おすすめの青春小説23選!恋愛、友情、一瞬のきらめきを描いた文庫作品

更新:2021.12.17

青春ときくと何を思いますか?甘い、苦い、甘酸っぱいなど人それぞれですよね。今回のテーマは青春小説。一瞬のきらめきに共感するもよし、懐かしむもよし。今青春を謳歌している人もそうでない人も楽しめる物語の数々をご紹介していきます。

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大人たちの紡ぐ青春小説『スロウハイツの神様』

脚本家の赤羽環がオーナーを務めるアパートを舞台にそこに住む人物たちが繰り広げる物語。大人たちが繰り広げる少し遅めの青春ものでありながら、所々に謎が見え隠れします。

アパートには、オーナーの赤羽環を含む6人が入居しています。お互いに刺激を受けながら、それぞれ気ままに生活をしていました。物語は、空室に入居者が入ったことで動き出します。

著者
辻村 深月
出版日
2010-01-15

青春小説であり、群像劇。さらにはミステリー要素も相まって、不思議な透明感を漂わす作品。登場人物たちの視点から語られる物語は、上巻ではゆっくりと流れ、下巻では思わぬ方向へと展開します。

上巻は、彼らの日常を垣間見つつ、時々引っ掛かりを覚えながらも全体的に平凡に過ぎていくものの、上巻の最後で大きく物語が動き出す気配を感じるのではないでしょうか。下巻は、この作品がミステリーであると痛感するほど上巻に散りばめられた伏線の数々を回収していきます。上巻では思いもつかない最後へと収束する物語は、下巻を読んだ後に再び上巻を読み返したくなること間違いなし。心地のいい読後感を味わえる大人の青春小説です。

中学生の不安定さが胸に迫る青春小説『いちご同盟』

タイトルのいちごは主人公たちの15歳という年齢を指しています。しかし、いちごの甘酸っぱさも内包しているのではないかと感じるほど、甘酸っぱく切ない物語です。

北沢良一は、同級生の羽根木徹也を通じて一人の少女上原直美出会います。腫瘍の治療と向き合い、懸命に生きようとする直美と交流することで、少しずつ変化していく良一の人生観。良一の視点を通じて、中学生特有の繊細さが醸し出されています。

著者
三田 誠広
出版日
1991-10-18

読書感想文のラインナップに挙がることの多い作品。病と闘う余命少ない少女と主人公が登場する物語は数多くありますが、中学生が主人公の『いちご同盟』は、他とは異なる瑞々しさも溢れています。中学生らしい不安定さを通して生きるということが書かれている青春小説の代表とも言えるかもしれません。

死から生へと気持ちが変化していく良一に、一番親近感を覚えるのは同じ中学生で、大人は中学生の時に出会いたかったという思いを懐かしさと同時に感じるのではないでしょうか。出会えた年齢により感じることが異なると痛感する作品でもあります。

これは僕の恋愛に関する物語だ『GO』

 

主人公・杉原=「僕」は元・在日朝鮮人で、現・在日韓国人。物語は主人公の語り口調で進みます。

在日朝鮮人だった「僕」は、両親がハワイに行くことを理由に、ある日、在日韓国人へと国籍を変更します。ハワイに行く為に使う予定だったお金で、日本の高校へと進学した「僕」は朝鮮学校出身者という理由から「挑戦者」に絡まれる毎日。そんなある日1人の女の子と恋に落ち……。

 

著者
金城 一紀
出版日

 

語り口調で描かれているだけあって、主人公の視点から高校生の日常を垣間見ることができます。その語り口調がとてもリアル。現役高校生の頭の中をのぞいたら、きっとこんな感じなんだろうなと思えるほどです。毎日のように現れる「挑戦者」に対抗するためだったり、幼い頃から受けた差別に対抗するためだったりと、かなりやんちゃに育った高校生ではありますが。

テーマは恋愛・青春が主です。ですが、それはそれとして、やはり民族差別の要素は含まれます。ただ、「こういう歴史があって~」や「この国での考えは~」といったことを延々と書き綴っているのではなく、あくまで主人公の視点での悩みや日常を通して描かれています。喧嘩が強いだけではなく、勉強もできる主人公。しかし、恋人に国籍の話をする際には、勇気が必要で……。

恋愛の他に父と衝突や親戚の死、さらには友人の死という主人公にとっての「壁」が多々登場します。国籍や民族差別をただ描いた作品なら、「壁」と伴って、ただ重い作品となったことでしょう。しかし、主人公がそうした「壁」をのり越えたり、また「壁」を壊したりすることを目指すなど、強く、たくましい人間であるため、「次へ進もう」という希望ある力強い作品となっています。

 

