もうこどもではない、でも大人にもなれていない。悩み、怒り、不安や喜びを感じて、そして成長していく......。そんな多感な時期を描く青春小説の5選です。
恵美は事故で松葉づえなしで歩けない体になってしまったことを友だちのせいにして、一人ぼっちになってしまいます。
重い腎臓病を患い入退院を繰り返す由香は、内気でいつも下を向いている女の子です。
友だちをなくした恵美は一人きりになったからこそ由香と出会い、2人の物語が始まっていきます。でもやがて由香は......。
各章にそれぞれ違う「きみ=君」が登場し、恵美をとりまく友だちが描かれていきます。そして物語はグランドフィナーレとして書かれた最終章「きみの友だち」へと向かっていくのです。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2008-06-30
重松清の『きみの友だち』は10編からなる短編集です。各章の主人公はそれぞれ違いますが、登場人物たちにはつながりがあって、恵美はすべての章に登場します。
恵美の支えになっていく由香のこんな言葉
「思い出だけ残して居なくなってしまうかもしれないのに友だちでいてくれるの?」
(『きみの友だち』から引用)
友だちとは明らかに違う自分の人生。由香の悲しくも優しい言葉に誰もが涙することでしょう。
いろんな友だちが出てきて、いろんなストーリーを展開して、全員の中に入っていかなくても、その外にそっとたたずむだけでもいいんだよ、って言われているような気がする物語です。
ところで、重松清の他の作品「ゼツメツ少年」に、大人になった恵美がとても大切な役目を持って脇役として登場しています。『きみの友だち』が気に入った方はこちらも読んでみてはいかがでしょうか。
直木賞作家、森絵都のデビュー作です。この作品は、講談社児童文学賞と椋鳩十児童文学賞を受賞しました。
中学1年生のさゆきはある日大好きな従兄の真ちゃんの両親が、離婚するかもしれないという話を聞いてしまいます。真ちゃんは高校には行かずバイトをしながらバンドを目指している青年で、新宿に出てその夢をかなえたいとさゆきに告げたため、さゆきはさらにショックを受けてしまいます。
変化を恐れるさゆきに、真ちゃんは「自分のリズムを刻め」という言葉を送ります。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2009-06-25
「自分は何がやりたいんだろう」という葛藤を抱えたさゆきの心の成長を描く作品です。変化を恐れ何も変わらなければいいのにと、誰もが考えた多感な季節。「自分のリズムを大切にしろよ」という一言から変化していくさゆきの意識。
作品名の『リズム』とは自分が生きていくペースのことを言っているのですね。気負わず、静かに、確実に歩んでいく自分だけのリズム。
真ちゃんを慕うあどけない少女の気持ちのままのさゆきはやがて、真ちゃんが二度とこの街には戻ってこないのだと確信するようになっていきます。だんだんと大人の心で真ちゃんや、周りのものすべてを見つめなおしていこうとします。
中学生時代のきらきらとまばゆい青春を、余すところなく書き記した1冊です。
続編として中学3年生のさゆきと、新宿で挫折した真ちゃんを描いた『ゴールドフィッシュ』も刊行されていますので、こちらも読んでみてはいかがでしょうか。
いじめをメインテーマとする、6人の中学生の6つの物語です。
1話目の「ねぇ、卵の殻が付いている」では、保健室登校をするサエとナツという女子中学生が登場します。保健室にしか居場所がなかったはずの二人。ところがある日サエが教室に戻ると言い出し、ナツは見捨てられた気持ちになり、思わず冷たい言葉を浴びせてしまいました。
実はサエは転校が決まっていたのです。逃げるようにいなくなることを嫌だと考えたサエは、最後に戦うことを決意し、そんなサエを見て、自分も変わらなければとナツも決心を固めます。
3話目「死にたいノート」は、遺書を毎日ノートに書き記す涼の物語です。ある日クラスの人気者河田さんにノートを拾われてしまい、一緒に持ち主を探すことになってしまいます。自分の手帳だと言えず、河田さんとあっちゃんと一緒に見つかるはずのない持ち主を探し続ける涼。
「死にたいって、生きたいってことだよ。幸せになりたいってことだよ」
(「死にたいノート」から引用)
河田さんの言葉にはっとし、もうノートは必要ないのでは、と涼の気持ちは変化していきます。
いじめという陰湿な現実から希望へとつなげていく成長が描かれていく、6人の中学生の6つの物語です。
- 著者
- 相沢 沙呼
- 出版日
- 2014-03-05
