デビュー作品がベストセラーとなった楡周平。経済小説の執筆も多く、そのイメージが強い人もいるのではないでしょうか。しかし、経済小説以外にも魅力的な作品を執筆しています。経済小説もそうでない作品も含めてベスト5をご紹介します。
楡周平は、岩手県出身の作家です。1957年生まれ、慶應義塾大学大学院修了後、米国企業日本法人に就職しました。在職中の1996年に執筆した『Cの福音』にてデビュー。デビュー作でベストセラーとなり、その後、執筆活動に専念するため、企業を退職します。
現在は経済小説をメインに執筆を行っていますが、その他にも幅広いテーマで作品を発表しています。経済小説は、自身の会社時代の体験を踏まえた部分もあり、リアリティに溢れた作品になっています。一方、デビュー作『Cの福音』をはじめとする「朝倉恭介VS川瀬雅彦」シリーズのようにハードボイルドとアクションを取り入れた作品があることも忘れてはいけません。エンターテインメント性の高い作品の数々が読者を魅了し続けています。
幼少期から父親の転勤により海外で過ごした朝倉恭介。中学から過ごしたアメリカのミリタリースクールで朝倉は聡明な頭脳と強靭な肉体を作り上げますが、高校生のとき航空機事故で両親を亡くします。莫大な補償金を受け取ったものの、朝倉の心には社会への反感が芽生え始め、そんな気持ちを抱えながらも名門大学に入学。
ある日、暴漢2人に襲われた朝倉は、彼らを殺害してしまいます。正当防衛と認められ裁判で無実となったものの前途有望だった未来は閉ざされ、悪の世界で生きていくことを決意。
マフィアの大物と手を組んだ朝倉は、コンピューター・ネットワークを駆使してコカイン輸入システムを構築します。順調に進められ、構築されたコカイン売買システム。しかし、台湾マフィアがその一端に気付いたことにより事態が動き始めます。
- 著者
- 楡 周平
- 出版日
- 2008-10-25
全6作で構成される「朝倉恭介VS川瀬雅彦」シリーズ第1弾。朝倉恭介の背景を中心に描かれています。しかし、朝倉の内面が描かれる場面は少なく、淡々と物語は進行します。コカインの流通経路に関するトリックをメインに描かれる様に、朝倉の知性の一端を感じ取れるのではないでしょうか。
コカイン流通に関与する朝倉が主人公でありながら、薬物中毒の怖さも描かれています。手を出してしまったことによる代償まで描かれることにより、読者は薬物中毒の怖さを再認識するかもしれません。
銀座のクラブでボーイとして働く岩崎陽一は、安月給のため、常にお金に困った生活を送っています。そんな岩崎は、ライバル店から移籍してきたママ、上条麻耶と出会ったことで人生が大きく動き出します。
年収1億といわれる上条の運転手を務めることになった岩崎は、妙な仕事の依頼を受けます。それはとんでもない儲け話でした。岩崎は、友人と協力して計画を実行することになります。
- 著者
- 楡 周平
- 出版日
- 2006-08-25
硬派な印象の作品が多い中、コミカルな今作品。コン・ゲームつまり信用詐欺をテーマにした作品ですが、濃厚な頭脳戦は展開されませんが、騙して騙されてまだ、騙しという展開には爽快感が漂います。また、『フェイク』というタイトル通り、様々なフェイクが登場することも忘れずに。
他の作品とテイストが異なりながら、ビジネスの裏事情について細かく描写されている様は、楡作品ならではです。しかし、総合すると娯楽性の高いテンポよく読むことのできる作品に仕上がっています。数ある楡作品の読破の気分転換にちょうどいい作品ではないでしょうか。
宅配業界最大手の暁星運輸。そこで営業課長をしている横沢哲夫を悩ませる問題がありました。それは、民営化により宅配業界に参戦した郵政に大手の取引先であるコンビニを奪われたことです。新規契約獲得に奔走する横沢でしたが、さらにネット市場の最大手であるIT企業・蚤の市から取引条件の変更を求められます。それは、通常では考えられない値引きの要求でした。