少女たちの奏でる青春『放課後の音符』

恋を求める少女たちの短編集。大人でもなく子供でもない10代後半の少女たちの恋愛ストーリーは、年を重ねた大人にとって懐かしさやくすぐったさを感じる青春小説です。

主人公は、17歳の女子高生。物語は放課後の人間関係を描き、少女は成長していきます。タイトルにある音符は、少女たちの感性のこと。物語に素敵な旋律を与えてくれます。

著者
山田 詠美
出版日
1995-03-01

少女と同じ年齢で、この作品に出会えたかつての少女たちにとって、この本は多くの共感を集めたのではないでしょうか。大人になって読み返すと、あの頃の私はこうだったと懐かしさを感じられる作品です。年を重ねて初めてこの作品に出会った女性は、若い時に出会いたかったという思いと共に気恥ずかしさを覚えるかもしれません。少年または男性にとっては、少女から女性へと成長していく姿に少しの驚きと不思議な気分を味わえるでしょう。

「あなた」、「おまえ」などと呼ばれ、名前の明かされない主人公。自己投影のしやすさから、鮮やかに少女の世界を捉えることができる魅力にあふれています。

不器用な高校生が織りなす物語『黄色い目の魚』

海辺の高校で出会った少女と少年の物語。それぞれが交互に語り手となり、物語は進みます。二人の気持ちにもどかしさと優しさを感じる1冊です。

村田みのりが心を許すのは叔父だけ。そんなみのりの表情を追いかける木島悟。1章と2章は、二人のそれぞれの幼少期を描き、3章で二人は出会います。様々な出来事を通じて、二人の間に名付けようのない絆が生まれていく様子は、不器用でもどかしくもあります。
 

著者
佐藤 多佳子
出版日
2005-10-28

主人公二人に関わる登場人物たちとの関係も描かれ、痛いほど二人の感情が伝わってきます。言葉にしがたい思いは、誰もが感じたことがあるものかもしれません。不器用な二人はお互いに傷つけ合いながら成長していきます。

佐藤多佳子といえば、爽やかな作風を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。『黄色い目の魚』は、爽やかさもありながら、丁寧な心理描写により二人の不器用さが浮き彫りとなり心が揺さぶられます。

底抜けに明るい青春小説『少年少女飛行倶楽部』

中学生らしさを持ちながら、一癖も二癖もある個性的な中学生たちの少しコミカルで爽やかな青春小説です。青春を謳歌している登場人物たちにスカッとします。

幼馴染に誘われて、飛行クラブに入部することになった中学1年生の海月。入ってみたものの、人数不足により正式なクラブとして認められておらず、おまけに肝心の飛ぶ方法も具体的にはなく、海月は驚きます。それでも、変人部長を中心に空を飛ぶことを目標に奮闘する物語です。

著者
加納 朋子
出版日
2011-10-07

全体的に軽いタッチで描かれるものの、時々はっとさせられるフレーズが散りばめられています。心の中で部長の存在が大きくなり、空に飛ばせてあげたいと思うようになる海月。貧乏くじを引くことも多いけれど、めげずに頑張る真っ直ぐな海月を応援したくなります。海月視点のため、海月の成長に目が行きがちですが、他の個性的なメンバーもちゃんと成長していくので忘れずに注目してほしいです。

いつもと少し違った加納朋子を味わうことのできる『少年少女飛行倶楽部』。あとがきにて「底抜けに明るい物語が書きたくなった」と語るくらい、底抜けに明るい物語です。一つの青春小説として楽しむこともできますし、ファンであれば新たな加納朋子を発見できるのではないでしょうか。

暖かな気持ちに包まれる、高校生たちの物語『吉野北高校図書委員会』

タイトル通り、図書委員会のメンバーの物語。徳島県の高校を舞台としているため、徳島弁で会話が進みます。方言ということで敬遠する人もいるかもしれませんが、この作品においては、爽やかで優しい雰囲気を醸し出すことに一役買っていることがポイントです。

気の合う男友達武市大地と可愛がっている後輩上森あゆみが付き合いだしたことから、主人公川本かずらの気持ちがかすかに動き出します。大地に対して明確にできない想いを持っていることに気が付いてしまったかずら。かずらを想う藤枝高広は、そんなかずらにもどかしさを感じます。

著者
山本 渚
出版日
2014-06-20

かずらの大地に対する想いは、恋なのか、恋じゃないのか。かずら視点で描かれる大地に対する葛藤は、あゆみに対する気持ちも相まって中々難解です。一方、かずらに恋心を抱く藤枝は、かずらが否定しても大地に恋をしているのではないかと感じているため、葛藤が生じています。思わず突っかかってしまう藤枝とそれに戸惑うかずらの会話にキュンとせずにはいられません。普通の日常が描かれているものの、揺れ動く図書委員たちが描かれる様は、間違いなく青春といえるのではないでしょうか。

