「恋愛小説ってメロメロ甘々でなんか苦手……」そう感じる人も多いと思います。ですが、実は「メロメロ甘々」なだけではないんです!そんな、一癖も二癖もあって読み応えのある恋愛小説を、一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
主人公「志織」は、一眼レフで撮った写真を自分で現像することが趣味でしたが、匂いの苦情を受けたことをきっかけに、もともとの住まいから、「ちょっと変わった人々」が集まるマンションへ引っ越すことに。
引っ越しした後のある日、志織が部屋の中でお気に入りのくまのぬいぐるみに対して独り言を呟いていると、何やらエアコンの穴から声が聞こえます。しかし、エアコンの穴の向こうは何もないはずのベランダ。その声の主は、未来からきたという、マンションの住人である男性。志織はその彼から、あることを頼まれます。その日を境に、志織の周りでさまざまな出来事が起こりはじめて……。
- 著者
- 松尾 由美
- 出版日
- 2007-02-21
とにかく一筋縄ではいかない、読み応えのある恋愛小説です。
ミステリー性もありSF要素もあり、ファンタジーのように感じる部分もあれば現実に引き戻されたり、エアコンの穴を通して未来の男性と会話をしたり、ぬいぐるみと会話をしたりしていたかと思えば、現実に起こりうる、ある事件に巻き込まれたり。読者に休む間を与えない、目まぐるしい展開が続きます。
登場人物自体は決して多くなく、設定もごくありふれたものなのに、いろいろな要素を複雑に組み合わせ、さらに恋愛要素も絡めてくるという、かなり複雑な内容です。
複雑に絡み合いながらも、常にこの物語の奥深くには「愛」が隠れています。恋愛小説好きの方はもちろん、ミステリー、SF、ファンタジー好きの人も満足できる内容なのではないでしょうか。
精神的に弱ってしまい、自殺を図った男女が、あの世に行く前の河で運命的に出会います。自分たちをあの世へ押し流そうとする急流に、「まだ生きたい」と逆らおうとする男女の結末は……?(「河を下る旅」)
壮年期の主人公は、未来から来たという若い女性と出会い、その魅力にどんどん惹かれていきますが、ある日を境に彼女は来なくなってしまいます。彼女が来なくなってから、主人公が彼女の言葉や行動を思い返していくと、驚きの事実を発見するのです。(「たんぽぽ娘」)
- 著者
- ロバート・F・ヤング
- 出版日
- 2013-05-30
『たんぽぽ娘』に収録されている13の短編のほとんどが「時間」「空間」というキーワードを軸にし、私たちが普段想像する「恋愛」とはまた違った世界観のもと、物語が展開されています。
SF要素を中心としつつ、人間の心の弱さや残酷さを浮き彫りにしながら、人間関係における「愛」はもちろん、人間とその他との関係をも「愛」の対象としている点が、他の小説にはなかなか見られない特徴的な部分です。
13種類の異なる世界を一気に楽しめる、中身のつまった恋愛SF小説集です。
中学3年生の和子は、理科室の掃除中、ラベンダーの香りを嗅いで意識を失います。この事件をきっかけにして和子は、時間を移動できる能力である「タイム・リープ」ができるようになり、その事実を共有した同級生の一夫や吾朗とともに、自分がなぜタイム・リープできるようになったのかを探っていきます。
真相を知った和子を待っていたのは、甘く切ない、どこか余韻の残るようなラストでした。
- 著者
- 筒井 康隆
- 出版日
- 2006-05-25
SFでかつ恋愛小説と言えば、「タイムスリップ」「タイム・リープ」「テレポーテーション」などを絡めた展開が王道だと思う方は多いのではないでしょうか。その王道を作り上げたのがこの作品だと言っても過言ではないでしょう。
初版からかなりの時が経ち、人々を取り巻く環境や価値観が大きく変わっても、今なお多くの人に愛され支持され続けているのは、いつの時代にも共通するロマンと「愛」をテーマにした小説だからでしょう。
以前読んだことがあるという方も、映像化されたものを見たことがあり、あらすじを知っている方も、そしてこの物語に触れたことのない方も、この小説が持つ不思議な魅力に惹きこまれてしまうのではないでしょうか。
