『罪の声』書評。本屋大賞にノミネートされた塩田武士の傑作小説

更新:2017.4.10 作成:2017.4.10

日本犯罪史上に残るグリコ・森永事件をテーマに描いた作品。事件そのものではなくそれらに関わった人間たちを描く、『罪の声』を紹介します。

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本屋大賞にノミネートされた『罪の声』

京都でテーラーを営んでいる曽根俊也は、入院している母に頼まれたアルバムと写真を部屋で探していました。その時、同じくテーラーであった父の遺品が納められた箱から黒革のノートとカセットテープを見つけてしまいます。

ノートにはぎっしりと書かれた英文の中に「ギンガ」、「萬堂」という日本を代表する製菓メーカーの名前がありました。テープには31年前に起こり未解決のままである、「ギン萬事件」において使われたものと同じ音声が入っていたのです。その声を聴いた俊也は確信しました。これは自分の声だと……。一方、文化部の記者である阿久津英士には、年末企画の未解決事件特集として取り上げる「ギン萬事件」を調べるよう指示が出されます 。「ギン萬事件」の手掛かりをつかむため、イギリスに飛ぶことに……。

著者
塩田 武士
出版日
2016-08-03

この作品の重要なキーワードとなる「ギン萬事件」は、名前こそ違いますが、「グリコ・森永事件」が元になっています。「グリコ・森永事件」は、1984年に有名なお菓子メーカーである江崎グリコの当時の社長を誘拐したところから始まる一連の事件です。社長は自力で脱出することができましたが、その後犯行グループはグリコ製品に青酸 を入れたと脅迫をはじめ、それは森永製菓など複数の会社に対して行われました。その後犯行グループは犯行終結宣言をし、さらに時間が経過して犯人は謎のまま時効を迎えました。

この作品が描くのは事件としての「ギン萬事件」ではなく、その事件にかかわる人間に焦点を当てています。しかし、それだけではなくこの事件に関して も詳細に書かれているのです。事件を客観的に書くということ、人間を描くということの二面性を持つことができるのは、作者である塩田武士が記者の経験があることにも影響しているのかもしれません。

また、この作品は関西で起こり、登場人物が関西にいるということもあり、関西弁で書かれています 。関西弁というのは字面そのものが違う場合や、イントネーションの部分が違うこともあるため文章にすると読みづらくなってしまう場合があるのですが、この作品は読みやすい作品になっています。

この作品において犯人は判明しますが、実際の「グリコ・森永事件」は解明されていません。今の若い世代では詳しく知る人も少なくなりつつありますし、当時を知る人で忘れてしまっている人 もいることでしょう。この作品がこの事件を改めて調べたり、新たに知ったりする良い機会になるかもしれません。