数々のミステリー小説を描く、アメリカを代表する女流作家パトリシア・コーンウェル。科学技術が多くの作中に盛り込まれており、人物描写が緻密な作品が持ち味の作家です。今回は、そんなパトリシア・コーンウェルのおすすめ小説をご紹介致します。
パトリシア・コーンウェルはアメリカ・フロリダ州マイアミ出身のミステリー作家です。幼少期は辛い日々を過ごした経験もあり、恵まれた環境に身を置いていたわけではありませんでした。
パトリシア・コーンウェルは大学卒業後、新聞社の警察記者を担当し、さらにバージニア州の検屍局でコンピューターアナリストを経験します。それらの仕事を経験しながら得た知識などで、自らの作品を開拓していく姿勢は比類ない作家といえるでしょう。
豊富な科学技術の知識を駆使したミステリー、そして多彩な登場人物たちが見ものです。社会には様々なものが存在していて事件は起きる、また絡みあった人間関係は避けられない。一見、当たり前のようなことを、このような重厚なミステリーに仕立てあげられる腕がパトリシア・コーンウェルにはあります。
容姿端麗、秀でる犯罪への才覚を持っているけれど、テストができない捜査官。どことなく好奇心をくすぐられる人物像ではないですか?この興味をそそる人物こそが、パトリシア・コーンウェルの本作の主人公・ガラーノなのです。
優れた風貌で頭脳明晰の捜査官ガラーノは、美貌・野心家・地区検事という三拍子揃った上司のラモントに、20年前の未解決事件を再捜査するように命じられます。悪魔の面を持つラモントに懐疑心を抱きつつ、ガラーノが事件解決に着手し始めた矢先、自身も含め周囲で新たな事件が発生して……。
- 著者
- P. コーンウェル
- 出版日
- 2007-08-11
あらすじからは、過去と現在の事件の関連性の解明に重点が置かれているように感じられるでしょう。しかし、パトリシア・コーンウェルがおくる本作の特徴はそれだけではありません。ガラーノをはじめとする登場人物たち個々の魅力が物語にピリッとスパイスを効かせているのです。
とりわけ、捜査に協力しガラーノに切ない思いを寄せるサイクスは、ガラーノと親子ほど年齢が離れた女性。文句を言いながらもガラーノに尽くす姿勢に、読者は共感を覚えずにはいられないでしょう。
また、人間社会の暗い部分も描いている点にも、注目したいところです。人間の自己顕示欲は時に残酷さ、冷淡さは状況を一転二転させます。そのように、人間の欲望などが社会を形成されてきたという事実もほんのりと考えさせてくれる小説ともいえるのです。
パトリシア・コーンウェル作品の中でも少し毛色の異なる作風で、軽快な雰囲気を持つミステリー小説です。
24歳のハンサム記者であるアンディ・ブラジルが本作の主人公。ブラジルは記事のネタのためにボランティア警官をすることになります。その場所は、アメリカの「ススメバチの巣」と称されるシャーロット市。1600人の警察官が働く市の警察署は、1分も無駄にできないほど忙しい場所でした。そんな中、他州からくるビジネスマンたちが殺害される事件が起きて……。
- 著者
- パトリシア・コーンウェル
- 出版日
- 1998-07-15
警察小説の性質でありながらコメディ要素、また恋愛模様も入る作品に仕上がっています。警察署にボランティア警察の若者がいきなり飛び込む。そして女王バチ、いや尊敬できる年上女性警官たちと少しずつ分かちあう……。それは果たして触れ合っているのか?それとも振り回されているだけなのか?いかようにも捉えられる小説といっていいでしょう。
この作品に登場する人物たちも、個性的で魅力があります。アンディ・ブラジルの他に、50歳ちょいでしっかり者の警察署長ジュディ・ハマー、42歳のとんでもない美人の署長補佐バージニア・ウェスト。
この3人が物語の中心となります。既婚のハマーには有名なダメ夫がいる。独身のウェストには決して惚れているわけではない恋人がいたりいなかったり。しっかりした女性たち、でもちょっとした抜け感も見所です。
パトリシア・コーンウェルの代表作である「検屍官ケイ・スカーペッタ」シリーズでは、作中に多くの料理が登場していきます。それらを集約したグルメ本が本書なのです。写真付きですので、大変読みやすいでしょう。
スカーペッタは料理が得意な検屍官であり、さらに独自の理念を持っています。それは「ケイ・スカーペッタは最高のものしか使わない」ということ。そのことは、彼女の仕事の本質を端的に表しているのかもしれません。さらにこのようにも言われています。「捜査の成否は、よい証拠が決め手。料理の味と見栄えも材料の質によって決まることをケイは知っている」と。
