親として子どもに優しい心を身につけてほしいと願うのは当然の気持ち。パパやママが読んでくれる絵本は、子どもの心にすんなり入ってあたたかな思いやりの心を育ててくれます。今回は大人も思わずウルッときてしまうような感動の絵本20作品をご紹介します!
西ドイツで生まれたハンス・ウィルヘルムがアメリカで出版した、名作『ずーっと ずっと だいすきだよ』。国語の教科書にも載るほど有名な絵本なので、目にしたことのある人も多いかもしれませんね。
この絵本のテーマは「愛する者との死別」。男の子と愛犬のエルフィーは、幼い頃から大の仲良しでした。毎晩、男の子はエルフィーに「大好きだよ」と伝えます。しかし、一緒に大きくなっても、当然エルフィーの方が早く年衰えていくのです。段々昔のように動けなくなってきたエルフィー。お別れの日も近くなってきました。
- 著者
- ハンス ウィルヘルム
- 出版日
やがて、エルフィーに死が訪れます。家族みんなが悲しみにくれる中、男の子の心は幾分か楽なのでした。なぜなら、毎晩エルフィーに愛している気持ちを伝えていたから。男の子には、後悔がなかったのです。
「すきなら、すきといってやればよかったのに だれも、いってやらなかった。いわなくっても、わかるとおもっていたんだね。」(『ずーっと ずっと だいすきだよ』から引用)
伝えることの大切さが、この一文に詰まっているのではないでしょうか。言える時に言っておかなければならない言葉がある。日々の中できちんと愛情を伝えないことが後でどれほどの悲しみに繋がるかを、この絵本は教えてくれます。
子どもが読んでも納得できる物語ですが、本作は大人の心にこそより響き、自分の大切な人が思い出されて泣けてくるのです。
「死ぬってなに?」「死んだ後はどうなるの?」そんな子どもからの質問に、どうやって答えますか?この絵本を読んであげることで、子どもも少しは何かを感じ取ってくれるかもしれません。
大好きなじいじが突然死んでしまったエリック。ママは死んだら「天使になる」と言い、パパは「土になる」と言いますが、エリックはどちらもピンときません。そんな夜、エリックの部屋にじいじがおばけになって現れます。
- 著者
- キム・フォップス オーカソン
- 出版日
この世に忘れ物があると、人はおばけになるらしい。2人は毎夜部屋を抜け出して、じいじの忘れ物探しをします。徐々に2人は大切な思い出たちを見つけていきます。そして迎える最後、じいじがこの世に残した忘れ物というのは、エリックにお別れを伝えることだったのです。
死は突然訪れるもの。大切に思っている身近な人との最期も、十分に話が出来ないまま迎えてしまうこともあるでしょう。
一歩間違えると説教くさくなりがちな「死」がテーマにも関わらず、色鉛筆で描いたような優しいテイストのイラストと、ユニークな話の展開で、最後まで読者に飽きさせません。特にラストのじいじとエリックとの会話では、自分の大好きな祖父母が亡くなった時のことなどが思い出され、大人は泣けてしまうかもしれません。
イギリスの絵本作家、スーザン・バーレイの代表的な作品であるこの絵本は、彼女が子どものために初めて書いたデビュー作。そんな初作品が大きな人気を集め、その後も森の動物たちの物語を描いたアナグマシリーズが展開されました(後のシリーズは絵のみスーザン・バーレイ)。
この絵本は、森のみんなから慕われる、優しく賢い老アナグマが主人公。自分の死が間近に迫っていることに気付いている彼は、自分のことよりも残される森の仲間たちのことを気にかけます。そしてある秋の夜、長いトンネルを若い頃のように軽やかに走る夢を見ながら、眠るように亡くなりました。
- 著者
- スーザン・バーレイ
- 出版日
悲しみに暮れる森の友人たち。冬を越えて春になり、みんなでアナグマとの思い出を語り合っていると、それぞれ彼からステキな贈り物をもらっていたことに気付きました。何でも知っているアナグマがいなくなっても、彼がみんなに与えてくれた知恵を集めることで、残された者たちは前向きに日々を生きていけるようになっていきます。
優しいタッチの絵と静かな口調の文章で、周りを慈しむ心と友人の素晴らしさ、悲しみを乗り越える強さを伝えてくれるこの絵本。子どもに思いやりの大切さを伝えるのに適した秀作ですが、身近な誰かを見送ったことのある大人にも、新しい発見や心にグッとくる部分があるのではないでしょうか。
