吉川英治おすすめ代表作4選!青空文庫で無料で読める!

更新:2021.12.18

庶民に愛される大衆文学を数多く執筆した吉川英治がその生涯を閉じてから50年以上が経ち、その作品の多くは青空文庫で無料公開されています。小説、随筆を含め公開作品は数多くありますが、今回は代表作ともいえる壮大な歴史物語を4作、ご紹介します。

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庶民に愛された大衆文学作家、吉川英治

吉川英治は1892年神奈川県に生まれました。幼いころから文学少年で、なんと10歳のころから雑誌に投稿をしていたのだそうです。しかしそのころから家庭環境に恵まれず小学校を中退し、職業を転々としながら独立していったといいます。

やがて1922年の関東大震災をきっかけに、作家の道を志すことになります。その時点で吉川英治は30過ぎでしたが、数年後には既に『鳴門秘帖』によって初の新聞連載小説の仕事を受け、しかもこれが大ヒットしたのです。

庶民に愛される大衆文学を数多く執筆し、長編・短編合わせておよそ240作品を世に残しました。70歳でその生涯を閉じてから、50年以上の時を経たため、その作品の数々は青空文庫で公表されることとなりました。この素晴らしい作品の数々を全て無料で読めるというのは、とても幸運なことですね。そんな吉川英治の作品を4作、ご紹介します。

作者自身が最も空想の世界に浸った『鳴門秘帖』

『鳴門秘帖』は、人気歴史小説家として吉川英治の名を世間に知らしめた作品と言えます。小説家としてデビューはしていたものの、まだそれほど名は売れておらず、年齢的にもまだ30代前半、そこに舞い込んだ新聞連載小説の依頼。一度は恐れ多いと断ろうとすらしたそうですが、友人にけしかけられ結局書くことになりました。

実はこの小説のネタ元は、『春波楼筆記』という随筆だったそうです。『春波楼筆記』は江戸中期の洋画家、司馬江漢によるもので、それ自体は非常に短いものらしいのですね。それを吉川英治の空想で肉づけて、2年3年も小説として書き続けたというのですから、その想像力には脱帽です。

著者
吉川 英治
出版日
1989-09-04

吉川英治は、自身の作品の中でただ純粋に面白いかどうかでいったら、『鳴門秘帖』が一番だと感じていました。年を重ねてから読み直すと稚拙な部分が目につくものの、ただただ一途に少年時代から培ってきた空想力をつぎ込んだ小説であったため、愛着があったのでしょう。

陰謀、潜伏、そして叶わぬ恋と、スリリングなスパイ映画のような起伏のあるストーリーが、当時爆発的な人気となり、あまりの人気に連載中から映画化されることになります。作者自身が最も空想の世界に浸って夢中で書き続けた小説、じっくり味わってみてはいかがでしょうか。

深く根付いた中国文化を登場人物の中に描き出した『三国志』

映画、漫画、アニメ、ゲームと、様々な形で語り継がれている中国の歴史物語『三国志』。原本は中国の歴史小説『三国志演義』『通俗三国志』など多種ありますが、日本の『三国志』ストーリーは吉川英治の作品を参考にしているものが多いようです。

吉川版『三国志』は、ストーリーや漢詩については原作を損なわないよう忠実に表現しました。戦争による群雄割拠がストーリーの中心ではありますが、そこには人間の愛憎や道徳、思想、生活などが鮮やかに描き出されており、それはある種の民族小説であり戦争を舞台とした壮大な人間ドラマであるともいえるのです。

『三国志』は広大な中国大陸を舞台に展開し、登場人物も大変多く存在しますが、特に物語の中心となる青年たちについては、そのキャラクターのファンになる方も少なくありません。最近人気の漫画やアニメにあるような、読者を魅了するカッコよさがあります。

著者
吉川 英治
出版日
1989-04-11

猪突猛進でやんちゃな豪傑、張飛。大人な常識人、関羽。思慮深い劉備。そして中盤から登場する天才策士、諸葛孔明。『三国志演義』では悪役として描かれていた曹操にも個性を持たせ、その背景や心情を描きだしています。

中国の庶民と親しんでみると、三国志に出てくる登場人物の誰かしらに似ていると吉川英治は言います。三国志に描かれている文化が膨大な時を超えてもなお、中国大陸に生き続けているのです。それを小説の中に描き出そうとして完成させた作品、皆さんも登場人物に自分を重ねながら読んでみてはいかがでしょうか。