- 著者
- ["パトリシア コーンウェル", "マーリン ブラウン"]
- 出版日
- 2003-02-26
取り上げられている料理の例をいくつかご紹介します。
「ピーマンとマッシュルームとたまねぎのイタリアンソーセージピザ」(『検屍官』から)
「ル・パッパルデッレ・デル・カンタンザイン(長い名前ですがピーマンとソーセージのパスタ)」(『遺留品』から)
「べブのクラブケーキ」(『接触』から)
材料のみならず、その料理を誰のために作るのか。このことはどことなく料理の味や見た目も変化していきそう……。そんな感覚を抱かせてくれるのが本書です。そして出てくる料理のほとんどがイタリア料理であり、ケイ・スカーペッタをイタリア系に設定されていることにも納得できると思います。また、トマトやニンニクの使い方、前菜からデザートに至るまでのコース別メニューに関する記述まであるのです。本格的なグルメ本と言えるでしょう。
物語から生まれた料理をさらに掘り下げていく。それによってパトリシア・コーンウェルの「検屍官ケイ・スカーペッタ」シリーズを読む楽しみが一つ一つ増えていくのではないでしょうか。
「検屍官ケイ・スカーペッタ」シリーズは、パトリシア・コーンウェルという作家を世に知らしめた作品です。世界中に渡り根強いファンも多く、彼女の名声を不動のままにする礎ともいえる小説なのではないでしょうか。
シリーズの原点がこの『検屍官』。美貌の検屍官ケイ・スカーペッタが最新の科学技術を駆使しつつ、難事件の捜査を展開していく姿は圧巻。
物語の始まりは、アメリカのバージニア州にあるリッチモンドで発生する連続殺人事件。遺体それぞれが残酷な状態で発見されることから、事件はあっという間に街全体を恐怖に陥れることに。惨殺された無残な姿で発見される被害者たち、それを検屍する美貌のケイ・スカーペッタが卓越した科学技術を武器に捜査に加わります。しかしケイ自身にも危険が迫り……。
- 著者
- パトリシア・コーンウェル
- 出版日
- 1992-01-08
犯人は誰なのか?事件の真相は?などの謎解きも当然に面白いですが、主人公ケイ・スカーペッタという人物に焦点を当てて読んでみるのもおすすすめです。麗しき容姿を持つ検屍官ケイ・スカーペッタは仕事を完璧にこなす女性。一見、欠点がないように感じるでしょう。
しかし、この作品は一人称で進みます。一人称ならば、スカーペッタの人間臭さはさすがに隠せない。この作品で描かれる人間臭さから、一人一人悩みをもって当然だということを感じることができるでしょう。完璧超人はいない、このことはなんだかホッとしませんか?
ジャック・ザ・リッパーこと、「切り裂きジャック」はご存知ですか?
1888年、イギリスで起こった連続猟奇的殺人事件。この事件では、約2か月の間に少なくとも5人の売春婦が何者かによって惨殺されました。そしてこのあまりにも惨い殺人事件は、イギリス全土を震え上がらせることに……。
その後も見えぬ犯人による殺人は繰り返され、徐々に「切り裂きジャック」と呼ばれるようになったのです。そして、当時の捜査もむなしく、犯人はとうとう捕まりませんでした。現在も未解決事件となっています。また事件の特異性から、世紀をまたぎ語り継がれる事件となっているのです。
- 著者
- パトリシア・コーンウェル
- 出版日
- 2005-06-15
パトリシア・コーンウェルの『真相』は、一世紀近く前の未解決事件の真相に迫るものとなっているのです。本書執筆のために、7億円もの巨費を投じたミステリー作家魂にも脱帽します。
当時は、殺害状況や犯人と思われる者からの手紙からプロファイリングが行われていました。これではおのずと捜査の限界があったでしょう……。そのようなことも留意しながら読み進めると、興味深いものが見えてくるのではないでしょうか。「現代科学ならすぐに解明できたかもしれない」。正直パトリシア・コーンウェルはこのような思いを抱いているかもしれません。上下巻とも事件への徹底的な検証に終始している作品です。
パトリシア・コーンウェルはミステリー作家です。ミステリー作家ならば、作品の筋書きの特徴や魅力を述べるのが本来すべきことなのかもしれません。しかし、作品に登場する人物に注目しつつ読書していくことも案外とはまるものなんです。事件はの大部分は人間が引き起こし、それらの動機や背景には良くも悪くも個性があり、人物像を作り上げていくと考えます。今後もパトリシア・コーンウェルの各作品には目が離せない人物たちがたくさん出てくることでしょう。楽しみです!