漫画は様々な題材を扱っていますが、絵と言葉だけで描く無音の世界であるにもかかわらず、音楽を題材にした作品は数多くあります。クラシックやアイドル等様々ですが、ここでは、人気のバンド漫画をランキング形式でご紹介いたします。
母親想いの真面目な青年アロンは、不良グループ「ファイヤー・ウルフ」と間違えられて感化院(現代の少年院)に入れられてしまいます。その後、アロンは「ファイヤー・ウルフ」のリーダー、ウルフ本人と出会いました。初めアロンは彼を憎んでいましたが、ウルフの音楽に触れ魅了されていきます。
感化院を出たアロンは故郷を離れ、デトロイトで働きながら、音楽を愛する仲間と「ファイヤー」を結成し、バンド活動を始めます。
人気バンドグループとなった「ファイヤー」。アロンは、そんな中、新人歌手のダイアナと出会い、恋に落ちます。幸せの中、ダイアナは病魔に倒れ帰らぬ人となってしまいました。ダイアナを失い、アロンはやがて自分を失っていきます。そして、周囲の励ましも効果はなく、アロンは音楽の世界から姿を消してしまうのです。
- 著者
- 水野 英子
- 出版日
少女漫画の王道、フリフリの服やキラキラの世界を描き続けた第一人者の水野英子が、ハードでダークな世界を描いた作品です。今では珍しくない、女性漫画家が男性漫画の要素を加えた風俗・社会性をテーマにしています。その後、男性女性を意識しない漫画を描く人に大きな影響を与える作品にもなっています。
1960年代、ロックミュージックが世界で盛況を増していく中、その時代を先取りしながらも消えて行くアロンの姿。物語のあちらこちらに当時のアメリカにみられた影の部分が描かれています。
1960年代に連載開始された作品としては、大変珍しい内容と手法、時代を先取りした作品でした。そのため水野英子の代表作品として、今でも根強いファンが大勢います。
音楽が好きで、歌が好きだという人が、一度は夢見るのが音楽を生涯の仕事とすること。しかし、音楽は努力だけではどうにもならない面もあり、やはりどうやっても超えることが叶わない、天才といえる人物が存在しているのです。
サウンドクリエイターをしている小笠原秋は、人気バンド「CRUDE PLAY(クリュードプレイ)」、通称「クリプレ」の元メンバー。メジャーデビュー決定後に脱退し、音楽プロデューサーの高樹総一郎の名義を借りて曲を発表しています。高樹に世話になっている現状に嫌気がさしていた秋は、自分の正体を偽り、誰でもいいからとナンパした女子高校生、小枝理子と付き合うことに。
- 著者
- 青木 琴美
- 出版日
- 2009-09-25
しかし理子は、自身も幼馴染の2人とバンドを組んでいる、音楽が大好きな少女でした。特にクリプレに提供してきた秋の音楽が大好きで、秋の正体を知らぬまま鼻歌と顔に一目ぼれしてしまいます。嘘から始まった関係でしたが、やがてリコが「マッシュ」としてデビューすることになったことで、関係が複雑化していきます。
映画化されたことで大きな話題となった青木琴美『カノジョは嘘を愛しすぎてる』は、天才作曲家と天才的な歌唱能力を持った少女が出会ったことにより始まる恋物語。元気で明るく一途なリコの突き抜けた勢いが、物語全体を掻き回す力を持っています。
芸能界が舞台ということもあり、爽やかな青春者というよりは、業界の暗部も登場。薄暗い世界から抜け出すことができないことに、コンプレックスを抱く秋と、陽の光の下にいるリコの世界が対照的だからこそ、秋がリコに惹かれていく姿に感情移入してしまいます。
秋を取り巻く複雑な環境が複雑に絡んで物語は進んでいきますが、見どころはやはりライブシーン。実に気持ちよさそうに歌うリコの姿が印象的です。心を震わす音を作る人々の、複雑に絡んだ恋愛劇をお楽しみください。