作者のマックス・ベルジュイスは、オランダの児童文学作家兼イラストレーター。オランダの金の絵筆賞や国際アンデルセン賞を受賞した経歴を持つ有名な作家で、特にかえるくんと森の動物たちとの交流を描いた「かえるくんシリーズ」が人気です。
この絵本は、作者が2005年に亡くなったため、「かえるくんシリーズ」最後の作品となってしまいました。シリーズを通して読むのもオススメですが、この作品だけを読んでも充分楽しめます。
- 著者
- マックス ベルジュイス
- 出版日
ある日、かえるくんは朝からずっと悲しい気持ち。森の友達であるこぐまくんは、そんな彼をそっとしておいてくれました。ねずみくんは笑わせようとしてくれましたが、何をしても笑えません。しかし、ねずみくんがバイオリンでキレイな曲を弾き始めると、かえるくんはこらえきれずに泣き出してしまいます。
なぜ悲しいのかは本人にもわからない。ただただ物悲しい気持ちになったり、気が落ちてしまったりするような日は、誰でも経験があるのではないでしょうか。そんな時に感情を爆発させてくれる、傍にいてくれる友達がいるということはとても素敵なことです。読み終わったら、お友達の悲しみに寄り添えるような優しい子になってね、とお子さんに伝えてみましょう。
他の絵本とは一味異なりますが、本書は、生物ジャーナリストである作者が撮影した野生のゾウの写真たちをベースにした物語。表紙には、森で暮らす親子ゾウが仲睦まじい様子で映っています。
作者の藤原幸一はガラパゴス自然保護基金の代表で、生物ジャーナリストとして世界中で取材を続けています。そんな彼だからこそ追えたスリランカで実際に起こった出来事をまとめたのが、この『ぞうのなみだ ひとのなみだ』です。
- 著者
- 藤原 幸一
- 出版日
- 2015-05-19
森で暮らす野生のゾウたちは、群れを作り、草を食べながら暮らしています。ある親子のゾウが少し群れを離れると、前まで森が広がっていた場所が人間によって伐採され、稲畑になっていました。ゾウは稲を食べようとし、人間は作物を奪われないように母ゾウを撃ち殺し、子ゾウは1匹で逃げ出します……。
「食べるため」「生きていくため」に行動したのはゾウも人間も一緒。イラストではなく、写真だからこそ伝わる真実を目の当たりにして、読者はどう感じるのでしょうか。世界で実際に起きていることを子どもに伝えるのも、大人の役割です。
作者のミロコマチコは、1981年大阪生まれ。絵を描き始めたのは23歳と遅いスタートでしたが、彼女のダイナミックで独特の味わいを持つイラストは早々に高く評価され、多くの賞を受賞していきます。そして絵本作家としてのデビュー作『オオカミがとぶひ』でいきなりの日本絵本賞大賞の受賞。若くして人気作家の一員となりました。
この絵本は、そんな彼女の愛猫との暮らしを、飼い主目線でユーモラスにつづった作品です。白くてふわふわな毛並みを持つてつぞうは、人間も猫もキライな暴れん坊ですが、飼い主のことだけは大好き。そんなてつぞうと過ごす春夏秋冬を、色鮮やかでインパクトの強いイラストと共に楽しませてくれます。
- 著者
- ミロコマチコ
- 出版日
- 2013-09-20
大きくてふかふかだったてつぞうも、8回目の冬を迎える頃にはどんどんやせ細り、ついにお別れの時が来てしまいました。やがて時が経ち、飼い主は新たに猫の兄弟、ソトとボウを迎えます。彼らとてつぞうを重ねながら、天国のてつぞうに新しい生活ぶりを報告する飼い主。そこには今でも続くてつぞうへの溢れる愛情を感じます。
新しい出会いがあっても、かつての愛猫との大切な思い出はいつまでも古くなりません。想いを馳せることでいつまでも心が寄り添っていられる。そして季節が巡るように、命もまた繋がっていくのだということを伝えてくれる心あたたまる絵本です。
タイトルからして悲しい気配を感じるこの絵本は、お察しの通り亡くなったお母さんを求める少年のお話。悲し気にお母さんの絵を描く少年が描かれた表紙に、まずグッときてしまう人も多いのではないでしょうか。