急速に成長する蚤の市は、創業時からの取引先さえも切り捨てます。その一方で、テレビ局の買収まで乗り出す企業です。窮地に立たされた暁星運輸の生き残りをかけて、横沢は新たな通販ビジネスモデルを考案することを決め、これを武器に蚤の市と闘うことにします。
- 著者
- 楡 周平
- 出版日
- 2009-10-01
実際に郵政民営化が行われた2000年代が時代背景となっている作品です。当時の世相や技術を反映した内容と、それらを基にした予想的な記述があります。また、モデルとなったと思われる当時の出来事を知っている人にとっては更に面白い作品ではないでしょうか。
起死回生を狙い、新たなビジネスモデルを考案していく男たち。その姿は心に響くものがあります。経済小説と少し敷居の高そうなジャンルでありながら、物流業に知識がない人にとっても読みやすいエンターテインメント性の高い作品です。
ふとしたことから、出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎。そんなときに故郷の同級生から財政危機に追い込まれている故郷の町長を引き受けてくれないかと頼まれます。やけ酒を呷り泥酔していた山崎は、気が付いた時には町長を引き受けていました。
会社を辞め、故郷に戻った山崎を待っていたのは、想像以上にひどい実情です。さらに、私腹を肥やそうとする古参の町議会員や田舎特有の価値観など困難の数々。山崎は、財政再建のために、老人向けテーマパークタウンの誘致を提案します。
- 著者
- 楡 周平
- 出版日
- 2011-07-25
ビジネス小説でありながら、現代の日本が抱える問題に切り込んだ作品です。小説というエンターテインメントでありながら、介護や地方の疲弊という問題に対する山崎が用いる手段は極めてビジネスライクです。そのため、今後の社会において実現しうると感じられます。2008年に刊行された作品でありながら、2017年現在においても考えさせられる作品ではないでしょうか。
楡周平は、AGING Webのインタビューにて執筆の切欠を語っています。その一つが日本社会の老後に対するイメージに違和感を覚えたこと。一生懸命仕事を終えた後の人生には、楽しいを老後が待っていると感じられる社会が必要との考えから、『プラチナタウン』は、楽しい老後を送るための街というコンセプトも盛り込まれています。この作品をきっかけに、自分の老後について考えてみるのも楽しいかもしれません。
大手商社に勤めていた吉野公啓は、上司に反発してスバル運輸に転職し、抜群の営業成績を上げ、営業部次長として働きます。しかし、ピラニアと陰で呼ばれるほど周囲との軋轢をものともしない仕事ぶりは、社内に敵を作っていました。ある日、吉野は新規事業開発部・部長に昇格という辞令を受けます。しかし、そこは無能な社員ばかりを集めた部署でした。
厳しいノルマを課されたことに奮起した吉野は、同じように挫折を味わっている男たちと新たな物流システムの構築に取り組むことにします。
- 著者
- 楡 周平
- 出版日
- 2007-11-28
3位『ラストワンマイル』同様に、新たな物流システムとITビジネスへの参入を描いた作品です。しかし、大きな違いがあります。『ラストワンマイル』が窮地に陥るのは運輸会社そのものですが、『再生巨流』では、吉野個人の戦いが描かれている点です。そのため、吉野というキャラクターが深く掘り下げられており、左遷後の吉野自身の変化も感じられる作品になっています。
楡周平自身が楽天ブックスの著者インタビューにて、自身のビジネス企画書として読者であるビジネスマンへのプレゼントと語っています。このように、『再生巨流』は、様々な分析をした結果、実現が可能だろうという結論を得た上で描かれた物語です。そのため、読者に実際にあり得そうだと実感させる力を持っています。
実はジャンルに縛られていない楡周平の作品。しかし、そのほとんどに楡自身の体験や考えが大きく反映されていることにより、作品が面白くなっているのではないでしょうか。