小川一水のおすすめ小説ランキングベスト6!壮大なSF作品が魅力

更新:2021.12.18

様々な種類のSF作品を紡ぐ小川一水。SFファンのみならず、SF初心者にとっても読みやすい作品も多くあります。軽めのSF作品から本格SF作品、時には壮大な物語を紡ぐSF作品など、数ある作品の中から満遍なくご紹介します。

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小川一水とは

SFを中心に執筆を行っている岐阜県出身の作家です。1996年に『まずは一報ポプラパレスより』でジャンプ小説・ノンフィクション大賞の大賞を受賞します。同年、集英社より『まずは一報ポプラパレスより』で筆名・河出智紀で作家デビューを果たしました。それ以前にも作品の応募は行っており、1993年に『リトルスター』でジャンプ小説・ノンフィクション大賞の佳作入賞をしています。1997年に朝日ソノラマ文庫より『アース・ガード』を発表。この作品から筆名を現在も使用している小川一水に変更しました。

軽いタッチのSF作品から本格的なSF作品まで幅広い作品を執筆しています。現代が舞台の作品もあれば、近未来が舞台となる作品さらに、ファンタジー要素が組み込まれた作品ありと多彩なラインナップにより、読者を飽きさせません。ライトノベル系のレーベルから出版された作品も多く、キャラクターも魅力的です。また、読者の想像を掻き立てる作風は、SF作品の初心者にとっても読みやすいと感じるのではないでしょうか。

6位 地球外生命体を進化させるSF小説

『導きの星』は、シンプルにいえば、地球外生命体を進化させるSF小説です。そして、地球そのものの未来を語る、未来小説でもあります。時間感覚も空間感覚も真に宇宙的なスケールであり、どこを切っても魅力に溢れています。

司は地球・外文明支援省からオセアノ星に派遣されたCO(シビリゼーション・オブザーバー・外文明監察官)です。「地球」人類が地球外の知的生命体を求めて宇宙中に派遣されたうちのひとりになります。彼のミッションは知的生命体の萌芽を探し求め、その進化を「適切」に支援していくものです。アシスタントとして、極めて人間の感情に近い知性を持つ人工知性「パーパソイド(目的人格)」を従えています。

進化を支援するわけですので、時間感覚は通常の人類の一生を大きく超え、時を超える睡眠を活用し数百年におよぶのです。この時間スケールはよくあるSF小説を大きく超えています。見守る対象の知的生命体は世代を重ねていきますが、COは寿命を延ばしながら一生をかけて担当の星を見守ります。

著者
小川 一水
出版日
2002-01-01

『導きの星』のもう一つの特徴は地球人類史の振り返りです。司たちは育成対象生物を進化させるため、宇宙船から俯瞰してオセアノを見守ります。ところどころで気になるトラブルが発生し、司たちはおりをみて地上に降り立つのです。オセアノの進化は地球人類史そのものであり、ステップアップしながら現在のステージに到達したプロセスがよくわかります。司たちはそのプロセスを意図的に進めていき、物語は進んでいくのです。

本書では、細部にも丁寧なこだわりをみせています。進化に伴う代々のオセアノ人の風俗や暮らしぶりの変遷、オセアノ人の風貌、体格に応じたスラングや格言は小川一水の本書に対するこだわりを感じます。また物語の展開は単に地球外生命の育成物語にとどまらず、地球や人類の未来についての鋭い考察を示しています。人類は本当にこのまま拡大再生産を続けていくのでしょうか?宇宙を目指して広がり続けるのでしょうか?