作者であるレベッカ・コップはイギリス在住の絵本作家兼イラストレーター。『Lunchtime』という絵本で2013年にウォーターストーン児童図書館賞も受賞しています。日本語訳は絵本作家、漫画家としても有名なおーなり由子。リズムよく丁寧な描写で訳されています。
- 著者
- レベッカ コッブ
- 出版日
- 2014-07-28
突然の母の死に、少年は理解が追いつきません。どこへ行ったのかとあちこち探し、母のセーターを握りしめ、自分がいたずらばかりしていたからいなくなったのかと他の家の子どもたちを羨みます。そして父に聞くのです。
「ねえ、おかあさんはいつ帰ってくるの?」(『おかあさんどこいったの?』から引用)
母はもう天国に行って、もう会えないのだと諭される少年。やがて、残された家族と一緒に、泣いたり笑ったり、そしてやっぱりさみしくなったりしながら、少しずつ前を向いていきます。
この本を読んだ子どもは、いて当たり前の存在である親がいなくなったら……という想像を働かせるでしょうし、大人が読めば、お母さんやお父さんに感情移入してついウルッときてしまうでしょう。悲しくても、最後はちょっと笑顔になれる。そんなお話です。
世界的に有名な『おやすみなさいのほん』を書いた、マーガレット・ワイズ・ブラウンと、カルデコット賞を受賞した画家のレナード・ワイスガードのコンビが1949年に出版したこの絵本は、今もなお世界中に愛され続けている有名な絵本。ずっと大切に取っておいて、孫に読み継いでいる、という家庭もあるかもしれません。
キレイでリズムが心地よい詩的な文とあたたかみのある美しい絵で、子どもの読み聞かせにピッタリですが、大人が読んでも改めて大切なことに気付かされる、味わい深い1冊です。
- 著者
- マーガレット・ワイズ ブラウン
- 出版日
「そらはいつもそこにある まぎれもなくあおくて たかくて くうきにみちている そしてときおり くもがとおりすぎていく でもそらにとってたいせつなのは いつもそこにある ということ」(『たいせつなこと』から引用)
このように、スプーンやひなぎく、雨や草、雪、りんご、風……と身近なものの大切なことを、1ページ1ページ紐解いていきます。では、あなたにとって大切なこととは何でしょう?読者に本質を見ることの大切さを伝えてくれるこの絵本は、心を育てている真っ最中の子どもや、情報過多で周りが見えなくなっている大人にこそ読んでもらいたい作品です。
国語の教科書にも載っている、日本の童話として有名な本作。幼い頃に読んで、ずっと心に残っている、という大人も多いのではないでしょうか。日本人なら一度は読んでおきたい名作です。
愛知県出身の児童文学作家・新美南吉は、民話的な親しみやすい作風と美しさを感じさせる描写力で、今も多くの人に愛されている作家です。彼が『ごんぎつね』を発表したのは1932年。当時19歳という若さで児童雑誌「赤い鳥」に掲載され、彼の代表作となりました。共通点の多い宮沢賢治と比較されることも多く、「北の賢治、南の南吉」と評されることもあったそうです。
- 著者
- 新美 南吉
- 出版日
- 1986-10-01
この物語は、兵十が捕ったうなぎを、きつねのごんがいたずらに奪ってしまうところから始まります。病気の母のために捕ったうなぎだったことを知ったごんは、罪滅ぼしのためにこっそり兵十の家に栗や松茸を届け続けます。ごんの気持ちは兵十に伝わらず、最後には思いがけない結末を迎えてしまうのですが……。
やりきれないラストに衝撃を受けた思い出が大人たちに残されたように、初めて読んだ子どもはどんな感想を持つでしょうか。読んだ後、どう思ったかぜひ話し合ってみてください。ハッピーエンドではないからこそ、考え、感じることがあるはずです。道徳を学ぶためにもピッタリの一冊です。
この絵本がアメリカで出版されたのは1964年。1976年に本田錦一郎による訳で日本でも出版されましたが、2010年に村上春樹訳でも出版され、改めて手に取った人も多かったようです。
イラストは白黒の線画で、とってもシンプル。文章も淡々としていますが、その分ストレートに心に入ってきます。読み進めるたびに胸が締め付けられるような感情を起こさせる深い愛の物語で、初版から半世紀以上経った今も、古い印象は一切与えません。
- 著者