手軽なページ数にもかかわらず、甘酸っぱく爽やかな余韻に包まれます。派手な出来事はなくても、素敵な高校生活を送る登場人物たちが羨ましく、青春って素晴らしいと感じることのできる作品です。

極上の青春陸上競技ドラマ『一瞬の風になれ』

全三部作となる、青春スポーツ小説です。主人公の新二はもともとはサッカーをしていましたが、優秀な兄に対する複雑な想いから、サッカーをやめてしまいます。しかし高校の体育の授業で、幼なじみで親友でもある連と競争し、その走りの美しさに惹かれ共に陸上部へ入部することに。かくして新二は、短距離走の道を進むことになるのでした。

著者
佐藤 多佳子
出版日
2009-07-15

第一部、第二部と進むごとに1年ずつ成長していく彼らの熱い、時に甘酸っぱい青春が楽しめる名作です。かけがえのない仲間と共に高い目標を目指して努力する本作は、青春のお手本ともいえるまぶしい輝きに満ちています。また新二の苦悩、そしてそれを乗り越えたときの成長は見ていて気持ちよく、涙を誘うことでしょう。

いま青春を楽しんでいる人も、また過去の青春を懐かしむ人も、彼らに強く共感することができますよ。新二たちと共に、爽やかな風を感じてみませんか?

本物の「切なさ」が分かる……儚い三部作小説の一作目『プシュケの涙』

本作は『ハイドラの告白』『セイジャの式日』と続く由良3部作の第1作目。「プシュケ」とは、蝶の羽を持つ乙女としてギリシャ神話に登場する、人間の娘です。物語と神話を重ね合わせた本書の表紙絵は、とても美しくかつ切なく表現されています。

著者
柴村 仁
出版日
2014-10-15

 

物語は前編・後編に分かれており、前編がミステリータッチで描かれているのに対し、後編は純粋な恋愛ストーリーとなっています。その差に最初ついていけない読者もいるかもしれませんが、『ハイドラの告白』『セイジャの式日』と合わせて読めば、この構成にもきっと納得できるでしょう。

主人公の男子高校生、榎戸川はある日、授業に飽きてふと窓の外に目をやりました。その瞬間、上から落ちてきた女子生徒と目が合います。女子生徒は落下してそのまま死亡してしまい、警察は自殺と断定。榎戸川も周りのクラスメイトも、事件を深く掘り下げようとしない中、由良と名乗る男子生徒が榎戸川に話しかけてきます。由良は自殺した女子生徒、吉野彼方について知っているといい、彼女が自殺した原因について知りたくないかと榎戸川に問いかけます。由良によると、吉野彼方は美術部員で、自殺の前日まで描いていた作品があったとのこと。未完成のその作品を残して彼女が自ら逝くはずがないという彼と共に、榎戸川は彼女の死の真相を探ることに……。

後半は一転し、吉野彼方の視点で物語が進んでいきます。転校生の彼女には友達と呼べる存在がいません。複雑な家庭環境下で過ごしていた彼女は、周囲の人間にも心を閉ざしていたのです。そんな中、彼方は居場所を求めて美術部に入ります。そこで彼女に話しかけてきたのが由良でした。その後というもの由良は彼女にちょっかいを出し続けます。しかし、ずっと居場所がない、頼る人がいないと感じてきた彼女にとって、それは温かい心の交流だったのです。彼女は次第に由良に心惹かれていきます。喜んでほしい一心で、希望する絵を何でも描くと彼に伝えるところで後半の物語は終わります。

前半と後半の差が激しく、読者は取り残されたような切なさを感じるでしょう。後半で救われていく彼方の結末を読者は知っているからこそ、「やるせない」気持ちに…‥。それでも続編を読みたいと思わせる著者の力量は素晴らしいものがあります。

 

理科室からの、時間を超えた少女の冒険『時をかける少女』

1967年に刊行された本作は、漫画やアニメ、ドラマや映画など様々なメディアにも展開しており、多くの人々に親しまれている有名な作品となっています。

主人公の芳山和子は、どこにでもいるごく普通の中学3年生の少女です。同級生の深町一夫、浅倉吾朗と共に理科室で掃除をしていましたが、ふとどこからか漂ってきたラベンダーの香りを嗅いだ瞬間、気を失ってしまいます。そして次に目が覚めたときには、「タイムリープ」と呼ばれる、時間を跳躍する能力を身につけてしまっていたのです。

