青池保子の名前を知っていても、実は作品未読という方いらっしゃるのでは?その独特の絵柄や雰囲気に遠慮してしまう、なんて方にも是非今から青池保子の世界を知って、笑っていただきたいのです。
青池保子は1963年『りぼん』増刊号にて『さよならナネット』が掲載され、15歳でプロデビューしました。1964年、第一回少年少女漫画賞へ応募するよう講談社に誘われ、この投稿作が最終選考に残り、「高校一年のおねえさん漫画家」のキャッチフレーズで『週刊少女フレンド』などで活躍。
その後、1976年『イブの息子たち』が『月刊プリンセス』に掲載され、それまでの少女漫画然とした作品から逸脱した内容が増えたと言われています。同年『エロイカより愛をこめて』が連載開始。作風がどんどん男たちの硬派な物語へと傾き、青池保子の作品の特徴となっていきました。
1991年『アルカサル-王城-』が第20回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞しています。
三人の英国美青年たちと歴史的偉人の名を持つ者たちの、ハチャメチャなコメディです。
イブの骨で作られた、女を必要としない男たちが織りなす不条理と、強烈なドS女たちのとんでもな戦争(?)が描かれます。メイン三人たちと愛と喧騒を繰り返すのは、歴史の偉人たち。多彩なキャラクターを使ってのギャグセンスに脱帽です。
- 著者
- 青池 保子
- 出版日
この作品で色濃く出ているのは、もしかしたら青池保子の女性ディスりなのかもしれません。もちろんこれは個人の感じ方なのですが、美しい男たちに対して、女たちは作中常に傲慢なのです。
それを笑って、美しい男たちの間で交わされる愛というものを愛でるのがこの作品の醍醐味と捉えていただければ、BLに抵抗のある方も気軽に読める作品といえるでしょう。
ナンセンスなギャグがこれでもかと攻めてくるこの作品。BLが苦手な方でも、ある意味あまりにストレート過ぎて笑わずにいられないと思います。
『エロイカより愛をこめて』の外伝的作品です。エロイカのメインキャラ・エーベルバッハ少佐の部下の新人Z(ツェット)がメインとなります。エロイカに比べると情報部員の過酷さや哀愁に重きを置いて描かれる、中・短編集というところでしょうか。
情報部員には未熟なZが、命を削るように任務をこなし、成長していく姿が描かれています。
- 著者
- 青池 保子
- 出版日
- 2011-10-14
エロイカのエーベルバッハ少佐の部下愛と、エロイカではどうしてもメインテーマとして描かれない男くさいカッコよさがガッツリ感じられる作品ではないでしょうか。そして何より青池保子のヨーロッパ、ドイツ、冷戦時代、情報部員などへのこだわりと愛がひしひしと感じられます。
もちろん今回の主人公Zのキャラクターも魅力的です。諜報という過酷な職業につき、あらゆる事由が彼を巻き込んでいくのに、汚れる事のない内面の美しさがずっと彼の中にあるんです。
優しく柔和で、一見諜報部員に向いていないように見える彼の内面に秘める強さと、回を追うごとに成長し磨かれていくプロ根性に魅了されてしまうことでしょう。
14世紀後半のスペインが舞台。ファルコ(鷹)と呼ばれたナバーラの剣客である主人公が、改心して修道士となるところからお話が始まります。修道院の個性豊かな仲間達との友情をあたためつつ、様々に起こる難事件にファルコが立ち向かう物語です。
- 著者
- 青池 保子
- 出版日
- 2013-08-16
読み手に中世ヨーロッパや修道院というものに興味を持たせる、青池保子の手腕にいつも感心させられます。なにより一番感心するのは、愛すべきキャラ作り。この作品でも主人公のファルコをはじめとする修道院の多彩でユニークなキャラたちに、大変魅了されます。
剣を捨て、神のもとに膝をついたファルコに、事件が起こる度、何度も剣を握らせてしまう話の流れも、決して読み手にマンネリ感を与えないあたり流石です。彼が「心安らかにお勤めする」という目標が達成できる日が来るのか?きっと来ないんだろうなと微笑みながら読み進めていけます。
女性向けの雑誌掲載作品ではありますが、男性の方にもおすすめできる緻密な世界観、是非ご一読下さい。
1991年第20回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した作品です。
ドン・ペドロは、カスティリア王アルフォンソ11世と王妃マリアの嫡男として誕生しますが、愛妾を気に入っている王に愛されることなく成長します。 しかし父王が病死したため、わずか15歳で即位することに……。
実在のカスティリア王国の王ドン・ペドロことペドロ1世の生き様を緻密に描いた壮大な歴史ドラマをご覧ください。
- 著者
- 青池 保子
- 出版日
中世スペインの残酷王とも呼ばれたドン・ペドロの物語ですが、中々日本では知られていない彼を描くあたり、青池保子のこだわりが感じられます。資料なども少なかったと聞きますので、それを描ききる力量は圧巻です。
何度も連載が中断しているので、作者の葛藤もものすごかったでしょう。しかし登場人物たちに与える歴史の残酷さから目をそらさず、人の業の深さと儚さを青池保子は描き切ってくれました。
本作は青池作品の中でも特に女性キャラが秀逸です。美しくありながらしたたかに生きていく様は、政治や確執に押し潰されていく男たちより、よっぽどたくましい存在ではないでしょうか。
この悲しくも美しい歴史を是非知っていただきたいです。
青池保子と言えばこの作品でしょう!とおっしゃる方が多いのでは?NATOの情報部員・エーベルバッハ少佐と、大泥棒・エロイカが織りなすドタバタ痛快コメディー……風味のスパイ活劇といったところでしょうか。
初期のエスパー三人組の少女漫画テイストは、二話で出てきたエーベルバッハ少佐の人気ぶりに主役交代されて、スパイ活劇にシフトチェンジしてしまいました。東西冷戦におけるNATOとKGBとの情報合戦、少佐の活躍に、怪盗エロイカが絡んで笑いを誘うパターンとなっています。
- 著者
- 青池 保子
- 出版日
エーベルバッハ少佐とエロイカの恋の追いかけっこと単純に説明してしまうと元も子もないですが、一行でまとめるならどうしてもそうなってしまうんです。
しかしそうでないのが青池保子の魅力だったりします。武人のエーベルバッハ少佐とそれに惹かれてやまないエロイカも魅力的ですが、少佐の部下たちや敵対するKGBのメンバーすらも本当に愛おしいです。
それでいて良質な外国映画の洒落たやりとりを思わせる展開がたまりません。真面目に不真面目、だけど真剣な彼らの追いかけっこの下地に流れる愛は少女漫画を決して置いてけぼりにしていないんです。
少女漫画を毛嫌いする方、青池保子の硬い絵柄に尻込みする方、是非今からでも手を出してみませんか?