- ["シェル・シルヴァスタイン", "Shel Silverstein"]
- 出版日
- 2010-09-02
りんごの木とちびっこ少年は大の仲良し。幼い頃は毎日一緒に遊びましたが、少年が成長するに従ってあまり来なくなり、木はひとりぼっちの時間を過ごすようになります。たまに来ては「お金がほしい」「家がほしい」「船が欲しい」……そんな元少年の要求に、木は身を削って応えます。
りんごの実がなくなり、枝がなくなり、幹がなくなっても、元少年が喜ぶなら、「木はそれでうれしかった」。こんなに大きな愛情があるでしょうか。大人が読めば、自分の成長を見守ってくれていた親への感謝の気持ちが沸き起こるはず。物語を理解できるようになった子どもにも、ぜひ読んでもらいたい一冊です。
フランスのイラストレーターであり漫画家でもある、レイモン・ペイネが描くまさしく『愛の本』です。
恋人たちの幸せな様子、気持ちがすれ違い涙を流す様子、相手のことを思い、物思いにふける様子……。その全てが愛おしく愛に溢れています。鮮やかな色彩も魅力のペイネの作品ですが、今回は白黒の絵本。しかし、だからこそより、想像力が掻き立てられます。
4つの章に分けて描かれた、物語は恋人たちのそれぞれ違った愛の形。描かれる文章は決して長くなく、詩のように美しいものです。その短い一言一言が恋人たちの気持ちを的確に表していて、きっと読者のその時々の気持ちに合った言葉も見つかるでしょう。
- 著者
- レイモン・ペイネ
- 出版日
- 1974-06-15
レイモン・ペイネの本は読んだことがなくても、絵を見たことがあるという人もいるのではないでしょうか?日本にも美術館が作られ、アニメ化された作品もあるほど多くの人に愛され、1999年に亡くなってからもその人気が衰えることはありません。
愛に溢れた絵の数々は、全てのページ飾っておきたいほどアーティスティックで魅力的。そして、その絵に添えられた言葉もじんわりと心にしみわたります。まさに大人だからこそ楽しめる作品ですね。
大切な人への贈り物にもピッタリですよ。
イタリアの画家、ジャン・ベルト・ヴァンニが創り出したアート作品のように完成された絵本。そして同時に、切ない愛の形を描いた物語です。
主人公は、孤児院に送られた9歳の女の子。愛想がなく、周りの子どもが嫌がることをしてしまう女の子は、いつも独りぼっちです。友達は、木や草、暖かな日差し、様々な想像だけ……。とうとう、院長に孤児院からも追い出されそうになってしまいます。
そんなある日、女の子が規則違反をしていることを嗅ぎつけた孤児院の職員は証拠を掴もうと現場に向かいます。しかし、そこには思いもよらない女の子からのメッセージがあったのです。
9歳の小さな女の子が秘めていた思いにギュッと心が掴まれ、愛おしさで胸がいっぱいになります。愛は目には見えないものだということに改めて気付かされる絵本です。
- 著者
- ジャン・ベルト ヴァンニ
- 出版日
- 2007-12-01
ページの至る所が切り取られていて、いわゆる穴あき仕掛け絵本と呼ばれるこの作品。色鮮やかな造形と計算された仕掛けの数々が光と影を生み出し、美しい魅力に溢れています。また、手書きで書かれた文字も絵の中に組み込まれ、ストーリーを紡ぎ出すだけではなくアートとしての役割も担っているのです。
そして芸術性が高く評価される作品ですが、女の子が抱える切ない愛の形を描いたストーリーも、もちろん読者の心にずしりと響きます。
自分の思いを周りの人に、正直に伝えられる人ばかりではありませんよね。辛い過去を背負ってきた子どもであればなおさらのこと。そんな時にそっと手を差し伸べられる人になりたいですね。
アメリカ人作家、パトリック・マクドネルが描く、優しさに溢れた絵本です。
主人公は猫のムーチ。大好きな友達アールに贈り物をしようと考えます。でもなかなか良い贈り物が思いつきません。だってアールは何でも持っているのです。
考えたムーチはひらめきました。贈り物は「ナンニモナイ」にしよう!まずはナンニモナイを探すことから。でもなかなか見つかりません。そんなうちに何も探さないでいたらナンニモナイが見つかりました。早速ナンニモナイを大きな箱に詰めてアールにプレゼント。さて、アールは喜んでくれるでしょうか?
