漫画『少女椿』の魅力をネタバレ考察!グロくて悲惨なのに、どこか美しい?

更新:2021.12.7

1984年に単行本化されてからカルト的人気を誇る漫画「少女椿」。全8話という短いストーリーながらアニメ映画化や舞台化、実写映画化もされた作品です。エロくてグロくてナンセンスで、思わず目を背けたくなってしまうのに、何が読む人をここまで惹き付けるのか、見世物小屋「赤猫座」のちょっと(?)イカれた演者達を紹介しながら、この作品の真の魅力に迫って行きます。

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漫画『少女椿』の魅力をネタバレ考察!忘れられないキャラたちと独特の世界観を解説!

 

この漫画は浪花清雲作の「少女椿」という紙芝居を基に描かれています。戦後流行した貧しい女の子が悪い大人に騙され親と離ればなれになってしまう、という話の大筋は同じですが、紙芝居版では親子が再会するハッピーエンドで終わる一方、アングラ漫画家の代表格・丸山末広の手にかかった本作はなんとも後味の悪い仕上がりになっています。

それでもアニメ化、舞台化、さらには実写映画化までされるこの漫画の魅力とは一体何なのでしょうか。この記事でその魅力に迫っていきたいと思います!

 

著者
丸尾 末広
出版日

漫画『少女椿』あらすじ

時は昭和13年、3年前に父が家出し、母を病気で亡くした12歳の少女みどりは見世物小屋「赤猫座」の主人の甘い誘いに乗ってしまい、そこの下働きとして使われてしまいます。

異形だらけの芸人達にいじめられ、毎日つらい思いをしていたある日、ワンダー正光を名乗る手品師の男が雇われます。瞬く間に売り上げを伸ばした彼に気に入られ、いじめられることもなくなりやっと幸せをつかみ始めたかと思われたみどりですが……やはり彼女、不幸な運命からは逃れられないようです。

不幸の星の下に生まれてしまった哀れな主人公【みどり】

不幸の星の下に生まれてしまった哀れな主人公【みどり】
出典:『少女椿』

本作の表紙を飾る主人公のみどりちゃん、貧乏で孤児で拾われたと思ったらことあるごとにいじめられたりそれ以上にひどい目にあったり、齢12にして悲惨な人生を歩んできました。

しかしやられっぱなしかと思いきやそういうわけでもなさそうで、芸人の顔にふきんを投げつけ化け物と呼んだり、ある日食事のうどんをわけてもらえなかった時は、食べている横で虫下しの薬を飲んだら尻からうどんのような虫が出てきたという話を始めたり、意外と肝の据わっている面もあるようです。

彼がもたらすのは幸福か絶望か【ワンダー正光】

彼がもたらすのは幸福か絶望か【ワンダー正光】
出典:『少女椿』

赤字続きの赤猫座にやってきたこの小人症の男は自在に瓶に入ったり出たりする芸でどんどん客を増やしていきます。しかしこの男、実は手品師なんてかわいいものではなく、幻術を使えるとんでもない力を持っています。

しかも気に入ったみどりちゃんのことになるといつもの物腰柔らかそうな雰囲気から一変、彼女のためなら手段も選ばないという要注意人物です。彼の強すぎる独占欲にみどりちゃんの運命はどう翻弄されてしまうのか、目が離せません。

度を過ぎたツンデレ【徳利児鞭棄】

度を過ぎたツンデレ【徳利児鞭棄】
出典:『少女椿』

両腕が無く、顔に包帯を巻いた彼は足で矢を射る芸人で、箸を持つなどの日常生活動作も全て足で行っています。普段は他の芸人達と一緒にみどりちゃんをいじめていますが、実は彼女に好意を抱いているようです。

好意のあまりか寝込みを襲うなど、かなり歪んだ愛情表現をしますが彼女への想いは本物のようで、それゆえにワンダー正光の恨みを買ってしまいます。後に彼は口の中に泥が詰め込まれた遺体として発見されますが、一体彼の身に何があったのでしょうか。

赤猫座の良心?【蛇女紅悦】

赤猫座の良心かもしれない【蛇女紅悦】
出典:『少女椿』

頭巾を被った、蛇を操る芸人の彼女は芸人達のまとめ役でもあります。みどりちゃんが来るまで紅一点であり、自分の給料を増やしてもらおうと一座の主人を誘惑しようとするなど、豊満な体を武器にしています。