著者
筒井 康隆
出版日
2006-05-25

この作品の見所は、題名にもある通り、時をかける主人公の少女とその冒険です。時を越えて、過去や未来の中のあらゆる時間や場所に向かい、そこで起きる数々の事件や出来事に直面し、謎を解こうとするシーンを楽しむことができます。親友と一緒に掃除しているという、どこの学校にでもありそうな光景の中で、突然起きた出来事で身につけてしまった未知なる力。最初は戸惑っていた和子ですが、幾多の時間を跳躍し、様々な経験を重ねていくうちに、この力の真実はどこにあるのか、ということを勇敢にも知っていこうとします。

そして、幾多の時間を越えた末、ついに真実に辿り着いた和子を、ある意外な人物が待ち受けています。その人物との出会いを果たした時、和子は……。

新選組を題材にした青春小説『幕末の青嵐』

新選組といえば、血気盛んで英雄気質ばかりの集団であると描写されることが多いですが、この作品では隊士1人1人を単なる若者に過ぎないという目線で描いています。

描かれるのは、新選組結成当初の頃からその終わりまで、ほぼ隊としての歴史全体です。ほかの作品で描かれるとおり、土方歳三が組織の規律を守り理想を実現させようとしているなど、新選組もののお約束もしっかりと守られており、非常に読みやすい作品です。

著者
木内 昇
出版日
2009-12-16

新選組を描いた作品といえば、司馬遼太郎の『燃えよ剣』などが有名ですが、女性の書いた新選組ものの歴史小説はあまりありません。

この作品では、登場人物1人1人の細かな内面での心理や葛藤がしっかり描れています。登場人物が多くて混乱してしまいそうに思えますが、そこは作家の腕の見せどころ、しっかりと誰がどのように考えているかわかるのです。

新撰組ものの小説を初めて読む方も、もうすでに色々と読んでいるという方にもおすすめ出来る小説です。

浪人生の懐かしい思い出『風に桜の舞う道で』

本作の舞台は予備校の寮「桜花寮」です。主人公は、高校を卒業したばかりの若者たち。皆それぞれの夢を叶えるべく、「桜花寮」に集まりました。

そして10年後、彼らの夢は叶いつつあったのです。

著者
竹内 真
出版日
2007-09-28

 

登場する人物は、大学受験に失敗したアキラ、リュータ、ヨージという3人の仲間です。作品は、1990年の予備校生である彼らと、10年後の2000年に社会人となっている彼らの姿を交互に描きます。

10年前の彼らは高校と大学の中間の人生を歩んでいました。浪人生という時間はふわっとしていて、何にも縛られていないような自由を感じることでしょう。受験勉強はもちろんしなくてはならないのですが、恋愛や熱い友情も経験できる1年間です。

個々での夢を追いながらも、仲間と楽しく生活を送る様子はとても微笑ましく感じられます。悩みがあって落ち込んだり、良いことがあってはしゃいだり、読んでいるこちらも一緒に一喜一憂してしまうような魅力が詰まっています。

10年後の彼らの姿は、大人びつつも少年の心を残した様子です。夢の叶え方はそれぞれ異なるけれど、一生懸命生きています。成長した姿も同時に描くことが、親近感を覚える要素の一つとなっているのでしょう。

思わず自分の青春を振り返ってしまうような懐かしさを秘めた作品です。

 

映画化された青春小説『楽隊のうさぎ』

いじめられっ子で、集団の中では自分の周りに壁をつくるようにしていた主人公、克久。中学生になった克久は、学校にいる時間をなるべく短くしたいと望んでいました。
 

そんな克久でしたが、彼が入ることになった吹奏楽部は、学校一練習時間の多い部活動だったのです。

著者
中沢 けい
出版日
2002-12-25

克久が所属した吹奏楽部の練習は、全国大会を目指すだけあって、とてつもなくハードです。朝は6時半から練習にでかけ、夕方は7時頃まで練習が続きました。

孤独に慣れていた小学生時代を過ごしてきた克久の胸には、「うさぎ」が現れます。克久の胸の奥で隠れている臆病な「うさぎ」でしたが、ハードすぎる吹奏楽部の中で自然に居場所を見つけ、だんだんと仲間を得ていくのです。

引っ込み思案で自分の意思を相手に伝えられず、主張できないゆえに流されてきた克久。特別劇的なことはなくても、母親や友達との関係性や衝突の中で克久は成長し、それによって周囲も変わってゆく描写はまさに青春小説そのものです。

「今じゃなければできない演奏がある」(『楽隊のうさぎ』より引用)