- 著者
- パトリック マクドネル
- 出版日
友達を喜ばせるために悩む気持ちや贈り物を探すこと。それ自体がとても素敵なプレゼントなのだと教えてくれる絵本です。
柔らかな絵のタッチとシンプルで相手への思いに溢れた言葉たちが優しい世界を創り出し、何度読んでも心が温かくなります。
贈り物と言うとどうしても「もの」を選ぼうとしてしまいますが、相手を思う気持ちと大切な人と一緒にいられること。それが一番の贈り物なのかもしれませんね。
ヨーロッパ各国で絶大な人気を集める絵本を、熊本の人気キャラクター・くまモンの提案者としても知られる小山薫堂が日本語に訳し、多くの人々に温かな気持ちを贈り続けている絵本です。
主人公は一人の男の子。一本の赤い糸を辿りながら、たくさんの「まってる」を経験し成長していきます。お兄ちゃんと呼ばれる日をクリスマスが来るのを、戦争が終わるのを彼女からの手紙を、僕たちの赤ちゃんを……。仲直りのきっかけを子ども達の声を。そして、さよなら、ありがとうって言わないといけない日を待っているのです。
人生は「まってる」の繰り返し。その中で嬉しいことや心配なこと、そして哀しいことも繰り返しながら生きて行くのでしょう。ゆっくりと紡がれる男の子の「まってる」が自分や周りの人の人生と重なり、心に響く一冊です。
- 著者
- ["デヴィッド カリ", "セルジュ ブロック"]
- 出版日
- 2006-11-17
手紙のように描かれた表紙から始まるこの絵本。温かな物語の始まりを感じさせてくれます。
赤い糸が男の子の人生とたくさんの「まってる」を辿る様子が良いアクセントとなり、物語に色を添えています。男の子の引っ張った赤い糸が、やがてクリスマスツリーの飾りになり、戦争で傷ついた男の子の点滴となり、誕生した赤ちゃんのへその緒にも喧嘩した時のモヤモヤした気持ちにも変化していきます。こうやって、人生は全て繋がって行くのかもしれませんね。
そして、悲しみも沢山あるけれど、その後には希望もあり……。優しい絵とストーリーが沁みわたります。
愛らしい猫のイラストでも有名な画家のヒグチユウコが贈る、恋する思いを素直に純粋に描いた絵本です。
主人公は1人の女の子。彼女は1匹のワニに恋をします。物語の中ではワニは「あなた」と呼ばれ、恋をした女の子は、あなたの全てが知りたくなるし、私の全ても知って欲しくなる。一緒に笑いたいしあなたの悲しみも知りたくなる。恋をすることで世界が変わっていく様子、相手の全てを愛おしく思う気持ちを素直に表現した女の子の言葉の数々は、恋をすることの素晴らしさを改めて教えてくれます。
また、恋愛としての恋はもちろんですが、子どもや家族に対する愛情、大切な友達を愛おしく思う気持ちにもきっと重なる部分はあるでしょう。幅広い年代の方が共感できる作品です。
- 著者
- ヒグチユウコ
- 出版日
- 2016-09-14
幻想的な雰囲気が漂う絵の数々と恋愛の素直な気持ちに溢れた作品です。
女の子の恋のお相手は1匹のワニ。実にリアルに描かれています。しかし、読み進めて行くうちに女の子が恋する気持ちがひしひしと伝わって来て、ワニがとても魅力的に見えてくるのが不思議です。
過去に恋愛をしてきた人はその時の気持ちを思い出しながら、今まさに恋愛中の人は自分の気持ちとシンクロさせながら、そしてこれから恋を経験する人は、恋について垣間見るようなドキドキ感を味わいながら。その時々の読者の状況で色々なとらえ方ができる作品になっています。
しかし、共通して言えることは恋は素敵で愛おしいということ。キュンとする気持ちを思う存分味わってみてくださいね。