音楽活動は、自己表現のひとつ。メロディーや詞に自分の想いを乗せ、それを奏で歌う人々の気持ちすら乗せて、人々に届けられるのです。強い想いが込められた曲は、聞いた人に熱を伝える役割を持っているもの。だからこそ、音楽は力を持っているのです。
福山リョウコ『覆面系ノイズ』は、歌うことが大好きな少女が、幼い頃に2人の少年と出会ったことから始まる恋物語です。有栖川仁乃(ありすがわにの・通称ニノ)は、感情が高ぶると叫び出してしまうため、常にマスクをしている歌が大好きな少女。幼馴染の榊桃(通称モモ)に片想いをしており、モモと別れなければならなかった幼い頃、浜辺で自分の作った曲を歌わせてくれたユズを探しています。
- 著者
- 福山リョウコ
- 出版日
- 2013-10-18
ある日、ニノは入学した高校の新歓イベントで演奏しているバンドに、ユズを見つけます。眼帯覆面バンド「in No hurry to shout(通称イノリハ)」のボーカル(実は口パク)、アリスとして女装して舞台に立っていた杠花奏(ゆずりはかなで・通称ユズ)は、ニノを「イノリハ」のボーカルとして誘い、新生「イノリハ」と複雑な恋模様が進み始めます。
本作の特徴は、全ての恋が一方通行となっている点です。ニノはモモに片想いし、モモもニノを大切に想っているものの、自身の事情からその想いを受け入れてはいません。ユズも幼い頃に出会ってからニノに想いを寄せていますが、告白したときにニノの激しい拒絶にあい、うやむやにしてしまっている状態。
そんなユズを支えようとする「イノリハ」影のボーカルだった珠久里深桜(すぐりみおう)、ユズが好きだと知りつつも深桜に想いを告げる「イノリハ」のベース悠埜佳斗(はるのよしと 通称ハルヨシ)、「イノリハ」のドラムを担当し、兄の婚約者に恋をする黒瀬歩(通称クロ)。通じ合えない想いが音楽という形になり、叫び出したいほどの熱を生み出します。
イノリハが眼帯覆面バンドという、いわゆるビジュアル系に近いため、衣装が毎回ゴシックテイストで可愛いところも見どころのひとつ。それぞれの家庭環境なども絡み合い、一筋縄ではいかない恋ばかりということもあってか、歌のシーンではニノの魂の叫びが聞こえてきそうなほどの力が感じられます。
夢を追うということは自由ではあるものの、その背後に安定した生活はありません。会社に就職すれば、その会社が存続し、自分が働いていられる限り、一定の収入を得ることができます。安定した単調な日々か、不安定でも充実した日常か。選ばれなかった人生をうらやみ、人々は日々を生きています。
隣の芝生は青く見えると言いますが、自分とは違った人生を生きる人を、羨ましく思う気持ちが誰にもあるでしょう。人生に答えは無く、だからこそ皆が道に迷っているのです。浅野にいお『ソラニン』は、まさしく人生に迷うOL芽衣子を主人公とした物語。
- 著者
- 浅野 いにお
- 出版日
- 2005-12-05
自分にはもっと違う道があるのでは、と思って生きている芽衣子には、音楽で世界を変えることを夢見ていた恋人、種田がいます。日々会社に行き、自分が社会に不適合な人間なのでは、と思っていた芽衣子は、ある日どこからともなく聞こえた囁きに応えるように仕事を辞めてしまいます。
新しく仕事をするでもなく、貯金を食いつぶして生きる芽衣子。将来に不安を感じている自分を隠すように、フリーターをしていた種田に、真剣に音楽をやるように勧めます。迷った種田でしたが、昔のバンドを再結成。レコード会社にデモテープを送るなど、活動を本格化させていきます。
映画化された際は「ASIAN KUNG-FU GENERATION」が楽曲を担当したことでも話題となった本作。歌詞はすべて浅野にいおが担当しており、熱のこもった音楽シーンに反し、芽衣子の気持ちに添ったどこか淡々とした日常を感じさせます。