克久の成長と共にみる臨場感抜群のクライマックスの演奏シーンは格別です。

本屋大賞を受賞した恩田陸の青春小説『夜のピクニック』

朝の8時から翌朝の8時までの24時間で80㎞を歩く、年に一度の伝統行事、歩行祭。高校3年の甲田貴子は、この高校生活最後の一大イベントにある賭けをしていました。それは貴子がずっと秘めてきた気持ちを整理するためのものでした。けれど、思った通りにうまくいかずに、ゴールだけが近づいていきます。

貴子にとって最後の歩行祭は自らの気持ちに区切りをつけるためのものですが、歩行祭に参加する他の生徒にとってもそれぞれの思いを抱えながらのイベントでもあるのです。好きな男子に近づこうとする生徒、今年こそは完走しようとする生徒など、この歩行祭には様々な思いが巡っています。様々な生徒がこの歩行祭を悔いのないものにしようとしているのです。

この物語には貴子の他に西脇融という男子生徒が登場します。彼も秘密を抱え、複雑な気持ちで歩行際に参加していました。それは貴子のこと。しかし二人は、融いわく今年同じクラスになるまで半径3メートル以内に近づいたこともなく、貴子いわくろくに喋ったことがない関係だというのです。

物語の中でキーマンとなる融。貴子と融はある秘密を抱えていて……。

著者
恩田 陸
出版日
2006-09-07

歩行際が終われば高校生活はみんな過去のことになります。しかしそれは何かの始まりへと繋がっているのです。ゴールが近づくにつれ様々な気持ちの変化をみせる生徒たちと共に『夜のピクニック』をすれば、何かの始まりを感じられるかもしれません。
 

名作青春小説の例にもれず、本作も読者の世代によって感じ方が変わる作品です。

大人として社会人となった人々にとっては、友人たちと歩きながら、たわいもない会話をしたことを懐かしく感じるでしょう。夜に好きな異性についてしゃべり合ったことを思い出すかもしれません。

まだ学生生活が終わっていない人たちには友人たちと過ごす夜が羨ましく感じられるかもしれません。世代によって沸き起こるものは違いますが、そこには確かに誰もが経験する時間があります。その時間は、青春という姿で読んでいる人の前に現れるのです。

そのような懐かしさなどの気持ちが出てくるのは、やはり貴子など、登場人物 の心理描写の細やかさと、歯切れのよい会話のテンポ感であるといえます。それらは今作で本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞した恩田陸だからこそだといえるのです。

青春恋愛小説の傑作!『夜は短し歩けよ乙女』

舞台は古都・京都。物語は主人公の男子大学生「私」と、彼の片思いの相手である後輩の女子学生「乙女」を中心に、4つの物語で構成されています。それぞれ四季を背景に、少々偏屈者の私が純粋だけれどもこれまた少々変わり者の乙女への恋心を成就させるべく孤軍奮闘します。

春の章。偶然同じ結婚祝い会に出席した私と乙女。クラブの先輩と後輩ではあったものの、ほとんど接点はありませんでした。これを機になんとか乙女と近づきたいと思った私ですが、二次会に参加しなかった乙女に声を掛けそびれ、つい乙女の後をつけてしまいます。乙女はこの時ただお酒を飲みたいという一心で、普段は訪れない夜の繁華街へと足を踏み入れていました。そしてとあるバーで出会った酔客をきっかけに乙女は不思議な一夜の主人公となります。

著者
森見 登美彦
出版日
2008-12-25

夏の章では古本市で思い出の絵本を探す乙女と、何とかその絵本を手にしようと体を張って悪戦苦闘する私が、秋の章では学祭を舞台に成り行きで演劇の主人公となった二人がそれぞれ描かれます。冬の章では京都中を奇妙な風邪が蔓延し、私をはじめバタバタと人が寝込む中、乙女は一人だけ風邪を引きません。風邪の原因となるあるものを断ち切るべく、乙女は一人果敢に立ち向かいます。

主人公の二人はそれぞれとても魅力的なキャラクターですが、脇を固める登場人物達が輪をかけて面白い強烈なキャラクター達ばかりです。夜の京都を牛耳る金貸しの李白、鯨飲する歯科衛生士の羽貫女史、天狗を自称する樋口、錦鯉の養殖業を営む春画コレクターの東堂など。とりわけ李白は影の主人公とも言える謎多きキャラクターです。不思議な出来事の中心には、必ず李白が関係しています。

彼らの不思議な魅力に導かれ私と乙女は知らぬ間に日常から少しはみ出した異世界に足を踏み入れます。少々不可思議な出来事も古の都京都ならそれもあり得るかもしれないと思わせるのは、土地の持つ力というものでしょうか。作中には京都の地名や通りなどが描かれており、京都に土地勘のある人なら手に取るように風景が思い浮かべることが出来るでしょうし、また土地勘のない人も旅行の際にこの本を片手に京都を散策すれば、物語の中に迷い込んだような気持ちになれるかもしれません。