本書『導きの星』を読んで、たまには遠い宇宙や未来の地球のことに思いを巡らすのもよいかもしれません。

5位 バラエティに富んだ短編集

全6編から構成されている短編集です。表題作を含むうち4編は、近未来または遥か未来を舞台とした物語です。一方、「グラスハートが割れないように」と「占職術師の希望」の2編は、現代を舞台とした作品となっています。今回は、表題作である「青い星まで飛んでいけ」と現代が舞台となっている「占職術師の希望」の2編についてご紹介します。

「青い星まで飛んでいけ」は、地球外知的生命体の探査を使命とする宇宙船・エクスの物語になっています。与えられた使命をやめることができず、生みの親である人類を恨みながら、様々な出会いと別れを繰り返していくエクス。そんなエクスが人間のように成長していく様子が描かれる作品です。

一方、「占職術師の希望」は、人の天職が見える男を描きます。占職術師として働く男がある日出会ったとある天職を持つ人物を目撃したことから特技を生かしてテロ事件に挑む作品です。

著者
小川 一水
出版日
2011-03-10

SF作品に触れたことがない読者や苦手意識のある読者にとっては、それぞれ独立した短編が収められていることでハードルは、ぐっと低くなります。そのため、入門書として手に取るには最適な作品といえます。もちろん、コアなファンにとっても様々なタイプの作品を楽しむことができる上、本格SF作品も収録されている短編集なので、楽しめるはずです。

短編でありながら、しっかりとした世界観が築かれており、ひとつひとつの描写に引き込まれます。それぞれの短編がきちんと成り立っている部分に、小川一水の力量が見えてくるのではないでしょうか。

4位 月面基地建設計画を描く

時は2025年。過酷な環境下での建設事業が得意な御鳥羽総合建設は、巨大プロジェクトを受注します。それは、月にレジャー施設を建設することです。プロフェッショナルたちが集まり、月へと向かいます。しかし、到着した月で目の当たりにしたのは、想像を絶する過酷な環境でした。一人の天才少女が発案した月面基地建設計画は、世界中の人々を巻き込んで進行していきます。

灼熱のサハラ砂漠、氷点下40度の南極、ヒマラヤの極限環境などでの建設を成功させてきた御鳥羽総合建設は、月面基地建設計画を成功させることができるのでしょうか。

著者
小川 一水
出版日

国が主体のプロジェクトではなく、民間企業が取り組む計画ということもあり、数々の問題が浮上します。ひとつひとつの問題を乗り越えていく様は泥臭く、ドキュメンタリーを見ているような感覚になるのではないでしょうか。浮上する問題以外にも、月面基地建設の工程が丁寧に描かれています。近未来SFでありながら、リアルに感じ、現実でも起こり得るのではないかと錯覚するほど丁寧な描写です。

さらに、物語に深みを与える要素があります。それは、プロジェクトに携わる人物たちの人間模様。特に、御鳥羽総合建設の若手社員・青峰と計画の発案者である少女・妙との関係が長い年月をかけるプロジェクトとともに少しずつ変化していく様から目が離せません。

3位 生きることについて考えさせられる中編集

表題作を含む4編から構成される中編集です。「老ヴォールの惑星」と「幸せになる箱庭」の2編は、未知の生物とのファーストコンタクトを描きます。「ギャルナフカの迷宮」と「漂った男」は、人と人の関わり方やつながりが見えてくる作品です。そのなかから、書き下ろし作品である「漂った男」についてご紹介します。

宇宙船の事故により惑星に不時着した男の孤独な戦いを描いた作品です。不時着したのは惑星の海。しかし、幸いなことに粘度の高い海であったため、沈むことがありませんでした。また、その惑星の海は、エネルギー源としても最適で飢える心配もありません。しかし、仲間たちが男の位置情報を掴めないという問題に直面します。電池が切れる心配のない通信手段を持ち合わせていたため、仲間と会話をしながら男はいつくるかわからない救助を待つこととなります。
 

著者
小川 一水
出版日
2005-08-09

どれも生きることについて考えさせられる作品が収録されています。特異な背景でありながら、読んでいるうちに自然と理解できる世界観。そして、そんな世界の中で他者と交流をしようともがくそれぞれの主人公。全く異なる物語でありながら、どこか共通したテーマを有しているように感じます。

骨太なSFと重いテーマを併せ持つ中編集ですが、ユーモアも感じさせる4編です。人ではない生命体は、不自然にならない擬人化が行われており、人間と少し違った感覚を持っていながら読者は少し共感してしまうという不思議な感覚を味わうこともできます。ハラハラする状況にいながら、読み終わった後は幸せになれるそんな作品の詰め合わせではないでしょうか。

