東山彰良のおすすめ小説5選!『流』で直木賞受賞!

更新:2021.12.19

東山彰良は『流』で直木賞を受賞しました。この作品は、作家の北方謙三に「20年に1回という素晴らしい作品」と言わしめた作品です。今回はそんな東山彰良のおすすめ小説5選をご紹介します。

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直木賞受賞作家、東山彰良の魅力とは

東山彰良は1968年生まれ。彼は5歳までを台北で過ごし、9歳のときに日本に両親と移り住みます。1995年に福岡市の西南学院大学を卒業後、作家活動を開始しました。

映画とロックへの造詣が深く、東山彰良の小説の中には映画のワンシーンのようなアクションシーンや、ロックのバンド名・曲名が数多く登場します。今回ご紹介する『イッツ・オンリー・ロックンロール』も、ロックバンドについて描いたものです。

台湾出身という生い立ちからか、東山彰良の描く小説はアイデンティティについて描いたものが多いです。登場する人物は、実に強烈なキャラクター性を持っているものが多く、それが最大の魅力であり、同時に読者に何か訴えかけるものがあります。

祖父を殺したのは誰だ?台湾と中国とをつなぐ答え

葉秋生(イエ チョウシュン)の愛する祖父・葉尊麟(イエ ヅゥンリン)がある日、浴槽に沈められた状態で発見されます。祖父は自分の息子たちに厳しく、他人の子供も怒鳴り叱るという人でしたが、一方で義理堅く人情深くて、秋生はそんな祖父が大好きでした。秋生は大学受験を控えていましたが、祖父の死によるショックが大きくて受験勉強に身が入りません。案の定受験に失敗し、秋生は兵役に就くことに。

著者
東山 彰良
出版日
2015-05-13

秋生の幼馴染の悪友・趙戦雄(ジャオ ジャンション)が、街を取り仕切る不良・高鷹翔(ガオ インシャン)に誘拐されてしまいます。秋生は祖父が戦争時代に使っていたモーゼル銃を引っ張り出し、趙 戦雄の救出に行くことに。秋生はモーゼル銃を引っ張り出すと、ある1枚の写真を見つけます。写真の裏面にはこう書いてありました。

「『1939年、青島、王克強一家4人、日本軍占領下の青島市政府前にて』」
(『流』より引用)

王克強(ワン コオチャン)とは日本軍のスパイで、同胞を裏切り、家族ごと殺害された人です。秋生は、たまたま台湾に帰ってきていた宇文(ユイ ウェン)叔父さん(祖父の養子で船乗り)と共に、趙 戦雄救出に向かいます。幸い救出には成功しましたが、宇文叔父さんは刑務所に入れられることに。一方で、秋生には気になることがありました。祖父のモーゼル銃と共に見つかった写真を宇文叔父さんに見せると、彼はひどく動揺しているように見えたからです。

全ての真相を知った秋生は、中国に渡ることに。祖父はなぜ殺されなければならなかったのか。なぜ浴槽に沈められていたのか。犯人は誰なのか。

読者は戦争の無慈悲さ、残酷さ、理不尽さ、そして秋生の青春における成長を目の当たりにすることが出来ます。現在では、人を殺すことは罪に問われますが、戦争のある時代においては、何人殺そうが現在でも罪に問われない人がいました。果たして罪とは一体何なのかを考えさせられる作品です。

ビッグになるか、ロックを貫くか、どっちだ?

主人公は、ミッチーこと青木満・34歳。彼は売れないロックバンド・RAW MINDSのギターとヴォーカルを務めています。バンドのメンバーはその他に、ドラマーで自閉症の気がある典男。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の父を殺そうとして刑務所に収監されていた、ベースとボーカルのべっさん。

ミッチーは、同窓会からの帰り道、横からものすごい勢いで駆けてきた女性と衝突。その直後、近くの保健所で爆音が轟き、火の手が上がります。
 

著者
東山 彰良
出版日

その夜の出来事がその後、RAW MINDSの運命を左右することに。ぶつかった女性は保健所爆破の犯人で、彼女はRAW MINDSのCDを事件現場付近に落としていたのです。CDの過激なメッセージと攻撃的なサウンドが注目され、それが爆破事件を扇動したという認識が世間に広まることに。それを機に、深夜のテレビ番組のオファーが舞い込みます。

この作品の魅力は、登場する人物が世間から見ればぶっ飛んでいて、やることはめちゃくちゃですが、それでもなんだか憎めないところです。それどころかこのようなキャラクターこそが人間臭さがあって良いと思えてしまいます。また、ミッチーのぶっ飛んだ日常の中で閃く数々のロック。ミッチーの根底にはロックがあります。

大衆に媚びてビッグになるか、それともロックを貫くか。どちらに自分らしさがあるのか。自分とは何か、夢とは何かを考えさせられる、ロックンロール・エンターテイメントです。

「罪が罪を浄化する」新未来型SFエンターテイメント!