彼女も他の芸人達と一緒にみどりちゃんをいじめますが、どこか面倒見の良さや母性を感じられなくもない言動や、別れの時に彼女の幸せを願い、優しく見送ったところを見ると愛はあるようです。

かわいい顔した狂気【カナブン】

かわいい顔した狂気【カナブン】
出典:『少女椿』

火吹きを見せる芸人のカナブンは一見ポニーテールのかわいい女の子に見えますが、実はれっきとした男の子です。彼もまた他の芸人達同様にみどりちゃんをいじめますが、みどりちゃんが皆に隠れて飼っていた子犬を殺して犬鍋にしてしまうなど、他に比べて幼いがゆえにやり方も残酷です。

それに加え赤猫座の主人と肉体関係を持ち、眼球を舐めさせるなど過激な行為をしている辺り、もしかするとこの作品一濃いキャラクターかもしれません。

『少女椿』の見所:変態性がすごい!

この漫画を読むと「変態」の概念が変わってしまうかもしれません。というのも、過激な性描写が少なくないこの漫画のなかでも飛び抜けてエキセントリックな行動をしている人がいるからです。それが先ほど少し話に出た、一座の主人のカナブンへの眼球舐め。

あまりに日常的に聞かない言葉なのでどういうことかわからないかもしれませんが、文字どおり眼球、つまり目玉を舐めているのです。しかもそれで主人もカナブンも快楽に耽っている描写がされています。とてもじゃありませんが、普通の漫画でこれは見れません。
 

そんなカナブン達に圧倒されて忘れられがちですが、みどりちゃんもなかなかに読者をドキッとさせるような表情をしています。みどりちゃんが驚きや恐怖で目を見開いている描写は、本来幼い彼女の悲惨な境遇を哀れに思わせるようにあるはずなのに、それに読者はなぜか魅了されてしまいます。まだ12歳の少女に魅了されてしまった読者は、彼女が次どんな目に遭うか思わず楽しみにしてしまい、この漫画の狂気的な色気に惑わされてしまうのかもしれません。

 

『少女椿』の見所:不条理な世界に心が痛む!

みどりちゃんの運命はワンダー正光次第と言っても過言ではありません。謎に包まれた小男・ワンダー正光の登場によりみどりちゃんは幸福をつかんだかのように見えましたが、仲間を目の前で殺され、貧困から抜け出すチャンスも奪われ、そして最終的にはまた天涯孤独の貧困生活に逆戻りさせられてしまいます。

読んでいる我々は彼の幻術に何が現実で何が幻か惑わされるだけですが、みどりちゃんは人生の最高潮から絶望のどん底に叩き落とされたのです。しかし、こんな幼い少女の人生なんてちょっとの不運の積み重ねでどうとでもなってしまうという現実を突きつけられた読者は、その理不尽さにただ呆然とさせられてしまうのです。

『少女椿』の見所:最終回が意味するものとは?

『少女椿』の見所:最終回が意味するものとは?
出典:『少女椿』

ついにみどりちゃんにも幸せな人生がすぐそこまで来てるかと思われた最終回。もちろんこの漫画がそんなハッピーエンドで終わるわけがないのですが、それ以上にこの回は他の回に比べて異質です。

突然訪れる不幸、何度も繰り返される光景、そして笑いと涙と空白でこの話は幕を閉じます。それがどういう意味かは何度読んでも確信が得られませんし、人によって解釈も変わって来るのではないでしょうか。散々いじめながらも最後は優しく見送った赤猫座の芸人達、希望の光を見せてくれたワンダー正光……彼らは本当は何を考えていたのでしょう。みどりちゃんが見た景色は何なのか、なぜこの景色を見ているのか、誰が見せている景色なのか……最後の最後のコマまでなぜこのコマ、ページが必要だったかを考えていただきたいです。

 

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過激で救いのないことで有名なこの漫画『少女椿』。この記事を最後まで読んでしまった、素直に幸せな結末を受け入れられないひねくれ者のそこの貴方にぜひ読んでいただきたい作品です。

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