大人になるとなかなか日常から抜け出すことは出来ませんが、私や乙女のようにいつもは足を踏み入れない街、いつもは通らない道、いつもより1本遅い電車などほんの少しの冒険をしてみると、素敵な出会いが訪れるかもしれません。

『夜は短し歩けよ乙女』と一緒に読みたい青春小説!『四畳半神話大系』

主人公の「私」は大学3回生の春までの2年間、実益のあることなど何もしてこなかったことを後悔しています。1回生の時夢見た「薔薇色で有意義なキャンパスライフ」には程遠い現在、それもこれも根性が捻じ曲がっている小津なる人物によるものが大きいと思っています。小津と出会うきっかけとなったサークルに入っていなければ……。

選択肢を選び直したとき、主人公の運命はどうなるのか。これは主人公とその周りの人々が織り成すパラレルワールドの物語です。

著者
森見 登美彦
出版日
2008-03-25

『四畳半神話大系』は全4話で構成されています。ターニングポイントは主人公が大学1回生のときのサークル選択。

しかし、第1話で選択した映画サークル「みそぎ」に入ろうが、第2話の樋口師匠の弟子になろうが、第3話のソフトボールサークル「ほんわか」に入ろうが、最終話の秘密機関「福猫飯店」に入ろうが主人公は出会う人には出会うべくして出会っていますし、各話の中で「薔薇色のキャンパスライフ」を送れていないことを嘆いています。なんとも言い難い「阿呆」な行動をとってまた後悔する運命を負っているのです。

ところが、最終話になって物語の様相が変わってきます。1回生のとき、秘密機関「福猫飯店」に入り、実益のないことしかしてこなかったことを悔やむまでは同じなのですが、突然自分の住んでいる四畳半に閉じ込められます。閉じ込められるというよりは、自分が住んでいる下鴨幽水荘の110号室が永遠と続いている空間に入り込んでしまいます。

永遠に続く空間に閉じ込められて困る事情の食料と排便とタバコの問題をなんとか解決しつつ、「私」はその空間を彷徨う旅に出ます。最初のうちは同じ空間にうんざりしつつ、人恋しさに負けそうになりながら。そして、それを続けていくうちに僅かなことではありますが、各四畳半に違いがあることに気付き……。

現実世界で生きていく中で「あのときああしていれば良かった」と思い悩んだことがある人も多いでしょう。その選択をもう一度やり直せたら……。その願望を実現させたのがこの『四畳半神話大系』です。主人公は第3話までにも不思議で愉快で良い意味でくだらない物語を披露してくれています。舞台になっている京都という土地が醸し出す独特な妖艶さや甘美さがその不思議さに拍車をかけます。

読み進めるうちに気づかされる何か、主人公が行き着くものに触れてみるのもいいのではないでしょうか。

一風変わった飛び込みという題材を扱った青春小説『DIVE!!』

主人公は飛び込み歴6年の「坂井知季(さかいともき)」という、天性の柔軟性と動体視力を持つ中学生。

彼の通うミズキダイビングクラブは深刻な経営難に陥っており、親会社の大手スポーツメーカーに閉鎖を言い渡されます。コーチの麻木夏陽子(あさきかよこ)の説得によりなんとか存続することができたのですが、その代わりに言い渡された条件が「つぎのオリンピックまでに日本代表を出すこと」でした。

同クラブからオリンピック選手を輩出することができれば、今以上の集客が見込まれるからです。こうしてオリンピックに向けて、会社の存続を賭けた少年たちの過酷な練習の日々が始まるのでした。

小説原作で、漫画や映画、ラジオドラマなどたくさんのメディアミックス展開がされており「飛び込み」というマイナーなジャンルに新たな光を当てたまさに意欲作。読んみると歴史が古く、奥が深い競技であることがわかります。

著者
森 絵都
出版日
2006-05-25

読みやすいポイントとして挙げられるのは、予備知識がまったくなくても「飛び込み」というスポーツについての説明が違和感なく自然と描写されていて、ただ淡々と説明してあるのではなく、読むリズムを崩さないんです。その辺はもはや作者の力量としかいえません。

主人公たちのコーチであり、ダイビングクラブの創設者の孫でもある麻木夏陽子という熱血なお姉さんがいるのですが、彼女のエピソードが素晴らしい。作中でも夏陽子が指導している中学生がやめてしまうんですが、それでも彼女は「今いる子たち(スクールに残った子たち)を育てよう」とパッとスイッチを切り替えるんです。これはなかなかできそうでできないことでしょう。