暗い空間にほんわかとした色で浮かび上がるろうそくの灯、このろうそくはある母親が、娘の健やかな成長を願って手作りしたものです。はじめてろうそくに火が灯されたのは、娘が生まれて間もない時期でした。
ろうそくはそれから何十年もの月日をその娘と過ごし、彼女がおばあちゃんになるまでずっと遠くから見守ります。彼女が幼い時、嵐におびえる家族を温めたろうそく。急に木枯らしが吹いた日には、家族がろうそくを囲んで寒さを紛らわせたこともありました。
やがて娘は大人になり、結婚して子どもを持ち、頑丈な家に暮らし始めるとろうそくの出番はなくなっていきます……。
- 著者
- 林 木林
- 出版日
ろうそくから見た一人の女性の人生が描かれているこの作品。風が吹けば火は消えてしまうし、月の明るさには勝てっこないけれど、ろうそくは自分にできる限りの明るさと温かさでいつまでも一人の女性に寄り添い続けます。
その姿は娘の成長を静かに見守ってくれる両親や祖父母のようです。少しずつ命をすり減らしていくろうそくの姿を誰かに重ねて切なさを感じる人もいるでしょう。ろうそくは女性が成長するにつれ、いつしか忘れられてしまいますが、女性がおばあさんになったある日、長い間しまわれていた箱の中から取り出されます。
おばあさんはずっとろうそくを探していたと言い、最後にろうそくの火をつけました。ろうそくが幸せを感じながら最後の火を燃やす姿を見たら、同じように自分を見守ってくれていた誰かが恋しくなるかもしれません。
大人が忘れかけている大切なことを思い出させてくれる、そんな作品です。
この作品はスコットランド民謡「オールド・ラング・サイン」に日本語の歌詞を乗せた歌「空より高く」のCDが収録されていて、空や海や砂浜を撮影した写真の上に、歌詞が書かれています。
その旋律は「蛍の光」という歌によって日本中で広く知れ渡っているので、耳にすっと入って馴染みます。2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災地へ送る応援歌として作られた作品でもあり、歌いながら壮大な景色が映る写真を眺めれば、心が洗われるような気持ちを経験できることでしょう。
- 著者
- ["新沢としひこ", "中川ひろたか", "クニ河内", "石井麻木"]
- 出版日
「あきらめないで 涙をふいて 歌ってごらん」(『CD絵本 空より高く』より引用)
このフレーズは、大切な人を失ったり、家や仕事や故郷を突然失ったりした人たちを勇気づけ励ますような響きで、聞けば目頭が熱くなる人もいるかもしれません。
どんなにつらいことがあっても、人生は続いていくもの。傷つき、立ち上がる気力を失ってしまった人に対し、自分は何かできる事はないか。そんな思いがこの作品には込められているのではないでしょうか。
このお話の主人公は、柔らかなタッチで描かれたぬいぐるみのように愛らしいクマです。クマは空を眺めるのがとても好きでした。そして、どこまでも高く広がる空の向こう側に誰かがいて、こちらを見ているのではないかと期待を膨らませるのです。
淡い期待を抱きながら、クマは地面に線を引いて歩きます。時折空を見上げる表情がとても愛らしく、描かれる場所も壮観で、美しい景色ばかりです。
- 著者
- ["青野 広夢", " "]
- 出版日
文章量は多くない上、語り口もとても穏やかなので、温かみのあるイラストと相まって読み手の心は癒されることでしょう。小さな子どもには、物語を楽しむよりも美しい挿絵に注目して読んで欲しいと思います。この作品は読み手を美術館か絵画展に来たような気分にさせてくれます。
空から見ているかもしれない誰かに、自分の存在を知ってほしい、自分が歩いて来た道を見て欲しい。その純粋な気持ちは、誰もが一度は感じたことのあるのではないでしょうか。どこかで誰かに、自分を見て欲しい、自分の歩いて来た道を知って欲しい。人間の根本的な欲求をとても柔らかく、優しいタッチで表現した絵本です。
