傑作!フランス恋愛文学おすすめ5選

更新:2021.12.18

外国の文学というと、とっつきにくいようなイメージがあるかもしれませんが、フランス文学には恋愛を描いた親しみやすい作品がたくさんあります。恋愛を描いているフランス文学作品の中から、厳選した面白い作品をご紹介します!

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感情に流されて

『フェードル』は、フランスで演劇が流行した17世紀に活躍した、劇作家であるジャン・ラシーヌの傑作悲劇です。

女王フェードルは、義理の息子であるイポリットに激しい恋心を抱いてしまいます。この恋は禁断の恋だと理解してはいるものの、フェードルは自分の心を抑えることができません。苦悩の末、イポリットに自らの恋を打ち明けるも、ひどく拒絶されてしまいます。激情にとりつかれたフェードルのとった行動は……。

 

著者
ジャン ラシーヌ
出版日
1993-02-25


17世紀のフランスでは、二人の哲学者が活躍していました。「我思う、故に我在り」で有名なデカルトと、「人間は考える葦である」で知られるパスカルです。デカルトが理性的で力強いのに対して、パスカルはより直情的で、人間の弱さを突いています。

ラシーヌはパスカルのように、感情があるがゆえの人間の弱さを的確に描いている作家です。1677年に初演を迎えた『フェードル』では、フェードルの女王、義母としてのふたつの立場を自覚しながらも、恋の熱情に流されてしまう様子が、とても美しく、熱をもった言葉で綴られています。

セリフが刻む心地よいリズムを楽しんでいるうちに、読者はいつの間にかフェードルの情念の渦の中にいることに気が付くはずです。読者自身も気づかぬうちにフェードルの恋心にとらわれてしまうような魅力を持った作品です。

理性を持ちながらも、感情に流されてしまうこともある人間の弱さや美しさについて考えさせられます。同時収録の『アンドロマック』も、連なる片思いの悲劇で、大変魅力的です。
 

物議をかもすクライマックス

ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』は、「恋愛心理小説の祖」とも言われるほど繊細な恋愛の心理描写に優れた作品です。

とても美しいシャルトル嬢は、クレーヴ公の求婚に応じて、彼の妻となります。クレーヴ公を敬愛してはいるものの、彼女はある日、美しいヌムール公に出会い、彼に恋をしてしまいます。悩んだ彼女は、自分の恋心を夫に正直に伝えることにしたのですが……。

 

著者
ラファイエット夫人
出版日
2016-04-12


1678年に発表された作品とは思えないほど、ときめきや嫉妬、疑念、葛藤などといった恋にまつわる様々な感情を鋭く丁寧に描写している作品です。生き生きとした心理描写が、読者を引き付けて離しません。登場人物とともに、恋にどきどきしたり、悩んだりする気持ちを味わえます。

登場人物の中でも魅力的なのが、主人公・クレーヴ夫人です。結婚してから夫でない人に恋をしてしまった苦悩を抱きつつも、自分なりに考え、強い意志で行動する姿を見守るのは、大変面白いです。

最後のクレーヴ夫人の決断に、あなたは共感するのか、反発するのか。出版当時にも話題になった、物議をかもすクライマックスは、恋愛における普遍的な問いを投げかけ続けています。
 

ファム・ファタルの代表作

真面目な騎士デ・グリューは、大変美しい少女であるマノン・レスコーと出会って恋に落ち、彼女の魅力に夢中になってしまいます。二人は駆け落ちしますが、デ・グリューの資金が尽きてくると、マノンはあっさりと彼を騙し、突き放してしまいます。

デ・グリューは不実なマノンのことを忘れようとしますが、恋心を消しきれないうちに再びマノンが現れて……。

美しいマノンに翻弄され続ける恋の物語です。

 

著者
アベ・プレヴォー
出版日


「ファム・ファタル」という言葉はご存知でしょうか?「ファム」は「女」、「ファタル」は「破滅的な」という意味で、「ファム・ファタル」は「運命の女」と訳されます。文学などの芸術において、男を破滅させる女のことを指す言葉です。

1731年に出版された『マノン・レスコー』は、ファム・ファタルを描いた最初の文学作品といわれています。マノンは、大変美人ですが、快楽に走る奔放な人でもあります。そんな彼女に本気の恋をしてしまったデ・グリューは、彼女に振り回されてばかり。

マノンのためなら身の破滅もいとわないような激しい恋は、どんな結末を迎えるのか。ジェットコースターのような恋の顛末を、皆さんにも見届けてほしいです。
 

「赤と黒」が指すものは?

