澤田瞳子のおすすめ代表作6選!『若冲』で直木賞候補、親鸞賞受賞!

更新:2021.12.19

『若沖』が直木賞候補作に挙がったことで話題を呼んだ、歴史学者・小説家の澤田瞳子。その豊富な歴史の知識と確かな文章力で、歴史小説ファンのみならず多くの読者を惹きつけています。今回は彼女の著作の中でも「代表作」と言える作品をお届け!

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直木賞候補作『若沖』が話題になった新鋭作家澤田瞳子

澤田瞳子は、作家の澤田ふじ子を母に持つ、京都生まれの歴史学者であり小説家です。2010年『孤鷹の天』で小説家デビューを飾りました。

翌年、同作で中山義秀文学賞を最年少で受賞し、2年後には第2作目となる『満つる月の如し』で新田次郎文学賞、そして第2回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞します。更に2015年、5作目の『若沖』で直木賞候補になり、翌年には同作で親鸞賞を受賞。

歴史学者らしい丁寧な文章と語り口が評判の澤田瞳子。実力と勢いを兼ね備えた、新鋭作家の世界観をお楽しみください。

澤田瞳子の直木賞候補作!

奈良時代に平城京で猛威を奮ったパンデミックが業火のような迫力ある筆致で描かれています。有効な治療法のない感染症で人々が次々と死んでいく恐怖と絶望の中、生と死について問いかけてくる胸に迫る時代小説です。

著者
澤田 瞳子
出版日
2017-11-21

時は天平、光明皇后の兄藤原氏四兄弟が栄華を極め平城京を治めていました。藤原四子は慈善事業として貧しい病人の治療を行う施薬院を作ります。ある日、施薬院で高熱が数日続いたあと突如熱が下がるという奇妙な症状の患者が次々と現れるのですが、これが疫神とも呼ばれる天然痘の前触れだったのです。

天然痘は瞬く間に都中に広まり、有効な治療方法が見つからないまま、奈良の人々だけでなく宮城内の藤原四子や官民たちまでも死に至らしめていきます。未曾有の混乱と恐怖の中、天然痘の蔓延を食い止めようと懸命に治療に当たる医師たちもいれば、偽りの神を祀り上げる者たちも現れます。

当時の平城京の様子と人間の生と死が、施薬院で仕方なく働く青年の名代(なしろ)と、侍医でありながら免罪で牢獄に入れられた男、諸男(もろお)の2人の視点を軸に描かれた物語です。

当時の街の様子や人々の暮らしが丁寧に描写されていて、その時代の情景が目に浮かび雰囲気を感じることができます。

また水痘や膿疱が体中にできて瞬く間に人に感染する天然痘の酷さ、人々が治療の甲斐もなく亡くなっていく悲惨さ、その大量の遺体が河原に打ち捨てられている様子、得体の知れない疫病によって顕になる人々の悲しみや恐怖、醜さも包み隠さず描かれていてパンデミックの凄惨さがありありと伝わってきます。

そんな過酷な経験と人々の死を通して、施薬院で働く名代と元侍医の諸男が生きることに対して自分なりに意味を見つけていく姿が感動的です。タイトルの意味は仏修行者が火中に身を投じて死ぬことですが、本書の中での『火定』の意味には、の生きることへの想いが込められています。

日本史に残る菅原道真の人生に、新しい解釈を与える歴史小説

本書では、主人公の菅原道真が京から太宰府に左遷された後の人生をユーモラスに描いています。右大臣だった菅原道真は太宰府に配流されてからというもの、悲嘆に暮れてばかり。しかし美しい歌人の恬子のお陰で、情熱を傾けられる仕事に出会い……。

著者
澤田 瞳子
出版日
2014-06-25

平安時代の文人政治家であった、菅原道真。当時の宇多天皇がその優れた詩歌の才能を買い、異例の速さで右大臣まで昇進を遂げます。悲しいことにその名誉が周りの嫉妬と反感を呼び、左大臣・藤原時平から中傷を受けたおかげで九州の太宰府へ左遷という処分に。

歴史上の菅原道真は、右大臣から太宰権帥という実権を持たない閑職に追いやられたショックが災いし、2年後失意の中59歳という若さでこの世を去ります。しかし澤田瞳子は本書の中で、実際とは全く雰囲気の異なる明るいタッチの物語展開を道真に与えます。

歌人小野恬子との出会いがきっかけで、唐物から入ってくる書画骨董への目利きの才能を発揮するようになる道真。そんな中、朝廷に向けた書類の不備で太宰府が窮地に立たされます。

太宰府を救い、また自分を陥れた藤原時平に仕返しの一撃を与えることができるか……。失意の底から一念発起し再起を懸ける道真の懸命な姿、またそんな彼を支える恬子と、彼のお相手役・龍野保積との人間関係も微笑ましい作品です。

きっと読者はまず本書のタイトルのように道真の人生を励ましたくなり、そして同時に自身の人生についても考えさせられ、終には可能性と希望を見出すでしょう。明るいタッチで描かれた人生の指南書、教訓書とも言える貴重な作品です。
 

東大寺大仏建立に労を執した若者たちの人生を、食の視点から描いた人間ドラマ

当時国の一大事業であった、東大寺の大仏建立計画。主人公の若者・真楯は故郷から造仏所に徴発され、始まったばかりの造仏事業に労苦を強いられます。そんな中彼を支えたのは、飯屋の次男・宮麻呂のとびきり美味しい食事でした……。

著者
澤田 瞳子
出版日
2015-08-18

主人公真楯の視点から見た物語が短編仕様で語られています。1編ごとに大仏の建設が進み、同時に様々な問題が起こってきますが、造仏所次男・宮麻呂の作る絶品料理を支えに、何とかやり過ごす毎日。