この作品の舞台は、店員のいない不思議なお店「ライフ」。人々はそこを覗いて、欲しいものがあればもらっていき、その代わり自分には不要となったものを置いていくのです。
ライフに一人のおばあさんがやってきて、おじいさんが植えるはずだった花の種をたくさん置いていきます。おばあさんはその代わり、写真立てを持って帰りました。最愛のおじいさんが、亡くなってしまったからです。
おばあさんが去っていくと、さまざまな人たちがライフを訪れました。皆自分が使わなくなったものを置いていき、その代わりに花の種と、欲しい物を持って嬉しそうに帰って行きます。季節が巡り、おばあさんが再びライフを訪れると、そこには満開になった花の鉢植えが所狭しと置かれ、おばあさんが来るのを待っているかのようでした。花の種を持って帰った人たちが咲かせた花の一部が、ライフに預けられていたのです。
- 著者
- ["くすのき しげのり", "松本 春野"]
- 出版日
おじいさんが残してくれた花の種を植える気力すらなくし、最初は下ばかり向いていたおばあさん。季節が巡り、再びライフを訪れた時に花に包まれるおばあさんの姿は、胸に迫るものがあります。
おじいさんが残した花の種がたくさんの人の手によって咲き誇る姿を見て、おばあさんは再び笑顔を取り戻したのです。おばあさんの後にライフを訪れる若い人たちも、いつかは年を取ります。そうやって人生は巡っていくものだと優しく教えられたような気分になり、年上の人を敬う気持ちが膨らむ作品です。
この物語には、2匹の可愛らしい猫が登場します。二匹が夜の森を散歩していると、目の前に湖が現れました。湖にはたくさんの光がキラキラと煌めいています。黒猫のクロは、大好きな白猫のシロにこのキラキラをプレゼントしたいと思うのです。
そこでクロはその方法を考えました。でも、どれも上手くいきません。手でつかもうとすれば葉っぱが取れ、シャベルですくえば貝殻が取れます。お次はバケツを使って見ますが、取れたのはクラゲでした。そして、釣りにチャレンジしてみると、釣れたのはキラキラではなくお魚だったのです。
意気消沈したクロでしたが、シロはニコニコと微笑み、クロを満点の星空の下に誘います。
- 著者
- 刀根 里衣
- 出版日
様々な濃淡の青で描かれた美しい夜の森に、黒い猫と白い猫がぽっかりと浮かび上がる様子は、息を飲むほど美しいものです。2匹が互いを思いやる気持ちが短い文章からにじみ出ていて、この2匹は互いを抱きしめたくなるような気持ちで思い合っているのだろうと想像できます。
クロが湖から拾いあげる葉っぱやクラゲなどがみな赤いハートの形をしているのも、読み手にほほえましく映るのではないでしょうか。クロがシロのためにキラキラをプレゼントしてあげたいという純粋な気持ちが読み手の心を洗い、ロマンチックな星空が心を癒してくれる素敵な絵本です。
いかがでしたか?もともと知っていた絵本でも、大人になったり、親になってから改めて読んでみると新たな感動や発見があるものです。今回紹介した絵本は、少し切ないお話も多いですが、子どもに「死」や「お別れ」を伝えたい時、周りの人や動物を大切にしてもらいたい時に、ぜひ読んであげてください。きっと心に届く作品たちです。
また、選書サービス「ブックカルテ」を利用することで、お子さんの感受性を育むことができる絵本を見つけることができます。
選書に自信のある書店員さんを指名し、いくつかのに答えると絵本が届くサービスです。お子さんの興味関心にあった絵本に出会うことができるかもしれません。