自分が熱心に指導していた生徒があっさりと練習を辞めて次から来なくなってしまうのは本当に悲しいものです。そして会社はどんどん経営難に陥っていきます。創設者の孫としては、祖父の会社を潰したくないから必死に頑張るのですが、やはり辞めていく人間を引き止めることはできません。

このエピソードで痛感することは、やはりどんなにピンチのときでも後のことをクヨクヨ考えず、しっかり切り替えることが大事ということです。今頑張っている子たちに熱を入れようとする姿は、読む人の頭に強く刻み込まれることでしょう。

夏陽子のほかにも出てくる登場人物たちはみんな一癖も二癖もある人物ばかりです。やたら世間体を気にする冨士谷要一、神経質でとにかくジンクスを気にする丸山レイジ。そして気を遣いすぎて弟に彼女を取られてしまった主人公の坂井知季。

とくに冨士谷は、なんとオリンピックの内定が決まったにもかかわらずその内定を蹴ってしまうのです。そこには一口では語り尽くせないほど複雑な事情があるのですが、このやるせなさもあって、読み進める手が止まらず、彼らがいったいどうなっていくのかがますます気になっていきます。

派手な駆け引きや、大人の濃厚な恋愛小説にお腹がいっぱいになって疲れてしまった人は、とりあえず一息つくつもりでこの「DIVE」を読んでみるのはどうでしょうか。読みやすいのはもちろんなのですが、人間が持つ固有のリズムに逆らわずにスラスラと読める気持ちのいい快感がありますよ。

文化祭で起こるラジオの謎『文化祭オクロック』

高校の文化祭とは多くの学生にとって、1年間で一番の大イベントと言っても、過言ではないでしょう。皆で準備をして、時に競い合って作り上げた文化祭の思い出がある方も多いのではないでしょうか。

この作品はまさにその、盛り上がる文化祭での出来事が描かれています。

著者
竹内 真
出版日

 

東天高校の文化祭初日、唐突に始まったのは謎のDJによるラジオ番組。この番組には様々な企画が用意されていて、正体不明のDJがする発言に高校生たちが翻弄されていきます。例えば、何十年も止まったままの、学校の大時計の針を治す、など……。

ミステリー要素も含まれているので、学生生活の中にも様々な伏線が張られています。後半になるにつれて徐々に明らかになってくるDJの正体を解明していくストーリーと、いきいきとしている生徒や文化祭の様子が同時に楽しめる作品になっています。

皆さんも青春の思い出が蘇ることでしょう。

 

進学か、恋愛か『ハルフウェイ』

北海道に住む高校3年生の主人公ヒロと、ヒロがずっと片思いをしていたシュウの物語。

ヒロはシュウから告白されます。シュウは東京の大学に進学したい気持ちを言い出せずにいました。恋愛か進学かを決めかねるというのが、本作の軸になっています。

著者
北川 悦吏子
出版日

せっかく付き合ったのになぜ告白されたのか理解できないヒロと、東京の大学に進学したいが好きな気持ちを抑えきれないシュウ。それぞれの気持ちが痛いほどわかり、涙なしでは読めない作品です。

学生の恋愛を描く恋愛小説は多くありますが、本作はただの青春小説ではありません。恋愛を取るか、上京して自分の夢を叶えるか、といったリアルな学生の悩みが描かれるため、感情移入がしやすく、読みやすい作品となっているのです。

「本物」を探す不器用な登場人物たち『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 』

人間関係が上手くいかないなんてことは思春期にはよくあることですが、この作品はそんな成長途中の微妙な精神状態にある少年少女の複雑な人間関係が描かれます。

主人公・比企谷八幡は人とうまくやることができず、高校2年になるまでずっと友達のいない「ぼっち」として学生生活を過ごしていました。そんな矢先、担任教師の平塚静に無理やり奉仕部という部室まで連れられ入部させられます。そこで雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣に出会い、そのふたりとの関係が始まっていきます。

著者
["渡 航", "ぽんかん8"]
出版日

ひねた考え方を持っていて人間関係を斜めに見ている比企谷と、優秀でありながらその潔癖さが災いし不器用にしか生きられない雪ノ下、周りの目を気にするあまり周囲に流されてしまいがちな由比ヶ浜結衣。3人ともどこか不器用なキャラクターたちが登場します。

彼らの距離感は微妙なもので、絶妙に距離感を測りながら、自分たちなりの関係性を深めていきます。そしてその関係性は「本物」という、ひどく曖昧で不確かなものを求めるようになってきて……。

奉仕部の3人や周囲の面々の人間関係は、誰でも学校生活や卒業後の人生で抱える問題に切り込んでおり、文学性のある作品に仕上がっています。

タイトルの通り「間違ったラブコメ」なので、普通のラブコメのような展開ではありません。しかし少し落ち込むような展開があってもその先に希望が見えるような物語で読者を引き込んでいってくれます。青春ライトノベルの金字塔的作品です。