2173年6月16日。ナイチンゲール小惑星が飛来し、地球は荒野と化しました。そんなときにアメリカで神と崇められたのが、黒騎士ことナサニエル・ヘイレン。それまでは、彼は心臓に病を持つ兄と、母と共に暮らしていました。ある日ナサニエルは物音で目を覚まし、居間に行くと、目にした光景に体が強張ります。それは、天井の梁にぶら下げられた兄と、兄の体をロープに全体重をかけて吊り上げようとしている母の姿でした。

著者
東山 彰良
出版日
2016-05-20

ナサニエルは一旦兄を救出しますが、母を救う道は兄を殺すことのみであると悟り、自らの手で兄を天井の梁に宙吊りに。後に母も殺し、刑務所に収監されます。そして、刑務所に収監されているときに起こったナイチンゲール小惑星の飛来。それにより、ナサニエルは食人鬼・ダニー・レヴンワースとの脱獄に成功します。

空中を灰が舞い続け、死体が無数に転がっている世界。人々は生きるために、遂には人を食べるという行為をせざるを得なくなり、そしてそれが悪いことなのかどうかも分からなくなってしまいます。

「『ひとりの命はいつだってふたりの命より軽い。ひとり食べたんならふたり救えばいい』」
(『罪の終わり』)

これはナサニエルの言葉です。実際、ナサニエルは食べ物を求められれば与え、彼を慕って人が集まり渓谷の水場近くに村ができ、渓谷に階段を作るべく村民の秩序が生まれ、法律が出来ます。水場には動物がやって来て、村民の生活は潤うようになります。

果たしてナサニエルとは本当に悪者というべき存在なのか?物事が善か悪かは、そのときに生きる人々が決めることなのかもしれません。現代に生きる私たちの価値観を揺るがす一冊です。

「おれらは人殺しと取引して人を殺してもらった」

この物語の主人公・相浦理一は高校生。ですが夜はハッテン場(男性の同性愛者の出会いの場)に繰り出す、いわゆるホモです。喫煙・飲酒もしており、両親はいません。

理一はある朝起きると、台湾産の大量のドラッグ「百歩蛇」を見つけてしまいます。その持ち主は、夜を一緒に過ごした台湾人男性のもの。理一は大量のドラッグを手にして、部屋を後にします。

そしてもう1人、この本の裏の主人公・イジ―こと井島勝義。彼は組員たった一人の暴力団の組長で、彼の動向にも注目です。

著者
東山 彰良
出版日

理一は悪友・馬素と相談して、大量のドラッグをどこかに売りつけようと企みます。売りつけ先は、理一の同級生・芝康平が所属する、ストリートギャング集団「ラプターズ」。ラプターズは、理一たちへ払う代金が用意出来ないために、一旦理一が所持しているドラッグの3分の1を買い、残りは後日買うことで合意。しかし残りのドラッグ売買の日、人質になっていた理一たちの悪友・三村塔(あだ名は福助)と、芝が何者かに殺されてしまいます。

ある日、理一は、塔が大事に育てていたハムスターを日光浴させます。そのときの、理一と馬素のやり取りが、悪友3人の関係性を表していて印象的です。

「福助と思って大事にとかしてんじゃねぇだろうな?」
「気持ち悪いこと言うなよ」
(『ワイルド・サイドを歩け』より引用)

悪友3人の絆とは?そして、塔を殺した犯人とは?そしてイジーが登場する意味とは?読んでいる間は様々な疑問点が沸き上がり、ページを繰る手を止められません。そして最後にはその疑問点が1本の線となり、もう1度最初から読みたいという気にさせられます。

目を逸らしてはいけない「路傍」に生きる人たち

主人公は、金なし、学なし、仕事なしの28歳男性・矢野。過去には少年院に入ったことも。かれこれ20年の付き合いの悪友・喜彦とは毎日行きつけのバーで飲み、帰りには酔っぱらって道端で寝ているおじさんを介抱するふりをしながら財布を抜き取ったり、抜き取ったお金でソープランドに通ったりという日々を送っています。

ある日矢野は中学の同窓会で、藤井靖に出会います。靖は親が不動産会社を経営している金持ち。靖は矢野に、あるアルバイトの話をもちかけます。
 

著者
東山 彰良
出版日
2010-05-20

アルバイトの内容はAVの男優で、2時間で20万円。靖も、矢野や喜彦といった「路傍」の道を歩いている人間というわけです。次に靖が矢野たちに紹介したアルバイトは、日本で取引が禁止されているペットの仲介。どう考えてみても、異質としか思えない世界観にいる矢野たちですが、彼はちゃんと自分を客観視する目を持っていて、それは私たち読者に同情を与えるでしょう。

「その必死の形相を見ていると、自分がひどくちっぽけに思えた。こいつにくらべれば俺の人生なんて、どっちにころんでもたいしたことはない。なにかのために命を削ることもなければ、心の底からだれかを守ろうと思ったこともない。あるものといえば、ささやかな絶望を酒でごまかすための小銭くらいのものだ。」
(『路傍』より引用)

矢野たちのするようなことは、私たちの生活の中でもよく耳に入ってきます。そしてすぐに違うニュースが流れてきて忘れてしまうような出来事なのかもしれません。でも確かに世の中に存在している出来事です。そういった出来事から目を逸らしてはいけない気にさせてくれるのが、この小説です。

エンターテイメント性のある物語を描く東山彰良。読者は小説を読んでいながら、映画のようなワンシーンを想像出来るでしょう。ドキドキするクライマックスに胸を膨らませて、ぜひ読んでみてください。

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