真楯を含む多くの仕丁(役夫)の活力源となるその料理の腕に加え、やさしく思いやりのある人柄の宮麻呂。物語の後半では彼の思いがけない正体が発覚します。真楯と宮麻呂を中心人物に据えて展開する本書。大仏建設の歴史的背景を知れるとともに、歴史小説では珍しい親近感を抱いてしまう登場人物たち。

学校の授業で習ったときは全く興味が持てなかったという読者も、本書を読み始めればきっと「改めて当時についてしっかり知りたい!」という興味と意欲が出てくるはず。

人間が生きていく中で多くの時間を占め、そのまま心身に影響を及ぼす食事。体験を通してゆっくり確実に「食とは何か」「仏とは何か」に気付いていく真楯の姿が、日々の生活を大切にすることの大切さを私たちに思い出させてくれます。

「日本誕生」のストーリーをそれまでに無いスケールで描き上げた、新感覚の歴史長編小説

舞台は飛鳥時代。讃良大王(後の持統天皇)が「日本」という国号誕生のため『大法律令』を完成させるまでの過程を描いた、壮大なスケールの歴史長編小説です。テンポの良い展開で、時代特有の漢字熟語も難しく感じさせない魅力的な作品に仕上がっています。

著者
澤田 瞳子
出版日
2016-06-10

物語は讃良大王(後の持統天皇)と、もう一人の主人公と言える葛野王家の新人大舎人、阿古志連廣手の視点からも描かれます。そのため、最も高い地位の大王と最下級に等しい廣手の全く異なる視点が反映されており、話に更なる面白みを加えています。

見所は何と言っても讃良大王の勇気ある活躍でしょう。豪族連合国家から一新、中央集権国家の設立に邁進する彼女と、それに反対する王族・豪族たちとの権力争奪の模様が迫力満点に描かれています。

圧巻なのは、讃良大王とその腹心の存在である女官・忍裳に共通して感じられる、女性に潜む精神の強さ。私たちの普段の生活でも「いざという時に女性は強い」とよく言われますが、正にその真意が現れている生き方に感銘を受けます。

日本の古代史を臨場感を持って学べる機会としてもオススメ、エンターテイメント感満載の歴史小説です。

平安貴族の世界で翻弄される仏師・定朝の生涯を鮮やかに描いた、新田次郎文学賞受賞作

仏師・定朝の生涯を描いた歴史小説。新田次郎文学賞を受賞しました。平安貴族の世界で定朝を取り巻く人間関係模様が繊細に描かれており、歴史小説でありながら読者に臨場感を与え、先を急いで読みたい感覚にさせます。
 

著者
澤田瞳子
出版日
2014-10-03

現在も残る定朝の唯一の作品といえば、平等院の阿弥陀如来像。その阿弥陀如来像が現在の姿になるまでの過程を、著者は豊かな想像力を巧みに使い、自由に表現しています。

澤田瞳子が焦点を当てたのは、主人公・定朝と彼を支えた僧侶隆範、そしてその二人の苦悩。著者はその苦悩する二人のエネルギーが昇華し、それが阿弥陀如来像が誕生する力になったのだという持論を展開します。

二人を取り囲む人間関係に実際の歴史事件を折り込みつつ話が展開するので、歴史が好きな読者は知識欲の方も満たすことができ、一石二鳥。風景など情景描写も繊細で美しく、独特の世界観を体験しに繰り返し読みたくなる、歴史好きの人もそうでない人にもオススメの歴史小説です。

「奇想の画家」と呼ばれた伊藤若冲の人生を、澤田瞳子独自の視点から捉えた歴史小説

本書はかつて「奇想の画家」として名を馳せた伊藤若冲の人生に、澤田瞳子が独自の視点から脚色を加え、小説に仕上げた作品。事実に忠実な部分と、著者の想像力で創り上げたストーリーのバランスが絶妙な、新感覚の歴史小説です。

著者
澤田 瞳子
出版日
2017-04-07

主人公は、京都の錦高倉市場、老舗青物問屋の枡源の長男として生まれた源左衛門(後の伊藤若冲)。長男として生まれますが、弟に店の経営を任せ、自分は好きな絵を描いて過ごす生活が描かれます。

やがて跡継ぎを得るために結婚した源左衛門でしたが、妻が姑との不仲を原因に自殺。妻を救えなかった自責の念から、妻への供養として集中して絵を描く生活に入ります。

日本画を極めていく中で、無名時代の与謝蕪村、円山応挙、市川君圭、谷文晁達との交流も描かれます。澤田瞳子の想像力豊かなストーリーに加えて日本画の歴史、画家たちの交流なども知れるので、読書の喜びがより深まるでしょう。

著者は本書で、源左衛門(若冲)が負のエネルギーを創作の力に変え、素晴らしい作品を世に残したという解釈を示していますが、若冲ファンなら特に「自分ならどのような解釈をするだろう?」と思いを巡らせながら頁をめくるのも、乙な楽しみ方かもしれません。

生み出す作品のストーリーに込められた勢いと、繊細で豊かな表現力に定評のある澤田瞳子。「歴史エンターテイメント」として楽しめると評判です。ご紹介した作品はそんな著者の魅力を存分に堪能できる、文学賞受賞作品を含む内容の濃い小説を集めました。歴史の知識が豊富であれば更に深く作品を味わえるので、一度読んで再読しようという時には、大まかな時代背景や歴史上の事件なども調べた上で読書を始めると良いかもしれません。

読み応えがある作品ばかりですが、どれも難解さを感じさせないテンポの良い展開が軸になっています。充実のラインナップで最初の一冊を選ぶのに苦労しますが、どれから読んでも後悔させない、興奮に満ちた読書の旅がきっとあなたを待っているはず。

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