物語は迷走する芽衣子の気持ちを表すかのように混迷していきますが、何事もなかったかのように社会はまわる。自由とは本当に良いものなのか、問いかける芽衣子の人生に、息苦しさを覚える作品です。
才能の有るなしではなく、自分の持つ情熱だけを燃料に、その分野を極めてしまう人が少なからず存在します。全ては自身の意志の問題。情熱を持ち続けていれば、いつか道が開くのではないのかと、そんな錯覚を起こしてしまいます。
榎屋克優『日々ロック』の主人公、日々沼拓郎は高校3年生。勉強ができず、スポーツは大嫌い。物心ついた時からいじめられっ子で、彼女いない歴は年齢という非モテ男子です。人に自慢できる取柄を持たない拓郎でしたが、ロックにかける情熱は誰にも負けません。誰も拓郎の歌に耳を傾けなくとも、気にせずギターを弾きながら歌い続けます。
- 著者
- 榎屋 克優
- 出版日
- 2010-10-19
ライブ中に興奮すると、局部を露出してしまうという、困ったクセはあるものの、拓郎の歌は人を惹きつける力を持つもの。ライブハウスという暗く、閉鎖された空間に拓郎の歌声が響く時、1コマずついっぱいに広がる歌詞に、音の広がりと力強さが表されています。
最初はソロだった拓郎でしたが、物語が進むごとにバンド仲間を獲得。バンドが成長し、やがて人気バンドになっていく姿が描かれています。仲間を獲得し、成長していく姿はまさしく王道の少年漫画。音楽に対してまっすぐな拓郎の姿に、胸が熱くなります。
純粋な人間を見ていると、意地の悪い気持ちが浮かんでこなくなるもの。一生懸命で曲がらない拓郎は、多くの人の助けを得て成長していきます。ダメ男だったはずの拓郎ですが、やはりライブのシーンは独特の熱を持ち、カッコよく見えるはず。熱気と情熱は随一の作品です。
数多くのバンドを扱った作品がある中で、やはりこの漫画は外せない、という評価を得ているのがハロルド作石『BECK』です。平凡な少年がロックにのめり込み、やがてバンドのメンバーとして成長する姿を描いた物語は、アニメ化や実写映画化もされ、大きな話題となりました。
田中幸雄(通称コユキ)は14歳の中学生。何の刺激もない平凡な人生を送っていましたが、ベックという名前の犬を解して、帰国子女の南竜介と出会ったことで、新しい世界が開けていくのを感じます。竜介は海外で有名なギタリストとバンドを組んでいた経験を持っており、洋楽に魅了されたコユキは、自身も懸命にギターを練習するように。
- 著者
- ハロルド 作石
- 出版日
- 2000-02-15
コユキは温厚な性格で、かなりのお人好し。平凡な人生を送ってきたという割には、仲間をバカにされたら果敢に挑んでいく勇敢さと、目的のために力を惜しまない大変な努力家な面を見せます。最初は初心者ですが、様々な要素が組み合わさり、ボーカリストとしての才能を開花していく姿に、一朝一夕で何とかなるものなどこの世にはないのだと、と改めて感じさせます。
バンド漫画の最大の魅力といえるライブのシーン。本作では特に一度聞けばだれもが圧倒されるというコユキの歌声を、観客の表情や熱狂する様子を加えることにより表現。聞こえてこないはずの音楽と、観客の感性を肌で感じさせます。また、楽器を演奏する描写なども臨場感があり、静止画であるということを感じさせません。
コユキやバンドメンバー個人の成長と、バンドとしての成長という両面から描かれる、青春ストーリ。音楽への情熱だけでなく、バンド仲間への思いにも胸が熱くなります。読めばきっと音楽を奏でたくなる、そんな熱に触れてください。
漫画は視覚に訴えかけるものですが、そこから五感に訴えかける描写も出来るものでもあります。紙面から溢れてくるのは、奏でられる音楽と観客の声援。バンド漫画はクールに見えて熱い世界が詰まっています。