貧民階級出身のジュリアン・ソレルは、出世の野心を抱く、賢く美しい若者です。ナポレオンに憧れて軍人を目指したかった彼ですが、ナポレオンが没落し王政復古の時代に。そのため、ジュリアンは聖職者として栄誉をつかもうと勉学に励んでいたところをレナール家の家庭教師として雇われます。

レナール家には、美しい夫人がいました。ジュリアンは出世の糸口として彼女を誘惑しますが、次第に本気で愛するようになります。この関係が知られてしまい、ジュリアンはレナール家を去りパリに飛びます。そこでラ・モール侯爵の秘書となり、その侯爵家令嬢のマチルドと恋に落ちますが……。

 

著者
スタンダール
出版日
2007-09-06


1830年に発表されたスタンダールの『赤と黒』は、ナポレオンを経て王政復古という、激動の時代のフランスで生きていく一人の若者の野心と恋を描いた作品です。本のタイトルである「赤と黒」が象徴するものは、ジュリアンがなろうとした軍人の赤い服と、聖職者の黒い服の色であり、ジュリアンの野心であるといわれています。

「赤と黒」というと対照的な色ですが、ジュリアンを取り巻く二人の女性・レナール夫人とマチルドの性格も、対照的に描かれています。レナール夫人は純粋で貞淑な女性ですが、マチルドは才気ある自信にあふれた女性です。「赤と黒」の色を、二人の女性の対比になぞらえて捉えることもできるでしょう。

また、「赤と黒」という賭け事で使われるルーレットやトランプの色の組み合わせから、貧民階級でありながら出世しようとする、ジュリアンの大きな賭けような人生を思い起こすこともできるかもしれません。

上下巻で長めの物語ですが、起伏に富んだ物語なので退屈せずに読み切ることができます。ジュリアンの波乱万丈な人生を追いながら、「赤と黒」の意味を考えてほしい、そんな一冊です。
 

幸せを考える

1856年に発表された『ボヴァリー夫人』は、フランス文学史において重要な作家・フローベールの代表作です。

恋や結婚に夢見がちで、華やかなものに憧れるエマ・ボヴァリー夫人は、夫のシャルル・ボヴァリーとの結婚生活に大きな喜びや幸せを見いだせず、退屈に感じていました。単調な暮らしから抜け出そうと、ボヴァリー夫人は次第に不倫と贅沢に走っていくようになります。

 

著者
フローベール
出版日


エマはロマンチックな幻想を持つあまり、現実を受け入れることができず、破滅の一途をたどることになりました。彼女がシャルルと結婚したのも、結婚すれば自分が思い描いていたような恋の情熱や幸福が味わえるかもしれない、という思いからです。

エマのように、理想と現実との差異に苦悩し、現実には存在しない理想の自分を現実の自分だと考えてしまうことを意味する「ボヴァリズム」という単語があります。理想と現実のギャップに苦しむことは、誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。その苦しみを丁寧に描いたこの作品には、どこか共感できる点を見いだすことができるでしょう。

恋愛や結婚をすれば幸せになれるのか?凡庸な暮らしは楽しくないものなのか?華やかな生活をすれば満たされるのか?理想と現実の差をどのようにうめていくのか?退屈から逃れらないボヴァリー夫人の破滅までを描いたこの作品は、幸せとは何か、を様々な観点から問いかけてきます。
 

以上、恋愛を描いているフランス文学作品の中から、親しみやすいおすすめの作品を5作紹介しました。少しでもフランス文学が身近なものになれば幸いです。面白そうだと感じる本があれば、ぜひ手に取ってみてください! 

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