最も人間味あふれる英雄、豊臣秀吉の半生を描いた『新書太閤記』

『新書太閤記』は終戦による断筆で一度は中断されたものの、戦後に続編の執筆が開始され、最終的に全11巻となった大長編です。誰もが知っている豊臣秀吉の半生を描いた作品で、第1巻はその出生から始まっていますが、晩年までは描かれておらず、小牧・長久手の戦いで終わっています。

豊臣秀吉を含め、織田信長や徳川家康や真田幸村など、この時代に生きた人物は小説や映画で取り上げられることが多いですね。歴史的資料も多く残っているでしょうし、何より魅力的な人物がたくさんいて、人間ドラマを感じさせるエピソードが多く存在するので、描きやすいということもあるのでしょう。

著者
吉川 英治
出版日
1990-04-23

吉川英治は、歴史の中には時代を経てもなお残るその国の文化が埋もれている、と感じていました。そして歴史小説を読んでいるとき、違う時代に生きた英雄や庶民たちの生活や心情を想像して第三者的に眺めるのと同時に、自分自身を鏡のように見つめているのだとも考えていたようです。

豊臣秀吉は吉川英治にとって、日本人の長所と短所を集約したような人間でした。彼の出生は決して高い所から始まっておらず、人生には常に庶民的な空気がありました。それ故に吉川英治は豊臣秀吉に、人間性の豊かさ、親しみやすさを強く感じているといいます。

極貧生活の中に育った猿のような腕白坊主が、忠実さだけを武器に出世していくというサクセスストーリー。日本人の写し鏡として描こうと思ったからこそ、書き出しを幼少期からにしたのでしょう。終戦のその日まで執筆をつづけていた吉川英治の心には、この作品によって大衆を元気づけようという気持ちがあったのかもしれませんね。

吉川英治最後の完結小説『私本太平記』

吉川英治が最後に完結させた小説、『私本太平記』。鎌倉幕府が滅亡し、動乱の南北朝時代を舞台に主人公足利尊氏らの生き様を描いた作品です。この作品は大作『新・平家物語』完結後すぐ執筆にとりかかったそうです。

元々の『太平記』は作者も成立時期も不詳な日本の古典文学であり、南北朝時代の約50年間を描いた40巻におよぶ大長編軍記物語です。そういった意味でかなり多くの人々に読み続けられてきた作品ではありますが、時代背景によって読まれ方は多く異なっています。

明治時代の解釈では、足利尊氏は天皇に背く大悪党とされ、楠木正成は南朝における忠臣として美しいイメージを持たれていました。古典としての『太平記』は、あくまで天皇制や軍国主義を描いた作品として扱われてきたといえます。

著者
吉川 英治
出版日
1990-02-05

吉川英治はそこに独自の解釈を加え、『私本太平記』という文学作品を完成させました。この小説はフィクションでありながら、極限まで史実を忠実に再現しようと試みられています。そのため、執筆以外の取材や調査にこれまでの作品以上に時間を割いたようです。

空想するだけでなく、当時のあらゆる史料にふれ、それが客観的で脚色されていないかを考えながら参考にしていく作業は、時に難航し吉川英治を疲労させました。戦時中に至るまで大悪党とされてきた足利尊氏を、中立的に客観的に忠実に小説のなかで再現しようとするのですから、それは並々ならぬ大事業だったのではないでしょうか。

新しい宋の思想が入ってきて、それに夢を抱く者たち、古い考えに固執する宮廷人。吉川英治の描く太平記は、単なる軍記物語ではなく、そこに生きる人間ドラマをも表現しています。歴史を描くことで人間を描いてきた渾身の一作だったのではないでしょうか。

吉川英治は「大衆は大知識」だと思っていたようで、それ故にフィクションである歴史小説でも決して空想だけで描くことはしませんでした。小説のどの部分をとっても、その道の専門家がいるので、新聞連載小説という、より多くのより様々な職業の人々に読んでもらう読み物を書く立場として、適当にごまかすということは徹底的に避けてきたのでしょう。

それだけに吉川英治の作品はリアリティに溢れているのですが、その一方で大衆を常に意識した構成や展開で、読者をどんどん引き込んでいく上手さがあり、歴史ファンならずともページをめくることがもどかしいとすら感じてしまうのです。青空文庫で気軽に読みはじめられるので、是非挑戦してみてください。

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