男の娘キャラを定着させたラノベ?『バカとテストと召喚獣』

作品の舞台となる文月学園高等部では、オカルトと科学の融合に偶然成功した結果、「召喚獣システム」という、召喚獣を現実世界に召喚出来るシステムが整っています。

文月学園高等部では、学力によるクラス分けがされている一方で、「召喚獣システム」を利用したクラス対抗の下克上合戦も奨励しています。このため、主人公である吉井明久の所属する2年F組(学年で最も成績が悪いクラス)の面々も、「召喚獣戦争」による下克上を狙い奮闘をするという展開の作品となります。

著者
["井上 堅二", "ファミ通文庫編集部", "葉賀 ユイ"]
出版日

それまで、男装の麗人キャラはラノベでもそれなりに登場していたものの、男の娘キャラが登場し、作品を代表する人気キャラとなったのは、「バカテス」周辺であると言われています。 

作中の男の娘・木下秀吉は、あくまでノーマルな少年ですが、見た目が可愛らしい少女であるために、F組の面々のみならず、学校中から美少女として扱われており、一般の女子よりも人気が高い状況です。

姫路瑞希や島田美波といったF組のクラスメイトから好かれ、1種の争奪戦ともなっている明久ですが、秀吉の美少女ぶりに、つい少年であることを忘れて怪しい雰囲気となったりと、秀吉は、ギャグパートのキレに多大な貢献があるキャラと言えます。

ラノベにおける男の娘キャラをご存知ない方は、ぜひ「バカテス」を読んで男の娘を経験してみてください。

友達を作るための部活!?『僕は友達が少ない』

主人公、羽瀬川小鷹は転校初日から失敗し、クラスメイトからヤンキーと勘違いされてしまいました。クラスで浮いてしまった小鷹は、小鷹と同様に友達がいない三日月夜空と出会い、友達を作るための部活「隣人部」に無理やり入部させられます。

小鷹に引き続き、個性的な部員が隣人部に入部していきます。友達を作るために様々な活動をする隣人部。そんな彼らはすでに友達のような関係で……。

著者
平坂 読
出版日
2009-08-20

『僕は友達が少ない』のヒロインは残念美少女の夜空と柏崎星奈です。夜空と星奈は過去に小鷹と会ったことがあり、その時の出来事が恋愛や彼らの性格に関わっています。次々と明かされていく過去によって部員同士の距離感が変化していきます。隣人部がその距離感に戸惑うところも見所です。

このラブコメラノベの面白さは、どこか残念な隣人部の活動や日常にあります。友達がいない隣人部は的外れな活動ばかりしてしまいます。個性的な部員が増えるたび混沌としていく、ツッコミどころ満載の隣人部を是非見てみてください!

恋愛、仕事、趣味に忙しい登場人物たちがおくる青春ラブコメラノベ!『冴えない彼女の育てかた』

物語はオタク高校生、安芸倫也と地味で印象が薄い同級生、加藤恵が出会ったところから始まります。その出会いから倫也は、恵をヒロインのモデルとした恋愛シミュレーションゲームの製作を決意しました。

倫也は製作に恵や同級生の同人イラストレーター、先輩のライトノベル作家を巻き込み、同人作品の祭典「コミケ」参加を目指します。慣れない作業に四苦八苦する倫也。果たしてコミケに参加できるのか……!?

著者
丸戸史明
出版日
2012-07-20

ヒロインは恵のほかにも、同人イラストレーターの澤村・スペンサー・英梨々、ライトノベル作家の霞ヶ丘詩羽が登場します。少なくとも序盤では恵に恋心はないといった印象です。英梨々と詩羽は恋愛感情と作品製作への情熱、プライドで心が揺れ、時にはメンバーと仲違いすることもあります。恋愛と仕事で揺れる彼女たちの心理描写がこのラブコメラノベの魅力です。

もちろんメインヒロインの恵も魅力的です。恵は倫也の製作を助け、メンバーの関係をよく取り持ちます。製作しているうちに恵は倫也に恋心を抱くのか、必見です!

作者の丸戸史明氏はベテランシナリオライターで、コミケにも参加されたことがあるそうです。おそらく自身の実体験が含まれており、何かを製作したことがある方におすすめのラブコメラノベです。

青春小説とひとくくりにジャンル分けしても、その中身はそれぞれ違います。切ない、甘酸っぱい、ひたすら爽やか、元気いっぱいなどなど。共通しているのは、そこには一瞬かもしれないけれど、しっかりと煌めきが存在しているということです。今回ご紹介した本で、彼らの一瞬の煌めきを体験してみませんか。

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