物語の始まりは、主人公「高崎暦」が人生の最期を間近に感じている老年期。そこから、幼少期、学生時代、そして大人になり、最後にまた老年期で終わりを迎えます。
「世界はたった一つの空間でできているのではなく、いま生きている空間の他に『並行空間』がある」という設定のもと、この「並行空間」がさまざまなカギを握る要素になっていきます。
愛は「並行空間」にあっても、愛であり続けられるのでしょうか。
- 著者
- 乙野四方字
- 出版日
- 2016-06-23
「SF×恋愛」の定番は「タイムスリップ」なのかもしれませんが、この恋愛小説は単なる「タイムスリップ」にとどまりません。「並行空間」の存在が認知された時代で、舞台は、ある一定の期間ではなく、主人公の一生を通して描かれます。
登場人物は決して多くなく、だからこそ、主人公の心情が事細かに表れています。彼が少年期に出会った、瀧川和音との愛を大きな軸として物語は展開していきますが、この二人の間の愛だけでなく、「高崎暦」の一生を通して経験された愛もテーマの1つです。
人間誰しも「あの時に戻れたら……」と思うことはあるはず。現在・過去・未来を絶妙に交差させ、さらにそこに愛という、どの時代でも変わることのない要素を絡めることで、複雑なのにどこか切なく、独特の世界観が表れています。
キングコング・西野亮廣がカバーイラストを手がけたSF恋愛小説です。SFといえども、青春モノを多く描いてきた畑野智美の持ち味である爽やかさも健在しています。
ロケットの発射台がある南の島の高校1年生、光二が主人公。気になっていた同級生、葵との初デートの約束をします。けれど彼女は「ロケットを飛ばして金星まで会いに来て!」という言葉を残し、消えてしまうのです。
- 著者
- 畑野 智美
- 出版日
- 2016-11-25
タイムマシンがあったら過去に行くか、それとも未来へ行くか。誰もが1度は考えたことがある問いですよね。姿を消した葵を追って、光二は過去へと向かいます。葵のことを好きだという気持ちに気づけたのに、伝えたくても伝えられないという切なさに、どんどんページをめくってしまいます。
タイムマシンがあっても変えられない過去があるというのは、SF小説でたびたび取り上げられている題材ですが、畑野はその切なさを淡く描き出しています。普段SFを読まない方でも、恋愛と青春の物語として読むことができるでしょう。
本作は畑野の別作品『ふたつの星とタイムマシン』と絡み合っている物語なので、そちらも合わせておすすめです。
主人公ドローヴは、夏の休暇を過ごすため、港町パラークシの別荘へ家族とともに向かいます。ドローヴは、融通の利かない高慢な政府高官の父親と、その父親に追従し、うわべだけで生きているとしか思えない母親との関係に不満といらだちを感じながら暮らしていました。
ドローヴが心を寄せるブラウンアイズという魅力的な少女とパラークシで再会するも、大人たちの数々の理不尽な行為によって、2人の間に生まれた愛は引き裂かれていってしまい……。
- 著者
- マイクル・コーニイ
- 出版日
- 2008-07-04
この作品のタイトルからは想像もできないような、静かな迫力を持った恋愛小説です。
多くのキャラクターが出てきますが、何となくその誰もが、読んでいる私たちの一部なのではないかと思ってしまうような感覚に陥ります。
そして、物語の最初から最後まで、「氷」「凍る」といった冷たい言葉や描写が散りばめられ、それらが単なる恋愛小説ではないことを示唆しています。
少年の目線から描かれる、大人の無情さ、理不尽さ、そして熱く甘い恋。ひと夏でさまざまなことを経験し、たくさんの人と出会い、精神的に急成長を遂げたドローヴは、知りたかったことも、知りたくなかったことも、理解できるようになっていきます。
完全なるSFの世界で、人間が持ちうるあらゆる感情をあらわにし、読んでいる方も丸裸にされるような、そんな印象を抱く方も多いのではないでしょうか。
今まで恋愛小説が好きだった方もそうでない方も、そしてSFが好きだった方もそうでない方も、ぜひ、今回紹介した作品を手に取って、ページをめくってみて下さい。今まで知らなかった恋愛小説の世界が広がっているかもしれませんよ。