2位 歴史改変の物語

3世紀の日本を舞台としたタイムトラベルSF作品です。謎の物の怪に襲われた卑弥呼を助けたのは2300年後の未来から派遣された知能を持った人工生命であるメッセンジャー・オーヴィル。オーヴィルは、卑弥呼に物の怪の正体を明かします。その正体は、地球を襲う謎の生命体・ET。時を遡りながら、オーヴィルはETと闘い続けていました。

卑弥呼の生きる時代が最後の防衛線であるため、オーヴィルを含むメッセンジャーたちと卑弥呼は共闘することとなります。時代を遡って紡がれるオーヴィルの物語と卑弥呼の視点から語られる物語により、徐々に明らかになっていくETの正体。人類が存在する未来を掴み取ることはできるのでしょうか。

著者
小川 一水
出版日

歴史改変がテーマの今作品。敵を倒すごとに未来が変わっていくわけではなく、未来の選択肢が増えていくことがポイントです。メッセンジャーたちの戦いの目的は人類の存続でありながら、人類が滅ぶ未来を黙認することとなります。そして、過去に送られる前の元いた未来に戻ることが叶わないメッセンジャーたちの一方通行の旅は、未来で親交のあった人物たちとの離縁でもあります。そのために生まれるオーヴィルの苦しみが物語の根底に流れています。

他の作品とは一味変わったテイストを楽しむことのできる『時砂の王』。壮大な物語からは目が離せず、後を引く読後感と切なさを味わえる作品です。

1位 読み進めるごとに深みにハマる「天冥の標」シリーズ

西暦2803年、独裁支配される植民星メニー・メニー・シープで起こった革命運動が上下巻で描かれる第1巻から物語は始まります。第2巻では、西暦2015年を舞台にパンデミックが描かれ、第3巻で時間軸は西暦2310年となり、小惑星国家と宇宙海賊のスペースオペラを描きます。第3巻の3年後が舞台となる第4巻は、小惑星を改造したハニカムという場所で繰り広げられる少年と少女たちの物語。第5巻は、西暦2349年の小惑星パラスに暮らす農夫の物語とその6000万年前に誕生した生命体の物語が交互に紡がれます。

そして、第1巻へと大きくつながりを見せる第6巻。第1巻と第2巻の間を徐々に埋めていくように展開してきた第3巻から第5巻を補完する以上の展開は読者にこの壮大な物語の全体像を掴ませます。そして、メニー・メニー・シープ建国の秘密が明らかとなる第7巻は、第2巻で描かれたパンデミックの生き残りたちの物語です。第8巻では、第1巻の物語を別の登場人物の視線で描きます。メニー・メニー・シープの全貌を上回る事実が明かされることで想像以上のスケールの大きさを見せつける物語です。

著者
小川 一水
出版日
2009-09-30

全10巻の予定で刊行中の超長編SF小説です。分冊された巻もあるため、巻数と刊行された冊数は一致しないため、ご注意ください。2017年4月現在、第9巻まで合計14冊刊行されています。

できることを全部やることをコンセプトに始まった物語は、そのコンセプト通り、様々な要素が散りばめられています。それにもかかわらず、巻を読み進めるごとにひとつの壮大な物語であると気付かされる構想には脱帽すること間違いなしです。

巻を追うごとに、綿密に構成された壮大な物語であると示す「天冥の標」シリーズは、超長編であることや未完であることに尻込みせず、積極的に読んでもらいたい物語です。2017年4月現在、まだ第10巻は刊行されていません。壮大な物語の着地点をリアルタイムに味わうためにも、ぜひ手を取ってみてはいかかでしょう。

小川一水の著作には、魅力的な作品が多くありますが、今回はおすすめベスト5を紹介しました。初心者にとってもSF作品のファンにとっても楽しめる作品ではないでしょうか。ぜひ、手に取ってみてください。

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