空前の大ヒットとなり、社会現象を巻き起こした映画『君の名は。』。監督の新海誠にもたいへん注目が集まっています。ここでは、そんな新海誠の代表作をより深く楽しめる、おすすめの小説をご紹介していきましょう。
新海誠は、1973年、長野県に生まれます。実家は県内でも指折りの老舗建設会社。大学卒業後、会社を継ぐための勉強も兼ねて、都内の住宅メーカーへの就職が予定されていましたが、新海はこれを断り、ゲーム会社の日本ファルコムへ入社します。就職してからは、パソコンゲームの製作を手がける傍ら、自宅でアニメーションの製作に励む生活を送っていたのだとか。
2000年に新海誠は『彼女と彼女の猫』で、CGアニメコンテスト・グランプリを獲得。2001年に日本ファルコムを退社すると、翌2002年、初の劇場公開作品となる『ほしのこえ』を発表します。その後も数々のアニメ映画や短編作品、CMや小説などを手がけ、多彩な活躍を見せると、2016年に発表したアニメ映画『君の名は。』が、歴代邦画ランキング2位を記録する大ヒットとなり、日本のみならず世界中で人気を博す、新海誠の代表作となりました。
アニメーション映画の公開に先駆け、原作本として発表された新海誠の小説『君の名は。』。映画とともに話題になり、2016年の文庫売上ランキング、堂々の1位を記録する大ヒット小説となりました。
東京で暮らす男子高校生・立花瀧と、同じく高校生で山に囲まれた田舎町で暮らしている少女・宮水三葉は、眠っている間に2人の意識が入れ替わってしまうという、謎の現象に悩まされることになります。朝起きると、瀧は三葉の身体に、三葉は瀧の身体になっており、夜になって眠りにつくと元に戻るのです。
この現象は度々起こり戸惑う2人でしたが、スマホに日記を残すことによってお互いの状況を理解し、上手く対処できるようになっていきます。ですがある日を境に、その入れ替わりがパタリと止んでしまいました。三葉のことが心配でたまらなくなった瀧は、記憶の中にある風景を頼りに、三葉を探し出そうとするのですが……。
- 著者
- 新海 誠
- 出版日
- 2016-06-18
瀧は三葉の住んでいる町を突き止めるのですが、そこで衝撃の事実が判明します。意外なストーリー展開に驚き、一気に物語の世界へ引き込まれてしまうでしょう。2人の心情がとても細かく丁寧に描かれ、切なさに思わず涙する場面も訪れます。
瀧と三葉が、なぜこのような形で関わりを持ったのか。様々な伏線が回収され、その壮大な物語の全容が明らかになる過程は、読み応えたっぷりです。
文章が読みやすく、本を読み慣れていない方でも、楽しく読めるのではないでしょうか。映画をより深く理解したい方はもちろん、気になってはいるけどアニメーション映画を観るのは気恥ずかしい、という大人の方にもおすすめの新海誠の小説です。ページ数も少なく、気軽に読める作品ですから、ぜひこの切なくて愛おしく素敵な物語に触れてみてくださいね。
登場人物の切ない感情を、繊細且つ丁寧に描いた、新海誠による小説『秒速5センチメートル』。2007年に劇場公開され、アジア太平洋映画賞・アニメーション映画賞をはじめとする、様々な賞を受賞したアニメーション映画の、ノベライズ版となる作品です。
小学校のときに出会い、特別な感情を抱き合っていた貴樹と明里は、中学で離れ離れになってしまいます。明里は栃木に引っ越してしまい、会うこともなくなってしまいましたが、ある日、貴樹の元へ明里からの手紙が届きます。それからというもの、文通でお互いの近況を伝え合ってきた2人でしたが、今度は貴樹が鹿児島へと転校することが決まりました。
鹿児島と栃木では、本当にもう会えなくなってしまうかもしれません。貴樹は引っ越してしまう前に、明里に会いに行くことを決意します。ですが約束の日の当日、関東は大雪に見舞われ、貴樹の乗る列車は運転を休止してしまうのでした。
- 著者
- 新海 誠
- 出版日
- 2016-02-25
本作は「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」という、3つの連作短編から成り立っています。秒速5センチメートルとは、「桜の花びらの落ちるスピード」だと言うセリフがなんとも美しい世界観を演出し、淡く切ない初恋に、ついこちらまで胸が苦しくなってしまいます。
風景描写がとにかく素晴らしく、まるで映像を見ているように感じられるでしょう。小学校から大人になるまでの様子が、貴樹の視点から描かれますが、明里への想いを大事にする様子や、うまくいかない日常、その不器用さに、思わず応援の声を上げたくなってしまいます。映画にはなかった描写が多く、ラストの描き方も少し変わっているので、映画で内容を知っている方にもおすすめです。ぜひ胸に染みる、新海誠の傑作を堪能してみてくださいね。
男子高校生と年上の女性との、恋の行方を綴った新海誠のラブストーリー『言の葉の庭』。2013年に公開された映画版は、ネット上でたいへん評判になり、それまでの新海作品の観客動員数を大きく上回るヒット作となりました。シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭で最優秀賞を受賞するなど、高い評価を受けた作品です。
靴職人を目指す男子高校生・秋月孝雄は、雨の日になると決まって午前中の授業をサボり、庭園で靴のデザインを考えていました。ある雨の日いつものように孝雄が庭園へ向かうと、そこには1人の女性、雪野百香里が座っています。
雪野はスーツ姿で昼間からビールを飲む、不思議な女性でした。どこかで会ったことがあるかと孝雄が尋ねると、万葉集の短歌を言い残して去ってしまいます。ですがそれからというもの、雨の日になると2人は庭園で会うようになり、徐々に交流を深めていくようになるのでした。
- 著者
- 新海 誠
- 出版日
- 2016-02-25
2人の関係性を左右する、驚きの事実が判明してから、物語は一気に面白くなり、読む手が止まらなくなってしまいます。孝雄と雪野が惹かれあっていく様子にドキドキし、それぞれの心の傷や葛藤を知って切なくなる。そんな展開に引き込まれる、魅力的な小説になっています。
本作にはとにかく雨が多く、その美しく繊細な風景描写にはうっとりさせられるばかり。物語は章ごとに語り手を変え、登場人物それぞれの過去についても描かれながら進んでいきます。映画版とは違い、小説版は様々な人にスポットが当てられ、心情も深く掘り下げられているため、より濃密な世界観を楽しめることでしょう。
新海誠のおすすめ小説を3作品ご紹介しました。どの作品も読みやすく、美しい表現が印象的な心に残る傑作です。映画を知っている方も、知らない方もぜひ読んでみてくださいね。