位置にいる人物なのです。たしかに全てが包み隠さず書かれる啄木の日記には真実という、傑作に欠かせない要素を含むこととなります。さらには啄木の文学には現代人にも通じるものがあるともいいます。

本作は、一読の価値があるスリリングな評伝です。また出版後にキーンはインタビューの中で、もし啄木がお金を借りに来たらあなたはどうしますか?と聞かれ、「たぶん貸しただろう」と答えているのです。お金を貸し続けた金田一京助など多くの人を惹きつける歌人といえるでしょう。

石川啄木は、やっぱり凄かった

最後はやはり、啄木本人の本を取り上げなくてはいけないでしょう。出版社はいくつかありますが、今回は歌集「一握の砂」と、今なお示唆に富む「時代閉塞の現状」を一気に楽しめる、宝島社による『一握の砂・時代閉塞の現状』をおすすめしたいと思います。
著者
石川啄木
出版日
2008-11-05
ここまで紹介した本から啄木の実像を知った上で短歌を読めば、その正直さには脱帽してしまうことでしょう。たとえば、女遊びのことも書いてあります。

「死にたくはないかと言へば これ見よと 咽喉の痍を見せし女かな」(「一握の砂」より引用)
(※意味:死にたくはないかと言ったら、これを見てと 喉の傷跡を見せてくれた女よ)

あるいは、借金をしたあとの暗い感情も書いてあります。

「一度でも我に頭を下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと」(同書より引用)
(※意味:一度でも自分に頭を下げさせた人は、みんな死なないかと祈ったりした)

また自分がダメ男であることも自覚した歌もあるほどです。

「非凡なる人のごとくにふるまへる 後のさびしさは 何にかたぐへむ」(同書より引用)
(※意味:自分が非凡な人間であるみたいに振る舞った、その後のさびしさを何にたとえよう)

自分が凡人なのに大きく見せようとしてしまう見栄っ張りであること、そのことをいつも後悔していることがわずか33音の中に歌い込まれているのです。やっぱり凄いですね。

この歌集を通して読むと、石川啄木はけっして、日記に書いた本当の自分を短歌では隠していたわけではないことがわかります。泣き虫で落ち込みやすい自分、プライドが高い自分、鬼畜な遊び好きの自分、妻を愛しながら家に帰りたくない自分……。矛盾するいくつもの自分を抱え、その矛盾そのものを歌っているのです。

ここまで読み込めば、キーンの言っていたことは正しかったと感じられるでしょう。啄木の偉大さは、その現代性にあります。現代の私たちと同じように、複数の自分を複雑に抱え込み、その葛藤に悩む人だったのです。本書でぜひその凄みに触れてみてくださいね。

また大逆事件後に書かれた「時代閉塞の時代」についても本書に収録されていますので、ぜひそちらも読んでみてくださいね。

どうしようもなさそうな人間でありながら、周囲から愛され続けた石川啄木。その魅力の根源は、度外れた率直さにあったのかもしれません。ぜひ彼の本音の文学に触れてみてください。