いじめが凄惨に描かれ読み進めることが時としてつらくなるかもしれない作品です。それでもこの本が登場人物と同じ年代の読者に大きな共感を呼ぶのは、描かれるものがリアルであるということなのでしょうね。
どんなつらい現実にも希望は必ずあります。この物語にもちゃんと明日へ向かって前向きに生きていけるストーリーを感じることができます。だから多くの共感を集め支持されるのでしょう。
大きなエネルギー、夢、希望、挫折、悲しみ、いろんな想いがあって、でも上手に外に出せない、子供でも大人でもない、それが中学生。学校という戦場で戦う中学生たちをなんて描写豊かに描くんだろうと思う作品です。
過ぎてしまえば楽になるとか、今だけだよとか、そんなものは今を生きている子供たちには何の救いにもなりません。本当に辛くて暗い気持ちにされてしまいますが、最後には優しい気持ちになれる物語です。
ところで、女子中学生や女子高生から絶大な共感を呼んだ当作品ですが、作者相沢沙呼(あいざわさこ)は実は男性というところが驚きです。
小学校5年生の深作日都子は、クラスで世話をしていた金魚を殺した濡れ衣を着せられ、いじめの対象となってしまいます。担任教師もその加害者の一人でした。
学校の誰の理解も得られず、彼女は誰とも関わりを持たない「ヒトリコ」として生きていく決意をします。唯一の支えはピアノとキューばあちゃんだけ。小学校がそのまま中学校に持ち上がる田舎のため、壮絶ないじめはそのまま中学生になっても続いていきます。
そして金魚の持ち主だった転校生の冬希が街に戻り、日都子たちと同じ高校に入学してきて彼女の日常は変化していきます。
- 著者
- 額賀 澪
- 出版日
- 2015-06-24
自分がやったことじゃないのに犯人にされ、いつまでもいじめの対象であり続ける理不尽さを描きながら、どこか優しい物語になっているという作品です。
でも日都子はとても強い女の子です。
「もし金魚が死ななかったら、私は多分、すごく嫌な奴になったと思う」
(『ヒトリコ』から引用)
幼稚園から始まり高校生の頃までの長い期間を、4人の登場人物の目で描いていきます。きつい描写もありますが、日都子がだんだんと心を開いていく心地よさや、「もっと悪い状態にならないでよかった」「今は休んで次のステップのために力を蓄えよう」とか自分も考えていたな、と思わせられたりします。
世界が広がっていく、そして自分の心も広くなっていく。子供たちが成長していく様を見せつけられる物語を堪能して頂けたらと思います。
額賀澪は2015年『ヒトリコ』で「小学館文庫小説賞」を、同年『屋上のウインドノーツ』で「松本清張賞」も受賞し、二つの出版社からのダブルデビューを果たした期待の作家です。
60年代の青森県の田舎町。補欠の野球部員、神山は球拾いの毎日を送っています。ある日深夜の米軍放送で聞いたビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」が衝撃とともに彼を変えてしまいます。
でたらめな英語で覚えたてのその歌を歌う彼は、クラスで認められていきます。自信を持った彼は野球部でもレギュラーとなり、チームもどんどん強くなっていくのです
十和田湖への一人旅で出会ったクラスの女の子、淡い初恋、そして最後の野球大会。青春時代の象徴をありきたりではない視点で描いた作品です。
- 著者
- 川上 健一
- 出版日
ビートルズに感動し成長する主人公。野球部の仲間との友情。美しい自然の中で育む甘い恋。事件が起き、立ち向かう正義感。少し古めかしい、でも読んでいて爽やかで清々しい気持ちになれる物語です。直球で感動したい人におすすめの本だと言えるでしょう。
60年代のお話ですから、現代の中高生とは違う青春を描いたものであることは否めません。でもきっと今の子供たちも感動する物語です。そして60年代を生き抜いた大人たちにとっては、懐かしさ溢れるものであることでしょう。
好きなことに熱中し、友だちの注目を浴び、女の子に恋をして、少年が少しづつ成長していく姿を自身に重ねながら、のめり込むように読みたいのなら、この1冊がおすすめです。
「本の雑誌が選ぶ2001年度ベスト1」「第17回坪田譲治文学賞」を受賞した作品です。作者川上健一はこの作品を世に出す前に11年間の沈黙を持ちました。その間自給自足の生活をしていたと言います。長い眠りから復活した渾身の1冊を楽しんでください。
その11年を描き『翼はいつまでも』のメイキングにもなっている『ビトウィン』もお薦めです。
いかがでしたか?5年経ったらもう一度読んでみようかな?その時自分はどんな気持ちになって、このお話の中に入っていくのかな、なんて思いながら楽しめるものばかりです。