通勤中さらーっと読めて、ジワ〜っと心に残る短編集

更新:2021.10.28

社会人になって仕事に追われると、通勤時間くらいしかまとまった読書時間をとれないもの。1日30-60分程度の読書でもストーリーが完結する、どのタイトルから読んでも自由なのが、短編小説(短編集)の魅力だと思います。今回は自分が社会人になってから電車での通勤時間で読んだ短編集の中から、特に心に残っているものを紹介していきます。

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嵐の夜、動物園に忍び込む会社員は確実にどこかにいる

「日々生活していて、自分が読んだ小説の主人公をふと思い出してしまう・・・」

なんてそう滅多にあるものではないですが、僕は台風や嵐の日の夜に時々この短編集に出てくるある主人公のことを思い出します。まっとうな会社員で普通の生活をしているのに、ただ一つ変わった趣味を持っている男の話です。

主人公の友人の彼は台風の日になると必ず会社を早退して?(それか休んで)缶ビールを買って、夜の動物園に忍び込んで、動物を見つめることが好きだといいます。「台風の日の夜の動物園の動物こそ、動物たちの本当の姿」だ、と言い張る男。結構変態ですよね。実在しないけれど、本当にいてもおかしくないなと思い、はたと「今日はあの主人公が、動物園に行ってる日だな」って頭によぎってしまうのです。それって、完全に自分のなかに彼が居座っているじゃないかとも思えます。

文章を参照しようと部屋を探し回ったところ、友達に貸しっぱなしであったことを思い出せたので、今度返してって言おうと思いました。村上春樹の本で貸しっぱなしになっているものは結構あります。

著者
村上 春樹
出版日
2005-03-31

どこまで本当かは眉つばものだとは思います

今年会社を辞めて独立したのですが、その直前のタイミングで自分を鼓舞するように無名時代の貧乏暮らしを描いた『その日暮らし—若き日の失敗の記録』を読んでました。成功した人のダメだった頃の話って人を惹きつけるなぁって思います。成功した人が語るからこそ最後に笑い話になるんでしょうけども。エッセイなので、さらっと読めてしまいます。

著者
ポール オースター
出版日
2007-12-21

酸いも甘いも知っている優しいおばちゃんの小話

まずタイトルが最高だと思います。アメリカで二人の息子の子育てをしながら、その傍ら台所で短編小説の執筆を開始したという女流作家グレイス・ペイリーさん。その物語の登場人物それぞれの語り口が親戚のおばちゃんの家に遊びに行ったときに、ちょっと悲しくてちょっとユーモアのある昔話を語ってくれるような気分にさせてくれます。

辛酸を嘗め尽くした上で、生きることについてタフで愛をたっぷり持っている女性の視点は、さあ、頑張れとケツを叩いて激励してくれるような気分になります。最後に作品の一節を引用します。

「お前! お前なんか、チーズの腐った穴ぼこみたいなもんじゃないか。人生がどうこうなんて、お前にわかってたまるものか」

著者
グレイス ペイリー
出版日
2009-06-10

タイトルのまんまです

2013年の末頃、出版社で書籍の編集に仕事に携わる女友達に「今年一番面白くて、俺にオススメなの教えて!」と血気盛んなトーンで言ったら、この本を薦められました。タイトルは『こうしてお前は彼女に振られる』。それってどういう意味? という言葉は胸に潜めて、じっくり読みました。

浮気ばっかりしまくるしょーもないドミニカ人男性のおかしくもシミジミしてしまう話。ただ女性を追いかけまわして、うまくいかず、再び前を向こうとする男性はラテンアメリカ人であれ、日本人であれ、一緒の情けなさってあるんだろうなぁって思います。大きな声で落ち込む出来事を語って笑い飛ばした後の切なさって、男の世界特有なんだろうなぁ。

著者
ジュノ・ディアス
出版日
2013-08-23

寒い季節に読んでよかった

フィッツジェラルドの『グレート・ギャッビー』以前の初期に書かれた短編集です。最近読書した本のなかで、一番心をかきむしられたのが表題作です。1時間足らずで読めてしまいますが、それが人の心の深部に刺さって残るのは、素晴らしいことだなと思います。こちらは村上春樹訳ですが、あまりに好きなので小川高義訳の『若者はみな悲しい』も最近買って読み比べています。

著者
フィッツジェラルド
出版日
2011-11-09

いかがでしたでしょうか? 頭のなかをちょっとだけ現実から離れた場所に追いやりたい時、短編集の小説はとっても役に立つと思います。「長編読むの小説はちょっとしんどい」というときにも、短編小説なら、ふと漏らしてしまった友人の本音を聞いたような、思わずはっとする言葉に出会えると思いますよ。

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